一夏だけが追い出された整備室で皆さっそく誰が最初に装置に入るのかを決めることになり、結果最初は箒、次にマドカ、そして楯無になり、その後に真耶、最後は一夏という順番になった。
そこで真耶はあることが気になり、束に聞く。
「篠ノ之博士、聞きたいことがあるんですが?」
「ん、なぁに、巨乳眼鏡?」
名前で呼んでもらえないことに若干傷付きつつ、真耶は気を取り直して話しかける。
「何で旦那様だけ整備室から移動させたんですか?」
「ん~、それはね~~……まぁ、この後のを見ればわかるかな」
そう束は言うと、箒に声をかける。
「んじゃ箒ちゃん。さっそくいってみようか~」
「はい」
箒は真面目な表情で頷くとベットのような装置で横になりヘッドマウントディスプレイを装着し横になった。
それを確認した束はクロエに指示を出す。
「クーちゃん、よっろしく~」
「はい、束様」
束の命を受け、クロエはさっそく装置を作動させた。
それと同時に箒の意識がなくなり睡眠状態へと移行する。
装置の稼働音が段々と大きくなっていくのを整備室にいる全員は固唾を飲んで見守っていた。
そんな中、クロエは静かに言った。
「では……行きます」
その声と共に、クロエは自分のISの能力を解放した。
『ワールド・パージ開始』
私の名前は篠ノ之 箒。
花も恥じらう16歳、IS学園の1年生だ。
私には小さいころから大好きな幼馴染がいる。
ひょんなことから女性しかいないIS学園に通うことになった幼馴染。
あいつがIS学園にくると聞いて胸をときめかせたものだ。
あいつが来てからの学園生活はとても楽しくて充実していた。時たまあいつがドジを起こして私の胸を触ったりしてきたので、その際は恥ずかしさで突っぱねてしまったが、本当はどこか嬉しかったり。その時のあいつときたら、顔を真っ赤にして謝ってきてなぁ。それが普段の凛々しい感じとのギャップを感じて可愛いんだ。
その後少し気恥ずかしい感じになるが、それがまた悪くない。
だからあいつも私のことを意識してくれていると思っていたのだが…………
よりにも寄って年上の女に誑かされたのだ!
相手は学園教師の山田先生。
学園でも一番を誇る巨乳で包容力があり、母性の塊のような人だ。
しかし、それは表の顔にすぎない。
裏ではそれを利用して男を誑かしているに違いない。でなければああも露骨に胸を一夏にくっつけたりなどしない!
そしてそれに一夏は騙され、山田先生に靡いてしまった。
一夏の目を何としても覚まさせてやらなければならない。
しかし、一夏はある日から学園に来なくなった。
その日から私の携帯に一夏から写真が送信されるようになった。
一夏の寝顔から始まり、山田先生とキスしている写真など数多く送られてくる。
そして文章には、
『これは私の物。だれにもあげない』
そう書かれているのだ。
それを見るたび、私の心は傷付いていく。
だが、その写真はすべて一夏が寝ているときか無理やりといった感じであった。
つまり一夏の意思ではない。
それが分かっているからこそ、私は一夏を取り戻そうと奮起することにした。
そして私は悪戦苦闘した末に、ついに一夏の居場所を突き止めた。
そして中へ突入すると、嫌がる一夏に無理やりキスしようとする山田先生がいた。
それを見た瞬間に頭の中が真っ赤になり、私は山田先生の元まで一気に距離を詰め当て見を放った。
山田先生は何も分からない内に気を失っただろう。
そして一夏の方へ振り向き、されていた手錠を外す。
「大丈夫だったか、一夏!」
「箒、助かった!」
そう礼を言う一夏を連れて、私達は外へと飛び出した。
そのまま走り続け、気がつけば辺りは真っ暗になっていた。
そして息が切れ始めた私達は走るのをやめる。足が止まった場所はどこかの公園であった。
もう夜であり、人一人もいない静かな空間となっていた。
そしてそこで少し休んだ後、一夏は急に私を抱きしめてきた。
「箒、ごめん! 俺、間違ってたよ。ついつい年上の色香にやられてついていってしまったけど、捕まって気付いたんだ! やっぱり俺には箒しかいないんだって! だから箒、改めて言うぜ……好きだ! 俺と付き合ってくれ!!」
