装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回からコーヒーの心配はないですよ!


束の来襲、夢への誘い その5

 整備室から追い出されて四十分が経った後、やっと俺が呼ばれた。

 

「旦那様、次は旦那様の番ですよ」

 

俺を呼びに来た真耶さんは何だか顔を紅くしながら来た。

見た感じ、何か恥ずかしがったといった感じだが何かあったのだろうか?

 

「何かあったんですか、真耶さん?」

「いえ、なんでもないんです……」

 

俺に聞かれ真耶さんはさらに顔を紅くする。

もしかして体調でも崩れてきたのかと心配になり、真耶さんに近づいて顔を触る。

真耶さんはいきなり触られたことにびっくりしていたが、そのまま俺は真耶さんのおでこに自分のおでこを合わせる。

 

「っ!? だ、旦那ひゃま!」

「ん~……少し熱いですけど、熱はないみたいですね」

 

熱がないことにホッとすると、真耶さんはポストのように真っ赤になった顔になっていた。

 

「い、いきなり……もう~…」

 

そのままいやんいやんと体を軽く動かす真耶さん。

そんな姿に頬を緩める。これなら体調は悪くないと思う。

 そして真耶さんがある程度落ち着くのを待ってから、改めて整備室に入った。

中に入ると、何やら皆疲れた様子である。

 

「みんな、何かあったのか?」

 

少し心配になり皆に聞くが、皆なんでもないとしか言わない。

本当に大丈夫なんだろうか。

そんな中、その空気を振り切るようにしてマドカが俺に近づいてきた。

 

「つ、次は兄さんの番だぞ! さぁ、はやくはやく」

「そ、そうか。分かったからそうせかすな」

 

俺にそう言うと、マドカは俺の手をぐいぐいと引っ張っていく。

それに苦笑しながら俺はマドカについていく。

装置の前に着くと束さんが若干自棄気味になりながらも俺に軽く説明をしてくれた。

それを聞いて俺は言われた通りにヘッドマウントディスプレイをセットし、装置に横になった。

そしてクロエが装置を作動させるとともに、俺の意識は闇へと沈んでいた。

 

 

 

 一夏が装置で横になったところで真耶達は興味津津にモニターを見つめていた。

 

「旦那様はどんなことを望んでるんでしょうか? で、出来れば私との生活をを望んで欲しいです……ポ」

 

真耶はそう言ってから恥じらい頬を赤らめ、周りにいた殆んどの者達はそれを聞いてげんなりとした顔になった。ただでさえ真耶の望みのせいでお腹一杯で吐きそうだというのに、この上さらに激甘なものを見せられたら、今度こそ皆気絶するだろう。(マドカを除く)

そんなふうに一人は期待を寄せ、残りはうんざりしながらモニターを見つめることにした。

皆のそんな視線を受けながらクロエは装置を作動させた。

 

『ワールド・パージ開ッ…カ、カ、……異常事態発生! 異常事態発生! コアネットワークに異物を感知! 排除を開始しま………ガ、ガガ……ワールド・パージ強制開始!』

 

その警告がクロエに届くとともに、クロエは装置から弾かれた。

 

「クーちゃん!?」

 

いきなり装置から弾かれたクロエを心配して束が急いでクロエの元の駆けつける。

弾かれたクロエはよろよろと起き上がり、何とか立ちあがった。

 

「大丈夫、クーちゃん!」

「はい、何とか無事です。しかし束様、申し訳ありません。織斑様のダイブに失敗してしまいました。原因は分かりませんが、やはり男性がISコアを使用するということで作ったコアが原因かもしれません。そのせいか、ワールド・パージが正常に作動しませんでした。今は半分くらい暴走しています」

 

未だによろつきつつもそう謝るクロエに、束は笑顔で応える。

 

「まずはクーちゃんが無事だっただけでも良かったよ」

「束様…」

 

その姿はまさしく子供を心配する親の顔をしていた。

それを見つめていた他の者達だったが、では一夏はどうなっているのかが心配になってくる。

 

