ついつい書いてしまって文章が長くなっちゃってますよ。
大騒ぎとなった午前中も終わり、お昼休憩に入った。
俺達は昼食を取ろうと、衣装から私服へと着替える。
そして着替え終わり次第に、また皆で集まった。
「それじゃみんな、どこ食べに行こうか」
柊さんが集まった俺達そう言う。
その服装はジーパンにTシャツと長袖のジャケットと着込んでいた。これが柊さんの私服らしい。
意外と活発的な人のようだ。
柊さんは俺達にそう言うと、歩き出そうとする。それに黛先輩も続いて歩き出していた。
それに疑問符を浮かべる俺と真耶さんと更識さん。
それを見て黛先輩が苦笑しながら説明をしてくれた。
「このジャイアントサイトの中には色々と飲食店があるのよ。だからイベント関係者や参加者の多くはそういったお店で食べるか、外にあるファーストフード店かコンビニで買ってくきてお昼を食べるのよ」
「そうなんですか」
そう説明されて感心する更識さん。
この大人数を全て収容できるとは思えないので、ここの飲食店は今頃阿鼻叫喚だろう。
想像しただけでも疲れる気がしてきた。同じような覚えがある身としては同情するしかない。
俺がそんなことを思い出していると、真耶さんが思い切った感じに二人に聞く。
「あ、あの、お弁当とかは食べちゃ駄目なんですか」
「お弁当があるんですか? 別に食べても大丈夫ですよ。でも、ちゃんとゴミは持ち帰らないと怒られますけどね」
「そうですか、よかった~」
それを聞いてホッとする真耶さん。
俺も正直ホッとした。何せ俺もまったく同じことを考えていたのだから。
「何々、お弁当があるの」
柊さんもその話を聞いて此方に戻ってきた。
「はい! 朝に頑張って作ってきたんです。ね、旦那様」
「ええ、いつもより少し早起きして拵えさせていただきました。皆に食べてもらえるよう、量も多めにしてありますので、一杯食べても大丈夫ですよ」
柊さんの問いに俺と真耶さんは笑顔で答える。
その時の真耶さんの笑顔は料理を食べてもらえる喜びに溢れていて、また可愛い。新妻って感じがして俺も嬉しくなってしまう。
「そうなの! だったらお弁当にしよう。いや~、最近そういう手作りって全然食べてないから楽しみね~」
お弁当のことを聞いて柊さんのテンションがかなり上がった。
何でも、大学生になってから一人暮らしを始めているのだが、面倒になり自炊はしないらしい。
そのため食事は外食やコンビニで買ってきたり店屋物だったりするそうだ。
なので手作りの料理に飢えているとか。
なら是非とも喜んでもらいたいと思った。
その後、柊さんがウキウキした様子で先を歩いて行き、お弁当は外で食べることになった。
柊さん曰く、
「室内だと蒸し暑かったり変な匂いがしたりしてあまりよくないから。せっかくのお弁当だもの、やっぱり天気の良い外で食べた方が良いでしょ」
とのこと。
今日はとても天気が良く外もいつもに比べれば暖かいので外で食べるのには最適だ。
だからその意見には皆賛成であった。
そして外に出て歩くこと数分、丁度良さそうなベンチとテーブルを見つけ、そこで食べることにした。
さっそくお弁当を荷物から取りだすと、皆から歓声が上がる。
「えぇええええええええええ! 重箱なの!?」
「はい。俺は武者ですから、食べる量も多いので」
そう、俺が取り出したのは重箱である。
やはり大人数で弁当といえばこれかな、と思いこれに詰めた。
普通なら重くて大変だが、武者の筋力からすればそこまで重くもない。あの満員電車の時にはどうなるかと思ったが、どうやら無事のようで安心した。
三人が重箱に驚いているところで真耶さんがさらに荷物からバスケットを持ち上げた。
「こっちにはサンドイッチもありますから。皆さん、一杯食べて下さいね」
「サンドイッチもあるんだ。山ちゃん、気が利く~」
真耶さんが取り出したバスケットを見て黛先輩が嬉しそうに喜ぶ。
