た、たぶんですけどね……
さて、残りの競技も後一つであり、俺と真耶さんは見事に決勝へと勝ち進んだ。
この決勝戦で勝てば優賞だ! そう思うと闘志もさらに燃え上がる。
「あぁ~もうイヤ……でもこれで最後の競技だ! お前等、心の準備は充分かぁあああああああああああああああああ!
「「「「「お、おおうぅぅぅぅぅぅぅ! ……」」」」」
茶々丸さんが観客に発破をかけるが、観客席からは弱々しい声しか上がらない。
皆ずっと興奮気味だったから疲れたのかもしれないな。
「お前等、そんなにテンション下げんなよ! あてだって本当は今すぐ帰りたいんだよ。でも仕事だし。……それにお前等よりあての方が近いんでよ! あての方がダメージでかいかんね!」
疲れる観客に向かって批難するような視線を向けつつ茶々丸さんは叫ぶが、観客からはそれでも良い反応を得られない。
それを見て更に泣きそうな顔になる茶々丸さん。
「なぁ、時王……もうあて、帰っていい……」
「そんなこと言わないで下さいよ、茶々姉様。格好いいじゃないですか、織斑さん。僕は尊敬しますよ。僕もあんなふうに桜子さんとなれたらなぁ……」
「時王が汚されたぁああああああああああああ! アレは時王には難易度が高すぎっから、もうちょっと歳とってからだかんな。いっちー、何てことしてくれたんだ!」
邦氏様に泣きついた所で思わぬ方向に返されたので茶々丸さんは更に涙目になっていた。
この悪辣な人物達の中で唯一の良心である邦氏様にそう返されては、もはや何も言えなくなってしまうだろう。
少しだけ可哀想に見えなくも無いが、特に自分が悪いという自覚はない。何故そこまでいわれなければならないのか……謎だ。
「あぁあああああああああああ、もうやってらんなねぇええええええええええええ! んじゃ、最後の競技に行くぞ! えぇ~と……ラストは、『恋人への不満の言い合い』? 何だ、この普通の競技は?」
茶々丸さんが最後の競技を発表するが、今までの競技に比べて普通だったた事に驚いていた。
「あ、それは僕が出した案です。やっぱり恋仲の人達でもそう言うのはあるのかなって思って」
手を上げて恥ずかしそうにそう言ったのは邦氏様である。
その姿に観客の女性人から黄色い声が上がる。
「マジか、時王! やっとまともな競技が出てきた。よかった~、やっぱ時王がいた方が有り難いぜ!」
「あ、ありがとうございます…」
半ば泣きながら邦氏様に感謝する茶々丸さん。
それを受けて邦氏様は顔を赤らめていた。
何と邦氏様が考えた競技とは……これは有り難い。今までの競技のような非人道的な物に比べれば天国のように感じられる。
茶々丸さんは一通り邦氏様に感謝すると、ジト目で童心様達を睨み付けた。
「やい、クソ坊主! 時王の競技に何か仕込んだりしてねぇだろうな!」
「いやはや、この童心坊、そのようなことはなさらぬ。邦氏様の決めたことに口を挟もうとは、とてもとても…」
茶々丸さんに話を振られた童心様は畏まった様子で返す。
こうしていると真面目に見えるが、その本性を知っている人間としてはこれが絶対に嘘であることが分かる。
「この間、時王に思いっきり口だして泣かせかけたじゃねぇか!」
「あれは邦氏様のことを思ってのこと。だからこそ、助言を言ったまででござる」
「手前の小姓に時王を襲わせようとしたことのどこが思っての行動だよ!」
「あっはっはっはっ~」
「笑ってすませんな!!」
茶々丸さんの突っ込みを豪快に笑いながら流す童心様。
