急な猛暑で夏バテになりそう……
柊さんが粗方驚いた後に真耶さんは改めて自己紹介をした。
それを聞いて柊さんは頭を下げて謝っていたが、黛先輩はカラカラと笑い飛ばしていた。
まぁ、分かってないとどう見ても真耶さんは俺達と同じくらいにしか見えないから仕方ない。
本人に言ったらとても怒って気にするので言えない。その時の顔もまた可愛いくて堪らないのだが。
「す、すみませんでした。まさか私より年上だったとは……」
「い、いえ、別に。私も強く言いすぎました…ごめんなさい」
柊さんが謝罪すると、真耶さんは取り乱した自分を恥じらい顔を赤くしながら謝っていた。
そういう素直な所も魅力的であり、真耶さんらしいと思う。だからこそ、俺は更に真耶さんのことが好きになってしまう。
こうして和解? した後にみんなで早速衣装を受け取りに行った。
今回の衣装を用意してくれたのは柊さんらしく、何と黛先輩と一緒に作た物らしい。
衣装が置いてある所に行き、柊さんから説明を受けることに。
「今回は色々と作ったから衣装も一杯あるのよ。本来参加する人の中には男の人もいたから、織斑君はその人の衣装を着てね。それ以外は全部女性物だけだから」
だから俺が参加しても平気なのか。
IS学園にいると独特な空間になるため忘れていたが、外に出れば確かに他の人との付き合いというのが感じられる。
俺は渡された衣装を見ながら感慨深くそう感じていると、他のみんなも衣装を渡された。
「どんな服なのかわくわくしますね」
「は、恥ずかしくなければいいけど……」
真耶さんはこれから着るであろう衣装を楽しみにし、更識さんは少し怖がっていた。
内心、俺も半分は楽しみであり、半分は怖かったりする。
この歳で珍妙な服を着て似合うかどうか……
そう思っていると、真耶さんが少し恥ずかしそうにしながらもじもじとしつつ俺の所に来た。
「あ、あの、旦那様……楽しみにしていて下さいね」
「は、はい…」
恥ずかしいけど見てもらいたいという気持ちが伝わってきて、俺は自分の顔が熱くなっていくのを自覚しながらも返事を返す。それを聞いた真耶さんは嬉しそうに笑い、そのままみんなと一緒に女性更衣室へと入って行った。
俺としても、真耶さんがどんな姿をするのか楽しみで仕方ない。
さっきはノリノリであったが、きっと着替えた後はやはり恥ずかしさから顔を真っ赤にするのだろう。そういうところも可愛いくて好きだ。
ふと思ったが、さっきからずっと同じように真耶さんが可愛くて大好きだと言っているような……だが、大好きな人に好きと言うことは当然だ。問題はないはず!
そんなことを考えつつも俺も更衣室へと向かい、さっそく渡された衣装に着替えることにした。
そして約十分後、俺は着替え終えてホールの壁に寄りかかっていた。
そのまま改めて自分の姿を見て思う。
「何故……和服なんだ……」
俺が来ている衣装は真っ白い袴に朱色の羽織。さらしを腹に巻き、腰に模造刀を差している。
この姿は確かこの間実写化した漫画の主人公の恰好なんだとか。
いや、別に俺が特にコスプレらしいコスプレをしたいと言うわけではないのだが、もうちょっと何かこう……分かるだろうか。少なくてもいつもと違う恰好をしたいと思わずにはいられない。
そんなことを考え思考を巡らしていると、
「待たせたわね、織斑君」
黛先輩の声が近くから聞こえてきたので其方を向くと、これまた変わった恰好をした先輩が此方に歩いてきた。
黛先輩はスクール水着に上から真っ白い海軍の軍服を羽織っていた。
いつもしていた眼鏡を外し、左目には古風な眼帯が付けられており、俺と同じように模造刀を手に持っている。そして何よりも目を引いたのは、その両足に付けられた大きな機械。先端部分が青白く光りプロペラのような物を回転させ、先輩の体を浮遊させていた。
「ま、黛先輩…それは…」
「あ、これ? 私が自作した ス〇ラ〇カ〇ユニットだよ。これでも私、IS学園整備科のエースだから。少しの間だけだけどPICで浮遊出来るようにしたんだ~」
俺が聞きたいことを理解して先輩が説明してくれたのだが……何という技術の無駄遣い!?
