装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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頑張って書いてます。
そのせいで……砂糖不足に……


最強の選定者 その4

 二人が戦っている間、町は大わらわとなっていた。

町ではやれ隕石が落ちてくるだの、殺人集団が潜伏したのだの何だのと、何かしら誤情報を付けて住民を避難させていく。

急な事で住民は混乱し、あちらこちらで問題が多数発生する始末。それを解決しようと警察は苦労を重ねていた。

そんな慌てる町の住民に対して、IS学園では速やかに避難が行われていた。

この一年、IS学園では何かにつけて問題が起こったため生徒はその対応にすっかりと慣れてしまったのだ。そのため、皆慌てる事無く避難していく。

それを誘導する教員の顔もどこか達観したものがあり、冷静に避難を手伝っていく。

だが、一部だけは困惑している者達がいた。

その中の一人。彼女は只ひたすらにモニターに映る最愛の人のことを心配し今にも泣きそうである。

今にも泣き出しそうな人物……それは山田 真耶であった。

 

「旦那様…………」

 

真耶は緊急時においてそれらに対応出来る様、ISを装着してピットで待機していた。

周りには同じようにISを装着した教員と専用機持ちの学生が真耶同様、待機している。

もしIS学園に本格的に害をなそうと言うのなら、彼女達は体を張ってでもIS学園を守らなければならない。

勝てるか分からないが、来るからにはやるしかない。

故に皆、その戦いの様子をモニター固唾を呑んで見つめていた。

皆緊張している中、真耶は戦っている一夏をひたすら心配する。

武者の試合は死合い。

流血は当然であり、殺し合うのは当たり前。

そんな危険極まりないことをしている恋人を心配するのは当たり前であった。

 

「大丈夫ですよ、先生」

 

不安と心配で仕方なくなっている真耶に楯無が安心させるように言う。

 

「だって、あの織斑君ですよ。世界のあり方を変えちゃったくらいなんですから、この戦いも無事に帰ってきてくれますよ」

「そうだぞ、真耶。あいつの強さはお前が一番知ってるだろ。信じろ、あいつを」

 

楯無の言葉を更に押すように千冬が言う。

千冬だって一夏の事が心配のはずであり、それを表に出さずに自分を安心させようとする千冬を見て真耶は申し訳無い気持ちで一杯になった。

 

「すみません、千冬さん。私……それでも心配で…」

「言うな…分かっているから……」

 

千冬は真耶に優しい目を向け、真耶はそれに答えるように気丈に振る舞う。

そして二人は、またモニター目を向けた。

モニターでは、未だに激戦が続いていた。

 

 

 

 まさか、相手から奥の手が明かされるとは思わなかった。

自分から奥の手を晒すとは常識では考えられない。

だから聞かずにはいられなかった。

 

「何故、奥の手を明かしたのですか? それでは貴方が不利になるはず…」

 

俺は驚きながらそう聞くと、敵から笑い声が聞こえてきた。

 

「クックックッ……褒美と言ったであろう。知られたところで何も困らん。知ったる手など、実に妙たる。新たな一手こそ、我が魂震揺」

 

敵はそう言うと、上機嫌に話し始めた。

 

「よいか。武者たる者、ああだこうだと言っておるが、そのような物などくだらない。武者とは蓄積の手段に過ぎない。真の兵法は戦闘経験の蓄積の果てにあるものよ。武者の常識など俺は気にせぬ」

 

武者のあり方そのものをカラっと笑い飛ばす宮本 武蔵。

その考え方は異常過ぎであり、俺は言葉を失ってしまう。

今まで会ったどの武者にもない考え方に驚愕し……何故か納得してしまった。

この目の前の人物ならそう答えてもおかしくないと、そう思えたからだ。

そう言ってしまうあたり、もうこの人は武者とは言えないだろう。

ならばこそ、武者の意地を見せてやろう!

 

「貴方のお考えは分かりました。だからこそ、そう貴方が笑い飛ばした武者の意地、見せつけてみせますよ」

「ほう…それは楽しみだ」

 

その声と共に、敵は動きを変えた。

空中で一瞬立ち止まると体の甲鉄が展開されていき、両手からもくもくと凄まじい水蒸気が発生する。

そして蒸気が収まると、その両手には鎌が持たれていた。

 

「ではさっそく一発目だ。受けてみせろ。『古飛器式三番叟鶴舞!!』(ことぶきしきさんばそうつるまい)」

 

敵はその鎌を上に上げると、技名を叫びながら此方に投擲してきた。

此方に向かって回転しながら飛んでくる二本の鎌。

あの膂力での投擲ならば、その威力は凄まじいものになるだろう。

俺は鎌に当たらないように右に回避し、そのまま敵へと仕掛けようとする。

だが、その瞬間……とてつもない衝撃が左側から襲い掛かった。

 

