行事終了のブザーが鳴り響き、みんな講堂に集められた。
さっそくこの行事の結果が知りたいと、皆期待に胸を膨らませ目を輝かせている。
生徒会のメンバーは皆壇上に上がるが、俺は脇で休んでいる。流石にまだ疲れが取れないからだ。
本当は俺も壇上に上がり皆の前に出なければならないのだが、真耶さんに止められてしまった。
風船を割られてしまった後、真耶さんに怪我をしていることがばれてしまったからである。
ジト目で睨みながら曰く、
「旦那様、今かなり怪我をしてますね。だって……旦那様の体から血の臭いがしますから」
だそうだ。
最近の真耶さんはかなり鋭いので気が抜けない。
ちなみに何故そこまで分かったのか聞いたら、
「私は旦那様の……正宗さんを使う武者の妻ですから……これぐらい当然です」
と顔を赤らめて言われた。
可愛い上に嬉しいことを言われてしまい、俺の胸はドキドキと高鳴って仕方なかった。
そういうわけで、休むよう強く言われてしまったというわけだ。
なので言うことを聞いて俺は椅子に座っている。真耶さんに言われたことを破ったりするという考えは俺にはない。
壇上では会長が皆の前に出て発表を行う所だった。
「みんな、豆まきご苦労様! 一杯楽しめたかしら」
笑顔で会長がそう言うと、皆から楽しかったと歓声が上がる。
「うん、みんな楽しめたようで何よりよ! じゃあ早速、みんなお待ちかねの結果発表!!」
「「「「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」
会長がノリノリで発表を促すと、講堂にいた全校生徒から轟音のような歓声が轟いた。
毎回の如く騒がしいが、今に限っては傷口に響く害でしかない。俺はいつも以上に顔をしかめながらその轟音に耐える。
「う~ん、みんな気になって仕方ないようね! では早速優勝したクラスを発表しま~す」
そう会長は皆に言うと、布仏先輩が結果の書かれた紙を会長に持って行く。
皆、その発表を聞き逃すまいと固唾を呑んで静かに待っていた。
会長は紙を見るとニヤリと笑う。そして声高らかに発表した。
「この豆まき大会、優勝は………三年二組です!」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
その瞬間、三年二組の生徒がいるところから喜声が上がり、他のクラスから落胆の声が上がる。
「やっぱりこういうのは経験とチームワークが物をいったみたいね。その点、三年生はこの学園で一番凄いからね~。というわけで、三年二組の皆様には優勝賞品である食堂のスィーツ食券三ヶ月分が進呈されます。おめでとう~」
会長がそう言うと、三年二組のクラス代表の人が壇上に上がり会長から優勝賞品を受け取った。
そして上に掲げると、三年二組からさらに歓声が高まった。
その様子を会長は満足そうに見ながら、次の発表に移る。
「では、次に……MVPの発表です!」
そう言った途端、さっきまで沈んでいた生徒達が水を得た魚のように生気を取り戻し歓声を上げる。
会長はそう言うと、ニヤリと口元を笑わせていた。
それが何を考えているのかわかり呆れてしまう。前にも似たことがあったので、今更そこまで動揺しない。
「今回のMVP……織斑 一夏君を討ち取った人、それは………山田先生です!!」
その途端に教員席の方に当たるスポットライト。
そのライトに照らされた所には、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている真耶さんがいた。
「ぁ、ぁぅ~~~~~~~~~~~~~……」
そんな風に可愛らしく唸っている姿が分かり、クスっと笑ってしまう。
「やっぱり織斑君も男の子ということよね~。恋人の前では甘いんだから」
会長が俺を見ながらそう言うと、みんなから『キャーーーーーー!』と黄色い声が上がった。
それを聞いてますます赤くなる真耶さん。そんな姿も可愛いなぁ~などと思いながらも、後で会長にお仕置きすることを決意した。
「以上で、『全クラス対抗、豆まき戦争!!』を終了します。みんな、午後は普通に授業があるから、気を緩めないで頑張ってね。以上、解散」
会長が締めの言葉を言い、この集会は終了した。
そしてそのままお昼になり、皆食堂へと移動する。
食堂は人でごった返していた。そこまで恵方巻きが食べたいのだろうか?