やはり若い人はそういうものの方が好きなんだろうか? まぁ、俺はどちらも好きなのだが。
そしてテーブルの上があっという間に色とりどりのお弁当で埋め尽くされていった。
俺と真耶さんを除く三人はまるで宝石箱を覗き込むように目をキラキラとさせている。
「うわぁっ、すっごい綺麗!」
「こんなお弁当、始めてみたわ。凄い」
「美味しそう…」
三人はお弁当を見てそう感想を洩らしていた。
やはりそう言ってもらえると嬉しい。真耶さんもそう言ってもらえて嬉しい様で、ニコニコと笑っている。可愛くてついつい和んでしまう笑みだ。
「では、そろそろいただきましょうか」
「はい、そうですね」
三人にそう言うと、三人は早い速度で首を縦に振った。
「「「「「いただきます」」」」」
そして皆で手を合わせいただきますを言い次第、さっそく三人がお弁当からおかずを摘まみ食べ始めた。
「ふぁあああああああああああああああああああああ!? 何、この唐揚げ! 冷めてるのにジューシーでパリッとした食感がたまらない。結構濃い味付けなのに何個も食べたくなっちゃう!!」
「うわっ、このだし巻き玉子も凄く美味しい。ふわっとしてて甘い出汁の味が口の中に広がる。薄味なのに凄く良く分かる!」
「っ!? 凄く美味しい! 更識家の行きつけのお店と同じくらい美味しいかも……」
三人は口々に美味しいと喜んでくれた。
やはり料理をする人間としては食べて喜んでもらえることは嬉しい。
「これ、山田さんが作ったの! 凄く美味しいからびっくりしちゃったわ」
柊さんは美味しい美味しいと言ってお弁当を食べながら真耶さんに聞いてきた。
そう聞かれ真耶さんは何だかやけに嬉しそうに答える。
「私は半分だけですよ。主にサンドイッチとかだし巻き玉子とかを私が作りました。半分以上は…」
そこで一端言葉を切り、俺を見つめながら答えた。その眼差しには尊敬の念が一杯込められている。
「旦那様が作ったんです! 旦那様は私よりもお料理が上手ですから」
凄く嬉しそうに柊さんに答える真耶さん。
きっと恋人を自慢したいとか、そういうのが込められているのだろう。
年頃の女の子のような反応に俺は微笑んでしまう。そういうところも可愛いなぁ。
「え、これって織斑君が作ったの!? すっごい料理上手なんだね」
「いえ、それほどでも」
俺を思いっきり褒める柊さんに俺は苦笑しながらそう返す。
俺の腕はまだまだであり、この実力では料理上手とは言えない。より精進が必要なのだ。
すると黛先輩が俺の肩を叩いてきた。
「何謙遜してるのよ! 福寿荘の副板ともあろう人が」
俺は知らなかったのだが、何故か学園で俺が料理人だということも知れ渡っていた。理由は知らないが、調べれば普通に分かることなだけに驚くことではない。
「それって何、KAORUKOちゃん?」
「あのですね、織斑君って武者であると同時に有名な懐石料理店の副料理長っていう肩書きもあるんですよ! だから彼が作った料理は凄く美味しいって評判なんです」
「何そのチートキャラ!? アニメの主人公みたいな人って本当にいたんだ……」
俺のことを聞かされ驚愕し感心する柊さん。
最近はそんなふうに驚かれることもなかっただけにどう反応してよいのやら。
しかし、食欲に負けたのか二人ともまたお弁当を食べ始める。
「柊さん、そんなに慌てて食べなくても無くなったりしませんよ」
「だって美味しいんだもん、このお弁当。まさかこんなに凄いなんて……山田さんは幸せですね」
お弁当を凄い勢いで食べながらも柊さんはそう聞くと、真耶さんは凄く幸せそうな笑顔で俺をちらっと見ながら答えた。
「はい、凄く幸せです」
その笑顔を見た途端、三人の動いていた箸が止まった。
「どうしたんですか、みんな?」
それを見て不思議そうに首を傾げる真耶さん。
すると三人は真耶さんに聞こえないように後ろで集まり、こそこそと話始めた。
「(ちょっ、何あの笑顔! 凄く可愛いんだけど!!)」
