お互いに咆吼を上げながら敵騎向かって突進する。
俺は斬馬刀を肩掛けに構え、向こうも同じように構えながら此方に向かってくる。
そのままお互いの攻撃可能距離に入り次第、そのまま斜め一閃。
向こうも同じ斬撃を放ち、激突して全てを震撼させる衝撃がこの場を駆け巡る。
互いに刀を弾き、そのまま更に追撃をかけると向こうも此方に反撃を仕掛けてきた。
それを防ぎ、更に刀を打ち合わせる。
「やはり強い! 見てくれだけでは無いか」
『うむ! 我等の知っている湊斗 景明とは違う強さよ! 何よりもこの悪意、打ち合った刀越しにひしひしと伝わってくるわ!』
ある程度打ち合ったが、俺の知っている師匠よりも強い。
いや、師匠の強さの全てを知っているというわけではないのだが、師匠よりも悪意と殺気に満ちた剣筋は容赦無く此方の命を狙いにくる。それは師匠との模擬戦などではまず無い感覚だ。
それによって気付かされる。
これが俺の望みの一つ。
師匠と……本気の湊斗 景明と死合いすること。
それを叶えた結果がこれなのだろう。
ならば思う存分やらせてもらおうか!
どちらにしろ、ここで此方も本気でやらなければ…たぶん死ぬ。
そう本能が告げるのだ。
だからこそ、此方は更に殺気を出しながら敵騎に斬りかかっていった。
「しゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ぬぅっん!!」
互いの刀がぶつかり、激突音が辺りに轟く。
そのたびに衝撃が辺りへと飛び、砂浜の砂を抉り飛ばす。
向こうの攻撃の一撃一撃が必殺。確かな殺気を込めて放たれる。
その重さは今まで受けてきた攻撃の中でもトップクラス。雷蝶様並の重さであった。
その重い斬撃を何とか捌き、少し距離を取った後にそこから体を捻り後ろ回し蹴りを敵騎に向かって放った。
『吉野御流合戦礼法、逆髪!』
敵騎は此方の技に反応して前蹴りを持って迎撃する。
お互いの足が激突し、金属がひしゃげるような甲高い音を立てる。
そのままお互い弾かれ、更に刀を構えて追撃へと移行する。
『吉野御流合戦礼法 木霊打ち!』
右から斬り込み、弾かれたところで反動を利用し左から斬り込む。
その木霊が帰ってくるような斬撃に敵騎は同じ技で迎え撃ってきた。
「ほう……最初に打ち合った時の剣筋からもしやと思っていたが……その剣筋にその技…貴様、吉野御流合戦礼法の使い手か。当方の知っている仕手とは少し違うようだが、当方と同門とはな。その打ち筋、どれくらいか?」
「一応一通りは…」
「この腕前で一通りと言うか。随分と下に言うものだ」
鍔迫り合いしながら敵騎は俺にそう言ってきた。
やはり向こうも吉野御流合戦礼法か。
そのまま熱量を筋力強化へと回して突き放そうとするが、向こうはそれ以上の剛力を持って此方を押してくる。
力が拮抗し、互いの刀が動かなくなっていく。
このままでは埒が空かない!
その判断と共に、お互い動じに後ろへと跳んだ。
「ふむ、やはり正義を名乗る者は強い。この手合わせだけでもその強さを感じた。しかし、それはいずれ人々を争いに巻き込む強さだ。そんなものに、そんな正義に負ける訳にはいかん。俺の中の邪悪を持って、その全てを薙ぎ払う。ここからが本番だ、いくぞ!!」
敵騎がそう叫ぶと、合当理を噴かせて空へと飛び上がる。
それを見て俺も上空へと合当理を噴かせて飛翔した。
上空へと飛び上がると、早速双輪懸へと入る。
出遅れた事もあって、敵騎に高度優勢を取られてしまった。
「ちっ! だが、まだだ!!」
そのまま俺は下方から上空の敵騎へと仕掛ける。
『吉野御流合戦礼法 昇龍』
対して向こうは此方の攻撃に対して打ち下ろしで迎撃してきた。
上空でまた刀同士が激突する音が鳴り響く。
そのまま何合も剣戟が続き、空では雷鳴が轟くかの如く、互いの刀の激突音が鳴り響く。
より激しく、より鮮烈に斬撃が躱されていく。
俺は血の昂ぶりこそ感じるが、この敵騎と戦っていても魂は昂ぶらない。
打ち合ってこそわかる男の悪。そんな凄まじい悪と戦っていて倒さなければという使命感こそ湧けど、楽しいと言った感情は湧かない。
目の前の悪を許してはならない。それだけが俺を突き動かしていた。
この悪をのさばらせれば、絶対に人々に仇なすと俺の正義が告げていた。
故に……斬る!!
