予定では三話で終わらせようと思ったのに……長いです。
「あ~もう、本当にやってらんねぇ~! でも、これでやっと終わったんだから、もうあて帰っていいよね」
「後もうちょっとですから、茶々姉様。後は優勝カップルへ賞品の進呈だけです」
「まだあるのかよ~」
茶々丸さんが帰りたいとごねているようだが、邦氏様がもうちょっと待つよう言うとぶつぶつ文句を言いつつも待っていた。
一体何に不満があるのだろうか?
そして俺と真耶さんは改めて壇上に上がる。
「んじゃ改めて紹介するぜ! このカップルコンテストを見事に制した『織斑・山田ペア』だぁああああああああああああああああああ!」
「「「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
茶々丸さんが気を取り直して観客に大きな声で発表すると、観客から歓声が上がった。
最初こそブーイングばっかりだったが、やはり最後は祝福してくれるようだ。
そのことを嬉しく思いたいが、歓声の中には怨嗟の籠もった声も聞こえた気がする……主に男性から。
俺達は茶々丸さんの元に行くと、俺にマイクを渡す。
それを受け取り、俺は観客の皆に挨拶する。
「改めて挨拶させていただきます。織斑 一夏と申します。此度はこのイベントで皆様の声援の御蔭で優勝することが出来ました。皆様には感謝の念が絶えません。ありがとうございました」
一礼してから真耶さんにマイクを渡すと、真耶さんは顔を赤らめ恥じらいながらも観客に挨拶する。
「あ、あの、始めまひへっ! ぁぅ、噛んじゃった…は、恥ずかしい…」
緊張のあまり嚙んでしまい、恥ずかしさのあまり顔をポストのように真っ赤にする真耶さん。
その姿がウケたのか、観客から笑い声が上がった。
俺も真耶さんの恥じらう可愛い姿が見れて頬を緩んでしまう。
「ご、ご紹介を受けました、山田 真耶です。えっと…このコンテストで優勝出来て…嬉しいです」
顔を赤くしながら一生懸命にそう挨拶する真耶さん。
その可愛さに観客の男性が皆見惚れる。
皆の注目を集め、真耶さんはその視線を感じて更に恥ずかしがっていた。
本当に可愛いなぁ……。
そして俺と真耶さんの挨拶を終えると、茶々丸さんが優賞賞品を持ってきてくれた。
聞いた話では某アニメキャラの等身大フィギュアだとか。そのフィギュアはそれに見合う箱に入っていた。
「ほれ、これがこのコンテストの優勝賞品。某アニメキャラの等身大フィギュアだ」
「あ、ありがとうございます」
真耶さんはそのフィギュアを受け取ると、大事に優しく抱きかかえる。
真耶さんよりも全長が長いせいか、アンバランスな感じがした。
俺も一緒に持って上にフィギュアを掲げると観客からまた歓声が上がる。
その嵐のような賑やかな歓声を浴びていると、何やらコンテストで勝った充実感に満たされた。
その感覚に感じていると、何やら童心様がニヤニヤと笑いながら俺達に話しかけてきた。
「うむ、では最後の締めに織斑殿と山田嬢のキスで締めるのはどうだろうかのう」
「え!?」
「そ、それは……」
いきなり童心様は何を言っているんだ!?
