別のキャラが活躍します。
服のモデルの仕事の依頼を受けて数日後、俺と真耶さんはとある巨大なビルの前に来ていた。
「うわぁ、大きいですね」
真耶さんがビルを見上げながら、感想を洩らす。
その姿が無邪気なものだから、可愛くて俺は微笑んでしまう。
ちなみに…俺はともかく教師である真耶さんがこんな仕事を引き受けても大丈夫なのか? という疑問に関しては流石六波羅と言うべきか。学園側に有無を言わせなかった。
千冬姉が苦り切った顔で許可を出してくれた。
きっと上からお小言を言われたのかもしれないので、申し訳無い気持ちで一杯である。
そんな千冬姉のためにも、今回の仕事を頑張ろうと思うのだが……
「そうだな、真耶義姉さん!」
何故だかマドカも付いてきてしまった。
まぁ、今日は学園も休みだし問題という問題もないのだが……。
ちなみに付いてきた理由は、
「姉さんが『お前は経験が色々と浅い。だからたまには一夏と一緒に行って色々と見て学べ』って言っていたから。ついてきちゃ駄目か?」
と上目使いで見ながら言われた。
確かにここ最近忙しいこともあってマドカとあまり話せなかったこともあり、兄として不甲斐なく思ってはいた。たまには兄らしく妹の世話をしたいとも思う。だが、一応は仕事としてここに来たのであり、そういうわけには……
と考えていたのだが、
「いいえ、そんなことないですよ! 一緒に行きましょう」
と真耶さんが即決した。
真耶さんにとってマドカは完璧に義妹らしく、可愛くてしかたないらしい。
義妹のお願いに真耶さんはとても嬉しそうだ。
兄としては嬉しいが、恋人としては複雑な感じがして何とも言えない気分になる。
「マドカ、あまり皆に迷惑をかけるようなことはしないようにな」
「ああ! 兄さん達の迷惑にならないようにする」
マドカは元気よく返事を返す。
楽しんでいるようで何よりだ。とても良い笑顔をしていた。そんな笑顔が見れると、連れてきた甲斐があるというものだ。
「ほら、マドカちゃん。手、繋ぎましょうか」
「うん!」
真耶さんはマドカにそう言い手を差し出すと、マドカは笑顔で握り返した。
その姿は姉妹というよりも親子のように見える。
微笑ましい光景に俺も笑顔になるが、最近マドカが更に幼くなっているのは気のせいだろうか?
とても亡国機業で戦闘員をしていたと思えない。
「何しているんだ、兄さん? 兄さんも反対側の手を繋いでくれ」
「え? わ、わかった」
感慨深くマドカを見ていたらマドカにそう言われ、急いで言われた通りにマドカの繋いでない手を繋ぐ。
「んふふ~~~」
そうしてやると、マドカはとても上機嫌になった。
そんなマドカを優しく見て、そして俺の方を振り向き真耶さんが呟いた。
「こうしていると……何だか子連れの夫婦みたいですね……」
その顔は恥ずかしさから赤くなりつつも、どこか幸せそうな笑みを浮かべていた。
「……そうですね。きっと結婚して子供が産まれたらこんな感じなんでしょうね」
「っ~~~~~~~……そうですね。そうなるよう頑張りますね……」
そう言ってくれる真耶さんのことが嬉しくて俺も笑顔で答えと、真耶さんは顔を真っ赤にしながらも幸せそうな笑顔で返事を返してくれた。
うん、やっぱり真耶さんの笑顔は可愛いくて素敵だ。
俺も将来のことを考えてしまい、顔が恥ずかしくて赤面してしまうがにやけてしまう。
しかしいつまでもそうしている訳にはいかないので、俺はマドカと手を繋ぎ真耶さんと一緒にビルへと入っていった。
ビルに入り、案内された部屋で待つこと数分。
扉が開かれ、中に人が入ってきた。
「いきなり悪いわねぇ。呼び出したりしてしまって」
そう声をかけてきたのは、凄い派手な服を着て、濃い化粧をした男性であった。
俺は何回か会っているから平気だが、あまり会ったことのない真耶さんと初めて会ったマドカはその姿に驚き、俺の後ろに隠れるように引いていた。
「お久しぶりでございます、今川 雷蝶様。織斑 一夏、呼びかけに応じここに馳せ参じました。
俺はその化粧の濃い男性…今回俺達に仕事を頼んだ張本人たる今川 雷蝶様に誠意を見せて挨拶する。
「いやぁねぇ~、別にそんな堅苦しく挨拶しなくてもいいわよ。頼んだのは麿だしね。そんな硬ッ苦しく話さなくてもいいわよ」
「そ、そうですか」
「ええ。なんたってお父様がお認めになられた者だもの。その美しさは麿には及ばないけど、結構な物よ。美しいものなら、麿は大歓迎よ」
