なので甘くないです。
「いくぜぇええええええええええええええええええええ! おらぁああああああああああああ!!」
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
向こうの咆吼に負けぬよう気迫の籠もった咆吼を上げ、互いに刀を斬り結ぶ。
刀同士がぶつかり合う度に凄まじい激突音が鳴り響き、衝撃が地面を抉り取っていく。
俺は相手に斬りかかりながらも、ずっと思っていた。
(何でこんな目にあっているんだろうか………)
遡ること少し前。
卒業式も無事に終え、毎日真耶さんと一緒に楽しく幸せな生徒会(一夏だけ)に精を出して過ごしていた。
そんな楽しい日々を送っていたのだが、俺はとある頼み事をするためにその日、自衛隊練馬基地に来ていた。
皆俺のことを知っているらしく、ゲートの警備兵の人にサインを求められたりして大変であった。
俺はゲートで入場許可を貰うと、来賓扱いで基地に入っていく。
一応来た理由としては政府の視察と言うことになっていて、念の為先方と日本政府にはそう連絡してある。本当は違うのだが…。
そして目的の人がいるであろう自衛隊劔冑部隊が訓練している訓練場へと向かった。
訓練場に近づくにつれて聞こえてくる活気に溢れた声に感心しつつ、俺は訓練場へと入る。
場内では九○式竜騎兵甲を纏った部隊員二人が打ち合っていた。
「きえぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
「しゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
気迫の籠もった声で相手を威嚇しながらの一撃を相手に放ち、向こうもそれに応じて防ぐ。
そして反撃に映り、それに負けじとさらに剣戟を深めていく。
うん、前に見た時よりも格段に良くなっている。
あれは金田二等陸士と斉藤二尉だろうか。構えと剣筋からどことなくだがわかる。
二人とも成長したものだ。特に金田二等陸士の成長は目覚ましいもので、昔と比べるともはや別人と言っても良いかもしれない。まだ若干のぶれや粗は目立つが、それでも格段に良くなっている。
少し見ていることにしたが、中々良い模擬戦をしていた。
しかし、やはりと言うべきか次第に斉藤二尉に押されていき、最後に胸部に一撃を当てられて負けてしまった。
それを見終えてから俺は隊員の人達の所へと歩いて行った。
「いや~、先程の模擬戦は中々に良かったですよ。特に金田二等陸士の成長には感心しましたね」
「「「「「なっ!? 織斑教官!!」」」」」
俺の声を聞いて皆さんが驚愕する。
いきなり話しかけられれば誰だってそうなるか。少し失礼をしてしまったな。反省せねば…。
「いきなり失礼をしました。今日は少し用事でこちらに拠りました」
「そ、そうなのですか! その事を知らず挨拶にも向かわずにとんだご無礼を!」
来た理由を簡単に説明すると、部隊長が俺に頭を下げて謝罪してきた。
別に謝るような事ではなく、寧ろ謝るのはいきなり訪問した此方である。
「そんな畏まらず。寧ろいきなり訪問した自分の方が悪いですから謝らないで下さい」
「いえ、そんなことは……」
その後、部隊長とお互いにぺこぺこと謝りあってしまい話が進まないという事態に。
仕方なく切りが良い所で何とか切り上げ、持ってきた差し入れをを渡す。
「あ、これ差し入れです。みんなでどうぞ」
「はっ! ありがとうございます。皆喜ぶかと」
差し入れはここに来る前に寄った和菓子屋で買った饅頭だ。
渡された部隊長はその場の皆にそのことを伝えていく。
「お久しぶりです、織斑教官」
「久しぶりです、教官!」
そうしてる間に金田二等陸士と斉藤二尉が此方に来て俺に挨拶にきた。
「ええ、お二人も元気そうで。二人とも前よりも格段に腕を上げられているようで何よりです」
「いえ、そのようなことは。織斑教官に比べればまだまだ甘く…」
「え、そうですか! いやぁ~、教官の褒めてもらえると嬉しいですね~」
斉藤二尉は謙虚に応え、金田二等陸士は頭をかきながら照れていた。
二人も元気そうで何よりだ。
そして挨拶や談笑もそこそこに、そろそろ本題へと入る。
「それであの……伊達さんはいますか?」
「伊達教官ですか? 教官でしたら、そろそろ……」