私の顔を見つめながら情熱的に告白する一夏。
もちろん、私の答えは決まっている。
「ああ、私だって大好きだ!」
そしてお互いに重なる唇。
一夏の香りと体温、そして少しかさついた唇の感触で私はとろけそうになる。
あぁ、やっと一夏の恋人になることができた。
やはり、あと少しすれば垂れてくるおばさんより、同い年の巨乳の幼馴染の方が絶対に良い。
やっと一夏を取り戻せて私は幸せだ…………
『ワールド・パージ終了』
「さっき言った理由だけど、まぁこういうことだね。電脳世界でダイブした人がどんなものを見てるのか、外からモニターできるんだよ。女の子ならまだいいけど、さすがに男の子に見られるのはちょっとね…」
束が苦笑しながら真耶に説明するが、真耶はそれどころではなかった。
「な…何で私がこんなふうになってるんですか~~~~~~!!」
映像に映っている自分を見て顔を引くつかせていた。
どう見ても自分とまったく違う自分を見て頭が痛くなった。
「私、こんなんじゃないですよ。酷いです」
「まぁまぁ、あれが箒ちゃんが望んでいたことってことでの配役ってことだね。それにしても箒ちゃん、あきらめ悪いな~。そういうガッツがあるところも可愛いんだけどね」
束は真耶にそう言うと、箒の元へといく。
「どう、箒ちゃん?」
「なんだかいい夢を見ていた気がする。何かは覚えてないけど」
束に話しかけられた箒は何やら上機嫌であった。
この装置で体験したことはダイブ終了とともに忘れてしまうようになっているので本人は覚えていないのだ。
そして箒がこちらへと戻ってきた。
皆……何とも言えないジト目で箒を見ていた。
その視線にたじろぐ箒。
「一体どうしたんだ、みんな」
「いや、あんたってあきらめ悪いのね」
「僕だって一生懸命忘れようとして頑張ってやっと落ち着いてきたのに…」
「私、そろそろ新しい人を探そうと思ってましたのに、あなたは…」
「潔いのが武士ではなかったのか?」
鈴、シャル、セシリア、ラウラにジト目で睨まれながら言われ、箒は混乱する。
何故彼女たちにここまで責められなければならないのか、その記憶がない箒にはわからないのだ。
それで困惑する箒の肩にすっ、と手がかけられた。
いきなり肩を触られビクっとしてしまう箒。恐る恐る肩の方を見た箒は……
「ひっ!?」
見た瞬間に恐怖した。
その視線の先には真耶がいた。
ただし、その目はには光を宿していない。深淵の闇がその瞳には宿っていた。
「篠ノ之さん………後でお話、しましょうか……」
「え、あの、その…」
その光の無い瞳で見つめられ、箒はどうしてよいか分からなくなる。
しかし、このままでいればヤられる!
そう本能が告げていた。
逃げたいと本当に思った。武士が逃げ出すとは何事かっ、と言いところだが今の真耶相手には絶対に勝てないと察してしまう。
箒はじりじりと後ろに下がるが、真耶の視線から逃れられない。
もう駄目だ!! そう思った瞬間…
「真耶義姉さん、どうしたんだ。なんだか怖い顔だぞ? 笑った方が兄さんの大好きな真耶義姉さんだぞ。もちろん、私も大好きだ!」
マドカがそう言って真耶に抱きついてきた。
それを受けて真耶の瞳に光が戻ってくる。
「あら…私は一体……」
正気に戻り、今まで何をしていたのかいまいち覚えていないようだ。
そのまま少しすると抱きついてるマドカに気付き、笑顔をマドカに向ける。
「どうしたんですか、マドカちゃん」
「んぅん、なんでもない」
そのまま仲良く二人で話し始めるマドカと真耶。
その光景を見て、箒はその場でしゃがみこんでしまった。腰が抜けてしまい立てないらしい。
そして次にマドカの番になり、マドカはわくわくと胸を弾ませながらベットで横になり装置を付けた。
そして束の指示の元、クロエによって機械が操作される。
『ワールド・パージ開始』
私の名は織斑 マドカ。
私には今、一番の目標がある。
それは兄さんに訓練で一撃当てることだ。
兄さん……織斑 一夏。私が知る限り、最強の人にして一番大好きな家族。
そんな尊敬する兄さんに少しでも追いつこうと、日々頑張ってる。
そして今日、ついに訓練で一撃いれることができた!