と雷蝶様は答えた。
他の四公方の方とは色々話したことがあるが、この方とは話したことが殆ど無いためにどう接して良いのか測りかねる。
そのため、俺は話しかけづらい。
「ところで……あなたの後ろで隠れている黒髪の娘は誰かしら? 麿はあなたとあなたの恋人しか呼んでいないのだけれど」
雷蝶様は俺の後ろに隠れるマドカを軽く見ながら聞いてきた。
自分のことを当てられ、ビクッと震えるマドカ。
「すみません、妹です。今日は社会科見学も兼ねて連れて行こうと思いまして。ほら、マドカ。挨拶を」
俺は少し慌ててマドカに挨拶するよう促すと、マドカはおっかなびっくりに前に出て挨拶を始めた。
「お、織斑 マドカだ。よろしく…」
明らかに怖がった様子であり、とても失礼に当たる。
そのことを注意しようと思ったが、雷蝶様は気にした様子がない。
挨拶をされた雷蝶様はというと、何やらマドカの顔をしげしげと見始めた。
「へぇ~、ほぉ~、これは~」
「っ!?」
マドカはそれが怖かったにか、俺の後ろに隠れてしまった。
「すみません」
俺はマドカの非礼を詫びる。
「いや、別にいいわよ。しかしこの子、このまま成長したらかなり美しくなるわよ。無論、麿ほどじゃないけどね」
と、上機嫌に俺に言ってきた。
あまり気にしていないので、俺としても胸を撫で降ろす。
「兄さん、一体この人は何なんだ。見るからに男なのに女みたいな口調でしかも化粧もしてる。確か男なのに女の恰好をして女口調で話す人のことを『おねぇ』とか、『おかま』っていうんだろ。この人もそうなのか」
せっかく安心して胸を撫で降ろしていたというのに、マドカが更に余計な事を言ってしまった。
「だぁあああれがっ、おかまですってぇえええええええええええええええええええええええ!!」
さっきまで上機嫌だったのが一変して、凄く雷蝶様が激情する。
「っ~~~~~~~~~~~~~~~!?」
「す、すみません! 妹が飛んだ失礼なことを」
「す、すみませんでした!」
マドカは雷蝶様の怒りを怖がって俺の後ろにすぐ隠れ、俺と真耶さんは慌てて謝罪する。
「麿は別におかまでもおねぇでもないわよ!! ただこれが美しいだけよ!」
捲し立てるように雷蝶様はそう言うと、少しすっきりしたのか静かになった。
俺はそれを見計らってマドカに謝るよう言う。
「ほら、マドカ。謝りなさい」
言われたマドカは素直に雷蝶様の前に出て、頭を下げる。
「ごめんなさい」
「すみません。マドカちゃんはあまり人付き合いがなくて……」
マドカの謝罪と一緒に真耶さんも助けを入れる。
その姿はまさに母親そのものであり、俺はそんな姿を見れて嬉しく思う。
雷蝶様はそのままマドカの目をしばらく見ると、何かを納得したのかマドカのことを許してくれた。
「すみません、雷蝶様。マドカも決してわざとというわけでは」
「わかっているわよ。あの子の目を見たけど、凄く澄んでいて美しかったわ。それを見ればあの子が純粋なのがわかるもの」
目を見ただけでマドカのことを理解するとは、さすが六波羅四公方と言うべきだろうか。その洞察力の凄まじさに感心する。
「それに……常日頃あのお馬鹿(茶々丸)にからかわれていれば嫌でもわかるわよ。わざとか無邪気故の天然なのかなんてね」
「……そうですか」
少し疲れた感じにそう言う雷蝶様。
どうやらいつも茶々丸さんにからかわれているらしい。
かなり濃い人だが、この人も茶々丸さんの被害者のようだ。
「心中……お察しします」
「ありがと」
獅子吼様に続き、雷蝶様ともうまくやっていけそうな気がした。
その後、雷蝶様と茶々丸さんの愚痴で盛り上がりしばらく話した。
マドカも出された茶菓子に目を輝かせ、美味しいと言って喜び雷蝶様への警戒も緩んだようだ。
マドカの中で雷蝶様は『恰好としゃべり方は変だがいい人』という認識になったようだ。
真耶さんはそんなマドカを笑顔で見ながら世話を焼いている。
「ほら、マドカちゃん。口元に食べかすが付いてますよ」
「んぅ…」
マドカにそう言うと、真耶さんはポケットティッシュを取り出してマドカの口元に付いていた食べかすを拭き取ってあげていた。
その様子にを見て俺は笑ってしまう。
そんな和やかな中、やっと仕事の話をすることになった。
真耶さんがどんな服を着るのか、正直楽しみで仕方なかった。
俺はそんな期待を胸に、雷蝶様の話を聞くのだった。