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
咆吼を上げながら斬りかかり、お互いにそれを防ぎ、躱し、捌く。
そんな攻防が数合に渡り続いていくが、未だに敵騎に決定打を与えられずにいた。
「そろそろ終わらせるか」
敵騎はそう俺に静かに言うと、自分の劔冑に命を出す。
「村正、そろそろ終わらせる! 磁装を回せ、磁装・正極(エンチャント・プラス)、磁気加速!(リニアアクセル)」
その命と共に敵騎の体が青白く光ると、先程とは比べものにならない速度で此方に向かってきた。
「やはり磁気加速か! だが此方とて負けん!」
上方から襲いかかって来た敵機の攻撃を弾くと共に上方へ。
そこから相手が旋回するよりも速く上がると、そこで合当理を切ると共に垂直反転してそこからまた全開で合当理を噴かして敵騎へと今度は此方から仕掛ける。
まだ敵騎が此方への迎撃態勢に移る前に斬りかかった。
「しゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ぐぅっ!?」
敵の胸部に見事に一撃加えることに成功し、俺はそのままさらに追撃をかけようと上方へと上がる。
『敵騎胸部に損傷! 損傷は中破! 見事だ、御堂』
「ああ、このままいくぞ!」
正宗の言葉を受け、更に覇気に満ちた答えを返す。
「まさか『金翅鳥王剣』とはな。あの忌々しい男を連想させてくれる! 村正、さらにいくぞ! 辰気加速!(グラビィティーアクセル)」
敵騎はそう言うと、さらに加速した。
それも目にも止まらない速さだ。
「辰気加速か! ここから勝ったことは一度もない。だが、負ける訳にはいかん! そうだろう、正宗!!」
『応!!』
正宗と互いに声を掛け合い鼓舞し、俺は敵騎へと挑む。
「だりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
咆吼を上げながら互いに一撃。
だが俺の一撃は空を切る。
既存の合当理による運動からはかけ離れた速度を旋回性、敏捷性を持つこの技はまさに神技。
俺は昔からこれを出した師匠や師範代に攻撃を出来た事が無い。
「遅い…」
敵騎からそんな声が呟かれると共に、体のあちこちから衝撃と激痛が走った。
「ぐぁあ!?」
『胸部、左脚部、右腕部、腹部に被撃! 損傷中破!! 戦闘は続行可能だが、傷が深い。回復に熱量を回すぞ』
先程から一転して不利に。
体のあちこちは切られ、劔冑の中では血まみれになっていく。
致命傷ではないが、このままでは放置してはまずい損傷ばかりだ。
俺は激痛に呻きながらも正宗に答える。
「いや、再生は最低限にしておけ。今それをしたら……確実に殺られる」
『諒解!』
正宗にそう命じ、回復を最低限にして俺はまた敵騎へと仕掛けていった。
一夏が電脳ダイブして皆がモニターを見つめていた時にそれは起こった。
モニターに映る激闘。それで戦っている一夏が斬られた瞬間……
装置で横になっている一夏から血が噴き出した。
「「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」」
それに気付いた簪と虚は悲鳴を上げ、みんな其方を向いた瞬間に顔を真っ青にした。
「だ、旦那様!!」
真耶は心配で前に飛び出し、一夏の元へと駆け寄る。
そしてその体を見て取り乱してしまう。
「何で血がこんなに!? このままじゃ旦那様が死んじゃいます!!」
慌てふためく真耶に皆もそれが感染したのか、慌てふためき混乱してしまう。
そんな中、冷静になろうとしている千冬や束は今起こっている事について話し始める。
「束、これは一体…」
「詳しくは分からないけど……多分いっくんが斬られたと自覚しちゃってるのが問題だと思う」