俺はそう思いながらマドカを連れて自分達の恵方巻きを取りに行く。
「兄さん、『えほうまき』とは何だ?」
マドカが無邪気な笑顔でそう聞いてくる。まぁ、こいつは日本文化に詳しくないから気になるのだろう。
「恵方巻きとは、節分に食べる巻寿司のことで、恵方というその年の干支によって決まる縁起のよい方角に向かって食べるんだ。食べてる間は一言も洩らさず、全部食べきらなければならないと言われているが、そこまで堅苦しく考えずに食べなさい」
「そうなのか~。それって美味しいのか?」
「美味しく作ったつもりだが、口に合わなかったらすまない」
そう答えたら、マドカは自信満々に胸を張って言った。
「なら絶対に美味しいな! 兄さんが作って美味しくない物なんてない!」
そう言ってもらえるのは嬉しいが、流石に周りを見て欲しい。声が大きかったせいで周りから注目を集めてしまっている。周りの生徒から『無邪気で可愛い~』など、マドカへの声が上がる。
それが誰に向けられている言葉なのかマドカは分からないらしく、不思議そうに首を傾げていた。
それを見て、俺は何も言わずにマドカの頭を撫でてやるとマドカは気持ちよさそうにしていた。
そして恵方巻きを受け取ると、
「じゃあ兄さん、私は本音達と一緒に食べるから。えほうまき、いただきます」
とマドカは言って布仏さん達の所へと向かっていた。
俺はと言うと、真耶さんに呼ばれているのでそこに行くことに。
ただし、呼ばれているのが真耶さんの自室なだけに妙にドキドキしてしまう。
俺は恵方巻きを真耶さんの分も受け取り、真耶さんの自室へと向かうのであった。
そして歩くこと十数分。真耶さんの部屋に着いた。
「真耶さん、来ましたよ」
そう声をかけると、少しどたどたと音がして中から声が聞こえた。
「は、はい、どうぞ……」
その声を受け、俺は扉を開け部屋へと入った。
そしてすぐ目の前に映った光景に目を奪われてしまう。
「お、お待たせしました…旦那様…」
目の前には、さっきの豆まきの時と同じ恰好をした真耶さんが立っていた。
露出が多い虎柄ビキニに、鬼の角のような物を付けたカチューシャ。
ビキニのサイズが合っていないため胸が溢れそうなっており、それを押さえようとしてより胸を強調するようになっていた。
そんな恰好をした真耶さんが恥ずかしさで顔を真っ赤にしつつ、俺を見つめているのだ。
目を奪われないほうがおかしい。
その姿は可愛くて綺麗で、それでいて卑猥で……いろいろな感情を抱かせる。
「そ、その恰好は……」
何とか言葉をひねり出すと、真耶さんは目を潤ませながら答えてくれた。
「そ、その……旦那様にもっと見て貰いたくて……さっきはあまり見て貰えませんでしたから」
恥ずかしさで言いづらそうに言いつつも、見て貰いたいと潤んだ瞳で見つめられてしまったら、俺の心臓の鼓動がかなり早くなってしまう。現にもうバクンバクンといってしかたない。
「そ、そうですか……その、改めて見ても…似合ってます。ただ、その…」
「その?」
俺は言おうか悩んだが、素直に言うことにした。
「前屈みで腕を寄せると、胸がかなり見えてしまって……その…目のやり場に困ってしまいます」
そう言うと、顔をポスト以上に真っ赤にしながらも、どこか嬉しそうに真耶さんが笑った。
「だ、だったら頑張った甲斐があります。だって…もっと旦那様にドキドキして貰いたいんですもの」
そう言うと、普段の姿からは考えられない速さで抱きついてきた。
俺の腕がとても大きな胸の谷間に挟み込まれ、その感触に顔から火が出そうになる。
「この恰好、少し寒かったんです。はぁ~…旦那様は暖かいです……」
凄く恥ずかしがりながらも、気持ちよさそうに顔を緩める真耶さん。
「……こっちは熱くて仕方ないです……」
「なら良かったです。だって……それが狙いですから……」
俺は口をもつれさせながら何とか答えると、真耶さんはどこかいたずらっ子のような笑みでそう答えてきた。最近、真耶さんがアグレッシブでタジタジだ………嬉しいが。
そのまま幸せそうに俺にくっついていた真耶さんは、少しした後に離れる。
「で、では、さっそく今日のMVP賞を使いたいと思います。旦那様、準備はいいですか?」
「はい」
少し真面目な感じに言うので、俺真面目に聞くことにする。
「では……わ、私と恵方巻きを食べさせ合いっこして下さい!」
顔を真っ赤にしながら一生懸命にそう言う真耶さん。その姿があまりにも可愛い物だから拍子抜けしてしまう。
「そ、そんなことでいいんですか?」
「は、はい…」
どうやら本当にそれだけのようだ。
少し構えてしまった自分が恥ずかしい。俺はさっそくパックに入っている恵方巻きを取り出す。
「で、では…真耶さん、はい、あ~ん」
「あ、あ~ん…」
取り出した恵方巻きを真耶さんの前に出すと、真耶さんは小さな口を一生懸命に開け、恵方巻きを口に入れるのだが……
「ん…えふ…れろ……」
いつもの食べ方と全く違う。
何故か舌を出しながら口の中に入れ、手を使わないで食べているので恵方巻きが崩れそうになるのを舌を使って舐め取り支えながら食べていた。
顔を真っ赤にしながら恵方巻きを一生懸命頬ばる真耶さん。
何だか見てはいけないくらい艶っぽくて……正直エロ過ぎる!
