始めに色々とあったが、やっと本来来た理由である仕事の話が始まる。
「一応獅子吼から色々と聞いてると思うけど、もう一回説明するわね。今回あなた達に来てもらったのは、麿が経営する六波羅の衣服ブランド『ROKUHARA』の十周年記念を飾るためよ。『ROKUHARA』では毎月服のカタログなんかを出しているのだけど、今回は十周年記念! より美しいくしなければいけないわ。だからこそ、今もっとも有名であるあなた達に来てもらったというわけよ」
雷蝶様が大仰しくそう俺達に理由を明かす。
獅子吼様から聞いていたので内容は殆ど知ってる。故に驚いたりはせずに話を聞いていた。
「まずは織斑、あなたとあなたの恋人を別々で撮影して、次に二ショットね。後はそうね~……そうだわ! あなたの妹も一緒に撮りましょうか。せっかく遊びにきたのだから。美しいものは撮られる義務があるわ!」
そう力説する雷蝶様。
その道理は良く分からないが、自信を持ってそう言っているのでそうなのだろう。
マドカが何やらワクワクとしていて落ち着きがなくなっていた。どうやら自分も俺達と同じことが出来ると聞かされて嬉しいらしい。
真耶さんは緊張してきたのか顔を強ばらせていた。
「真耶さん、大丈夫ですか?」
「き、緊張してきました……」
俺の方に顔を向けるが、笑顔が凄くぎこちない。
きっと凄く緊張しているのだろう。あまり人前に出る人ではないから慣れていない。俺もあまり人のことは言えないが。
そして雷蝶様の話は終わり、やっと撮影に取りかかる。
最初は真耶さんからであり、今は衣装を着替え化粧をしに控え室にいる。
俺とマドカはまだなので、雷蝶様と一緒にスタジオに来ていた。
マドカは初めて見るスタジオの機材を興味深そうに見ていた。
「なぁ、兄さん! あのキラキラした板はなんだ?」
「あれは反射板だ。写真を撮るときに光の調節に使ったりする道具だ」
「そうなのか~」
無邪気に感心するマドカ。
その様子に周りで準備作業をしていた作業員の方々から微笑をもらうが、少しばかり恥ずかしい。
もう少し落ち着いて貰いたいものだが、興味が尽きなくて仕方ないのだろう。
「すみません、騒がしくしてしまって」
気まずさから雷蝶様にそう謝罪をするが、雷蝶様は何か慈しむような目でマドカを見ていた。
「別にいいわよ。ここまで無邪気なのも久々に見るからね。あの馬鹿ばかり見ていると、こういうのは和むわぁ」
どうやら茶々丸さんのせいでかなり心が疲れているようだ。
しばらくそっとしておこう。
ちなみに雷蝶様が来ている理由は、この撮影などの全てを取り仕切るためだ。
何でも、
「麿以上に美しくものを魅せる者なんてこの世に存在しないわぁ!」
とのこと。
事実、参考に見せて貰った雑誌に映っていた人達は皆格好良く映っていた。
全部雷蝶様が監督したものなんだとか。あの洞察力といい、その見る目は確かなのだろう。
なら、きっと真耶さんのことをより美しくしてくれると思う。
なので俺は期待で胸が一杯だった。
そして約二十分後、真耶さんがやってきた。
「なっ!?」
「おぉっ!!」
真耶さんを見た瞬間、俺は言葉を失ってしまった。
マドカは真耶さんを見て感動していた。
(……綺麗だ……)
俺の目の前に現れたのはいつもと全く違った服を着た真耶さん。
かなり胸元が開いたブラウスに、フリルの多いミニスカート。それにショートのジーンズアウターを着ている。
化粧も丁寧にしてあり、いつもよりより大人っぽい印象を受ける。
いつもとは確実に違う真耶さんがそこにはいた。
「兄さん。真耶義姉さん、綺麗だな!」
「ああ、そうだな……」
マドカは興奮した様子で俺にそう言うが、俺はちゃんと答えることが出来ない。
正直見惚れてしまっていてそれどころではなかった。
「う~ん、中々じゃない」
雷蝶様も満足のようだ。
そして早速撮影が始まるのだが……
「う~~~~~ん」
雷蝶様が唸っていた。
理由は単純で、納得のいく絵が取れないから。
その理由は真耶さんにあった。
「はい、もうちょっと自然な感じで笑って~」
