真耶さんにスポーツドリンクを飲ませてあげた後、俺達はまた二人で一緒に横になっていた。
あれから真耶さんはずっと俺のことを離してくれない。
常に俺に抱きつき、幸せそうに目を細めくっついてくる。いつもよりも幼く見えるその姿が、俺にはより魅力的に見えて仕方ない。
「えへへへへ……旦那様ぁ……」
とろけるような声で俺に囁く真耶さん。
その声に俺の心もとろけそうになる。結構甘えん坊だと思っていたが、まさかここまで駄々甘になるとは……たまらない。
俺は甘えてもらえることが嬉しくて、そのまま抱きしめ返すと真耶さんも嬉しそうに応じてくれた。
熱で汗ばみ熱く火照った体。だが、まったく不快には感じない。
寧ろ吸い付いてくるような感じがして気持ち良く感じてしまう。
そのまましばらく抱き合いながら横になることに。
「それにしても……自分でこう言っておいて何ですが、随分と甘えん坊ですね」
俺は胸に顔を擦りつけるようにくっついている真耶さんにそう言うと、真耶さんは恥ずかしがりつつも答えてくれた。
「女の子は誰だって恋人甘えたいんですよ。私だって『女の子』ですから」
だそうだ。
そんな上目使いで言われては悩殺モノだ。
きっと日頃、俺が甘えてばかりだからこその反動に違いない。(実際はそんなことはまったくない)
俺に合わせて色々と無理をさせていたのだから、こういうときくらい思いっきり甘えてもらいたい。
俺としても、恋人にこうして甘えて貰えるのは嬉しいのだから文句などある訳が無い。
だが……俺はこの時は考えてもいなかった。
これが……俺の精神をことごとくふやかすことになることを。
お昼時になり、俺はお昼を作ることに。
病人には消化に良い物を、ということで俺は料理の材料を荷物から取り出しキッチンを借りておかゆを作る。体が良くなり温まるよう玉子や生姜を使い、美味しくなるよう昆布出しを濃いめに出した出汁を使って、自分の持てる技術の全てを込めて美味しいモノが出来るよう頑張った。
そして出来たおかゆを真耶さんの前に持って行く。
「うわぁ、美味しそう! 少し食欲が無かったけど、これなら一杯食べれそうです」
出来たおかゆの蓋を開けた途端、そこから出た湯気の香りと見た目に真耶さんが感動した声を上げる。そう素直に喜んでくれると、作った側としては嬉しい限りだ。
「喜んでくれてよかったです」
「旦那様が私の為に作ってくれたんですから。嬉しくないわけ無いです!」
そう笑顔で言ってくれる真耶さん。
何だか見ていて胸が温かくなる。
俺は匙でおかゆを掬うと、自分の方に近づけていきを吹きかけて冷ます。
そして適温になったのを見計らって真耶さんに差し出した。
「はい、真耶さん。あ~ん」
真耶さんは少し恥ずかしそうにしたが、すぐ嬉しそうに口を開けてくれた。
「あ~ん…んむ…んむ……」
口に入れたおかゆをもぐもぐと食べる真耶さんは、まるで小動物のようだ。
その可愛らしさに頬が緩んでしまう。
「美味しいです。幸せ~」
飲み込むと、うっとりとした顔で感想を言ってくれた。
それがとても嬉しい。
俺はもっと食べて貰いたくて、また一掬いして真耶さんに差しだそうとしたのだが……
「旦那様、ちょっといいですか。実はしてもらいたいことがあって……」
そうお願いされてしまい中断。
そしてそのお願いを聞くと……
「背中まで旦那様にすっぽりと覆われてて……暖かいです。うふふ」
俺はベットの上で胡座をかき、その足の間に真耶さんが座り背中を俺の預けていた。
足から伝わる柔らかいお尻の感触にドギマギしてしまう俺は、真耶さんの体を覆うように後ろから抱きしめ、二人羽織のように手を前に出しておかゆを掬う。そして真耶さんの口元に持って行く前にに自分の口元。つまり真耶さんの顔がくっつくくらい近い真横に持って行って息をかけて冷ます。
その息が真耶さんの耳元をくすぐり、少しくすぐったそうに身じろぎする真耶さん。
「んっ…くすぐったい」
「す、すみません」
「大丈夫ですよ。その、旦那様の吐息が感じられて……私も嬉しいですし……」
恥ずかしがり顔を赤く染めつつ、嬉しそうにそう言う真耶さん。
耳元でそう囁かれ、俺はさらにドキドキする。
よく世間で言う、
『何なんだろう、この可愛い生き物は』
状態である。真耶さんが可愛すぎて直視出来なくなりそうだ。
そして俺は匙を口元に差し出す。
「あ~ん……んむんむ…美味しい。旦那様にこうして食べさせてもらえるなんて……夢みたいです」
うっとりと夢を見る乙女のような顔で俺にそう囁く真耶さん。
俺はその顔を夢中で見つめてしまう。
綺麗で可愛くて、いつまでも見ていたくなる。
幸せだと思った。ここ最近、何かにつけて忙しかっただけに、こういうゆっくりとした時間がありがたく感じる。