「ぐぁっ! な、何だ!?」

『胸部、及び左脚部に被撃を確認! 甲鉄が砕かれた。損傷中破! 御堂、おかしいぞ。敵騎の攻撃は右側から来ていた。それを回避したと思った瞬間には左側から来たのだ。まるで攻撃が反対になったかのように』

 

俺は血が流れ出る感触を感じながら体勢を整えつつ、敵騎に向き合う。

敵は愉快そうに笑いながら解説をしてくれた。

 

「驚いたか? これは『千代鶴國安(ちよづるくにやす)』の陰義を再現したものだ。能力は攻撃の反転よ。鏡写しのようで面白かろう。では、もっと行くぞ! HETAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

そして更に数を増やして鎌が俺に襲い掛かっていった。

攻撃の反転……それはつまり、攻撃が反対方向から来るということ。

ならば!!

 

「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

咆吼を上げながら俺は飛んで来た鎌とは反対の方角を向いて刀を振るう。

反対から来るのなら、反対の方に刀を振るえば防げる。

だが、俺が振った刀は鎌に当たることはなかった。

 

「何!?」

 

振った刀の刀身が目の前から突如と消え、振った場所とは反対にあたる場所の空間から刃が生えていた。

 

「此方の攻撃も反転するのか!?」

 

まさか此方の攻撃まで反転するとは思わなかった。

その事に驚愕してしまい、動きが止まってしまう。

 

『御堂、鎌が来るぞ!』

「くっ……ぐぅううううううううううううううううう!」

 

このままでは避けられないと判断し、右手で鎌を防ぐ。

甲鉄を突き破った刃が右腕に深々と突き刺さる。

その痛みに声が上がりそうになるのを堪え、俺はそのまま敵騎の方へと突撃する。

 

『大丈夫か、御堂』

「ああ、何とか問題無い。だが、このままでは等が空かない! そのまま敵騎に突っ込むぞ! 懐に入れば反対になろうと当たる!」

『応っ!!』

 

更に数を増やして襲い掛かってくる鎌を俺は無視して、俺は合当理を噴かして敵騎との距離を詰める。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

叫びながら肩がけにした斬馬刀を振るうが、避けられてカウンターを顔にたたき込まれた。

かろうじで直撃は避けたが、その瞬間に左目が真っ赤に染まり激痛を発した。

 

「がぁあああああああああああ! 目がぁ!」

『顔面甲鉄破損!!』

 

左目が真っ赤になって何も見えなくなる。

残った右目で敵の姿を確認すると、上に掲げた片手には手斧のような物が持たれていた。

あれが俺の目を斬ったのか。

顔の左側が熱くてしかたない。激痛のあまり叫びたくなるが、それを堪えてさらに一歩踏み出す。

 

「しゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

咆吼をあげながら何とか使えるようにした左手で敵の顔面に向かって拳を一撃放つ。

当たった瞬間、甲鉄同士に激突音が響き渡った。

 

「ぐぉお! まさかあそこから切り返すか」

 

拳を受けて後ろへと少し下がる敵騎。

少し意外だったのか、多少損傷した顔面の甲鉄を撫でる。

そして更に愉快そうに笑った。

 

「この技を受けながらも此方に攻撃してくるとは、中々の根性よ」

 

先程からそう思っていたが、まったくダメージを受けた感じが見受けられない。

確かに劔冑にはその損傷が確認出来る。

だが、そのわりには宮本 武蔵から痛みを堪えるような声が聞こえない。

寧ろ子供が遊びに夢中になっているかのように、楽しんでいる声が聞こえてくる。

まさに化け物と言っても差し支えない。

 

「お次はこれだ! これはどう防ぐ!」

 

そう敵騎は吠えると、背中の甲鉄が盛り上がった。

盛り上がった甲鉄には何やら複数の出っ張りが浮き上がり、そしてそれは此方に向かって飛び出して来た。

それは縦長い円錐に近い形をして、後ろから火を噴いて此方に向かってくる。

まるで……ミサイルのように。

その正体に気付き、正宗に急ぎ指示を出す。

 

「正宗! 急いであれを撃ち落とすぞ! あれは高速徹甲弾だ! このまま喰らえば無事で済まん!」

『諒解!!』

 

俺は急ぎ再生中の左腕を曲げて前に突き出す。

その後来るであろう激痛を誤魔化すように吠える。

 

「あぁあああああああああああああああああああああああああ!『連槍・肘槍連牙!!』」

 

