装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は殆どお菓子作りです。


お菓子の作り方 その3

 一頻り伊達さんにからかわれた後、やっと本題に入る。

 

「ぎゃっはっはは、あ~面白かったぜ~」

「からかわないで下さいよ……」

「でも結構興味あったろ! しかもためになったんじゃねぇか。なぁ」

「黙秘させてもらいます!」

 

伊達さんは愉快そうに笑いながら俺にそう言うが、こっちは堪ったものではない。

御蔭で色々と考えてしまって顔が熱くて仕方なかった。

その後、俺は少しでもそれを冷まそうと出されたお茶に口を付ける。

普通のお茶の味がした。

そんな俺を見てから伊達さんもお茶を飲み、俺に笑いながら話しかける。

 

「まぁ、からかうのもここまでってことで許せ。んで本題だが、もう材料自体は準備出来てるからよ。茶ぁ飲んだらさっそく掛かるとすっか」

「はい。ご指導、よろしくお願いします」

「おう! びしびしいくぜ、覚悟しな」

 

俺は教えてもらうことに頭を下げて礼をすると、伊達さんはノリノリに応える。

正直それが心配になってくるのは、俺の気のせいだろうか。

ここで不安になって仕方ない。

お茶を飲み終えた所で、俺達は早速台所へと向かった。

改めて中を見てみるが、やはり凄い設備だ。

しかもそれ以上に凄いのはそれらの全てがちゃんと使われていて、綺麗に手入れされていることが窺えることだろう。

 

「おいおい、あんまし人ん家の台所をジロジロと見んなっての。ちっと恥ずかしいだろうが」

「す、すみません。ちょっと意外で。まさかあの伊達さんが…と思うと…」

「あのって何だよ、あのってのは! まぁ、よく言われるからいいけどよ。主に真田とかにな」

 

よく言われるのか……まぁ、伊達さんの人柄からじゃ仕方ないか。

伊達さんを知っている人なら誰だってそう思ってしまうだろう。

突っ込みを終えた伊達さんは棚から真っ白いエプロンを取り出すと、俺にもそれを渡して身に付け始めた。俺も習って付けるが、伊達さんを見ているとこれからお菓子を作ると言うよりも和食でも作りそうな感じに見えてしまう。事実、福寿荘の料理人の中には禿頭の人もおり、混ざれば絶対に違和感が無いだろう。

そんなことも気にせずに伊達さんは鼻歌交じりに機材と材料を取り出して前に出していく。

 

「よっし。今回手前に教えるのはロールケーキだが、この菓子について手前はどれくらいの知識がある?」

「特に詳しいことは。スポンジでクリームを巻いたお菓子ということしか知らないです」

 

あまりお菓子の事について知らない俺は知っていることを素直に話すと、伊達さんは意気揚々に説明し始めた。

 

「まぁ、手前の言った通りの菓子だがな。実際には結構難しいんだぜ。由来やら何やらの説明はここで言っても仕方ねぇから省くが、大体で言えば一番難しいのはスポンジだな。しっとりとしていないと曲がらねぇし、しっとりし過ぎると今度はスポンジっぽくない。その中間を目指すのは至難の業って奴だ。中に入れるクリームや果物なんかに目が行きがちだが、こいつが一番大切なんだぜ」

 

それを聞きながらメモを俺は取る。

教えてもらい、今度は一人で作れる様にならなければならないのだ。

少しでもメモを取り、学ばねば。

それにこういう違った視点のことから料理の腕に活かせることを学べることも多い。

で、出来ればこれを機に真耶さんと一緒にお菓子を作れれば………

そのためにも、絶対に学ばなければ!