武者として濃密な死合いの時間も好ましいが、こうして恋人とゆっくり過ごす時間も愛おしい。
俺はどちらも好きだと改めて思った。
「旦那様ぁ…もっと…下さい……」
「はい。あ~ん」
「あ~ん……んふふ」
そう顔を赤らめながら催促され、俺はそれに幸せを感じながらまた一口ずつ真耶さんに食べさせてあげるのだった。
そうしてお昼のおかゆを食べさせ終え、その後は午前中と同じ風にくっついていた。
終始真耶さんはご機嫌であり本当に病人なのか疑わしいくらいであったが、元気ならそれに越したことは無い。
寝た方が本当は良いのだが、寝ないのか聞くと……
「だって…旦那様がこんなに近くにいてくれるんですもの。もっと一杯喋って甘えたいんです」
と、かなり赤くなりながら、恥ずかしそうに上目使いで俺を見つめながら答えた。
あまりの可愛らしさに絶句する。これはもう殺し文句だろう。
俺はそのまま抱きしめてしまい、真耶さんは少し驚いたが幸せそうに頬を緩めていた。
何度だって、それこそ毎朝何回言ったって言い飽きないくらいに思う。
(俺はこの人のことを、本当に愛してる。もう、この人無しの人生なんて考えられない)
そう思いながら、俺達はこの後キスを何度もした。
「「ちゅ……」」
唇を離すと、真耶さんは熱で濡れた瞳を幸せそうに細める。
「風邪を引いて寝てなければ行けないのに、いいんですか?」
「それはそうなんですけど、旦那様が言ったんじゃないですか。一杯甘えて良いって。だからもっと……んぅ……」
「甘えん坊な人ですね。まぁ、そんな所も大好きですけど」
そしてまたキスをする。
これも当たり前なことだが、病人にして良いことではない。
でも、そんなことも気にならないくらい俺達は抱き合いキスし合った。甘えてもらえることが嬉しかったから。
そしてそろそろ十五時を過ぎようというところで、真耶さんの体調も大丈夫だと判断した俺は部屋から出ようとしたのだが……
「旦那様、行っちゃ嫌です。もっと…一緒にいて下さい……」
と潤んだ瞳で見つめられ、袖をちょんと摘まんで引っ張られた。
そのいじらしい様子にドキンッと胸が高鳴ってしまい、俺はそのままベットに戻ることに。
だって潤んだ瞳でそんなことを恋人からお願いされたのだ。断れる訳が無いだろう。
それに……恋人にそう言われて嬉しくないわけがない。
そのままベットに戻ると、真耶さんは俺の手を引いてベットに倒れ込むと、俺の頬や首筋にキスの雨を降らせ、とろけた笑顔で幸せそうに笑うのだった。その笑顔も可愛くて、俺も幸せを感じた。
そして現在、十七時頃。
「すぅ…すぅ…んふふ……」
真耶さんの寝息が静かに聞こえる。
やっと眠りに付いたのだが、やはり幸せそうな寝顔をしていた。これもまた無邪気で可愛い。
俺は真耶さんの寝顔を見下ろしながら、柔らかそうな髪を撫でてあげる。
「んぅ……」
そんな可愛らしい寝息が口から漏れる。
髪の毛は汗を掻いているというのに、とてもサラサラしていて気持ち良い手触りだ。
そのまま頭を優しく撫でながら真耶さんの寝顔を見つめる。
ずっと見ていたくなる寝顔に、俺も自然と笑みを浮かべていた。
少しイタズラ心が芽生えてしまい、その柔らかい唇に軽くキスをする。
「ちゅ…」
「ん……」
真耶さんはくすぐったそうに、それでいてどこか嬉しそうに反応した。
それをもっと見たくて、もう一回キスをする。
そして唇を合わせたところで……
「兄さん、真耶義姉さんは大丈夫か。病気だって聞いてたから心配で……あ」
マドカが部屋の扉を勢いよく開け、中に入ってきた。
そして俺と真耶さんを見て固まる。
俺と目が合い、口をパクパクとさせていた。毎回思うが、何故マドカはノックをしないのか……後でよく言って聞かせないと。
そのまま大声を上げそうになったマドカに、俺は人差し指を口元に持って行き、ジェスチャーで伝える。
「シーーーーー(静かにしろ。もう寝ているから起こすな)」
それを見て、マドカは真耶さんが寝ていることに気付き、急いで両手で自分の口を押さえるとこくんこくんと頷いた。
その後、冷静に戻ったマドカから今日の授業のノートなどを受け取ったり、今日学園であった事などを聞かされた。
そして三十分ほど話したりした後、マドカは部屋から出て行った。
この日、俺は真耶さんの部屋に泊まり込み看病? を続けた。
まぁ、その間に色々あったのは、言うまでもない。
そして翌日、完全に回復した真耶さんに、
「昨日は本当にすみませんでした!! は、恥ずかしぃ~~~~~~~~~~」
恥ずかしさから顔がポスト以上に真っ赤になった真耶さんに謝られた。
次回、久々? に死合いをさせようかと思いますよ。