しかし、相変わらずやっていることは最低であった。
茶々丸さんはある程度童心様に突っかかると、改めて気を取り直して司会を再開した。
どうやら邦氏様の御蔭で少しは持ち直したらしい。
「んじゃ改めて協議を説明したいところだが、この協議は他と違って参加者にはルールを教えることが出来ない、内緒ってやつだ。だから参加者はこの後呼ぶまで控え室にいてもらうが、その前に決勝で競うカップルを改めて紹介するぜ!」
「「「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
茶々丸さんは観客に大きな声で煽ると、観客も少しは落ち着いたらしく歓声が帰ってきた。
それを確認して茶々丸さんが俺達の方に視線を向ける。それが俺達を呼んでいると察し、俺は真耶さんと一緒に茶々丸さんの所へと歩いて行った。
「優賞候補筆頭、織斑・山田ペア!! この会場を砂糖まみれにした張本人達だぁああああああああああああ!」
「「「「「ぶぅううううううううううううううううううううううううう!」」」」」
発表と共にブーイングの嵐が浴びせられた。
このコンテストはカップルコンテストのはずなのに何故ここまで批難されているのだろうか。
俺はそう思いながらも真耶さんを見る。
こんな大勢な人達からバッシングを受けたら心優しい真耶さんの事だ。傷付いてしまうかもしれない。
しかし……
「? どうしたんですか、旦那様?」
無邪気な笑顔で俺の腕に抱きついて俺を見つめていた。
心なしか目にハートマークが見えた気がする。どうやらこのブーイングが耳に入っていないようだ。
「何でもないですよ」
「そうですか。ならいいです。えへへへ」
そう答えると真耶さんは俺の腕にさらに体を密着させて幸せそうに笑う。
腕かわ伝わる柔らかな温もりに俺も笑顔になってしまう。先程からもっと甘えたがりになったというか、何というか…どちらにしても俺は嬉しいので問題は無いが、少しだけ困ってしまう。可愛すぎて!
「あぁ~、さっそくイチャつくな! いっちー、とっとと彼女連れて控え室行ってこいや!」
半ば諦めつつ茶々丸さんが俺達にそう言う。
それを受けて俺達は控え室へ行こうとするが、俺はその前に対戦相手がどんなカップルなのか気になりその場で少し止まり見ることにした。
茶々丸さんは俺達がステージ袖に移動したのを見計らってもう片方のカップルを紹介する。
「んじゃ、あの最凶のカップルと戦うのはこいつ等だ! 阿部・高山ペア!」
茶々丸さんが声高らかに言うと、向こう側からカップルが壇中央に歩いて行くのだが……
「「「「「え?」」」」」
観客から歓声やブーイングは上がらなかった。
何故なら……
「お、男?」
そう、来たカップルは男二人組だった。二人ともお揃いのつなぎを着ている。
おかしいと誰もが思っただろう。
茶々丸さんは一応片割れの男に話しかける。
「あ、あれ? カップルコンテストなんだから、恋人はどったの?」
「何を言っているんだ。俺の恋人はこいつだ」
話しかけられた男は渋い声で隣にいた男の肩を抱き寄せる。
すると抱き寄せられた男は頬を染めながら頷いていた。
それを見て茶々丸さんの顔が青くなっていく。
「ま、まさか……あっちの人だったり?」
「YES」
「何でベストカップルコンテストでガチホモの人が来てんだよ! 誰だよ、このコンテストでホモ通した奴は!」
まさか男色家の人が参加してるとは……世の中広いというか何というか……何とも言えないな。