俺はそう意気込みながら早速伊達さんと一緒にロールケーキ作りを始めた。

 

「菓子作りはまず、分量が重要だ。だからちゃんと計れよ。1グラムでも違えば誤差が出るんだからなぁ」

「はい」

 

伊達さんは俺にそう言いながら電子計りで小麦粉を計り始めた。

小麦粉は薄力粉で量は60グラムきっちりに量る。

 

「計り終えたら次は卵液だ。電動ホイッパーで混ぜるわけだが、ここで二つの方法がある。一つは別立てでもう一つが全立てだ。別立ては卵白と卵黄に分け、卵白を砂糖を加えてメレンゲにし、そこに卵黄を混ぜるって手法だ。こいつで作ったスポンジは凄く膨らみふんわりしてなぁ、シフォンケーキなんかに用いる。んで今度は全立てだが、こいつは卵白卵黄ともにホイッパーでよく混ぜるんだが、その最湯煎で暖めながらするんだ。クリーム状になるまでよく混ぜてから菓子に使うんだが、こいつは焼き上げるとしっとりとした生地が出来る。主にショートケーキなんかのスポンジに使われるもんだな。今回は全立てでいく。ボールに玉子を3個割ってから砂糖を加え、湯煎しながら電動ホイッパーでクリーム状になるまでよく混ぜろ」

 

その説明を受けた後、伊達さんがやっているのを見ながら見真似で同じように卵液をかき回していく。すると玉子が最初は黄色だったのが、そのうち肌色に近いクリーム状のものになっていく。

それを見て若干感動しつつ伊達さんを見るが、ある意味意外過ぎて凄かった。

真剣に集中していることが良く分かるのに、凄く和やかで落ち着いているのだ。

集中の度合いは死合いと変わらなく凄いのに、殺気や闘気といったものが一切無い。

死合いの時とはまったく違うその様子に内心驚いてしまう。

卵液をクリーム状になるまで混ぜた後、伊達さんはさらに集中しながら話す。

 

「んでクリーム状になったら今度は小麦粉を振るわけだが、ここでそのまま入れんなよ? 振るいにかけながら入れるわけだが、ボールから20センチほど離してから振るえ。粉が周りに散りやすいから気を付けなきゃならねぇが、これをすることによって生地に空気を含ませることが出来る。含ませないとまったく膨れねぇから注意が必要だ。粉は3回くらいに振り分け、そのたびにヘラを使ってさっくりと混ざるように混ぜろよ。あまりこねくり回すと小麦粉が粘ってきてスポンジにならねぇからな」

 

そう言いながら伊達さんは小麦粉を振るい、生地をヘラで混ぜ込んでいく。

その手際は見事としか言いようが無く、台の上には粉の一粒の零れていない。

その手際に少なからず対抗心が湧いてしまう。此方とて福寿荘の料理人。食べ物を作ると言うのは一緒なのだから、無様な姿は見せたくない。

なので俺も福寿荘で料理を作っている時と同等の集中力で生地を注意しながら混ぜていく。

 

「おお、その調子だぜ。さすが料理人、手際がいいな」

「これでも料理のプロですからね。ジャンルが違うとは言え、あまり情けない姿は見せられないですよ」

 

そんなふうに笑いながら生地を混ぜていく俺達。

その普段と違う雰囲気が新鮮で結構楽しい。

そのまま生地が出来ると、今度はオーブンの天板にクッキングシートを敷く。そしてその上に生地を流し、平らになるようヘラで整え、軽く2、3回トントンっと第の上に置く。

 

「んで焼くわけだが、あらかじめ200度でオーブンを温め、それが終わったら生地を入れた天板を入れて180度で12分焼く。焼き終わったらオーブンから出して粗熱を取り、ラップをふんわりとかけてじっくりと冷ます」

 

伊達さんに言われた通りにしてオーブンに入れ焼き始める。

その間に空いた時間で生クリームを泡立てる。

 

「生クリームは空気を含ませるようにかき混ぜろ、その方が食感が軽くなるからなぁ」

「それは大体わかりますね。和食でも似たように混ぜることがありますから」

「みてぇだな。文句の言いようもないくらいうめぇじゃねぇか」

「ありがとうございます」

 

今度は果物を巻きやすいように切っていく。

今回使うのは白桃である。

 

「へぇ~、切るのは流石和食のプロだな。俺より上手いじゃねぇか」

「まぁ、この程度なら」

 

伊達さんが俺の切り方を見て感心していた。

ここくらいは負けないと見せつけないと、と妙な対抗心が湧く。

そしてスポンジが冷めたのを見計らってラップを剥がし、クリームを塗ることになった。

 

「ここでクリームを塗るわけだが、均一に塗るなよ。巻く関係で手前を厚く、奥を薄く塗るんだ。当然切ったフルーツも手前だぜ」

 