俺はあまり見ないように顔を逸らそうとするのだが、本能的に目が行ってしまう。
その光景に必死に何かを耐えながら食べ終わるのを待っていると、突然指がぬめっとした感触に襲われた。
「ん…ちゅ…れろ……んん……」
「なっ!?」
見ると真耶さんが俺の指をしゃぶっていた。
幼子のように一生懸命に、それでいて変な色香を感じてしまう。
そして気が済むまでしゃぶり終わったのか、指を口から離す真耶さん。
指と口の間に唾液で出来た橋が出来ており、それが余計に顔を熱くさせる。
「はぁ……はぁ…旦那様の恵方巻き、美味しかったです」
恍惚とした顔でそう言ってくる真耶さんは、見ていられなくなるくらい艶っぽかった。
俺はさっきからドキドキして仕方なく、ふと指を見ると湿っていることに余計ドキドキしてしまった。
心臓が破裂しそうなくらい高鳴り、耳の奥に常に鼓動が聞こえてくる気がした。
「今度は私の番ですね。旦那様…ふぁい…」
「っ!?」
ドキドキし過ぎていたせいで、注意が散漫になり気づけなかった。
今度は俺が食べる番になり、真耶さんは俺の分の恵方巻きを掴むと俺に差し出すのでなく、端を咥えて俺に差し出してきたのだ。
ポッキーゲームの恵方巻き版と言えばわかるだろう。あんな感じだ。
「い、いや、真耶さん。それは…」
流石にそれは…と言おうとしたら、真耶さんの目が少し潤み始めた。
「ふぇむふいひーふぇす!(MVPです)」
どうやらここで本当の権利を主張したいようだ。
俺は恥ずかしさから顔を真っ赤にしつつも応じるしかない。
「じゃ、じゃあ、いただきます」
「ふぁい!」
さっそく端から黙々と食べていくと、段々と真耶さんの顔が近づいていく。
真耶さんは俺が近づいてくると、頬を赤らめながらも微笑みかけてきた。
そしてついに真耶さんが咥えている所まで到達すると……
「んっ」
「!?」
咥えていた分をそのまま俺の口の中に押し込まれた。
そして口の中を真耶さんの舌が舐めまわし始める。
俺はそのことにかなり驚きつつ、しかし、体は無意識に反応する。
「「れろ……ちゅ……」」
口の中を舐め回す真耶さんの舌を、自分の舌で絡め取り舐め返したりする。
そしてしばらくお互いに舐め合っていると、口の中に入っていた恵方巻きが勝手に崩れ飲み込まれていった。
それを機にお互い唇を離す。
「はぁ…はぁ…美味しかったですか?」
そう嬉しそうに顔を赤らめながら聞いてくる真耶さん。
「…………はい……」
俺はのぼせそうな頭を何とかしながら答えるので精一杯だった。
改めて思う。
最近、真耶さんがよりアグレッシブで凄い。
これも何度も言うことだが……幸せ過ぎて仕方ないから嬉しいのだが、と。
ちなみに……
今回何故こんなことをしたのかを聞いたら……
顔を赤くしながら答えてくれた。
「その…更識さん(二年)が、『織斑君にビキニ姿を見せたら、彼、顔を赤くしてましたよ』って聞いて、それで……。それに、恵方巻きはこうして食べた方が男性は喜ぶって榊原先生に借りた本にかいてあったので……」
との事らしい。
俺はそれを知ると放課後、会長と榊原先生を生徒指導室に呼び出し、その場で二時間お説教した後に、本日の豆まきに使用した豆の清掃を強制的にやらせた。
生徒指導室に呼び出し説教をしたとき、二人を足つぼマッサージ用の器具の上に正座させ、足の上に辞典などを五冊ほど載せて行った。
その時、会長は痛みに悲鳴を上げていたが、榊原先生は何故か恍惚とした顔をしていた気がした。