かなり長くなっちゃって大変でした。
あまり甘くないかと思いますが、楽しんで下さい。
意識が目覚めて最初に感じたのは体中の激痛と虚脱感だった。
酷く痛いのに、体から力が抜けきって声が上手く出せない。
朦朧とする意識で何とか考えると、先程の死合いを思い出した。
ああ、そう言えばさっき俺は……
そう思い出したところで体が誰かに抱きしめられた。
痛かったが、その柔らかい感触に心が安らぐのを感じる。俺にそんな安らぎを感じさせてくれる人は一人しかいない。
「旦那様……何とか戻って来れて、良かったですよぉ……」
俺の体を優しく抱きしめながら泣いてしまう真耶さん。
泣いて欲しくなくて、俺は頭を撫でようとしたが体が動かない。
それをじれったく感じていると、段々頭が追いついてきた。
「………何で体がこんなに……痛い?」
そう、俺は電脳ダイブをしていたはずだ。
ああいうのは体がこんなにも痛くなるものだろうか?
俺自身そういうものには疎いが、それでもこんなに体が痛むとは思えない。この痛みは武者である自分が本当にやばいと思える程の痛みだ。通常の人間だったらとっくの昔にショック死を起こしていてもおかしくない。
そんな痛みを感じさせるようでは、死傷者ばかり出してこういった技術はまず出来ない。そんな危険を孕んでいて束さんが勧めるとは思えない。では何故こんなにも痛いのか?
そう思いながら初めて自分の体を見てみるが、そこで初めて自分の体の惨状を知った。
全身血で真っ赤になっており、おびただしい数の傷が体に出来ていた。
腹は割けて中身が見えてしまっており、左腕は食いちぎられたかのように原型を残していない。
応急手当をされた後があちこちにあるが、血で溢れかえっている。そのせいで背中に濡れたような感触が広がっていた。
そして何よりも、左側が真っ赤になっていて一切見えなくなっていた。
それで全てを思い出す。
電脳空間で戦ったあの悪との戦いを。それによって斬られ、抉られ、砕かれた傷の数々を。
真耶さんをよく見てみると、服のあちこちが紅く汚れているのが見えた。
最初は俺を抱きしめて着いた血かと思ったが、乾いて色が変わってきている部分を見るとそれ以前に着いたことが分かる。
きっと真耶さんがこの手当をしてくれたのだろう。
申し訳無い気持ちと嬉しい気持ちで一杯になっていく。
だからこそ、真耶さんに言いたかった。
俺は何とか力を振り絞って真耶さんの頭に手を乗せ、ゆっくりながらに撫でる。
すると真耶さんは俺の顔を泣いた顔で見る。
「……ただいま……真耶さん」
「っ!? 旦那様ぁああああああああああああああああああああああ!!」
俺の声を聞いて真耶さんが崩壊したダムの如く、一気に泣き出してしまう。
泣かせてしまったことに悪いと思いながらも、やはり真耶さんが一緒だと心が安らぎ笑顔になってしまう。
色々と聞きたいこともあったが、今は真耶さんが泣き止むまでこのままでいることにした。
そのまま少し経ち、正宗の治癒力で最低限体を再生させた後に俺は改めて話を聞くことにした。
真耶さんは俺の体を抱き留めるように支えてくれている。そのことに嬉しいやら申し訳無いやら。
取りあえず何故こうなったのかを束さんに聞くことにした。
「束さん……何故こうなったんでしょうか?」
俺は少ししゃがれた声で束さんに聞くと、束さんは申し訳なさそうに話し始めた。
「ごめんね、いっくん……。まさかこうなるなんて思わなかったんだ。いっくんの時だけダイブが不完全になっちゃって、いっくんの望んだことを変なふうに叶えちゃったみたい。それでいっくんは戦い始めちゃったわけだけど、その時いっくんの脳はその痛みを本物だって認識したんだよ。幻痛ではなく、本当にやられた傷を見てね。結果、肉体と精神がそのダメージを実際に再現しいっくんの体はそんなふうになっちゃったんだ」
「だからですか。確かにどの傷も身に覚えがあるものばかりですね」
だからかぁ…と納得する。
精神が肉体を凌駕することが起こりやすい武者ならばよくあり得そうな話である。
要は俺とこの装置とは相性が悪いのかもしれない。
束さんが言うにはダイブがおかしくなったのが原因らしいが。
しかし、それでもやはり相性が悪いと感じた。
何故なら、今にして思い出せば村正の強さはあんなものではない。
絶対的な死を与えるあの技を受けて今の俺が反撃出来るとは思えない。
だからこそ、アレは俺の願望だったのだろう。
現実は甘くないのである。
その件については、正宗から説教と共に聞かされた。
正宗曰く、
「そのようなことで傷だらけになる自体、精神が弛んでいる証拠也! 明日からもっと鍛えるぞ、御堂!!」
とのこと。
きついが事実だと思うので大人しく聞くことにした。
その後、その場にいたみんなからも心配された。目の前で血を吹き出す人間がいれば誰だって心配するだろう。俺としても見苦しいものを見せたことでお目汚しをさせてしまって申し訳無い気持ちで一杯である。
誠心誠意謝罪とお礼を言いたかったが、それを返す程に回復していないため、俺は急遽寮の自室に戻ることになり、こうして電脳ダイブの件は終わりを迎えた。
