何とか自分の撮影を終えたと思ったのだが……
「せっかく美しいものが撮れてるのよ! もっと一杯撮っちゃいなさい!!」
「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
雷蝶様が大声で煽り、スタッフの皆がテンション高めで反応を返していた。
まだまだ終わりそうにないことに俺は内心辟易し始めていたが、真耶さんとマドカは楽しそうにしていた。
「もっと色んな恰好が出来るのか! 楽しみだな、真耶義姉さん!」
「そうですね~。私も楽しみです! 旦那様のもっと格好いい姿を見たいです」
とても楽しそうに笑う二人。
まぁ、この二人の楽しそうな笑顔が見られるのなら、それでも良いかと思える。
そして継続される撮影。
俺達三人は衣装を着替えに控え室に向かい、そして着替えてまたスタジオに戻ってきた。
「うわぁっ! 旦那様……格好いいです……」
真耶さんが俺を見て感嘆の声を上げる。
俺が着ている服は……何故か執事服だった。何故こんな写真を撮るのだろうか? とスタッフの方に聞いたところ、読者サービスだとか。良く分からん……。
しかし、何度も思うことだが恋人に格好いいと言われて悪い気は絶対にしない。
俺は照れつつも気恥ずかしそうに笑った。
「そ、そうですか。そ、その…さっきも思いましたけど、真耶さんもとても似合ってますよ。何だか妖艶な感じがして……見ててドキドキしちゃいます」
「は、はう~~~~~~~~~~。そ、そうですか。そう言ってもらえると嬉しいです」
俺が顔を赤くしながらそう褒めると、顔を赤くして嬉しそうに笑顔になる真耶さん。
真耶さんの恰好は少し前に来ていたゴスロリ衣装。
改めて見ても凄い服だと思う。だが、とても真耶さんには似合っていて妖しい魅力に溢れていた。
黒と紫、それと紅のコントラストが目に鮮やかに映り、お腹に巻かれたコルセットにより更に胸が強調されていた。目の前に紫色のメッシュ越しに見える胸の谷間が艶めかしい。スカートも黒くフリルがたくさん付いた物で、さらにガーターベルトが真っ白い足に付けられていた。
化粧と合わしても妖艶で、さらに妖しい香りが香ってきた。
正直ドキドキして仕方ない。今すぐにでも抱きしめてキスをしてしまいたくなるくらいに美しく艶っぽかった。
「そうですか~、似合ってますか~。良かったですよ。こういう服は若い子しか着ませんから、私に似合うか分からなかったんですよ」
俺を上目使いで見つめながらそう言ってくる真耶さん。
(うっ……凄い艶っぽいのに可愛い!)
気を付けていないと、真耶さんの魅力に倒されてしまうかもしれない。(既に何度倒されたことか…)
本人は年齢のことを心配しているようだったが、そんなことは全くないと思う。
童顔なので年齢をまったく感じさせなく、それでいて体はその年齢の女の子では有り得ない程の成長を遂げている。はっきり言って反則級である。
寧ろ似合い過ぎて俺はいつその魅力に歯止めが効かなくなるのか心配で仕方ない。
「寧ろ似合い過ぎて、今すぐ抱きしめて一杯キスしたいくらいですよ」
「まぁっ、旦那様ったら。でも……嬉しいです。帰ったら一杯して下さいね」
「っ!? ……はい」
素直に返事を返したら、赤らめた顔で見つめられながらお願いされてしまった。
恰好と合わせて、その破壊力はいつもの五倍以上。理性の柱が斧か何かで叩き折られそうになった気がした。それを必死で堪えると、鼻の奥が熱くなってきた。
俺が真耶さんの魅力に倒れかけていると、今度はマドカがやってきた。
「どうだ兄さん。さっきと同じで義姉さんとお揃いだ!」
その場でぴょんぴょんと跳ねるようにはしゃぐマドカ。
服装はさっきと同じ白ゴスロリ。
歳より若干若い感じだが、服装の御蔭で此方も充分に魅力的になっている。
「ああ、充分に可愛いぞ。男の子が見たら放っておかないだろうな」
「そうか! 兄さんが言うのなら、そうなんだろうな」
俺はついついマドカの頭を撫でながらそう答えると、マドカは気持ちよさそうに目を細めながら喜んでいた。
だが、いきなりマドカの頭は俺の手を離れた。
「駄目です! まだマドカちゃんはお嫁には行かせませんよ~」
「わぷっ…どうしたんだ、真耶姉さん?」
見ると真耶さんがマドカを抱き抱えていた。
大切そうに抱きしめる真耶さん。マドカは真耶さんの大きな胸に顔が埋まり、少し苦しそうにしていた。
あれ? それは兄である俺の台詞ではないだろうか?