兄さんは装甲した姿でお腹の部分を軽くさすっていた。そこには一筋の切られた傷が付いていた。
「良くやったな、マドカ」
そう言いながら兄さんは装甲を解除して私に近づくと、優しく頭を撫でてくれた。
「んふふ~」
その手が気持良くて、私は目を細めてしまう。
兄さんに撫でられると気持ち良くてふにゃぁとしてしまう。
それが嬉しい。
そんなふうに兄さんに褒められながら撫でられていると、今度は真耶義姉さんが来た。
兄さんの恋人で、いずれは結婚する人。私のお姉さん。
女として一番尊敬している人だ。
「うふふ、マドカちゃん、よく頑張りましたね。良い子良い子」
「ふにゃ~」
真耶義姉さんにも撫でて褒めてくれる。
それが嬉しくて抱きつき、大きな胸に顔をうずめると真耶義姉さんは甘えん坊ですね~、て言いながら抱きしめ返してくれる。それがなんだか嬉しくてしかたない。
「まったく、仕方ないないなぁ、マドカは」
「いいんですよ、マドカちゃんは甘えたいざかりなんですから。それにこうしてると本当に妹みたいで嬉しいですし」
そんなふうに和やかに兄さんと真耶義姉さんが話している空間は居心地が凄く良い。これが家族だって実感できるから。
そして今度は姉さんが来た。
「頑張ったみたいだな、マドカ。ほら、ご褒美のクッキーだ。食べるだろう」
「うん!」
姉さん…織斑 千冬。私のオリジナルで姉。
ISにおいて世界最強を誇る女性。私の最終的な目標でもあるかもしれない。最近は兄さんと真耶義姉さんの方が目標だけど。
気高いその精神は凄く尊敬する。けど、ずぼらなのはあまり関心しない。よく兄さんに言われていて私も最近ではそう思う。でも、きつく言いつつもお菓子をくれたり優しかったりと、不器用だけど優しい。そんなところが大好きだ。
私は姉さんからクッキーを貰うとさっそく一つ摘まんで口の中に入れる。
う~ん、甘くて美味しい~。
「あ、千冬姉、また夕飯前に甘いものをあげる」
「何だ、そんな母親見たいなことを言うな」
「そうですよ、旦那様。それは私の台詞です。それでもマドカちゃんにはあげちゃいますけどね。ね~」
「ね~~~~~」
そんなふうにみんなで仲良く笑い合う。
それがとても楽しくて…幸せだ。
こうして家族と一緒にいることが、私には一番嬉しい!
『ワールド・パージ終了』
「なんだかマドカはいつもと変わらないみたいね」
「そうだな、あまり変わらない」
「そうですわね」
「ああいう家族って羨ましいかも…」
箒を除く四人はそう感想を漏らしていた。
マドカは装置から起き上がると、上機嫌に真耶の方へと歩いて行った。
「どうだった、真耶義姉さん! なんか良かったような気がする」
「そうですね。とても可愛かったですよ、マドカちゃん」
笑顔でそう言う真耶にマドカは満面の笑みを浮かべ抱きつく。
「そっか~、えへへ~」
「うふふふふ…」
甘えるマドカを優しく撫でる真耶はもうすでに母親のように写り、皆見惚れてしまっていた。
そして次は楯無の番になり、楯無は普段と変わらない様子で装置に横になる。
そしてクロエがさっそく作動させた。
『ワールド・パージ開始』
面倒なので殆んど省略しよう。
重要部分だけを抜粋すると………
「簪ちゃん可愛い!! ぺロぺロしちゃいたい、むしろもうしてる! ぺロぺロぺロぺロ……………」
『ワールド・パージ終了』
こうして楯無の番が終わり…皆に引かれ、さらに簪からは拒絶されたとか。
そのせいでしばらく楯無の泣き叫ぶ声が響いた。
そしてついに……真耶の番がやってきた。
「ど、どんなふうになるんでしょう。恥ずかしいですけど、楽しみです」
そう言いながら真耶はヘッドマウントディスプレイを付け、作動するのを待った。
そして真耶の意識は電脳世界へとダイブした。