茶々丸さんは再び涙目になりながら叫ぶ。もうあの人でも事態の収拾が付かなくなってきたのかもしれない。
「ちなみにそれを通したのは儂だ、茶々丸殿。面白くなると思うてな」
「やっぱり手前か、この生臭ド腐れ坊主!!」
やはりと言うべきか、これも童心様の仕業らしい。
あの人は面白そうで何でもするなぁ……もう何も言えん。
対戦相手を確認し終わり、俺は真耶さんを連れて控え室へと向かった。
そして呼び出されるまで待つこと十分。
その間に甘える真耶さんに俺も甘えてくっついていた。
真耶さんはとろけるような笑顔で俺を抱きしめキスを一杯してくれた。それが嬉しくて俺もついつい大胆になってしまう。
呼びに来たスタッフに見つかるまでそれは続き、その光景を見られて少し気まずくなってしまった。
「よぉし、それじゃ競技を始めるぜ! この競技はカップルのどちらかがあそこのボックスに入り、聞かれた質問に答えるだけ。その答えを審査員が判断して優劣やらを付けるって寸法だ! 場合次第じゃカップルに亀裂が入るかもしんないな~」
壇上に上がり次第、茶々丸さんからそんな説明を受けた。
今までに比べれば地味だが、だからこそ安心も出来る。
俺は早速ボックスへと向かおうとしたが、真耶さんに止められてしまった。
「どうしたんですか、真耶さん?」
「あ、あの…私がいきます。ずっと旦那様が頑張ってきましたから」
顔を赤らめながら俺にそう言う真耶さん。
その一生懸命な姿に俺は胸を打たれてしまう。
競技の危険性も今のところはなさそうだし、大丈夫と判断する。
「では、お願いします」
「はい、頑張ります!」
笑顔でお願いすると、真耶さんは実に嬉しそうに喜び、両手を胸の前に軽く持ってきて頑張るぞ~と言わんばかりに軽く振っていた。
その姿が可愛くて俺は頬が緩むのを堪えた。
向こうはがたいの良いつなぎの男性がボックスに入るようだ。
このボックスは司会者や審査員の声は通すが、それ以外の音は通さないらしい。
しかも嘘発見器が仕込んであるらしく、嘘をつけばバレるとか。
二人がボックスに入り次第、茶々丸さんはさっそく二人に質問する。
「んじゃさっそく質問だ! 現在、恋人に不満はあるか? だってさ。本当に普通だなぁ~」
その質問にさっそく向こうの男性から答えが上がる。
確か阿部という人だったか…。
「んじゃホモペアから」
「ああ、そうだな。最近彼奴の『ピー』が緩くて『ピー』が良くなくな。それで『ピー』の調子が悪く『ピー』が『ピー』で…」
「オイオイ、何言っちゃっての! 確かに不満だろうけどそんなこと言っちゃ駄目だろ! 誰があっちの生活の話をしろって言ったよ! うわっ、やだ、聞きたく無かったよ~、あての耳が汚された~!」
もう俺は何も言えないし言いたくない。
特殊な性癖の持ち主はやはりどこかおかしいとしか俺には言えない。
有り難かったことと言えば、この話が真耶さんの耳に入らないことだろう。
「なんだ、もういいのか? もっと不満なら一杯あるというのに」
「もう聞きたくねぇよ、馬鹿!うわぁ~ん」
茶々丸さんは殆ど泣きながら阿部さんとの話を打ち切り、今度は真耶さんに話を振る。
「んで、やまぴーはいっちーに不満ろかないん?」
話題を振られた真耶さんは赤くなりつつも話し始めた。
「不安なら……ありますね」
「ほうほう、どんなん」
不満があると聞いて茶々丸さんが食らい付く。
何だ、この人は。さっきまでいじめられていた腹いせか何かか?
