装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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おかしいです! 
あれだけ甘い甘いと思ってたのに、この話を書き始めてから甘い物が欲しくて仕方なくなっている自分がいます!
そしてこの宮本さんは真面目に難しいです!


最強の選定者 その2

 今まで数多くの戦いを繰り広げてきた。

死にかけたのも一度や二度ではすまない。逃げ出したいと思った事も何度だってある。

だが、自身の信念を持ってそれら全てをねじ伏せてきた。

これは武者として戦う以上、絶対に続いていくことだろう。

それはきっとこれからも変わらない。

だが……今、目の前にいる男を見て、俺はただひたすら………

 

怖い!

 

そう感じた。

別に戦う相手に恐怖を感じたことがないわけではない。

命をかける以上、常に恐怖にさらされているのだからそう感じるのは生物として当たり前のこと。

しかし……この男から感じる恐怖はその比ではない。

生きる死ぬの話ではない。

まるで存在そのものを消滅させられるかのような、そんな恐怖をこの男から感じるのだ。

今すぐにでも恐怖に震えながら逃げ出したい。

だが、そんなことは出来ない。

相手はこちらと戦うために来たのだ。そのようなみっともない真似は断じて見せられない。

だからこそ……戦うしかない。

俺は覚悟を決め、男と向き合う。

 

「分かりました……死合いましょうか」

 

自分でそう言っておきながら、恐怖しているというのだから滑稽かもしれない。

だが、それは自分で口にしたことを理解しているからだ。

戦えばどちらかが絶対に死ぬ。

それも此方の方が圧倒的に死ぬ確立が高い。

それでも、そう言うしかなかった。

俺の覚悟を決めた表情を見て、男はニヤリと笑った。

そう決めたのなら、その前にやらなければならないことがある。

俺は生徒会の皆や真耶さんの所に行くと、事情を軽く説明し試合をすることを伝える。

 

「……というわけで、俺は今からそこの人と戦わなければいけません。だから皆さんは先に帰っても大丈夫ですよ」

 

できる限り笑顔でそう伝えるが、皆歯切れが悪い。

その理由が宮本 伊織だということは、誰しも分かっていた。

一般人でも分かる濃厚な殺気と気配。それも意識せずに、ただ漏れ出ているだけでも分かるそれを感じさせられれば、嫌でも戦えば無事で済まないことがわかる。

特に真耶さんは俺を凄く心配そうな目で見つめる。

 

「でも、旦那様、凄く辛そうです」

「大丈夫ですよ。いつもと同じです。戦って、勝てばいいんですから」

 

少しでも安心させようとそう言うが、今回に限ってはかなり無理をしている。

正直勝てる勝てないどころではない。

死ぬか生きるか……

まさにその一言に尽きる。

 

「旦那様、とても無理してませんか? 何か顔が強ばってます」

 

返事を聞いてさらに心配する真耶さん。

でも、俺は真耶さんを怖がらせたくない。心配させたくない。

だから……精一杯の笑顔を真耶さんに向ける。

 

「無理はしてませんよ。そうだ! これが終わったら次の休みあたりにデートに行きませんか。ちょうど行ってみたいお店があるんですよ」

 

我ながらかなりの無茶振りだろうなぁ~、と思う。

でも、そうしてでも自分を鼓舞しないと心が折れそうになるのだ。

俺の笑顔を見て、それでも気まずそうに引かない真耶さん。

俺は仕方ないなぁ、と思いながら真耶さんを抱き寄せ、そのまま可愛らしい唇を奪った。

 

「!?」

 

驚く真耶さんにできる限りの笑み浮かべて笑いかける。

 

「これはその約束ですよ。無事に帰ってきますから、待ってて下さい」

「……わかりました。だから……ちゃんと約束、守って下さいね」

 

真耶さんは俺を真剣に見つめながらそう答えてくれた。

 

「先生、そろそろ行きましょうか」

 

会長は真耶さんにそう言ってこの場から移動する。

それに引かれるように真耶さんは移動するが、その瞳はずっと俺を見つめていた。

 

「旦那様………」

 

その呟きは小さかったが、それでも俺の耳には確かに聞こえていた。

 それを聞いて恐怖に震えていた自分を震え立たせる。

これは一種の戦意昂揚術。

一番大切で愛している人に絶対に帰ってくると約束したのだ。

ならば、絶対に帰ってこなければならない。

彼女との約束を破ることだけは絶対にいけないから。

俺は真耶さん達をここから離すと、再び男の前にいく。

 

「ふむ……色男だな」

「からかいは結構」

 

覚悟を決め、約束した俺に戦う恐怖はもうない。

あるのは、絶対に勝つという勝利への渇望のみ。

それを感じ取ってか、男はさらに笑う。

 

