言うだけ言って自分はどうなんだと言いたくなってしまいます。
二月もそろそろ終わりを迎えそうな今日この頃。
俺はいつもと同じように生徒会で仕事をしていた。
三月も行事が多くなることや、三年生の卒業式などやることが多いので仕事も必然的に多くなる。
「ふぇ~~~ん、終わらないよ~~~~!」
会長が泣きべそをかきながら書類を片していくが、机に積まれた書類はまったくその量を減らさない。会長に認可を貰わなければならない書類も多くあり、それが段々と会長の元へと溜まっていく。
その量が会長の処理速度を超えているものだから、まったく減らない。寧ろ増え続けていた。
「虚ちゃ~~~ん、手伝って~~~~~!!」
会長が布仏先輩に泣き縋り付いてきたが、布仏先輩も書類と悪戦苦闘していてそっちまで手を回せない。でも、この人は会長に甘いから自分の仕事を放置してでも手伝おうとするのだろう。悪いがそういうわけにはいかない。
「会長、布仏先輩もそれどころではないので無理を言わないで下さい。寧ろ泣き言を言っている暇があるのなら手を動かして下さい」
「鬼! 織斑君の悪魔、人でなし~~~!!」
俺に防がれたことで会長が俺に文句を言ってきた。
そんな泣きそうな目でジロっと睨まれても仕方ないだろう。ご自分の仕事なのだから。
「それで結構です。それで仕事が進むのなら」
「うぇ~~~ん、何でこんな目に~」
「あなたがIS学園の生徒会長だからでしょう」
「そうだよ、お姉ちゃん」
俺が会長にそう言うと、それに同意して頷く更識さん。
実は二人が和解した後、更識さんは生徒会に所属することになった。
此方としても猫の手も借りたい状態であったため、(一夏はそんなことはないが、生徒会全体を見るとやはり忙しい)その申し出は正直有り難かった。
なので会長と俺が推薦人となり、更識さんを生徒会に入れたのだ。
実際に更識さんは手際は良く、上手く書類処理をこなしている。彼女自身、とても頑張り屋なこともあって仕事も熱心であり、今となっては生徒会に欠かせない存在となっているのだ。
(現在、生徒会のメンバーは五人。会長に布仏先輩に俺。そして更識さんと布仏さんだ。ただし、布仏さんは戦力外であり、会長もサボり癖が激しいこともあって戦力にし辛い。実質三人で仕事をしていると言っても良い)
二人にそう言われ、会長が駄々を捏ねる子供のように喚く。
「だったら会長辞める~! 織斑君がやればいいよ! だって学園最強じゃない。私だって勝てないわよ、あんなの!」
それを聞いて呆れ返ってしまう。
「何を言っているのですか。俺はあくまで出向扱いの身ですよ。それにIS学園でISを用いて最強だからこその生徒会会長でしょう。自分は武者です、ISは使えませんからね。それとこの程度で泣き言を言わないで下さい。布仏先輩も三月には卒業されてしまうのですから、その後の仕事はさらに苛烈なものになりますよ。それらを処理するのは会長なのですから」
「うわぁ~~~~~ん! 虚ちゃん、留年して~~~~~~!!」
「む、無茶を言わないで下さい、お嬢様…」
さて、どうしたものか。
そう悩みながらも手を動かし考えていると、更識さんが俺に向かって手を上げていた。
「どうしたんですか、更識さん?」
「あ、あの…私に妙案があります」
どうやら駄々を捏ねている会長を諫める案が更識さんにはあるらしい。
ならば任せてみるべきだろう。正直俺はきつく言い聞かせることか出来ないので。
すると更識さんは会長に近づき、顔を恥ずかしそうに赤らめながら何かを囁いた。どうやら周りには聞かれたくないらしい。
「お、お姉ちゃん、今日のお仕事、頑張ってくれたら、一緒にお風呂に入ってあげる…」
「何ですって!? ヨッシャーーーーーーーーーーーーーーーーーー、漲ってきたぁああああああああああああああああああ!!」
それを聞いて会長がさっきまで捏ねていたのが一新し、やる気に満ちた表情でさっきに比べれば幾分マシな速度で書類を処理し始めた。
無論、武者の聴力はその囁きを捉えている。
成程、会長には更識さんが覿面だと。これは使える。
仮に俺が会長と同じような状況に追い詰められていたとき、真耶さんに似たようなことを言われたら……。
少しだけ想像してしまう。
『ま、まだこれだけ書類が残っているのか……もう帰りたい…』
『そ、そんなこと言わないで下さい! 後もう少しなんですから』
『で、ですけど……』
『だ、だったら……旦那様が頑張ってくれたなら、この後一杯キスしちゃいます』
うん、こう言われたのなら俺は死合い以上の集中力を出して残りの書類を片すだろう、絶対にだ。
そんな事を考えてしまい、内心でにやけてしまう。
それを表に出さないように気を付けながら書類を処理していたら、更識さんに話しかけられた。
「あ、あの、織斑君。この後、少し話したいことがあるの。時間空いてる?」
「ええ、大丈夫ですよ」
それを聞いて更識さんは何か安心したような顔をしていた。
一体何だろうか?