言われた通りにクリームを塗り、フルーツを手前に並べる。

その出来を見て伊達さんは満足そうな顔をした。

 

「よし、後は手前から持ち上げ、クリームやフルーツが零れないように生地を巻いていくだけだ。やってみようか」

「はい」

 

伊達さんが見本で巻いていき、俺もそれを真似しながらおっかなびっくりに巻いていく。

少し歪になったが何とか巻けたことでやっと安心したが、それを見透かしたかのように伊達さんが注意してきた。

 

「おっと、まだ安心するなよ。この後は形が崩れないように持ち上げて冷蔵庫に入れ、落ち着かせたら完成だ。それまで気を抜くんじゃねぇよ」

「す、すみません…」

 

そのことに反省しつつ、何とか冷蔵庫に入れて待つこと15分弱。

これで後は切れば完成らしい。

 

「しっかし、教えてくれって言われたから教えたが、その手付きじゃ教える必要なかったんじゃねぇか?」

「そんなことないですよ。俺の周りにはお菓子を作れる人がいなかったですから、本当に助かりました。それに褒めてくれるのは嬉しいですけど、結構ギリギリでしたよ」

「そうか。まぁ、そんないきなり上手くやられたら教える立つ瀬がねぇっての」

 

そんなふうに談笑しながらロールケーキ作りは終わった。

 その後に作ったケーキを試食したが、甘くて美味かった。

 

 

 

「んじゃ、もうこれでロールキーキはマスターしただろ。俺が教えることはねぇよ」

「はい、御蔭でちゃんとつくれそうです。ありがとうございます」

 

ロールケーキの作り方を教わり、もう帰らなくてはならない時間になったので帰ることに。

伊達さんに感謝を込めてお礼を言い、伊達さんのアパートから出る。

 

「あ、ちょっと待ちな、織斑」

「はい? どうかしたんですか?」

 

扉を閉めようとしたところで伊達さんに呼び止められた。

何かと思い待ってると、伊達さんは何か小さい包装された箱のような物を持ってきた。

 

「これは餞別だ。大事に使えよ」

 

俺に笑いながらその箱を渡すと、何も言わせずに扉を閉めてしまった。

その餞別が何なのか気になったが、今更聞くのもどうかと思って辞めてそのままIS学園へと帰った。

 

 

その夜、俺はその箱を机の上に置いておいたがすぐにその存在を忘れてしまっていた。

真耶さんがいつもの様に会いに来てくれたのが嬉しくて、俺は真耶さんと一緒にベットで腰掛け体をくっつけながら楽しく話をしていた。

 

「それで今日、こんなことがあったんですよ~」

「そうなんですか? それは…」

 

そう幸せにひたりながら話していると、真耶さんはふと机の方に視線を向ける。

 

「あれ、なんですか?」

 

そう言いながら机に置かれていた箱を持ち上げる真耶さん。

持ち上げてから次第に真耶さんの顔が険しくなっていくのだが、俺は何故か分からず戸惑う。

 

「旦那様、これってもしかして……タバコじゃないですか! いくら旦那様でもこれは駄目です! これは捨てさせて貰いますよ!」

 

そう言って真耶さんはその箱の包装を解いていく。

俺も言われるまで気付かなかったが、タバコの箱のサイズと同じくらいだろう。

そして思い出した。それが伊達さんからの餞別だということを。

 

「あ、真耶さん、駄目……」

「え……」

 

止めようとしたが、真耶さんは包装をある程度解いてしまい、中の物を引っ張り出してしまった。

しかし……それはタバコではなかった。

それは……

 

薄いゴムのような物が連なって出てきた。

 

それが何なのか……

俺は知っているし、真耶さんも知っている。その証拠に真耶さんの顔が見る見るうちに真っ赤になっていく。

そして爆発した。

 

「ほびゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

中にはいっていたのは……所謂『アレ』だった。

 

 

 この後、真耶さんは顔を真っ赤にしながら慌てふためき、落ち着いたと思ったら俺を凄く熱の籠もった目で見つめてきた。

その破壊力に負けそうになるのを血涙を流しながら耐え、説得するのに凄く苦労した。 

 


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