いや、自分が得た技術をどう使おうがそれは本人の勝手だから問題はないのだが、仮にも最先端の技術をこんなことに使うとは。遊び心溢れると言うべき何だろうか……難しい。
「ちなみにこの恰好は『ストラ〇クウィッ〇ーズ』の坂〇 美〇っていうキャラだよ。私に声が似てるから」
と胸を張って話す黛先輩。
きっと胸も大きいからこそ、そのポーズなのかもしれないがいい歳した女性がスクール水着を着ているというのは、艶っぽいを通り越して何だか滑稽である。これが真耶さんなら別なのだが。
先輩は俺に説明を終えると、足に付けていた機械を外して壁に立てかける。思った以上軽いらしく、壁にぶつかった音が軽い。
機械を置き終えた先輩はさらに俺にこの後の予定を説明していく。
「まずイベント開始は九時からで、十二時にお昼休憩に入るわ。それで一時までは休憩時間よ。その後はまたイベントが再開して私とAKENOさんはその後もコスプレしてこのホールにいるけど、織斑君達はそのままカップルコンテストに出場してね。会場は向こうのホールだから」
それを聞いて頭の中で予定を立てていく。
「ちなみにコスプレもこの一種類だけじゃないから。一人当たり三着くらいかな。だからある程度その衣装着たら別の衣装に着替えてね」
聞いた瞬間にずっこけそうなった。
まさかこれ一着で終わらないとは……。
少し間の抜けたことをしてしまったが、気を取り直して予定を組み立てる。
そして組み終わったところで他の人達も来た。
「おまたせ~。二人とも待った~」
大きな声をかけてきたのは柊さんであった。
恰好は立て筋の入った白いワイシャツに黒に近い色をした上着を着ていて、赤いミニスカートを穿いていた。何故か胸を強調するかのような上着であり、ワイシャツを押し上げるような作りになっている。
「あ、それ! ハイ〇クールD☓〇の制服じゃないですか! 似合ってる~」
「でしょ~。頑張って作ったのよ。私と同じ名前のキャラが出てるから」
黛先輩に褒められて嬉しそう笑う柊さん。
その際に胸が大きく揺れたが、あまりドキドキとはしない。何というか……イロモノ臭い。
いや、それもコスプレの醍醐味なのだろう。だが、違和感がありすぎる気がして仕方ない。
「ほら、更識さんも恥ずかしがってないで」
「は、はい……」
どうやら柊さんの後ろに更識さんが隠れていたようだ。
まぁ、恥ずかしがるのも分からなくはない。
「ど、どうですか……」
意を決してか更識さんが俺達の前に出た。
その恰好は全体的にピンク色をした探偵服であった。女性用らしく、ちゃんとスカートも穿いている。
「うぅ…恥ずかしい…」
「そんな恥ずかしがらないでよ。やっぱり私の見る目に間違いはなかったわ! 最初に更識さんと話した時から思ってたの。声がミ〇キー〇ームズのシャ〇に似てるって」
顔を真っ赤にしながら恥ずかしがる更識さんに柊さんが熱の籠もった声で話しかける。
この三人の中で一番違和感がない気がした。
そして……
「お、お待たせしました、旦那様……」
俺はその甘い声が聞こえた方を振り向く。
それが誰かなんて見なくてもわかるが、どんな衣装を着ているのか気になって仕方なかったのだ。
恋人がどんな衣装を着ているのか気になるのは当たり前のことである。
俺はワクワクしながら声の方を見ると……
「ぶっ!?」
噴いた。それも鼻血をだ!
