会場の観客が意識を取り戻したのを見計らってコンテストが再開された。
「あ~、もうひでぇ目にあった~。これも全部お前等のせいだかんなぁ~!」
茶々丸さんは未だに顔色が悪いが、司会者としての意地を見せて立ち上がると童心様達を睨み付けていた。
「あっはっは~。そう怒らないでくれぬかのう。ただの遊び心よ、遊び心。やはりより豊かな生活には遊び心が欠かせぬからのう」
「童心様の仰る通りでございます。やはりこう言った祭り事だからこそ、遊びは必要かと……」
「ぱ、パンツぅ………」
睨まれた三人は全く気にせずに我を貫いているようで、全然反省していない。
こんな人達が他にもこのイベントに関わっていると思うと……気が抜けないどころの話ではない。
死合いと同じくらいの気持ちで挑まないとヤられる!
「それにいっち~、いくらコンテストだからってイチャつき過ぎなんだよ! 見てた方が恥ずかしくて仕方ないって~の。まったくうらやま…げふんげふん、けしから~ん!」
童心様達に何を言っても仕方ないと判断してか、茶々丸さんは今度は俺と真耶さんに矛先を変えた。
「いや、それは……」
「だ、だって……ドキドキして我慢出来なかったんです……」
そう言われて俺達は顔を赤くしてしまう。
確かに言っていることは最もなのだが、あれは媚薬のお香のせいもあってと言うべきか、何というか。
真耶さんは未だにドキドキが収まらないようで、顔を赤くして指を胸の前でもじもじと動かしていた。何だかいつもより可愛く見えて俺もドキドキが止まらずにいた。
「だ、旦那様…ぎゅっと抱きしめてもらっていいですか…」
真耶さんに潤んだ瞳で上目使いにお願いされてしまった。
いつもよりさらに甘く魅力的に見える真耶さんに俺はクラクラしてしまい、返事の代わりにぎゅっと抱きしめた。
「えへへ…旦那様の温もりが伝わって気持ちいいです…」
そしてとろけるような笑顔を浮かべる真耶さん。
その顔はまさに幸福が飽和したかのような顔であり、俺も幸せで満たされる。
そのまま真耶さんは俺を見つめ目を閉じる。
それがキスのおねだりだと知っている俺はそのまま顔を動かし……
「いい加減しろ、このバカップルがぁあああああああああああああああああああああ! 何言ってる側からくっついてんだよ、この馬鹿! 見ろよ、お前等のせいで会場中から壁がを殴るが聞こえてくるよ! こんなイベントじゃなかったら単なるテロだっての! もうイヤーーーーーーーーーーーーーー! 助けて、お兄さん!」
茶々丸さんの叫びで慌てて俺達は離れた。
何かいつもより大胆になっているような気がする。きっとクスリの影響に違いない。た、たぶんそうだ。
「す、すみませんでした」
茶々丸さんへ頭を下げてしゅんっとなる真耶さん。
いつもより可愛く見えて仕方なくて、俺はそのまま抱きしめて慰めてあげたいが、その衝動を必死に堪える。うぅ……抱きしめたい……。
そして茶々丸さん司会の元、次の競技が発表される。
「お次はこいつだぁ! 『あなたのためならどんなものでも食べられる! 激辛シュークリーム大食い大会!!』」
「「「「「うぇええええええええええええええええええええええええええいいいいいいいいい!!」」」」」
何だか観客もやけを起こしているようだ。
歓声に何やら疲れたような感じも見受けられたが、それをテンションで無理矢理誤魔化しているようだ。
「ルールは簡単だ。用意したプチシューを恋人にはい、あーんして貰って食べるだけ! 一皿に十個乗っていて、これを食べた量で勝敗を競うってわけだ! 尚、きついと思ったらボーナスチャンスがあって、こいつを成功させれば二十皿分の皿が追加されるというすっげぇずりぃルールとなってるやがる。その分難易度は高いけどな。せいぜい頑張れよ! これで決勝に上がる二カップルが決まるからな~!」
そのまま茶々丸さんがこの競技の説明をする。
今度は大食い? とは……まぁ、確かにはい、あーんはカップルっぽいか。
今度は先程よりも普通の競技だと思い、参加者の人達から安堵の声が上がる。
だが……やはりと言うべきか、ただではすまないのが六波羅と言うべきだろう。
俺は先程以上に警戒心を強めた。
そしてスタッフの方によって壇上に長机とパイプ椅子、それと布をかけられた皿が持ってこられていた。あれが例のシュークリームだろう。
さっそく皆で席に付くことに。
俺の隣には当然真耶さんが座っている。二人の距離は殆ど無く、真耶さんは俺に体を預けていた。
「旦那様、頑張りましょうね」
甘い声でそう言う真耶さん。
どうやらさっきの競技の余韻が抜けていないらしい。腕に当たる柔らかな感触越しに真耶さんの鼓動を感じた。
「はい、頑張って優勝しましょう」
そう返事を返すと、嬉しそうに笑う。いつもよりも可愛くて、俺はドキドキとしっぱなしであった。
「では、よ~い……スタート!!」
茶々丸さんが合図をすると、俺達参加者は一斉にに更に掛かった布を取る。
すると……
「うわぁ、何だこれ!?」
「あ、赤い……」
あちこちから出てきたシュークリームの感想が漏れる。
