装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は書くのに時間がかかりましたね~。
かなり熱く戦わせてと思いますよ。


束の来襲、夢への誘い その7

 目の前の悪鬼を戦い始めてからどれくらいが経っただろうか……

向こうの損傷は軽微。対して此方の損傷は大破よりの中破。

戦況は圧倒的に不利であり、それを覆すことは今のところ無い。

だが、負けるわけにはいかない! 正義を名乗る者が悪に屈することは許されない!!

その思い一つだけで現在も戦い続けている。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

魂を震わせるような咆吼を上げながら敵騎に向かって斬りかかるが…

 

「甘い!」

 

その速さに躱され、胸部に反撃を受けてしまう。

装甲が断ち割れ、そこから血飛沫が舞う。その激痛に歯を食いしばりながら堪え、正宗に被害を聞く。

 

「ぐぅっ…正宗、損傷は!」

『胸部に中破の損傷。後少しで心の臓にまで達しておったわ』

 

どうりで血が中々止まらない。

 

「だが、この程度ど臆してなどいられん!!」

『応!!』

 

そのことに若干焦りつつも、さらに気迫を持って敵騎へと迫る。

敵騎は此方に更に追撃をかけようと高速で迫ってくる。

向こうが辰気加速を使ってくる以上、速さでは此方に勝ち目はない。

だが、辰気加速とて無敵ではないのだ。

熱量を常に大量に消費するため持続時間が短く、その消費量故に使用中は他の陰義は使えなくなる。

ならばそこを付くのが活路となる。

 

「正宗、敵騎の加速は長時間持続はしない。距離とって近づけさせるな! 七機功を使う。左腕を持って行け!」

『諒解!』

 

正宗に命を出すと、俺は肘を曲げてそれを敵騎へと向ける。

その途端に左腕が骨ごと貪られ食い千切られる激痛に襲われる。

 

「ぐぅうううううううううううううううううううううううううう!!」

 

その痛みを必死に堪えると敵騎に向けていた肘の装甲が割れ、中から細い砲塔がせり出してきた。

 

「くらえ! 『連槍・肘槍連牙!!』」

 

俺の叫びと共に肘から骨肉で出来た弾丸が敵騎に向かって連射されていく。

 

「何!? ちぃっ!」

 

敵騎はこの弾雨に晒され、急遽方向転換を余儀なくされる。

始めて見たのか、その反応が遅いこともあって何発か被弾し鋼鉄に弾痕が刻まれていた。

 

『敵騎に損傷を確認。右脚部、腹部、左上腕部に被弾! 良くやった、御堂』

「ああ、このまま奴を近づけるな! さらに行くぞ!!」

 

俺は更に左手を正宗に喰わせながら敵騎へ弾雨を降らせ、此方に近づけないようにする。

敵騎はその弾雨によって、此方に距離を詰めることが出来なくなっていた。

 

「むぅ、小癪な真似をする! 村正、あの弾雨を防ぐ! 磁装・負極(エンチャント・マイナス)、磁気障壁!!」

 

敵騎がそう言うと共に、敵騎の前に黒い壁のようなものが現れ此方の銃弾を弾き飛ばしていく。

師匠が使う技と同じものであり、それは当然俺も知っている。

俺はそのまま弾を連射しながら接近し、此方の攻撃を防いでいる隙をついて斬りかかる。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ぬぅうううううううううう!!」

 

敵騎はこの斬撃を咄嗟に左腕を出して防ぐ。

結果、敵騎の左腕はかなり深く斬れて大量の血飛沫を空に舞わせた。

 

「舐めるな!」

 

敵騎は斬られた左腕を庇わずに右手で持った刀を此方に振るう。

俺はそれを防ぐことが出来ず、顔にその刃を受けてしまう

顔。それも左目に焼け付くような激痛が襲いかかる。

 

「ぐあぁああああああああああああああああああ!!」

 

激痛のあまりに叫んでしまう。

左目を斬られた感触が直に伝わり、視界を真っ赤に染める。

そのせいで混乱しそうになる。

 

『落ち着け、御堂!! 何、左目を眼球ごと斬られただけだ。目なぞ片方でも見えればよい! それに放っておけばすぐに治るわ! 粗相するでない!』

「っ!? すまん、正宗! 落ち着いた」

『うむ! ではいくぞ!』

「応ッ!!」

 

正宗の声によって気を持ち直し、俺は体勢を整える。

そのまま敵騎へと更に挑み、この死合いは熾烈を極めていく。

互いに剛剣での剣戟を躱し、さらに空に激突音が木霊していく。

最初こそかなり押されていたが、後半からは慣れてきたのかほぼ互角の戦いを繰り広げていく。

互いに刃をぶつけ合い、互いの鋼鉄を打ち砕き断ち斬る。

血飛沫が空を舞い、鋼鉄の破片が飛び散り海へと落ちていく。

気付けば互いの損傷は大破。騎行していられるのが不思議になるくらいボロボロであった。

 