何故噴いたのか……それは当然振り向いた先にいる真耶さんの恰好にあった。
上は黒を地に炎のペイントがされているビキニ。そして下は黒いショートパンツで、薄ピンク色のハイソックスに白いブーツを履いていた。背には大きなスナイパーライフルが背負われていた。
凄く肌が露出していて、凄く……エロい。
「だ、大丈夫ですか、旦那様!!」
真耶さんは鼻血を噴き出す俺を見て慌てて俺に駆け寄る。
そして俺を上目使いで心配そうに覗き込むのだが、そのせいでさらに胸が強調されてしまい深い谷間を作ってしまっている。上のビキニのサイズがまったく合っていないせいで今にも胸がこぼれ落ちそうであり、それが余計に危うい魅力を醸し出している。
そのせいで余計に俺は鼻が熱くなるのを感じる。
「だ、大丈夫です……」
「本当ですか!?」
更に心配して真耶さんが顔を近づける。
いつもと違い、コンタクトにしていることもあってか綺麗な瞳がより見える。
そして香水も変えたのだろうか? 柑橘系のさわやかな香りが近づいていくにつれて香ってきて、さらに俺を落ち着かなくさせる。
「だ、大丈夫ですから…そ、その…」
「その?」
「真耶さんがあまりもの綺麗で艶っぽかったものですから…正直エロいです。その恰好…」
素直に鼻血を噴いた理由を話したら、真耶さんの顔が一気にポスト以上に真っ赤になった。
「え、エッチですか!? た、確かに肌の露出が多いから恥ずかしいですけど……」
恥ずかしがりながら胸の前で指をもじもじと動かす真耶さん。その動作と一緒に胸もゆさゆさと揺れ、俺を更に刺激する。
しかし、これ以上腑抜けた姿をさらす訳にはいかないと己に喝を入れ、鼻血を止める。
「ほ、ほら、もう止まりましたよ」
「ほ、本当ですか。よかったぁ。で、でもまだ心配です」
そして俺にキス出来るくらい真耶さんは顔を近づけると、周りに聞かれないように俺に甘く囁いた。
「でも……旦那様が鼻血を出してしまうくらい私のことを意識してくれて、私は嬉しいです
。だってそれだけ私を見てドキドキしてくれたってことですから」
とろけるような笑顔でそう言われ、胸にきゅんとした何かが走る。
思わず顔を覆ってしまいたくなった。
(何だ、この可愛い人は! って俺の恋人だろうが!! ヤバイ、可愛すぎて俺に理性が色々とヤバイ)
そんな思考に頭を焼かれそうになるのを必死に堪え、俺は改めて真耶さんと向き合う。
「その衣装、凄く似合ってますよ」
「はい、ありがとうございます。旦那様も格好いいですよ」
そんな柔らかそうな笑顔でほにゃっと褒められたら、抱きしめたくて仕方なくなってしまうではないか。今の真耶さんはいつもとはまた違った魅力に溢れ、俺は理性が削岩機で砕かれるような気がしてしかたない。既にボクサーのボディブロウを三発ほど受けたような感じだ。
それぐらい真耶さんにクラクラしている。
「う~ん、やっぱり似合ってるわね。更衣室で服を脱いだ時に見たあの胸の大きさにはとても驚いたもの! デカ過ぎっ! 何食べたらああなるって感じよ。持ってきた衣装の殆どが胸のサイズが合わなくて、必然的に巨乳キャラの衣装になったけど……うん、織斑君の反応から見てまさに最高よ! やっぱり巨乳にはグ〇ンラ〇ンのヨー〇が似合ってるわ」
柊さんが興奮した様子で真耶さんを見ながら熱弁を振るっていた。
巨乳を連呼されてしまい、真耶さんは泣きそうになるくらい真っ赤になってしまった。
「は、はぅ~~~~~~~~~、あまり巨乳って言わないで下さい。恥ずかしい……」
その姿あまりにも魅力的過ぎて俺のツボを刺激するが、流石にそろそろ本当に泣き出しかねないので止めてあげる。
「柊さん、そこまでにして下さい。真耶さんが恥ずかしがってしかたないですから」
「あら、そうなの。ごめんなさい、つい熱が入っちゃって」
「い、いえ……」
柊さんは反省して謝ると、真耶さんは少し持ち直した。まだ顔は真っ赤だが。
「んじゃ、そろそろ開場時間だから、みんな、行きましょうか」
