装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回、とある人達にはなじみ深いあるイベントのお話です。


更識 簪のお願いは黛 薫子のお願いでもあった。

 更識さん達に見られてしまい気まずくなりつつも、何故俺と真耶さんを呼び出したのかを聞くことにした。それに何故黛先輩も一緒なのだろうか? という疑問もある。

 

「さ、先程はすみませんでした」

「い、いえ、こちらこそ……」

 

今だに顔を赤くして更識さんが、これまた顔を赤くした真耶さんに謝っていた。

寧ろ謝らなければならないのはこちらであり、こうして謝っている彼女には悪い気がして仕方ない。

 

「いや~、これが噂の織斑君と山ちゃん先生のイチャつき現場か~」

 

更識さんと一緒に来た黛先輩はニヤニヤと笑いながら興味深そうに俺達を見ていた。

先程更識さんと一緒に顔を真っ赤にしてここから飛び出して行った人物とは思えない。まぁ、年頃の女性徒なら、色恋に興味があるのは何となく分かるから、こういう反応もわからなくがないが、一つだけ言わなくてはならないことがまずある。

 

「先輩、記事にしないで下さいね」

「えぇ~、織斑君のいけず~」

 

先に釘を刺しておいて正解だったようだ。

あまり騒がれるのは好きではないし、真耶さんがその書いた記事を見たら、あまりの恥ずかしさにどうなるか分かった物ではない。まぁ、そういう真耶さんも見てみたいのも事実だが。

 

「それで……何故黛先輩がここに? 自分と真耶さんは更識さんに呼ばれて来たのですが」

 

いつまでもこんな話をしているわけにはいかないので、俺は早速黛先輩に聞くことにした。

 

「ああ、それはね、私も君達にお願いがあるのよ。勿論、簪ちゃんにも一緒でね」

 

話を聞いたところ、どうやら俺達と更識さんに頼みたいことがあるらしい。

更識さんにはある程度はなしてあるので、俺と真耶さんに一緒に頼みにきたというわけだ。

俺と黛先輩がそうしてある程度話している最中、更識さんと真耶さんはというと……

 

「そ、その…実際に人がキスしてるところ、始めて見ました。そ、それで…その…どんな感じ…なんですか? その…気持ち良いとか……」

「そ、そのですね……ごにょごにょ……」

「っ!? そ、そうなんですか! そ、そうなんだ……」

 

とお互いに顔を真っ赤にして何やら話していた。

顔を恥ずかしさで真っ赤にしつつも更識さんに話す真耶さんもまた実に可愛いが、今はそれを眺めている訳にもいかない。

俺は二人に近づき声をかける。

 

「二人とも、そこまでです。そろそろ本題に入りませんと」

「「!?」」

 

俺の声をかけられ、二人ともビクッと体を震わせて此方を振り向く。

 

「あ、あの、そのっ、」

「だ、旦那様! さっきの話…聞いてました?」

 

二人とも顔を赤くしながら慌てていた。

勿論、武者の聴力で聞き逃すなんてことはない。昔よりも死合いを経験したせいで武者として成長した。結果、聴力も鋭敏になり聞き逃すということが無くなった。

ここで正直に聞こえていたと答えれば、きっと真耶さんは恥ずかしがって顔を真っ赤に染めるだろう。

それも可愛くて見たくなるが、それでは話が進まない。

だから……

 

「何の話ですか? 俺は二人が何かを話しているとしか分かりませんでしたから」

 

そう誤魔化すことにした。

 

「そ、そうですか~。よかった~」

「そ、そうなんだ…」

 

そう言われ、二人はホッとしたようだ。

これでやっと話を進めることが出来る。

 俺達は改めて席に付き、本題を話すことにした。

その際、真耶さんが持ってきたコーヒーを皆に分けたのだが、これがまた好評で真耶さんは賛辞を受けていた。

 

「あっ! このコーヒー凄く美味しいですね。これもやっぱり織斑君への愛の成せる技ですか?」

「そ、そんな……は、はい…」

 

黛先輩にそう聞かれ、真耶さんは恥ずかしさで顔を赤くしつつも嬉しそうに答えていた。

それは本当に嬉しいが、そういうことをしていては話が進まない。

ジト目で黛先輩を睨んだら苦笑で逃げられた。

 

「それでは、まず更識さんのお話から窺います」

「は、はい」

 

咳払いを一回して、改めて仕切り直し更識さんから話を伺うことにした。

 

「あ、あのね。実は二人にお願いしたいことがあって……。お、織斑君と山田先生にカップルコンテストに出てもらいたくて!!」

 

捲し立てるように一気に更識さんが言い切った。

いきなり言われたことに理解が追いつかない俺達。それを見かねてか、黛先輩がさらに自分の話も込みで説明し始めた。

 

「あ~あ~…簪ちゃん、そんな急に話してもわからないわよ? まぁ、私から先に話さなければいけなかったのもあるから悪かったわね。そ・れ・で、補足するために私の話もするけど、二人とも……コミックカーニバルって知ってる?」

「「コミックカーニバル?」」

 

そう聞かれ、真耶さんとお互いに顔を見合ってしまう。

何だろう? と不思議そうな顔をする真耶さん。

この様子だとまず知っていないだろう。無論、俺も知らない。

 