俺の目の前に現れたのは真っ赤な色をしたプチシューだった。
「うぅ~…辛そうな匂いがします」
「これは凄い量の唐辛子が使われてそうですね」
辛いのが苦手な真耶さんは少し顔を引きつらせていた。
それぐらい凄まじい唐辛子の香りと色。
割って見ると中には二種類のクリームが入っていた。真っ赤な色のクリームと、緑色のクリームの二種類が入っており、既にシュークリームからはかけ離れた何かにしか見えない。
取りあえずまず一口と参加したカップルの女性が食べると……
「っ!? 辛ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
あまりの辛さから悲鳴が上がった。
そのまま椅子から転げ落ち、壇上を苦しさのあまり転がり続ける。
そしてしばらく転がった後に舌を出して白目を剝いて気絶していた。
はい、あーんをした男性はあまりの事態に頭が付いていかず、呆然と座ったままであった。
それを見てか、審査席から笑い声が上がる。
「うむ、やはりこういう反応はいつ見ても良いのう! 見てみよ、あの娘を。まさに今流行りの『アへ顔』というやつだろう。これが見たいが為にそのシュークリームを開発させたと言っても過言ではないからのう」
「「「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」
童心様が笑うと共に、壇の上に設置された大型モニターからあられもない顔をした女性がドアップで映し出される。それを見て、観客から歓声が上がる。
「また随分と悪趣味なことを…」
「私、童心さんのこと、嫌いです」
またもや童心様の悪趣味に頭を抱える
このお人は楽しむためならば何だってやるからなぁ。
温厚な真耶さんでも童心様には嫌悪感を見せ始めていた。
「ちなみに、このプチシューには大量の唐辛子が使われておる。皮には粉末にしたハバネロを練り込み、緑色のクリームにはブート・ジョロキアを使い、そして赤いクリームには現在世界一辛いと言われているキャロライナ・リーパーという唐辛子を大量に使っておる。六波羅が技術の粋を使って作った、世界一辛いシュークリームである」
自信満々にそう答える童心様。
それに他の参加者は怯えてしまう。確か記憶が正しければ、キャロライナ・リーパーはスコヴィル値(辛さの数値)がハバネロが約57万スコヴィルに対して約300万スコヴィルという異常な数値を叩き出した世界一辛い唐辛子だ。
そんな物をこんなお遊びに投入したのか……流石に絶対やり過ぎだ。
世界一激辛選手権でもこんな酷い物は出さないだろう。
「旦那様、こんなの食べたら死んじゃいますよ。食べない方が…」
気絶じた女性を見て、真耶さんが俺を心配する。
確かに食べなくても勝つ方法はある。だが、それも怪しいので出来れば行いたくない。
ボーナスチャンスが本当にチャンスだと俺は思えないのだ。何せあの三人が考えたボーナス。絶対に普通じゃない。
「それでも、いただきます。だからお願いします」
真剣な顔で見つめながら真耶さんにそう告げると、真耶さんは俺が真剣に頼んでいることを理解してくれた。
「……わかりました。でも、少しでもきついと思ったら辞めて下さいね」
「ありがとうございます」
真耶さんはそのまま一つプチシューを摘まむと俺も口へと運ぶ。
「旦那様……はい、あーん」
「あーん」
いつもの甘い声でのあーんと違った真面目な物に、緊張してしまう。
そしてプチシューが口の中で入った瞬間……
「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!?!?」
口の中を激痛が襲った。
辛いのではない。痛いのだ。辛さも極まると痛みしかない。まるで口の中を焼かれるような感覚があり、今すぐに吐き出してみっともなく叫び声を上げたくなる。
だが、それだけは出来ない。俺の真剣な思いに答えてはい、あーんしてくれた真耶さんの為に、それだけは絶対に出来ないのだ。
俺は大火事を起こしている口に意識を集中し、手から血が流れ出るくらい握りしめながら辛さを堪え……そして飲み込んだ。
「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!?!?」
飲み込んでも尚、その猛威は食堂と胃に振るわれる。
まるで腹と喉を焼き尽くされたかのような気がした。
「だ、大丈夫ですか、旦那様!? 凄い汗!!」
俺の顔を見て真耶さんが驚愕し慌てふためく。
「……大丈夫れふ」
何とか答えるが、それでも舌が辛さで痺れて回らない。
それを見てか、他のカップルが更に恐怖しシュークリームから体を反らす。
そして一組のカップルが手を上げて声を上げる。
「ボ、ボーナスチャンスをお願いします!!」
やはりと言うべきか、食べずに勝つ方法を考えている人達もいたようだ。
「早速きました、ボーナスチャンスッ!! さ~てと、問題の出題者は……あれ? 変態教授じゃん」