そして本日の生徒会の仕事も無事に終わった。
会長は椅子に座りながら真っ白に燃え尽きていた。
「か、簪ちゃん…私、やったわ……」
何か呟いていたが、それは更識さんには届いていなかった。
更識さんは生徒会の業務が終わり次第、俺に話しかけてきた。
「あ、あのね。実はお願いがあるの。織斑君と山田先生に…」
「俺と…真耶さんにですか?」
「う、うん」
一体何のお願いだろうか?
俺だけならともかく、真耶さんも一緒とは……まぁ、会長のお願いに比べればかなりまともなお願いだろう。そこまで嫌か予感もないし、問題無いかな。
「そ、それでね…詳しく話したいから、十五分後に学食のカフェに来て」
「わかりました。では十五分後に学食のカフェに向かいますね」
俺は更識さんとそう約束して生徒会室を出る。
どちらにしろいつも真耶さんとはカフェで待ち合わせをしているのだから、遅れることはないだろう。
そう思いながら、俺は学食のカフェへと向かった。
そしてカフェに着き次第、真耶さんの座っている奥の座席へと向かう。
「すみません、遅くなりました」
「あ、旦那様ぁ!」
声をかけると、真耶さんは花が咲いたかのような満面の笑みを浮かべ此方を振り向く。
そして俺が隣に座り次第、俺の体の体を預けてくっついてきた。
「どうしたんですか?」
「すみません。その…旦那様に会えなかった間が寂しくて……」
顔を赤らめつつ潤んだ瞳で俺を見つめそう言ってくる真耶さん。
そのあまりの可愛さしさに俺の心臓は早鐘を打つ。
そのまま手を回して抱きしめてあげる。
「すみません、寂しい思いをさせてしまって」
「いいんです。こうして旦那様が抱きしめてくれますから」
俺の腕の中で真耶さんは幸せそうに顔をとろけさせていた。
そう言ってもらえると、俺も嬉しくて仕方ない。
ちなみに……真耶さんの受け持つ六時間目を終えてから生徒会活動をしている時間も合わせ、たった三時間しか掛かっていない。
俺は腕の中の真耶さんの柔らかな感触にドキドキしつつ抱きしめていると、熱の籠もった瞳で見つめられる。
「…旦那様……キスして下さい……」
最高に可愛くて、したくて仕方なくなるがここはまだ学園内。
流石に不味いだろう(とっくのとうにアウトだろうという突っ込みは無しで)と思い、何とか踏みとどまる。
「ま、まだ学園内ですよ。だからそれは……」
そう答えたら、何やら真耶さんが顔を赤くし始めた。そして、
「んっ」
「え?」
一気に顔が近づいて俺の唇にキスをしてきた。
何が起こったのか、少しの間理解出来なかった。だが、その甘い柔らかな感触を間違えるはずがない。
真耶さんは顔を真っ赤にしながら上目使いに俺を見つめながら恥ずかしそうに言う。
「あ、あんまりごねると…わ、私からキスしちゃいますからね」
そう言って更に俺にキスをする真耶さん。
今度は長めに唇を俺の唇に押しつける。
柔らかく甘い感触が俺の唇を通して伝わってきて、真耶さんの甘い香りが鼻腔に大量に入ってくる。
そして少し押しつけた後に唇を離し、去り際にぺろりと俺の唇を舐めていった。
「えへへへへ、旦那様の唇、甘いです……」
「っ!?」
顔を恥ずかしそうに真っ赤に染めつつも幸せそうに笑いそう言う真耶さん。
それはあまりのも魅力的すぎて、俺の理性の第一陣を突破するのには充分な破壊力であった。
俺はそのまま真耶さんを更に抱きしめ、真耶さんの唇にキスを返した。
「んぅ……」
それが当然分かっていると言わんばかりに真耶さんは俺に応じ、気持ちよさそうにキスを返してくれた。そしてそのままお互いにキスをしあう。
「ふぅ……真耶さんはイジワルですね。俺がこうなってしまうのをわかっているんですから」
「だって…旦那様からしてもらいたかったんですもの……」
潤んだ瞳でそう言われ、俺は更にドキドキしてしまう。
まさに魔性とでも言うべきだろうか。俺は真耶さんに引きつけられて仕方ない(このバカップル限定)。
「旦那様…だからもっと…キス…」
「はい…」
キスをもっとねだられ、俺はそれに応じキスをする。
俺の腕の中で真耶さんは本当に幸せそうにキスをする。
それが嬉しくて、そろそろ深い方に突入する頃かと思いしようとしたら……
「ごっめ~~~~~~~~ん! ちょっと部活で遅れてさ~」
「ご、ごめんなさい、織斑君。黛先輩を呼ぶのが遅れてしまって…」
突如、更識さんと黛先輩が入って来た。
ちなみにこの席は他の席からは死角になっていて、近づかないと見れない。だからこそ、こうして真耶さんとイチャつけるわけだが……
「「あ」」
入って来た二人と俺達が目が合い、二人は同時にそんな声を発した。
そして二人が見た物を理解した瞬間、
「「お、お邪魔しました~~~~~~~~~~~~!!」」
同時に二人は顔を真っ赤にしてこの場所から出て行ってしまった。
そして少しした後、二人はこの場所に戻ってきた。
その顔は心なしかまだ赤くなっている。
俺と真耶さんは凄く気まずかった。
こうして、俺は改めて更識さんの話を聞くことになったのだ。