黛先輩がそんな俺達を見てか話を切り出し、俺達はそれに従って場所を移動した。
そして時間になり、外で待っていた人達がホールへと雪崩こんできた。
最初は同人誌とかを買いに行っているためすぐには来ないらしい。
俺達は決められた場所で一緒に立っていた。
こうしてみると周りには他にもコスプレをした人達がたくさんいる。
あまりアニメや漫画のことは知らないが、全部そういったキャラの服装なのだろう。
その数にも正直驚いた。
その内ちらほらと人が入っていき、段々とここのホールも賑やかになっていく。
そして俺達も人に見られるようになった。
「見ろよ、あそこのコスプレ、マジレベルたけぇ!!」
「何だ、あそこの集団、滅茶苦茶可愛い子ばかりなんだけど!」
「一人だけ男がまじってやがる! 羨ましい……」
「何、その男の子! 凄く格好いいんだけど」
「キャー、剣〇様~~~~~!」
と色々な声が聞こえてきた。
その内取り囲まれるように周りに人が集まり始めた。
「すみませ~ん、写真いいですか~!」
一人誰かがそう言うと、皆連なって同じように写真を撮っていいかと聞いてくる。
「はい、いいですよ~!」
黛先輩はそう答えてポーズを取ると、歓声と共にシャター音が鳴り始めた。
それを続いて俺達も周りの人の要望に応えてポーズをとり写真を撮って貰う。
最初こそ戸惑ったが、すぐになれてきた。真耶さんがライフルを構える姿は格好良くて、俺はついつい見入ってしまう。
最初こそ順調に進んでいたのだが、少しすると……
「もっとエッチなポーズとって~」
だとか、許可も出してないのに勝手に撮影してきわどいアングルで写真を撮ろうとする輩が増えてきた。
黛先輩や柊さんは慣れているのか強気で追い払っていたが、更識さんと真耶さんは怖がってしまい、上手く躱せないでいた。そのため、調子に乗ってさらに周りが図々しく動く。
「いや、やめて…」
「だ、駄目です…そんな写真なんて撮らないで下さい」
二人とも怯えた様子であり、それが余計に周りに火を注いでいく。
「もっとエロいポーズとってよ。金払うからさ」
などと言ってくる者も現れてきた。
それを聞いて俺はもう我慢出来なくなる。
そう言って写真を撮っていた者の前に俺は立ちはだかり、二人を撮影出来ないとようにする。
「なんだよ、お前! 撮影の邪魔すんな!!」
男は俺を見て凄く邪魔そうな顔でそう言ってきた。
そう言われ、俺は堪忍袋の緒が切れた。
そのまま腰に差してある模造刀を居合いで引き抜き一閃。
振った後に返す刀で男の首筋に模造刀を添えた。
「え?」
そんな間の抜けた声を男が上げた瞬間……
男の持っていたカメラが真っ二つに『斬れた』。
その事態に気付き、男の顔が驚愕に染まる。
俺はそれを見た後に殺気を込めた目で睨み付けながら言う。
「貴様こそ、恥を知れ! マナーを守ってこその撮影だろう。それすら出来ぬ輩は撮影する資格などない。それでも撮ろうとするなら、このカメラのように貴様を真っ二つにする。言っておくがこれは模造刀だ。斬れない刀でカメラが斬れた。これがどういうことか……わかるな」
「ひっ、ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
俺に脅され、男はカメラを投げ出して逃げ出した。
それを見て周りの人達も固まる。
「怖かったです、旦那様」
「もう大丈夫ですから。何だか今日は厄介な事ばかりですね」
「はい…」
真耶さんが俺に抱きつき震えているのを慰める。
すると……
「あっ! もしかして織斑 一夏ぁあああああああああああああああああ!!」
「「「「えぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!」」」
周りにいた一人が俺に気付き、大声を上げると周りにもそれが伝わって騒ぎとなってしまった。
こうしてこのホールに俺がきていることが知れ渡ってしまったのだった。