はやく戦わせたいです。
俺は雪車町さん達を連れて第三アリーナへと向かっていた。
事の発端やらの話を聞いたところによると、このセシルという男は英国で劔冑を駆り、今まで戦ってきたようだ。
日本が劔冑を発表して、急遽他の国でも劔冑が無いかと捜索が始まった。
そして英国で見つかった。旧式劔冑と新式劔冑が。
どうやら王室が今まで秘匿していたらしい。理由としては日本と同じである。
ならば日本に負けず自分達もと思ったが、ここで日本との違いが出た。日本では古くから秘匿していただけに、劔冑を用いた武術が今現代にも伝えられてきていた。しかし、英国ではその武術が伝承されていなかったのだ。そのため、劔冑の性能を生かし切れない。
なので、そのスタートは日本と大きく離されていた。
一からのスタート。日本の刀とは違った剣による武術は中々に困難であった。
だが、元々貴族にはそうしたことを教養として学んでいる者達がいた。彼等は劔冑を与えられたことにより、その武を現代に遺憾なく発揮することが出来るようになった。
それにより、英国では日本より遅めながら極秘裏に劔冑の運用が始まった。国内での運用試験をいくつも重ね、新式劔冑を装甲させ互いに試合をさせデータを取っていく。
そしてついに、世界に出せる『騎士』が出来た。
セシル・オーウェル……イギリスの有名な貴族、オーウェル家の次期党首にして、イギリス最強の騎士。
だが、その時には既に俺の活躍が世界中に流されていたわけで……
英国としては、今更騎士を出したところで少しばかりインパクトに欠けると。
ならば、日本が誇る武者と戦わせてはどうだと考えたらしい。
勝てば僥倖。よんんば負けても善戦すればそれなりに認められると。
故に、英国は国の中で最強だと思われる騎士を俺と戦わせようと向かわせたのだ。
今回の雪車町さんの仕事は、セシルをこの学園へ連れてくることであったようだ。まぁ、詳しくは知らないが。
ちなみにパンツ教授が来た理由は、俺と知り合いだからという理由で英国にお願いされたからだそうだ。
はた迷惑極まりないが、来てしまったからには仕方ない……我慢しよう。
別にそういう事情ならば仕方ない。
だが……このセシルが高飛車な態度なのが気にくわない。
仮にもこれから決闘する相手に敬意を払わないのはどうなのだろうか。特に……真耶さんにあんなことをして、なおかつ勝手に決闘に賭けるなど。
断じて許せる訳がない!!
俺は横を歩くセシルにとてつもない殺気を当てながら歩いて行く。
セシルはと言うと、俺の殺気を受け流しながらすれ違う女生徒に流し目で笑顔を振りまいていた。
それにあてられ、女生徒は顔を真っ赤にしていた。
先程真耶さんを決闘に賭けたばかりだというのに、この行い。
とても軽薄にしか見えず、俺は軽蔑の視線で睨み付けていた。
千冬姉と連絡を取り、急遽第三アリーナを借り切ることに。
千冬姉は当然困惑していたが、俺と雪車町さんで何とか説明して納得してもらった。
その間、パンツ教授が他の女生徒に手を出そうとしていたので正宗に止めさせるよう命を出し、教授はそのたびに正宗に撥ねられていた。
そんなこんなでアリーナに着くと、騒ぎを聞きつけてか観客席が生徒で一杯になっていた。
皆、この試合に興味津々のようだ。
「おやおや、これは盛大なお出迎えだ。観客に恥じないよう必死に戦わないとなぁ、イモ騎士」
セシルは俺を見てニヤリと笑いながら言ってきた。明らかな当てつけである。
しかし、俺はそれを無視しながら千冬姉に頼み事をする。
「千冬姉……今すぐ観客席にいる生徒を全員追い出してくれ」
「何故だ?」
千冬姉は何故俺がそう言ったのか理解出来ないようだ。少し考えれば分かることだと思うのだが……仕方ないか。ここは素直に説明しようとすると、
「何で観客を退かそうとするのかね。君は人に見せて恥ずかしい戦いでもするつもりかな」
セシルが更に俺を挑発してきた。
それに耐えられなくなり、俺は殺気を全開に噴出させてセシルに答えた。
「あまり舐めるなよ、西洋の腑抜け騎士が」
「!?」