「では、アリーナに行きましょうか」

 

その笑みを受けながら俺は男をアリーナへと誘う。

だが、男はアリーナの外観を見てつまらなさそうな顔をした。

 

「あんな狭い場所ではつまらぬ。この場で死合おうぞ」

 

男は静かに俺にそう言ってきた。

アリーナはシールドバリアが張られていて安全性が高い。だからこそ、俺はアリーナに誘ったのだが、それは一蹴されてしまった。

話を進めようとするが、主導権は向こうに握られている。

別に驚くことではない。

目の前の男から主導権を握れるとは思わない。だからこそ、俺は天皇陛下と総理に向かって言う。

 

「お二人は早く避難を。それとこの辺一帯に避難勧告と海域封鎖、空域封鎖、IS学園の生徒に避難勧告をお願いします。それだけでも足りるかどうか分かりませんが……」

 

俺のお願いを聞いて二人もこの場を離れた。

ここにいる俺はもうIS学園の生徒ではない。

名甲、正宗を駆る武者、織斑 一夏だ。

殺気を身に纏い、敵たる者を討つ者だ。

己が正義を体現する者だ。

この男との戦いにおいて、周りに気を留める余裕などない。

周りへの被害を少なくするには、これしかなかった。

俺は殺気を込めて男と相対する。

いつもより静かに、それでいて激しく深い殺気を相手へと向ける。

男はその殺気を浴びて面白いような物を見る目で俺を見る。

 

「これですぐに始められますよ」

「そうか」

 

そう言うと共に、俺は力の限り正宗を呼ぶ。

 

「正宗ぇええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

俺の呼びかけに応じて正宗が俺の前に飛び出した。

既に俺を通して話は聞いているだろう。故に何も言わない。

 

「では…改めて。自分は織斑 一夏。してこちらは天下一名物の相州五郎入道正宗、以後よろしくお願いいたします」

 

俺の名乗りを聞いて男はつまらなさそうに答える。

 

「別に名乗りなど必要ではない。そのような下らぬ些事に興味などない。別に無くとも強さは変わらぬのだから」

 

それを受けてどことなく理解した。目の前の男は武者ではない。

武者とは武の探求者だ。それには武者にふさわしい礼節も含まれる。

名乗りはその礼節においてもっとも重要だ。

誰も名前も知らない人間には斬られたくない。

故にこれから戦う相手に自らを名乗るのだが、それくだらないということは、つまりこの男は武者ではない。信念のような物は感じなくもないが、それは普通の武者とは異なる。

男の言葉には常に強さを求める意思が感じられる。

しかし、それは切望するのでもなく、渇望するのでもない。

ただ、人が当たり前だと思うことをするように、当たり前に強さを求める。

その力の求める大きさは判断出来ないくらい巨大なだけで。

そんな力を求める者はただの……修羅だ。

力を、強さだけを求める求道者。

それだけならば武者も一緒だが、求めるあまりに信念をもたない。

ただ、愚直なまでに力を求める。

それは指向性のない危険物そのもの。どのような理由で爆発するか全く分からない。

分かることは、その力を振るうのに躊躇などを一切しないということ。

危険としか言いようがない。

だからこそ、俺は戦う!

そのまま装甲の構えを取り、誓約の口上を述べる。

 

『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

 

そして俺は正宗を身に纏い、正義を成す者となった。

男はそんな俺を見て、少し笑いながら両腕を軽く開き掌を空へと向ける。

 

『千日の稽古を劔とし 万日の稽古を冑とす 以て此れ我がツルギなり』

 

そう唱えると共に、男の後ろで何かが弾けた。

そして男へと甲鉄が舞い、装甲されていく。

やがて俺の目の前には巨躯をもつ二本の角を生やした武者が立っていた。

後ろには仏像のような輪が付いていて、神々しさを感じさせる。

 

『武州五輪』

 

男はそう言うと、脇に差していた刀……脇差しを二本引き抜き俺へと向ける。

 

「我が劔冑に適う者、皆無。槍の宝蔵院、尾張の柳生、巌流も同じく。劔て、お前は如何に?」

 

そう俺に言いながら構えを取る男……

いや、宮本 武蔵をは構えながら聞いてきた。

それを見て、俺は何も追わずに斬馬刀を構える。

そして、どちらも互いに動かない。

それが少し続いた後、風が吹いた。

互いに刀を構え、合当理を噴かせながら敵へと斬りかかる。

 

「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ZOoooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!」

 

互いの咆吼と共に突進し激突!!

IS学園全体に響き渡るほどの激突の轟音と共に空間は震撼し、入り口ゲートは激突した衝撃で跡形も無く吹き飛んだ。

 

 こうして、俺の戦いは始まった。

 

 

 


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