「(すっごい幸せそう! あれが恋人持ちの人なんだね~)」
「(う、羨ましいかも……)」
きっと俺達には聞こえないように話しているつもりなんだろうが、武者の聴力なら余裕で聞こえる。
それを聞いて俺も内心でうんうんと頷く。
(その気持ちは俺も分かる。真耶さんは凄く可愛いからなぁ……そんな可愛い人が俺の恋人なんて、本当に幸せだ)
そのまま三人はまだまだひそひそと話していたが、真耶さんは気にせずに俺の服をちょんちょんと摘まみ引っ張る。
「?」
「旦那様……はい、あーん」
とろけるような笑顔で俺を見つめながらだし巻き玉子を口に差しだしてきた。
腕もいつの間にか絡めるように繋がれており、しなだれてきた。
その可愛さに胸をときめかせつつ、俺は口を開ける。
「あーん」
「あ~ん」
甘い声で囁かれ、心臓がドキドキして仕方ない。それを誤魔化そうと差し出されただし巻き玉子を食べる。
「うん、やっぱり真耶さんのだし巻き玉子は美味しいです。優しい味で落ち着きますよ」
「そうですか! えへへへへ」
俺にそう言われ、真耶さんは無邪気に笑い喜ぶ。
そんな姿も可愛くて俺は未だに話し込んでいる三人にばれないように、そっと真耶さんを抱きしめた。
「あ……」
「こんな美味しい卵焼きを作ってくれてありがとうございます。こんな料理上手のお嫁さんをもらえて、俺は世界一幸せです」
感謝を込めて耳元で囁くと、真耶さんは瞳を潤ませ顔を真っ赤にしながらも凄く嬉しそうに返してくれた。
「……はい……私もこんなにも愛してくれる旦那様がいてくれて幸せです……」
そのままお互いに見つめ合う。
しかし、キスはしない。流石にこの場では恥ずかしいから。
そう思っていたら……
「あ、旦那様、こんなところにお弁当が…」
真耶さんに言われ、俺は何処に付いているのかと手で取ろうとする。しかし、全くそれらしいものは取れない。
俺の様子を見てか、真耶さんは若干顔を赤らめつつも笑う。
「そっちじゃないですよ。こっちです」
そう言いながら真耶さんは俺に顔を近づけ……
「ちゅ」
「!?」
口の端にキスをしてきた。
そしてそのまますぐに唇を離すと、えへへと俺に笑いかけた。
「ごちそうさまです、旦那様。旦那様の味がして、とても美味しかったです……」
恥じらいながらも嬉しそうに笑う真耶さんを見て、俺は真っ赤に赤面してしまう。
最近、真耶さんにこうして積極的にされてしまうことが多い。そのせいで、俺は更にドキドキして真耶さんをもっと好きになってしまうのだ。
恋愛の凄い所は、料理と違って過剰に甘くても全然苦にならず、むしろもっともっと求めてしまう所だろうと俺は思う。真耶さんが好きで好きでたまらないのだ。
きっとこの先、もっと好きになっていくんだろう。そう思うと胸が幸せで一杯に満たされる。
「もう、真耶さんは……大好きです」
そう言ってキスを返してあげると、真耶さんはくすぐったそうな感じに反応しつつ顔をとろけさせていた。
「はい、私も大~好きです」
そしてキスを返そうとしようと真耶さんが動いたところで……
「「「ごぱぁっ!?」」」
三人がいきなり倒れた。
そのことに驚き俺達は三人に話しかける。
「だ、大丈夫ですか。いきなり何が」
そう聞いたら、柊さんが体をガクガクと震わせながらも何とか答えてくれた。
「………ご、ごちそうさま……」
そして気絶してしまい、黛先輩と更識さんも気を失ってしまっていた。
取りあえず気道を確保して三人を寝かせることにした。
「一体どうしたんでしょうね?」
「多分ですが……朝早かったので疲れてたんじゃないでしょうか」
俺と真耶さんはそう言いながらお互いに首を傾げ、そのまま昼休みが終わるまで三人は起きなかった。
ちなみに……
この三人が気絶した際、口から白い粉末を吐いていたのを一夏と真耶は見ていなかった。
その粉末は……甘かった。
この三人は犠牲になったのです……・