「あぁああああああああああああああああああああああああ!」

「かぁああああああああああああああああああああああああああ!」

 

互いの咆吼が大気を震わせ、ぶつかり合う刀の衝撃が空間を震わせる。

吉野御流合戦礼法の技同士がぶつかり合い、互いの骨肉を砕き潰していく。

もはや血戦。俺の身体で無事なところは殆ど無く、全身を紅で染めていた。

俺は絶対に倒すのだと、それ以外を考えずにひたすら戦う。

 

「しゃぁあああああ! 『正宗七機巧の一つ、隠剣・六本骨爪!!』」

「おぉおおおおおおおおおおお! 『吉野御流合戦礼法 迅雷っ!!』」

 

俺の胸から突き破ってきた骨爪を敵騎は技を使い防ぎ……

 

「これならばどうだ! 『吉野御流合戦礼法 月片っ!!』

「がぁああああああああ!! まだだ!!」

 

敵騎の技を金剛力を持って無理矢理に弾き飛ばす。

そんなギリギリの攻防がずっと続いていく。

次第になくなっていく熱量。薄れていきそうになる意識。

だが、戦意は昂揚し高まっていく。

それは尽きることを知らない。

体は死にかけだが、精神は万全の状態であった。

 

「やはり正義とは危険なものだ! この短時間にさらに成長し続けている。その力は危険過ぎる。この場で断ち斬らせてもらう!」

「今まで戦ってきた悪の中でも一番強い。だからこそ……絶対に負けられない!」

 

互いに限界が近いことを察していた。

だからこそ、次の一撃で決める。

 

「正宗、次で決めるぞ!」

『諒解!』

「村正、これで終わらせる!」

『ええ!』

 

敵騎は刀を鞘に収めると、全身から紫電を発し始める。

それが何をするのか、既に分かっている。

あれは師匠と村正さんだけが可能とする絶対の必殺技。

 

『電磁抜刀』

 

振るわれれば、絶対の死が待っている。

ならばどうするか………

決まっている!!

 

「正宗、打たせるな! 先に此方から仕掛ける!」

『応!』

 

俺は正宗に命を出し、己が肉体を差し出す。

 

「すべてを喰らって敵を討つ! 正宗七機巧、『割腹・投擲腸管!』」

 

 激痛に息が出来なくなりそうになるのを必死に堪えると、腹を突き破って腸が敵騎へと飛び、絡みついて締め上げる。

 

「ぐぁっ!?」

 

敵騎から呻く声が聞こえてきた。

吐血しながらも更に耐えて締め上げていく。

そのまま右腕を敵騎に突き出すと、右腕が食い尽くされる激痛に襲われる。

痛みで意識を失いそうになるのを堪えながら敵騎に向けて放つ。

 

「そしてこれで終わりだ! 『飛蛾鉄砲・弧炎錫ッ!!』

 

右腕から発射された砲弾が敵騎へと飛んでいき、敵の眼前で空を真っ赤に染め上げるくらいの大爆発を起こした。

 

「ぐぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

敵騎から断末魔が聞こえてきた。

これでもう……限界だ。

熱量の全てを使い切った。これ以上使えば熱量欠乏を起こして動けなくなってしまうだろう。

現にもう寒気がして体がガタガタと震えて仕方ない。

俺は薄れて消えそうになっている意識を何とか保ちながら爆発を見つめていると、ここでは絶対に聞かない声が聞こえてきた。

 

「旦那様ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「え?」

 

最初は幻聴かと思った。

だが、直ぐに幻聴ではないと分かる。

何故なら、何度でも俺のことを呼んでいるから。

俺をそう呼ぶのはこの世で一人しかいないから。

その声が聞こえる方向、つまり砂浜を見るとそこには………

 

真耶さんが俺に向かって叫んでいた。

 

何で真耶さんがここに?

そう思ったが、血を失い過ぎたせいで思考力が低下しそれ以上考えることが出来なかった。

ただ……とても安心した。

先程まであった興奮が嘘のようになくなり、心から落ち着いていく。

俺はふらつきながらも真耶さんの元まで行き話しかける。

 

「何で……真耶さんが…ここに?」

 

安心したせいと吐血で喉が荒れてしまったせいで声がしゃがれてしまう。

しかし、それでもそう聞くと真耶さんは何も答えず、俺に飛びついて抱き締めてきた。

 

「旦那様…よかった…良かったですよ……ひっぐ……ひっく……」

 

俺を抱き締めた真耶さんはそのまま泣きだしてしまった。

 

「ま…真耶さん?」

「心配したんですから!! 旦那様、上手くダイブが行かなくて、ダイブしたら戦ってますし、それに斬られたら体中血まみれで!!」

 