そして………
現在、俺はベットで横になっているわけだが……
「旦那様ぁ……」
真耶さんが俺の隣で一緒に横になり、俺の体を精一杯抱きしめていた。
まるで幼子が必死に離すかのように、それでいて母親が我が子を優しく抱き留めるように。
体全体を包み込むかのような抱擁に俺の心臓はドキドキしっぱなしである。
「あの……真耶さん?」
「はい」
声をかけられた真耶さんは甘えるような声で俺に笑顔を向ける。
「何で一緒に寝て、俺をこんなに抱きしめているのでしょうか? いや、とても嬉しいんですけど、何故?」
「これは旦那様へのお仕置きです」
「お仕置き?」
疑問符を浮かべながらそう聞くと、真耶さんは少しだけ真面目な顔をした。
「今日は本当に心配したんですから。ここ最近でも一番の大怪我だったんですからね。昔の私だったら卒倒するくらいにほどに酷かったんですから。これ以上心配させないで下さい。旦那様にもしものことがあったらと思うと………私は旦那様がいないと生きていけないんですからね」
瞳を潤ませながら俺にそう言う真耶さん。
それは俺も一緒であり、もし真耶さんに何かあったら俺はきっと生きていられないだろう。
「すみませんでした。本当に心配をかけて」
真剣にそう謝ると、真耶さんはいいんですよ、と笑ってくれた。
「あの状況じゃ仕方ないですよ。確かに旦那様のことが心配で仕方なかったですけど、私は旦那様のことを信じてますから」
「真耶さん……」
胸にジーンとくる言葉を言われてしまい感動してしまう。
大好きな人にそう言ってもらえることがこれほど感動するとは。
そして真耶さんは今度は少しイタズラをするような笑顔になった。
「それに……旦那様が望んでいることがああいうのだって知って、ちょっとショックだったんですよ。私のことが一番だと思ってたのに……」
まるでちょっと拗ねるかのように、それでいて傷付いたかのように、まるで小悪魔みたいな笑顔を浮かべる真耶さん。
俺はそう言われ慌てながら何とか答える。
「いや、別にそういうわけでは! 俺にとって一番は真耶ですよ。それに束さんが言ってたじゃないですか! 俺のダイブは異常だから正常じゃないって」
「そうですけど……本当に私が一番なんですか?」
「本当です!」
俺は必死にそう言うと、真耶さんは更に俺の体を抱きしめ顔を俺に寄せてきた。
巨大な胸が体に押しつけられ、俺はその感触にドキドキが最高潮に達っしてしまう。
幼いようで艶っぽい顔が俺の顔を見つめてくる。
「だったら……証明して下さい」
そう囁くと目を瞑る真耶さん。
それが何をして貰いたいのかなど、聞くまでもなくわかる。
だからこそ、俺も静かに真耶さんに顔を近づけ……その可愛らしい唇にキスをした。
「「んぅ」」
最初は唇を合わせるだけのキス。
柔らかく甘い唇の感触が気持ちいい。
そして次に……
「「ちゅ……ちゅ…」」
互いに啄むとうなキスをする。
何度もキスされて頭がふやけていき……
「「ちゅ…ちゅる…んぁ…んん…ぁあ……ちゅっ…れろ…」」
互いに舌を口の中に侵入させ、舐め着くし吸い尽くす。
頭が真っ白になりそうになりながらも、あまりの快楽にずっとしていたくなる。
そして息が苦しくなってきたので互いに唇を離すと、互いの唇から銀の橋が通っていた。
「だんなひゃま……もっとくらさい……」
真耶さんは顔をとろとろにとろけさせながら、さらに俺にキスをねだってくる。
それが凄く可愛くて艶っぽくて、俺は我慢できずに更に応じる。
そのまましばらくキスし合い、互いに頭をとろけさせていった。
そして少し落ち着きいて来たところで互いに優しく抱きしめ合いながら囁き合う。
「そう言えば束さんが帰る前に何かディスクを渡してきたんですけど、何でしょう?」
「何でしょうね?」
束さんが帰る前に俺に渡してきた物を思い出し、急遽取り出してみた。
どうやら映像ディスクらしく、この部屋に置いてある機材でも見れるらしい。
俺はそのディスクを機材にセットすると、早速真耶さんと一緒に見ることにした。
真耶さんは俺の横に体を預けながら座っている。肩に頭を乗せているところが可愛くて笑ってしまう。
そしてモニターから流れ始めたのは……
真耶さんと俺の新婚生活の映像だった。
それを見て真っ赤になってしまう俺と真耶さん。
当然俺は身に覚えが無い。
となると一つしかない。
これが真耶さんが望んだことなのだろう。
どうやら束さんが真耶さんがダイブ中の映像を記録していたらしい。
これは何て言うか……恥ずかしいがニヤニヤが止まらなくなる。
そして真耶さんはと言うと……
「旦那様!」
俺を優しく押し倒すと、俺を見つめる。
「これは……その…私の望み…です。だから…えぇい!」
そのまま唇を奪われ、さっき以上に盛り上がってしまった。
真耶さんがああいうのを望んでたのか……
可愛いなぁ。
そう思いながら俺も一杯キスし、互いにその日はイチャいた。
幸せ一杯で傷の痛みなど忘れてしまった。
後日、生徒会の仕事でみんな死にかけたとか。