いや、確かにカップルコンテストだからそういうのはやらせてみたいというのは分かるけど、だからと言ってそんないきなり言われて出来るわけが……
そう思っていたら、真耶さんがフィギュアを置いて俺の体にぎゅっと抱きついてきた。
「あ、あの~…真耶さん?」
「は、恥ずかしいですけど、せっかくですから……」
そう俺に囁いて目を瞑り顔を向ける。
恥ずかしさから頬を赤く染めつつも、俺を求めるその可愛らしい姿に俺はドキドキする。
気がつけば俺も真耶さんしか目に入らなくなり、顔を近づけていく。
「真耶さん……」
「旦那様……」
そのままマシュマロのような甘い唇に唇を寄せていくと……
突如奇声が観客席から聞こえた。
「キェエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッ!! これ以上僕のマヤたんを汚すなぁあああああああああ!!」
そんな叫びを上げながら観客席から一人の男が飛び出して来た。
眼鏡をかけた肥満体の男で、汗ばんだTシャツにジーパンという服装をしていた。
そして背負っていたリュックから持っていた何かを取り出した。
「これ以上汚されていくマヤたんなんて見てられない!! だから僕が救ってあげる! これで汚れたマヤたんを消し飛ばせば、マヤたんは永遠に綺麗なままだぁあああああああああああ!!」
そう言いながら男は真耶さんに向かって持っていた物を投げつけた。
それは黒い球体に金具が付いている代物であった。最初に見た時は分からなかったが、すぐにそれが何なのか頭が理解した。
それは……手榴弾だった!
よく軍事物などの映画で見かける手榴弾である。このまま爆発すれば俺や真耶さんは勿論、周りにいる観客にも被害が出てしまう。
真耶さんは投げられた物を理解した瞬間、息を呑んで怯える。
それを察した瞬間、俺は深淵のように深い怒りを感じ行動する。
真耶さんを抱きしめながら後ろへと飛び、同時に正宗を呼ぶ。
「正宗! 手榴弾の被害を押さえろ。それと小太刀を!」
『諒解!!』
俺の呼びかけに応じて正宗が天井から壇上へと飛び降り、手榴弾の上に覆い被さるように着地した。
そしてそのまま俺に小太刀を飛ばす。
俺が飛ばされた小太刀を掴むと同時に手榴弾が爆発。爆発音と共に正宗が煙りに包まれた。
それを気にせずに俺は真耶さんを体から優しく離すと、腰だめに小太刀を構え、そして最速の居合いを放つ。
『吉野御流合戦礼法、迅雷ッ!!』
放たれた小太刀は観客の目にも止まらない速さで飛んでいき、手榴弾を投げた男のリュックに突き刺さりそのまま男をホールの壁まで吹っ飛ばして壁に縫い付けた。
それを確認次第、真耶さんの方を向く。
「大丈夫ですか、真耶さん! どこか怪我したりしてませんか!」
「は、はい。旦那様の御蔭で怪我しなかったです。ありがとうございます」
真耶さんは俺が心配していることを理解して安心出来る様に笑顔を俺に向ける。それを見て大丈夫だと分かり安心した。
「正宗、損傷は」
『ふん! この程度の玩具では我の装甲に傷一つ付けられんわ!』
それを聞いて正宗も問題ないと判断した。
元からそこまで心配はしていないが。
しかし、このままではホールにいる人達が混乱して大変なことになる。
どうにかしなければ…と考え始めたところで茶々丸さんが笑いながら観客に話しかける。
「いや~、マジびっくり大成功ってやつ。二人ともイチャつき過ぎっから、ちょっと驚かせたくてね~。どう? びっくりしたっしょ」
茶々丸さんの言葉を聞いて観客の人達から安堵の声が漏れる。
これで何とか最悪の事態は免れたが、これが茶々丸さんのやったビックリではないことは絶対に分かる。ビックリなのなら、手榴弾に仕込まれている鉄片など抜いているはずである。それが爆発後から大量に見つかる限り、本当に真耶さんを殺そうとしたことが窺える。
それが分かっているからこそ、茶々丸さんは俺にウィンクをしてきた。
この流れに乗らない手は無いと判断し、俺は茶々丸さんに近づく。
「いや、本当に驚きましたよ。まさかいきなりこんなことされるなんて思いませんでしたから」
「そんなに驚いてもらえてなによりだ。『後始末』はこっちでやるから、いっちーは帰ってもいいよ」