「は、はい!」
撮影スタッフさんにそう言われ真耶さんは返事を返すのだが、その声は緊張のせいで強ばっていた。
そう、真耶さんは緊張してしまっていて上手く笑顔を浮かべられないのだ。
そのせいで上手く撮影が出来ず滞ってしまっていた。
「ストップ、ストッォプ!!」
流石にこのままでは進まないと雷蝶様が撮影を一端止める。
そして俺の方を笑顔で見てきた。
「あなたの恋人をどうにかしてきなさい」
その笑顔の迫力に呑まれそうになりながらも、俺は何とか返事を返して真耶さんの所へと向かう。
真耶さんは撮影が上手くいかないことに焦っているようだった。
俺の姿を見次第、頭を下げて謝ってきた。
「すみません、旦那様! 私のせいで撮影が…」
「別にまだ何も問題ないですから、落ち着いて下さい。ね」
俺は優しくそう言うが、真耶さんはそれでも緊張していた。
「で、でも……そ、その、緊張してしまって……」
想像以上の緊張に、どう緊張を解せばいいのか分からなくて戸惑っているようだ。
こういうとき、自分ならどうしただろうか……う~ん、分からない。
だが、真耶さんい限ってなら解す方法を俺は知っている。
俺は未だに緊張でガチガチになっている真耶さんに笑顔を向ける。
「なら、俺が緊張を解すおまじないをしてあげます」
「そんなものがあるんですか!?」
俺にそう言われ真耶さんがかなり驚く。
これからすることを考えると、恥ずかしいがおかしくて顔がにニヤけそうになってしまう。
期待を込めた視線で俺を見つめる真耶さん。
そんな真耶さんににっこりと俺は笑顔を向けると……
一瞬で顔を近づけ、真耶さんの唇にキスをした。
軽く触れるだけのキス。しかし、当人には確実にわかるキス。
俺はそのまま唇を離し笑顔で真耶さんを見つめる。
「え……?えぇっ……」
キスされたことに気付き、驚きの声を上げそうになるのを人差し指を真耶さんの唇に当てて防ぐ。
そのまま真耶さんにしか聞こえないように囁く。
「俺が見てますから、安心して下さい。俺をもっとドキドキさせて大好きって言わせたいのでしょう? だったら、これぐらいで緊張してたら言わせられませんよ。それに……俺にもっと色々な真耶さんを見せて下さい。見せて、もっと大好きにさせて下さい」
そう伝えたら、真耶さんの顔がかなり真っ赤になった。
化粧をしていていつもより大人っぽいけど、やはり真耶さんは真耶さんだ。可愛い俺の真耶さんだ。
「……そうですね。はい、わかりました! 旦那様が見ていてくれるんですから、もっと頑張らないと。見てて下さいね、旦那様。もっと一杯私のこと、見て貰いたいですから」
そして緊張が解れたこともあってか、真耶さんはとても良い笑顔になった。
うん、実に良い笑顔だ。可愛くて俺も微笑んでしまう。
もう大丈夫だと判断して離れると、真耶さんが俺に手を振ってきた。俺も手を振り返すと、さらに嬉しそうに笑った。
雷蝶様のところまで戻ると、何やら面白そうな物を見た顔で雷蝶様が言ってきた。
「随分と大胆なことをするじゃない」
「いや、お恥ずかしいかぎりで」
他の人には気付かれなかったようだが、流石に雷蝶様は誤魔化せなかったようだ。実際に恥ずかしい。
「兄さん、真耶義姉さんに何を言ったんだ? さっきまでとは全然違うぞ」
マドカは気付かなかったようで、不思議そうに俺に聞いてきた。
それを誤魔化しながら流しつつ、俺は真耶さんの方に視線を向けた。
再会した撮影はさっきまで進まなかったのが嘘のように進んだ。
真耶さんは花が咲いたような笑顔で写真を撮られていく。その姿は可憐で儚そうな感じがしたり、躍動的で活発なイメージを湧かせたりと、多種多様な印象を与えていく。
そのどれもが綺麗で美しく、俺を夢中にさせた。
「う~~ん、いいわぁ! いいわよぉ! もっと、もっとよ。もっと美しく出来るわ! そこ、もっと反射板の位置を上にずらしなさい! そこはライトを少し控えて!」
雷蝶様は若干興奮した様子で周りのスタッフに指示を飛ばしていく。
「真耶義姉さん、綺麗だなぁ! すごいすごい!!」