「その様子だと二人とも知らないわね。いい、コミックカーニバルっていうのは国内最大の同人誌即売会のことよ」

「「同人誌?」」

 

また同じように顔を見合う俺達。

それを見て呆れ返る黛先輩。

 

「はぁ~…そんな事も知らないの? あのね、同人誌っていうのは……」

 

そこから始まる同人誌という本についての説明。

結構長かったが、大体はアニメや漫画をなどの作品を使った本だということらしい。

真耶さんはそうなんですか~、と感心していた。俺もまったく同じである。

黛先輩はさらにそこから熱を上げてコミックカーニバルについて説明してくれた。

ゆまり、そういう同人誌を皆で集まって売り買いするイベントらしい。年に二回あり、企業も多く参加しているらしい。参加人数は四万を超えるとか。

その突拍子もない数に真耶さんが驚いていた。

 

「まぁ、大体そういうイベントなのよ。わかった」

「はい」

「わ、わかりました」

 

返事を返すと、やっと本題に話せると黛先輩が言う。

 

「それで話を戻すけど、そのコミックカーニバルに私は毎回参加しているの。それで他の人も一緒に参加してたんだけど、急遽三人欠員が出ちゃって。人数が揃わないと参加できない様になってるのよ……コスプレは」

 

それを聞いて大体わかった。

つまり黛先輩の頼みはそのイベントへの参加か。

確かに人数が減っていては参加出来ないのだから頼み込むのも分かる。だが、それだけでは更識さんと一緒にお願いしにきた理由はないし、そもそも俺達でなくても良いはずだ。何故この話が此方に来たんだ?

そう考えていることを察してか、さらに黛先輩は説明する。

 

「ああ、それでね。実はそのイベントでベストカップルコンテストも行っているの。今回の優勝賞品が特撮ヒーローの等身大稼働フィギアなのよ。簪ちゃん、こういうのが好きって聞いてたから話してみたの」

「うん! あのフィギアは絶対に欲しい…」

 

黛先輩が俺達にそう説明すると、更識さんが顔を上気させて力強く頷いた。

それで大体の察しが付いてくる。

つまり……コミックカーニバルでコスプレ参加をする黛先輩は突然の欠員に困っていた。それを埋めようと誰かに頼もうとしたところでベストカップルコンテストとその優勝賞品を思い出し更識さんに俺達の参加をお願いしたということか。

俺達が参加すれば欠員が埋まって黛先輩はコミックカーニバルに参加できる。更識さんは優勝賞品を手に入れるために俺達に参加を頼みに来たというわけだ。

俺達が参加すれば、黛先輩は大手を振って参加出来るし、ベストカップルコンテストに参加できるから優勝できるかもしれない。

まさにお互いの利益が一致した結果か。

 

「あ、勿論無料とは言わないわ。二人が参加してくれれば、このチケットをあげる」

 

黛先輩は慌てて何かのチケットを取り出した。

 

「それは?」

「これはね~……じゃ~ん、某有名な高級レストランのディナー招待券で~す。お姉ちゃんにねだりまくって何とか手に入れたのよ」

 

成程。

ちゃんと報酬を用意しているようだ。しっかりしている。

 

「わ、私も…これ……」

 

更識さんも少しおっかなびっくりな感じで何かのチケットを目の前に差し出した。

 

「さ、更識家御用達の高級洋菓子店の洋菓子十五個引き替え券」

 

更識さんも頑張ってこのチケットを手に入れてきたようだ。

二人とも結構必死である。

俺としては困っているのなら助けたい。別に報酬が欲しいとは思わないが、更識さんには生徒会で本当によく働いてもらっているし、黛先輩には学園祭で世話になった。その恩は返したい。

 

「旦那様、参加しましょう」

「真耶さん…」

 

二人の話を聞いて、真耶さんも俺と同じように考えたらしい。

真耶さんが参加すると言って俺が反対することなんて有り得ない。

 

「わかりました。参加しましょうか」

「はい!」

 

俺の返答を受けて嬉しそうに笑う真耶さん。

本当に可愛くて仕方ない人だ。ちょっとしたことでも笑顔になって可愛い。

俺は二人に向き合って参加することを伝える。

 

「分かりました。コミックカーニバル及びカップルコンテストの話、受けさせてもらいます。でも、その報酬は受け取れません。二人とも、それを用意するのにとても苦労したのでしょう。困っている人を助けるのに報酬など受け取れません。だからその報酬はいいですよ」

 

俺がそう言うと、二人はいやいやと言って参加を喜んでくれたが同時に報酬であるチケットを無理矢理受け取らされてしまった。

ここで返すと言った場合、さらに同じ事の繰り返しになることが多い。どうしようかと考えていたら、真耶さんが受け取りましょうと言ってくれた。

 二人は話が済むと、カフェから静かに出て行った。

 

「どんなイベントなんでしょうね。楽しみですよ」

 

真耶さんは参加が決まってから子供のように無邪気にイベントを楽しみにしていた。

そんな様子も可愛らしくて、俺は微笑んでしまう。

 

「それに……旦那様とディナー……楽しみです」

 

潤んだ瞳で見つめられながらそう言われ、俺は心臓を撃ち抜かれた。

 

 

こうして、俺と真耶さんは『コミックカーニバル』及び『カップルコンテスト』に参加することになった。

 

 


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