だが、その不満には俺も興味がある。
場合によっては直さなくってはならない。真耶さんに嫌われたくはないから……。
「はい、実は……旦那様にもっと甘えてもらいたいんです。私、いっつも旦那様に甘えてばかりなので。私の方が歳が上でお姉さんなんですから、もっと頼ってもらいたいんですけど、旦那様はしっかりしてるから一人で殆どこなしてしまうし。それでそのことを旦那様に言うと、『寧ろ俺の方が甘えてばかりで申し訳無い』って言って……あぁ、もう、格好良くて可愛くて仕方ないんですから。そ、そんな旦那様だから大好きなんですけどね……」
そしてそこから始まる俺への不満というのは、殆どがもっと甘えてもらいたいとか、もっと頼ってもらいたいとかだった。そこから発展して、もっと抱きしめておかしくなるくらいキスして欲しいとか、少しエッチな話にもなっていった。
俺は最初こそ、そう思っていたんだと思い反省していたが、後半になると赤面してしまい何も考えられなくなってしまった。
真耶さんがそう思っていてくれたことは嬉しいのだが、その分凄く恥ずかしく色々と俺の理性を砕きかねないことばかり言われてしまいクラクラしてしまった。ボックスの中で恥じらい真っ赤になりながらもたどたどしく、それでいて熱の籠もった声と潤んだ瞳で俺への不満を話す真耶さんは艶っぽ過ぎて俺は直視出来ないくらいドキドキしてしまった。
その時はドキドキしていて気付かなかったのだが、観客席から人が倒れていった。
そして倒れた先で何かを吐き出し、吐いた物に指で何か文字を書いていることに俺は気付かなかった。
「ストップ、ストップ! 禁止! やまぴーはそれ以上喋るの禁止! 甘過ぎてこっちまでヤラレちまうよ」
茶々丸さんは急いで真耶さんの不満を斬り、童心様達の方へと向く。
「もう聞かなくてもわかるよな! これで決まってないなんて言ったら、あてはマジでスト起こすからな!!」
「そう怒りなさるな。うむ、青臭いと思うておったが、いやはや…織斑殿の隅に置けぬのう」
「これは既に勝敗は決まったようなもの。いまさら言うまでもありませぬ」
「ぱ、ぱんつぅ、ぱんつ。ぱんーつ」
「…………(カァー)」
審査員の反応を見て茶々丸さんが何かを決める。
それを発表する前に真耶さんが俺の所に戻ってきた。
顔は凄く真っ赤になっている。
「あ、あの、旦那様……聞いてました…」
潤んだ瞳で上目使いに見つめながら俺に聞く真耶さん。
ボックスから外の音は聞こえないが、ボックスの中の音は外には丸聞こえでしかもマイクで大きく出るようになっている。
俺は赤面して熱い頬を意識しながらその問いに答えた。
「は、はい、しっかりと……」
「はぅ!? やっぱり……で、でも、あれが私の本音です。だから旦那様…もっと私に甘えて下さいね」
とろけるような笑顔でそう言われ、俺は理性の糸が数本切れたのを感じた。
そのまま弾かれた様に真耶さんを優しく抱きしめる。
「……これからもっと甘えるようにします」
「はい……私の旦那様。もっとも~っと甘えて下さい。その方が嬉しいです。だからこうして甘えて貰って凄く嬉しいです」
胸の中で幸せそう笑う真耶さん。
そのまま俺は衝動のままに真耶さんにキスをすると、真耶さんも喜んで応じて唇を捧げてくれた。
「「んぅ…ちゅ……ふぅ…ん…んん……ちゃぷ…」」
甘い唇を味わおうと全身全霊をかけてキスをする。
深いキスになり、お互いの舌が絡まり頭の中が真っ白になりそうになっていく。
それが心地よく気持ちいい。
そのまましばらくキスをしている間に競技結果が発表された。
「優賞は織斑・山田ペアに決定だぁああああああああああああああああああああ!」
やけくそ気味にそう叫ぶ茶々丸さん。
だが、俺達にはそれすらも祝福されているように感じた。
「旦那様、もっともっ~とキスして下さい。だぁ~い好きです!」
「俺もです。真耶さん、大好きです……ちゅ…」
「嬉しい……」
その後も茶々丸さんが何か騒いでいたが、幸せで一杯でしかたない俺達は互いに夢中でそれに気付くことはなかった。
ちなみに……競技結果を発表した際、野次やブーイングは一つも出なかった。
何故なら……観客全員が口からナニカ白い物を吐きながら気絶していたからだ。