マドカは撮影されている真耶さんを見て、凄いとはしゃいでいた。
そして一端撮影が終わると、真耶さんは俺達の所へと来た。
「どうでした、旦那様?」
満面の笑みで俺にそう聞いてくる真耶さん。
俺はそれだけで魅力にクラクラする。
「とても綺麗で美しかったです。こんな綺麗な人が俺のお嫁さんだと思うと、幸せで仕方ないですよ」
そう本心から答えたら、真耶さんは恥ずかしさから顔を凄く真っ赤にした。
「もう……旦那様ったら……」
凄く嬉しそうに笑った。その姿が可愛くて俺も笑顔になる。
「それじゃついでに他の写真も撮っちゃいましょうか」
と雷蝶様が言い、周りにいたスタッフが威勢良く返事を返す。
「旦那様、いってきます」
楽しそうな笑顔で真耶さんが俺に言う。
俺もそれに返事を返す。
「はい。行ってらっしゃい」
俺にそう言って貰ったのが嬉しいらしく、真耶さんははしゃいだ様子でスタッフと一緒に控え室へと向かった。
「あ、そうそう。この子も借りていくわね」
雷蝶様がそう言ってマドカも連れて行かれた。急遽決まったことだが、一体どんな服を着させられることやら。
「兄さん、行ってくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
マドカは楽しそうに雷蝶様と一緒に控え室へと向かった。
それからが凄かった。
真耶さんが新しい服を色々と着て撮影されていくのだが……
時に真っ白なワンピースを着た深窓のお嬢様のようになり、また時にはジーンズ生地で出来たショートパンツにタンクトップといった露出が激しく動きやすい服だったりと、様々な衣装で出てきた。
「どうです、旦那様?」
そのたびに真耶さんは俺に感想を求めてくるのだが、ワンピースを着たときは、あまりの儚い美しさにドキドキしてしまい、タンクトップのときは胸元や付け根近くまで露出した太股にドギマギした。心なしか真耶さんも見せつけるようにしていた気がする。
正直魅力的過ぎてしかたない。俺はそう聞かれる度にドキドキして仕方なかった。
そして次に来たのは……まるで西洋人形のような服だった。
所謂ゴスロリというもの。
童顔な真耶さんにはとても似合っていて、何やら妖しい魅力を感じてしまう。
体のラインも適度に出ていて大きな胸が強調されており、それを見てしまって俺は赤面してしまう。
そうして俺はさらに真耶さんの姿にドキドキと胸を高鳴らせていると、スタジオの入り口から大きな声が聞こえてきた。
その方向を見ると、そこにはマドカが立っていた。
服装は真っ白で、フリルなどがたくさんあしらわれたスカートを穿いていた。
所謂……シロゴスロリ。
「どうだ兄さん、似合ってるか」
マドカは俺の方に嬉しそうに笑顔を浮かべ駆け寄ってきた。
どうやら普段と違う服が着れて嬉しいようだ。
「ああ、似合ってるよ」
「そうか! 真耶義姉さんとお揃いだな!」
さらに真耶さんとお揃いというのが嬉しいらしい。
そのまま真耶さんの元にスキップしそうな勢いでマドカが行く。
「キャーー! マドカちゃん、可愛い! とても似合ってますよ!!」
マドカの恰好を見てテンションを上げる真耶さん。
義妹の可愛い姿を見れて嬉しいようだ。
「そうか。真耶義姉さんも似合ってるぞ。兄さんがさっきからずっと釘付けだからな」
「そ、そんなぁ…えへへへ…そっかぁ、旦那様が釘付けかぁ…嬉しいですね~」
マドカにそう言われ、真耶さんが顔を恥ずかしそうに真っ赤にしつつも嬉しそうに笑う。
そんな真耶さんが可愛すぎて、俺は心臓がドキドキし過ぎて仕方ない。
そして二人で撮影をすることになり、マドカは思いっきり真耶さんに甘えて抱きついていた。
そんなマドカが可愛いらしく、真耶さんも嬉しそうに笑いながらマドカを受け止める。
スタッフのみんなは良い写真が撮れるとテンションを上げていたが、俺は母性溢れる真耶さんの姿にときめいていた。
(あぁ……本当に可愛くて綺麗で美しくて…凄い人だな。俺のお嫁さんは……)
そう考えると、幸せで仕方ないのであった。
こうして二人の撮影は終わり、今度は俺の撮影になるのであった。