部隊長にそう聞いたところで、その声は別の声によってかき消された。
「おお、来たか織斑! 待ってたぜ」
「あ、伊達さん。すみません、忙しいのに無理を言ってしまって」
探そうとしていた所で向こうから来てくれたようだ。
そう、今日俺は伊達さんに用があるのだ。
伊達さんは禿頭をパシっと叩きながら笑顔で俺の方に歩いてきた。
「別に問題ねぇよ。ここんところ退屈だったしなぁ」
「そうなのですか?」
「あぁ。御蔭で暇でしかたねぇんだよ」
そう言う伊達さんは如何にも暇だと言わんばかりにあくびをかいていた。
この人がそんなふうにすると、本当に暇そうに見える。
「すみません、伊達教官。自分達では教官を満足させられなくて」
「いや、別にお前等のせいじゃねぇよ」
謝る部隊長に伊達さんは仕方ねぇと言って流していた。
伊達さんを満足させるには、それこそ一流の武者じゃなければ不可能だと思う。
そして伊達さんは部隊長とある程度話すと、俺に向き合う。
「つーわけだ。俺は暇で仕方ない。そして手前はここに来た。なら、やることは一つだけだ……やるぞ、織斑!」
そしていつの間にか刀を抜刀し俺に突き付けていた。
こうして最初に戻る。
あの後、急遽俺と伊達さんによる模擬戦をすることになってしまった。
真打の武者同士の戦いが見れるとみな興奮し、訓練場の脇へと移動した。
俺と伊達さんは訓練場の中央に相対し装甲。
そして審判役の部隊長の開始の合図と共に、合当理を噴かしてぶつかり合った。
「おらぁっ!」
「ちぃっ!」
伊達さんの片手上段の素早い一撃に対し、此方は下段からのすくい上げで応じる。
そのまま互いに刀を弾き、さらに追撃をかけていく。
「ふんっ!」
「ちぁっあ!!」
此方の右斜め上段から斬撃を放ち、伊達さんはそれを向かい討とうと同じく右上段から一撃振るう。
互いの刃が激突しあい、火花を散らしながらせめぎ合う。
鍔迫り合いになり、互いに引かぬと力の限りを刀に込めていく。
すると刀から甲高い金属のひしゃげるような音が聞こえてきた。
「なんだよ、随分余裕ありそうじゃねぇか。あぁ」
「そう言う伊達さんこそ、更に力を上げてるじゃないですか。前よりも上ですよ、これ」
金打声で互いにそう話しあう。顔は見えないが俺も伊達さんも互いの成長に喜び口元に笑みを浮かべていた。
「こっちも負けたままじゃいられねぇからな!」
「それはこちらも同じですよ!」
そう軽口を叩きつつも力を全力で込め、互いに突き飛ばし合う。
結果、ほぼ同時で俺達は後ろへと跳ぶ。
その際、衝撃で地面は大きく抉れてしまっていた。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「らぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
互いに空間を振るわせるくらいの咆吼を上げながら斬り合う。
模擬戦故に峰打ちだが、載せる殺気は本物。互いに殺し合う気で斬りかかっていく。
刀がぶつかる度に轟音が鳴り響き、地面はまるで爆発が起きたかのようにクレーターだらけへと変貌していく。
模擬戦だということをあまり意識することなく俺と伊達さんは戦っていく。
純粋な剣技のみの模擬戦だが、それ故に技量が左右する。
俺と伊達さんの剣戟はその内嵐のように発展していき、入ったもの全てを斬り砕くほどに凄まじくなっていった。
この模擬戦は魂が燃えてとても楽しい。
だが、それでも俺は言いたい。
(だから何故、こうなっているのだろう?)
そう思わざるにはいられない。
互いの重い斬撃がぶつかり、俺と伊達さんは距離を取る。
「やっぱ手前は最高だぜぇ! でもな、こんなんじゃまだ甘ぇ! だからもっと楽しもうぜぇ! じゃなきゃ教えられねぇな~………『ロールケーキ』の作り方はよぉ!!」
伊達さんは興奮した様子で俺にそう言って来た。
そう、そうなのだ。
(何で俺はお菓子の作り方を教て貰いたくてきたのに、こうして斬り合ってるんだ?)
俺は伊達さんにお菓子を作り方を教えてもらうためにきたのだ。
決して伊達さんと模擬戦をするために来たのでは無い。
なのに何で……こうなってるんだろう。
そう不思議に思わずにはいられない俺であった。
そろそろこの作品も終わり間近ですよ。