俺の殺気を受けてセシルが口を噤んだ。どうやら俺が本気であることを悟ったらしい。
「これから行うは決闘と貴様は言ったな……貴様には試合に思えるのだろうが、笑わせてくれるな。此方は『死合い』を行うつもりだ。血戦を人に見せて良い訳が無かろう。普通の人々には、刺激が強すぎる」
俺が言いたいことを察したようだ。
その途端に先程まであった高飛車な雰囲気が薄れていき、目に死合う者の殺気が宿る。
「……成程。これが君の本性か。先程の言葉は撤回しよう。どうやら見目麗しい女性にばかり会えたものだから舞い上がっていたようだ、謝罪しよう。極東でいい気になっていると思っていたが……そんなことはまったくないな。この殺気は一流の騎士としてふさわしいものを感じる。今までの非礼を詫びよう。あの女性を賭けるのは辞めないが」
表情を引き締めるセシル。
どうやら向こうも戦闘体勢に移行したようだ。態度の割に武人としての心得はちゃんとあるらしい。。しかし、真耶さんのことを撤回しない辺り本気のようだ。改めて……恋敵と認識する。
俺達の雰囲気を察して、やっと千冬姉が俺の言いたいことを理解したようだ。
そしてそのままアリーナにいた生徒を放送などを使い追い出す。
あっという間にアリーナは人がいなくなった。
「さ、ここは危ないんで、あっしらは別の場所にでも行きやしょう」
「は、はい」
雪車町さんが真耶さんにそう言い、俺とセシルを除いて皆管制室へ向かう。
二人っきりになった所で、俺達はお互いに相対する。
お互い、さっきまでの軽口は無い。
ただお互いに見るのみ。
俺はさっきまで少し思い違いをしていた。
この男、セシル・オーウェルは軽薄に思われがちだが、その実ちゃんとした武人だ。
俺の殺気を受け、先程の言葉を撤回したのが証拠である。あの殺気の意味を理解出来なければ武人足り得ない。その上でこの佇まい……まさしく戦う者だ。
「それではお二人とも、準備はよろしいですかね」
放送で雪車町さんが俺達にそう声をかける。
俺達は二人とも無言でそれに答えた。
「では改めて……・来い、正宗!」
『応!』
俺の呼びかけに応じて、正宗が俺の前に飛び出してきた。
「では改めて名乗らせていただこう! 自分の名は織斑 一夏、してこちらは天下一名物の相州五郎入道正宗。以後よろしく頼む」
俺の名乗りを受けて、セシルも名乗り返す。
「では僕も名乗ろう。僕の名はセシル・オーウェル! イギリス最強の騎士だ! そしてこれが僕にの劔冑だ」
そう言い、今まで背負っていた大型アタッシュケースを前に出し解放する。
「これが僕の力、『アスカロンVII(セブン)』だ」
中に入っていたのは見事な出来の西洋の大剣であり、これまた見事な意匠の鞘に収められていた。
西洋の劔冑は日本の物と違い、無機物の形をしている物が多い。
喩えるなら、日本の真打は生物の形を取った物が多く、西洋では楽器や武器の形をしているものが多いと聞く。現に俺の知る限り、大鳥さんの劔冑はコントラバスである。
セシルはそのまま大剣を取り出しケースを投げ捨て構える。
それが装甲する構えだと察し、俺も装甲の構えを取る。
そしてほぼ同時に誓約の口上を述べた。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
『Sacrosanct. (神聖にして侵すべからず)』
そしてお互いの劔冑は弾け、甲鉄が宙を舞い、装甲される。
俺は正宗を装甲し、目の前を睨み付ける。
目の前には、日本の劔冑とはまったく違う形をした者が立っていた。
金色の装甲に一角獣を連想させる一本角。日本の劔冑では見られない形状の大きな合当理に、何より斬馬刀並に長大な大剣(グレートソード)。
目の前にいるのは紛れもない騎士であった。
俺は斬馬刀の鞘に手をかけ構えると、向こうも大剣を前に構える。
「僭越ながらあっしが合図をいたしやしょう。では……始め!」
雪車町さんが決闘開始のを言うのと同時に、俺達は互いに合当理を噴かし目の前の敵を斬り捨てようと突進した。
そして……
ここ最近で一番の鋼同士による激突音がアリーナに轟いた。