そういう束の話を聞いて、真耶が束の方に凄い勢いで来た。
その顔は一夏のことで必死になっている。
「一体どういうことですか!」
「うん。ちゃんとしたダイブならクーちゃんの管理の元、そういう情報なんかは入らないようにしてるからまず無いし、普通の電脳ダイブならまずそんなことにはならないんだ。みんなそこが電脳空間だって自覚してるから。だけどいっくんは違った。モニターを見ていた限りだといっくんはそこが電脳空間だって自覚はあるみたいだけど、そこで斬られた痛みなんかを本物だと認識してる。そう肉体と脳が認識しちゃったために、こうして斬られたところが実際に斬れちゃってるんだと思うんだ。昔の話だと聖痕とかはそういう思い込みとかで出来たって言うし、多分おんなじのかも」
「結局は?」
「このままだといっくんが斬り殺されちゃうかも」
そう束に言われ、真耶は顔を蒼白にさせてしまう。
「旦那様!!」
そのまま一夏の元へ走り、自分の体や服が血で汚れるのも構わずに止血作業を始める。
「旦那様! 旦那様! 死んじゃ嫌ですよ! 旦那様ぁああああああああああああああ!!」
泣きながら必死に傷を塞ぐ真耶は体中を真っ赤に染める。
しかし、傷は増えていくばかりで止まる気配がなく、一夏が横になっている装置には血だまりが出来上がっていた。
「いや…いやぁ!! 旦那様、駄目ですよ! 駄目です……」
真耶が必死になっていることで皆も必死に一夏を助けようとするが、現状は変わらずに悪化の一途を辿っていた。
そして……一夏の心臓近くから更に血飛沫が上がる。
それを見た真耶はもう顔を真っ白にし、束に向かって大声で叫ぶように聞く。
「博士! 何か旦那様を助ける方法はないんですか!」
その顔は必死であり、まるで武者が死合いに望むかのような気迫を纏っていた。
それを感じて束は口を開く。
「一つだけ方法があるよ」
それを聞いた真耶は束に飛びつくように反応する。
「本当ですか! 今すぐに教えて下さい!」
「別に教えてもいいけど……覚悟はあるの?」
「覚悟?」
真剣な顔で聞いてきた束に真耶は聞き返す。
「教える方法は単純だけど凄く危険なんだ。下手したら廃人になるかもしれないくらい。もっと最悪で死ぬよ。それでも…いいの」
束はそう言って真耶のことをじっくりと見つめる。
真耶はその視線を受けて、臆することなく真っ正面から束を見つめ答えた。
「はい、勿論です! 旦那様を助けられるなら、どんな危ない方法だってやります! 旦那様が死んじゃったら、私は生きていけないです。だから、自分が死ぬことなんて怖くないです。そんなこと、旦那様が死んじゃうことより怖くないですよ!」
「そう……その目を見る限り、その覚悟は本物みたいだね。なら教えるよ」
束のその声を受けて、真耶は顔はさらに真剣になった。
そして束は説明する。
「やり方は単純で、もう一つの装置を使っていっくんのいる電脳世界にダイブ。それでいっくんと直に接触して。そうすればお前経由でいっくんを強制的にダイブオフ出来る」
「本当ですか! なら、すぐにでも」
「分かってるよ。クーちゃん、準備して」
「はい、束様」
説明を受けてクロエが命に従いもう一つの装置を起動させる。
真耶はそのままさっき自分でダイブしたときと同じようにヘッドマウンドディスプレイをセットして横になる。
「山田様、ご無事に帰ってこられるようお祈りしております」
「ありがとうございます」
真耶はそうお礼を言うと、目を瞑りながら思う。
(死なないで下さい、旦那様! 今すぐに助けに行きますから!!)
そう真耶がひたすらに思っている中、クロエは装置を作動させる。
『ワールド・パージ強制介入』
その声と共に、真耶の意識は電脳世界へと飛ばされた。