まぁ、それだけ真耶さんがマドカを大切にしてくれているということなのだろう。恋人として嬉しい限りだ。ただ、真耶さんとマドカは姉妹というより母と娘のように見えるのだが。
そんな母性的な面も魅力的で、俺はますます真耶さんのことが好きになってしまう。
そんな風に二人を温かい目で見ていたら、突如シャッター音が鳴った。
それに驚き、音がした方を向くとそこには一人の女性スタッフがカメラを片手に構えていた。
「す、すみません! 何だかとても良い絵だったので」
そう慌てて謝罪する女性。
年の頃は俺達より少し上くらいだろうか? 師匠と同じか下くらいに見える。スタイルもかなり良いようで、大きな胸が頭を下げた際に大きく揺れた。無論、真耶さんより大きくはないし、俺は見なかったことにする。これが師匠だったらじっくり見てそうだが。
「わ、私はこういう者です」
女性はそう言って、両手で名刺を突き出すように渡してきた。
俺はそれを受け取り名前を確認する。
「えぇ~と…カメラマン『一ヶ尾 瑞陽(いちがお みずひ)』
「はい。ここのスタジオでカメラマンをやらせて貰ってます。まだ若輩者ですが、頑張ってます」
一ヶ尾さんはそう言って嬉しそうに話していた。
笑顔が良く似合う人で、以外とたおやかな感じを感じた。
「何見てるんですか、旦那様」
一ヶ尾さんを見ていると、真耶さんが俺をジト目で見てきた。どうやら見とれていると思ったらしい。内心、そんな焼き餅焼きなところも可愛くて笑ってしまう。
「いや、その…」
とはいえ、見ていたことが事実なので少しどもってしまう俺。
「だ、旦那様は私だけの旦那様なんですからね!」
「ぷっ!? ま、真耶さん!?」
それを見かねてか、真耶さんは自分の胸の俺の顔を抱き寄せた。
柔らかい感触が顔一杯に広がり、妖しく甘い香りが頭に響く。急な事もあり、俺は慌てふためいてしまう。
「い、いや、そういうわけじゃないんですよ」
「なら、どうして一ヶ尾さんを見てたんですか!」
何とか離して貰い、急いで真耶さんに見ていた理由を話す。
「何かこの人、師匠に似合いそうかなって思ったんですよ」
「そうなんですか?」
自分が考えていたことと違うことを言われ、可愛らしく口を開けてポカンとしてしまう真耶さん。
「何て言うか、凄く仲が良いですね。恋人がいないんで羨ましいです」
俺と真耶さんの様子を見て、一ヶ尾さんが顔を赤くして羨ましそうにしていた。
その後、師匠の写真を携帯で見せたら……
「あ……素敵な人……」
と好感触であった。
個人的に言わせて貰うのなら、師匠の顔を見て、そういう感想が出るということは……一ヶ尾さんも変人だと思った。
そして俺と真耶さんとマドカでの三人での撮影が始まった。
まずはゴスロリ服と執事服で、何やらお嬢様と執事のような写真を撮ったりした。
俺と真耶さんでイケナイ関係のような写真を撮ったり、マドカと真耶さんで姉妹のように仲良い所を撮ったりする。だが、この二人をカメラ越しに見ると、何やら百合の花が見えるとスタッフの方が言っていた。何の事やら?
次に先程着た最近の若者風な服で撮影し、真耶さんはショートパンツにタンクトップという服装で露出が激しかった。マドカも一緒の服だが、こうも違うものかと思わされた。
マドカが俺の首にぶら下がっているところなどを写真で撮ったりした。
そして最後に、俺はスーツ姿で真耶さんはセーターにロングスカートという服装。マドカは普通の私服で撮影を行うことになった。
ただソファで座る俺に、隣で手を繋いで幸せそうな笑顔で笑う真耶さん。マドカは真耶さんの膝の上に座り、体を預けて眠っていた。どうやら疲れたらしい。
これは……家族の風景だった。
俺と真耶さんは未来の構図を見たような気がして幸せを感じ笑い合っていた。
こうして写真は撮られ、俺達の写真撮影はやっと終わった。