泣きじゃくりながら言うものだから、はっきりと言いたいことが分からない。

だが、この泣きようから途轍もなく心配させてしまったことが窺える。

だからこそ、俺はこう返すしかない。

 

「心配をかけて……すみません」

 

そう返すしか出来ない。

それを聞いた真耶さんは俺の意思を組んで静かに抱き締めてくれた。

このまま装甲を解除して真耶さんと一緒に帰りたい。

そう思い解除しようと思ったのだが……

それは急遽取りやめとなる。

敵騎を爆破した跡が突如光り出し、爆煙が晴れるとそこには…………

 

敵騎、村正が小太刀に手をかけて構えていた。

 

「何!?」

 

無傷とは行かず、体の鋼鉄のあちこちは砕け変形し、鉄片が体中に刺さっている。

もう大破をすでに超えている損傷である。

しかし、敵騎は構えを崩さずにいた。

 

「終わりだ……吉野御流合戦礼法、飛蝙が崩し……『電磁飛刀 呪!』(レールガン、カシリ)」

 

敵騎がそう呟くと共に鞘から小太刀を抜きは放った。

高速を越える光速! 何者をも回避不可能な絶対の一撃!!

俺は避けることが出来ない。それにこの場では真耶さんも巻き込まれてしまう!

武者の本気の一撃に巻き込まれて普通の人間が生きれる訳が無い。

このままでは真耶さんが死んでしまう!

それだけは絶対に嫌だ。自分が戦って死ぬのはいい。だが、それに巻き込まれて最愛の人が死ぬのだけは絶対に許せない! 相手も、自分もだ。

だからこそ、俺は真耶さんを突き放すと前に出た。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおお! 正宗、陰義を使うぞっ!!」

『諒解!』

 

そう正宗に命じると共に、光速の小太刀が甲鉄を砕き俺の胸に突き刺さった。

口の中いっぱいに血が溢れ零れる。

背中から貫通した刃を感じられる。

そして胸から血が噴き出していく。

 

「きゃぁあああああああああああああああああ!! 旦那様ぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 

真耶さんが俺を小太刀が刺さり倒れていく俺を見て悲鳴を上げる。

凄く悲しそうで泣いてしまっていた。

そんな顔はしてほしくない。真耶さんには悲しい目に遭って貰いたくない。

昔ならこのまま満足して倒れていたかもしれない。

だが……今は違う!

正宗にも言われた通り、俺が死ねばきっと真耶さんは悲しむ。

それは正義を成す者として、愛する人を生涯守ると誓った者として、断じて許せない!!

だからこそ、倒れる気はない。

俺はそのまま何とか倒れないようにすると、裂帛の気合いを込めて叫ぶとともに正宗の口の部分の装甲が展開される。

 

『善因には善果あるべし! 悪因には悪果あるべし! 害なす者は害されるべし! 災いなす者は呪われるべし! 因果応報!! 天罰覿面!!』

 

その呪句(コマンド)を正宗と共に口にする。

それを言いながら小太刀に手をかけ構えると、俺の身体から紫電が発せられる。

 

「くらえ! 『電磁飛刀 呪!』」

 

そう叫ぶと共に、光速の居合いを敵騎に向かって放った。

最早目では見えない速度で飛んでいった小太刀は見事に敵騎の胸を捕らえ突き刺さった。

 

「がはっ!?」

 

敵騎は喀血しながら落下し、海へと落ちていく。

これで少なくても引き分けには持ち込めただろう。

しかし、これで本当に熱量を全て使い切ってしまい熱量不足になってしまった。

体中が寒気で覆われ、意識を保つことが出来ない。

そのまま装甲が解除され、俺は砂浜に今度こそ倒れ込んでしまう。

だが、倒れた先は砂地ではなかった。

とても柔らかく優しく甘い香りがして……何より暖かい感触に包まれた。

もう指一つ満足に動かない状態で俺はかろうじで動く目だけを使って見る。

俺を抱き留めてくれたのは真耶さんだった。

真耶さんは泣きながらも俺の頭を抱き締め、慈愛に満ちた顔で俺の頭を優しく撫でる。

 

「……旦那様……もう、大丈夫ですから。さっきはありがとうございました。お陰で無事です。でも、旦那様に何かあったら、私はそれだけでもう……」

 

少しでも何か答えたかった。

だが、口を動かす力も残っていない。

だから俺は何も出来ず、ただひたすらになすがままにされる。

 

「帰ったら、怒りますからね。だから今は……ゆっくり休んで下さい」

 

真耶さんは俺に優しくそう言うと小さく囁く。

 

「ダイブオフ」

 

その声と共に、世界が崩れていく。

だが、俺はそれよりも真耶さんの心臓の音に聞き入っていた。

とくん、とくん、とゆっくりと一定のリズムの刻む。その音を聞きいていると、心の底から安心する。

俺の意識はその心音を聞きながら安らかに薄れていった。

 

 

 

 

 


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