左肘から突き出した銃口、そこから吐き出される弾雨を高速徹甲弾へと向けることで撃ち落とした。

その途端、辺りが爆炎で赤く染まる。

 

「ほう、そんな物もあるのか? これまた不思議なものだ」

 

自分が撃った高速徹甲弾が撃ち落とされたことを面白そうに見る敵。

ずっとこんな感じである。

少しでも損傷を与えたく、俺は更に左手を敵騎へと向ける。

 

「正宗、更に撃つ!」

『応!』

「『無弦・十征矢っ!!』」

 

指ごと飛び出す激痛に歯を食いしばりながら発射し、それは見事に敵騎へと刺さった。

 

「おぉっと、油断したな。真逆指までとばすとは思わなんだ。その劔冑は実に面白いな。その技、是非とも解明したいものよ」

 

胸部に一発、左上腕部に一発、右足に一発と刺さっている。

それを見ながらも敵は全く気にした様子が無い。

だが、その劔冑には確実にダメージを与えている。

それが分かるだけに、まだ充分に勝機はある。

俺はそれを噛み締めながら、敵騎へ合当理を噴かしてさらに迫る。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

敵騎も此方に向かって合当理を噴かせて突進してきた。

 

「ZOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

そして上空でまた激突しあい、激突音を轟かせる。

一撃を加えてから離脱し、相手よりも高い方へ移動して攻撃を行う双輪懸。

俺は『金翅鳥王剣』を使い高度優勢を勝ち取って何度も果敢に攻めていく。

 

「ほぉ……先よりも更に力が増しておる。潜在的な力が出てきたということか。くくく、面白い」

 

そう言う武蔵に、俺は笑いながら答える。

此方も戦意がかなり昂揚していた。

 

「こちらも貴方とこうして戦って……楽しくなってきましたよ。最初は武者を馬鹿にするなり何なりと、怒りたいことばかりでしたが、貴方の強さならそれも納得です。そんな『化物』相手にどう戦うのか、楽しくなってしまいます」

「言いよる」

 

最初こそ、この男に恐怖しか抱けなかったが段々と戦っていき、自分がこの化物相手にどこまでいけるか試したくなってきた。無論、その上で勝つつもりである。

きっと互いの顔は笑っているに違いない。

そこから段々と戦いに熱中していき、敵騎に攻撃を当てることが出来る様になってきた。

その先からは血戦へと発展していき、互いの血飛沫が舞うようになっていく。

斬馬刀が敵騎の甲鉄を砕き、敵騎の脇差しが此方の甲鉄を斬り裂く。

損傷は互いに中破以上であり、そろそろ大破へと到達する。

以前武蔵の様子は変わらないが、血が辺りに飛び散る様子をみれば確実にダメージを与えているだろう。それが嬉しい。

 

「しゃぁああああ!!」

「TAAAAAAA!!」

 

互いの剛剣がぶつかり合い、弾かれるように間合いを離す。

 

「うむ、ここまでやるのなら見せてやる! 耐えられるか?」

 

そう敵騎は言うなり、手と前に出して一回打ち合わし、左右にもうごかして一回ずつ打ち合わせる。

まるで柏手を打つように打ち合わせていた。

それを終えた瞬間……

三つの巨大な竜巻が敵騎の後ろに発生した。

その一つが伊達さんの『柴船』並みに巨大だ。

敵騎が片手を上げると、その竜巻は一つへとまとまっていき、更に巨大な物へと変貌していった。

そして敵騎は、まるでその竜巻を槍投げをするかのような動作で此方へと腕を振るう。

 

「『天魔返っ!!!!』(あまのまがえし)」

 

その竜巻が俺一人に目がけてその巨体を向かわせてきた。

俺は全力で合当理を噴かしてその場から全速力で離脱する。

何とか躱したが、巨大な竜巻はそのまま下にある海へと落ちていった。

その瞬間、海に巨大な大穴が空いた。

IS学園が十件以上はいるかも知れない大きさに俺は戦慄する。

 

「なっ!? 何だ…あれ……」

 

師範代以上かもしれないその破壊力に驚愕し固まってしまう。

それを見て笑う武蔵。

その笑いはまるで子供が人を驚かせて喜ぶ時に似ているかもしれない。

 

「驚いたか? 何、そう難しい術理ではない。基本は尾張貫流槍術の刺突に同じ、回転を利かせての捻り込みの威力。まぁ、威力は自明の理だ。ただ、でかいのでこうなったまでよ」

 

かっかっか、と笑う武蔵。

俺はそんな威力を見せつけられても……

どこか楽しんでいる自分を自覚し、それを超えたいと思った。

 

 

 

 

 

 


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