「だ、旦那様は大丈夫なんですか!?」

「兄さんはどうなったんだ!? 無事なのか!」

 

真耶とマドカは心配のあまり慌てながら束に聞く。

束はそれを受けていつもの笑顔とは違う顔でそれに答えた。

 

「少しまずいかも……正直こんなことになるとは思わなかったから、今どうなってるのか分からない」

「そんなっ!」

「とりあえずダイブ自体は成功してるみたいだから、モニターを見てみよう。それでいっくんがどうなってるのか分かると思う。設定通りに十分したらダイブオフするかもしれないしね」

 

束のその声とともに、皆モニターを食い入るように見つめ始めた。

そしてモニターから映像が流れ始めた。

 

 

さて、早速ダイブしてみたわけだが……ここはどこだろうか?

俺は気がつけば砂浜に立っていた。

右手には青い海があり、左手には生い茂る松の木が生えていた。

どこから見ても日本の海である。

何故こんなところにいるのだろうか?

そんなふうに歩いていると、向こうから歩いてくる人影を見つけた。

それを見た俺は話を聞いてみようと思ったのだが、その人に近づいていくにつれてその人から発せられる気配に足を止める。

その人は俺の見知っている人だった。

俺の目の前に立っている人……それは服装こそ違うが、師匠であった。

ただし、その見に纏う雰囲気は師匠のものと似てもまったく似つかない。

師匠以上の深淵の闇を見に纏い、悪意と殺気に満ちた笑みを浮かべている。

それはもう、俺の知っている師匠とは別人であった。

だからこそ、俺はその人を師匠とは別人とみなして話しかけることにした。

 

「あの……少しよろしいでしょうか?」

 

俺の声にその人は俺を見る。

そしてクククッ、と声を殺しながら笑い始めた。

いきなり笑われたことに苛立ちを覚えつつ、俺はその人が話すのを待った。

 

「其の方、正義を成す者であろう。その信念を宿した眼には覚えがある」

 

その人は俺にそう言うとともに、殺気を一段と濃くした。

その殺気を受けて俺はとっさに構える。その殺気は武者の死合いの時の物と同等かそれ以上である。

それによって本能で理解させられる。

この目の前にいる人…否! この男は自分の…正義の敵である悪であると!!

俺はそのまま本能のままに正宗を呼んだ。

 

「来い、正宗ぇええええええええええええええええええええええええええ!!」

『応!!』

 

俺の叫びとともに正宗が俺の前に飛び出し、砂塵を舞上げながら着地した。

ここが電脳空間であることも忘れ、俺は目の前の男を最大限に警戒する。

 

「ほう…正宗か。当方の知っている仕手とは違うようだが…やはり奴と同じ眼をしている。やはり俺に立ちふさがるか…それも宿命というもの。ならば当方のするべきことは変わらない。行くぞ、村正!! 目の前の正義を斬り捨てる!」

 

男の声に応じて俺と正宗の前に村正さんと同じ千子右衛門尉村正三世が飛び出してきた。

そしてお互いに同時に装甲の構えをとり、誓約の口上を述べる。

 

『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

『鬼に逢うては鬼を斬る 仏に逢うては仏を斬る ツルギの理ここに在り』

 

そして互いに装甲する。

やはり目の前にいる男は村正を纏っていた。

俺はそのまま叫ぶように名乗る。

 

「当方正宗! 貴殿を悪と感じたが、如何に」

 

俺の問いに男は答える。顔は全く見えないのに、その口元が笑っていることを俺は何故か分かった。

 

「当方は『武帝』……そう巷では呼ばれているな。ならばそう名乗ろうか。武帝・村正。正義を打ち滅ぼす悪そのもの、この世のすべての人が武を憎み忌み嫌うまで『善悪相殺』を貫く者だ」

 

その名乗りとともに……

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「あぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

互いに刀を抜刀し、合当理を全開で噴かせながら斬りかかって行った。

 

 


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