茶々丸さんが来たボーナスチャンスにテンション高めで応じ、手元にあった箱から何かのくじを引いて開いてそう言った。
それを聞いてあのパンツ教授は怒り始めたが、邦氏様が何とか諫めていた。
落ち着き始めた教授はそのままカップルの前にマイク片手で歩いてきた。
「では、ボーナスチャンスを使った君に問題を出そう。人は何故、パンツを穿くと思う?」
「「はぁ?」」
いきなり出された問題に理解が出来ないカップルからそんな声が漏れた。
まぁ、普通なら誰しもそうなるだろう。
「え、え~と……何でそんな問題を?」
「決まっているだろう! 私が生涯をかけて探求している事だからだよ! 未だに答えは見つけ切れていない。さぁ、君はどう思う?」
男性が凄く戸惑っているのを見て同情してしまう。
俺も同じ目に遭ったので、その苦労は嫌と言うほどよく分かる。
「そ、その……恥ずかしい部分を隠すためじゃないですか?」
男性は考えて無難な答えを言うと、教授は凄く怒った。
「別にパンツ出なくてもそれならば良いではないか! ズボンだろうとスカートだろうと隠そうと思えば隠せる。私は何故パンツを穿くのかを知りたいのだよ! そのような平凡な意見に用は無い! 去り給え、失敗だ!」
教授はそう言うと共に、いつの間にか両手に持っていたドリンクケースをカップルの口に両方突っ込み、力の限り中身を握りだした。
「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」
その途端に悲鳴を上げて暴れ始めるカップル。
そして先程プチシューを食べた女性同様、変な顔へと二人ともなって気絶していた。
「あ~えっと何々……ボーナスチャンスに失敗したカップルには罰ゲームとしてキャロライナ・リーパーを使った特製ジュースをプレゼントだってさ。つか野郎のアへ顔とか誰得だよ、マジで!?」
茶々丸さんが先程カップルに飲ませたドリンクについて説明するが、周りにいた参加者達が更に恐怖し何も出来なくなってしまった。
本当にやりたい放題で何も言えなくなってくる。
やはり予想通りと言うべきか、ただではすまない。やらなくて良かったと思った。
ちなみに師匠の答えは『汚い物は隠すべきだ』というものだった。綺麗な物なら脱がせたいが、汚い物なら見たくないということなんだとか。尊敬出来るか微妙な話である。
しかし、そうなると最早プチシューを食べるしかなくなる。
どうしたものか……そう悩んでいると、腕を引かれた。
たぶん真耶さんだろうと思い振り向くと……
真耶さんの顔が目の前にあった。
「ん…ちゅ、ちゅ…れろ…んぁ……」
そのまま真耶さんは俺の唇にキスし、更に舌を口の中に侵入させてきた。
そして真耶さんの唾液が口の中に流れ込んでくる。
さっきまで辛さで攻め続けられていたせいか、凄く甘く感じた。
しばらく俺に深いキスをした真耶さんは顔を恥ずかしさで真っ赤にしたまま唇を離した。
「こ、これで少しは辛さも和らぐかと思って……」
今にも恥ずかしさで泣きそうになりながらも一生懸命に俺にそう言う真耶さん。
その姿が健気で可愛くて、俺は口の中の辛さを忘れてしまった。
「ありがとうございます……御蔭で辛くなくなりました」
「は、はい……だって大好きな旦那様を助けるためですから…ポ」
お礼を言うと本当に嬉しそうする真耶さん。でも恥ずかしさでその声は小さい。そんな真耶さんが愛おしくて仕方ない。
だからこそ、負けられない!
俺は更にプチシューを口にいれて食べては口の中を焦がし、真耶さんは食べ終わり次第に俺にキスをしてくれた。
正直、ちょっと癖になるかも知れないくらい気持ち良く、俺も進んでキスしてしまう。
真耶さんの最初は恥ずかしさで赤くなっていたが、段々ととろんとしたふやけた表情になっていた。
後から聞いたが、俺に好きなだけキス出来るのが嬉しかったらしい。
俺もそれを聞いて嬉しくなってしまったが、それは恋人から言われれば当たり前のことだろう。
そして一皿完食次第に競技終了となった。
「い、一位は織斑ペア、一皿……てお前等いい加減しろよ、本当に! このままじゃこのイベントが18禁になっちゃうだろ! お前等のせいで観客の大半が失神、残りが瀕死状態、その上壁が粉砕されたゴミがホールに散漫しまくりとか、マジイチャつきすぎだろ! お兄さん、お兄さんの弟子はこんなに恥知らずになっちゃったよーーーーーーーーーーーー!」
茶々丸さんが俺と真耶さんに向かってキレながらそう言ってくる。
そう言うが、あなたに恥じ知らずとは言われたくない。
「勝ちましたね、旦那様」
真耶さんは嬉しそうに俺の腕に抱きつき、ご機嫌になっていた。
それが嬉しくて俺も笑顔で返す。
「はい、あと少しで優賞ですね。頑張りましょう」
「はい!」
「もう、いや、本当にマジで! お兄さぁああああああああああああああああああああああああああん!!」
こうして、この競技も無事にクリアした。残るは後一つのみ。
どんな競技だろうと、真耶さんと一緒なら絶対にクリア出来る。
後もう一頑張りだ。
俺は腕で幸せそうに笑う真耶さんを見ながらそう思った。