普通に会話しながらも別の内容で連絡を取る。
つまり茶々丸さんはあの男について六波羅で対処すると言いたいらしい。
俺自身で問い詰めたいところだが、不安そうにしている真耶さんをそのままにする訳にはいかない。
仕方なく俺は茶々丸さんに任せることにした。
「そうですか。では、優勝賞品を早く友人に渡す為にも帰らせてもらいますね」
「あいよ。んじゃ、これでカップルコンテストは終了だ。引き続き……魔法少女コテツちゃんのコミカライブへと突入するから、よろしく……」
茶々丸さんに感謝と同情をしつつ、俺は真耶さんの元へと向かう。
「旦那様…」
「すみません、まさかいきなりこんなことをされるなんて思わなかったので。危ない目に遭わせてしまって……すみませんでした」
不安そうにする真耶さんを抱きしめながら謝る。
真耶さんは俺の胸に顔を埋めながらも、優しく答えてくれた。
「ううん……旦那様は私のこと、ちゃんと守ってくれました。だから謝らないで下さい。旦那様の御蔭で怪我してませんから」
そう言ってもらえることが何よりも有り難かった。
「それに……旦那様は絶対に守ってくれるって信じてますから」
「真耶さん……」
俺を信頼してくれる真耶さんが嬉しい。
俺と真耶さんはしばらくその場で抱き合い、キスしたのは言うまでも無い。
「はい、更識さん。約束の優勝賞品」
帰るために決めていた集合場所で集まってから更識さんに優勝賞品を渡す。
更識さんは目をキラキラと輝かせながらそれを受け取ると、心底嬉しそうに笑顔になっていた。
「ありがとう、織斑君! 本当に、ありがとう!」
「いや、喜んでもらえて何よりだよ」
「そうですね。そんなに喜んでくれるなら嬉しいですよ」
喜ぶ更識さんを見て、俺も真耶さんも嬉しくなる。やはり人に喜んでもらえるのは嬉しいものだ。
「で、でも……かなり大胆だったかも…」
「ぁぅ…そ、そうですね。その、私も会場の熱気に当てられたといいますか、なんと言いますか……」
そしてコンテストを見ていた更識さんにそう言われ、お互いに赤面してしまう。
あ、改めて言われるとやはり恥ずかしい。
そして黛先輩と合流した後に俺達は電車に乗って帰ることにした。
帰り道の時に黛先輩にコンテストでのことを冷やかされたりして恥ずかしかった。まさか黛先輩も見ているとは思わなかった。
IS学園行きのモノレールに乗り込んだ時に黛先輩からは約束のディナーチケットを。更識さんからは洋菓子店の引き替え券を貰った。
それと一緒に黛先輩には真耶さんのコスプレ写真を貰えるよう話していたら真耶さんが顔を真っ赤にして駄目ですと反対してきた。曰く、恥ずかしいそうだ。
しかし、真耶さんも俺のコスプレ写真を黛先輩から貰えるように話していたので御相子である。
そして寮までの道を俺と真耶さんは二人で歩いて行く。
お互いになれないことをして疲れていたが、身を寄せ合うようにくっついているので心は寧ろ昂揚している。
「はぁ……今日は色々大変でしたね」
「そうですね」
真耶さんは俺に甘えるようにくっつきながらそう言ってきた。
その可愛らしさに目を細めつつ、俺は素直に答える。
確かに色々あった。それでいつもよりも疲れたのも確かだ。
だが…
「でも、とっても楽しかったですね」
「ええ、楽しかったですよ」
とても楽しかった。
これも偏に、真耶さんと一緒だったからだ。
この人と一緒ならどんなことだって楽しくなる。そう実感させられた。
「これからも、もっと、も~っとこんなふうに旦那様と一緒にいたいです!」
そして幸せそうなとろけるような極上の笑顔でそう言う真耶さん。
俺はこの笑顔を向けられる度にドキドキと胸がときめいて仕方ない。
「はい。俺はずっと一緒にいますよ。だから、これからもいろいろなことを二人でやっていきましょうね」
「はい! 旦那様、だぁ~い好きです!!」
そんなふうに幸せを噛み締めながら寮まで帰っていった。
たまにはこんなふうにいつもと違うことをしてみるもの良い。
そのたびに新しい真耶さんを発見して、もっともっと大好きになるのだから。
次回は黛先輩から貰ったチケットを使うお話の予定です。