装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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救出

 真耶が参加している同窓会もそろそろ終わりへと向かっていた。

真耶は久々に会った友人達との時間を楽しんでいたが、そろそろ帰らねばと帰り支度を始めていた。

そろそろ帰り、すぐにでも恋人である一夏の所に行って土産話をしたい……そう考えていた。

一夏がそういう話を聞くのが好きということを知っているので、帰って話してあげれば喜ぶ。

真耶は一夏に喜んで貰おうと、急いで帰り支度をしていた所、急に話しかけられた。

 

「ちょっといいかな、山田さん」

「はい?」

 

声のした方を向くと、そこには同じクラスだったの鈴川 令法が立っていた。

鈴川は真耶が話を聞けるように待った後、話しかけたのだ。

 

「実は少し…真面目な話があるんだけど、この後いいかな」

 

そう言う鈴川の顔は恥ずかしそうにしながら、どこか真面目な表情をしていた。

すぐにでも断って一夏の元へと帰りたい真耶であったが、そんな顔をしている人の話を聞かないなんてことは出来なかった。一夏と交際を始めてから、一夏の恋人として恥じないような人になろうと常に真耶は努力を怠らないようにしている。

一夏なら、こんな顔で話しかけてきた人の話を真地面に話を聞くだろう。

だからこそ、真耶はこう答えた。

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

そう返事を返すと、鈴川の緊張は少し解れた。

 そして同窓会も終わり、皆が帰り始めたころに鈴川と真耶は一緒に歩いて行った。

 

 

 

 犯人が分かった途端に、俺は寮の部屋から飛び出して正宗を呼ぶ。

 

「来い、正宗! 真耶さんが危ないかもしれん! 装甲して全速力で騎行する!!」

『諒解っ!』

 

正宗が俺の呼びかけに応じて俺の前に姿を現した。

それは確認しなくても分かることだ。俺はそのまま誓約の口上を述べる。

 

『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

 

正宗を装甲し早速飛び立とうとしたところで、肩を急に押さえられた。

 

「ちょっと待て、織斑君! 君は何処に行くつもりだ?」

「そんなこと決まってるじゃないですか! 今すぐにでも真耶さんの所にっ」

「おいおい、もうちっと落ち着けや。手前は嫁が何処にいんのか知ってんのか?」

「あ……」

 

焦っていたため、そんな単純なことも忘れていた。

真田さん達に言われ、俺はその事に今更気付いた。まったくもって恥ずかしい。

 

「す、すみません……」

「いや、君が焦るのも良く分かるからな。だが少し落ち着いて欲しい」

「そうそう。このまま飛び出してたらどこ探す気だったんやらなぁ」

 

二人に言われたことで落ち着きを取り戻した俺は、装甲したまま立ち止まる。

そう、もし焦ったまま飛び出していたら、きっと探すのに時間が掛かってしまっただろう。そんな時間の余裕なんて全くないのに。己が精神の未熟が恨めしい。

 真田さんと伊達さんは俺が落ち着いたことを確認すると、自分の劒冑を呼び出し装甲する。

 

『不惜身命 但惜身命』

『悪羅 悪羅 悪羅』

 

その場に三騎の武者が現れた。これだけで街一つ余裕で壊滅させられるだろう戦力である。

 

「俺が一番速ぇからな。俺に付いてこい!」

「「応」」

 

 伊達さんが先に飛び、俺と真田さんが後に付いていく形で騎行することになった。

合当理を全開で噴かし、上空へと飛翔する。

俺のすぐ隣には村正伝が併飛し、広光が先に先行する。

 

「取りあえずお前等、野郎の根城の神社に行くぜ! 今日同窓会やったって店はあいつの中学から近いとこらしい。なら神社もそっから近いだろ。なら変に動き廻るより直に根城に戻るだろうよ」

 

それを聞いて内心感心する。

まさか伊達さんがそんな推理をするなんて思わなかった。

本当に意外性の固まりみたいな人だ。

だが、今はそれが一番有り難い。

 

(待っていて下さい、真耶さん! 今すぐ助けに向かいます!!)

 

俺は心の中でそう叫びながら熱量配分を全部合当理に回し、更に速度を速め飛んで行った。

 

 

 

 真耶は鈴川に連れられて、鈴川の家である神社に来ていた。

神社に二人っきり。真面目な話がもし告白だったりしたら、真耶は断ろうと思っていた。

既に最愛の恋人がいるので付き合えない。告白された場合、そう断る文句を用意する。それで諦めてくれれば良いが、もし逆上して襲い掛かったりしたら、その時は容赦なく無力化しようとも考えていた。

これでもIS学園の教師で元日本代表候補生。生身でも戦えるよう訓練は積んでいる。一般人相手に生身でも負ける気はない。

 真耶はそう考えながら鈴川に付いて行く。

真耶の先を歩いている鈴川は神社の奥の方へと進み、御神体が祀られている扉へと向かう。

 

「君に是非見て貰いたいものがあるんだ」

 

鈴川は真耶に笑いかけながらそう言う。

その表情は何かを自慢したいような、そんな感じを受ける。

そして鈴川は真耶に見えるよう、神社の扉を思いっきり開いた。

 

「え………っ!?」

 

それを見た真耶は、最初こそ何か分からなかったが、次第に何が入っているのかが分かり恐怖に襲われた。

 それは4つの大きな水槽。

人が一人余裕で入りそうな水槽の中に女性の人形が入っていた。水槽内は水が入っており、その中には花が入れられて装飾されている。最初見た時は美しい芸術品の様に見えた。

だが、入っているのが人形ではなく……『人間だった物』だと気付いてしまった。

光が通らず濁ってしまった瞳が真耶を見据えている。それが人形ではないことを語っていた。

よく見れば一部が変色してしまっているところもあり、それが確実に人形ではないことを理解させる。

真耶は咄嗟に悲鳴を上げそうになる。

だが、その前に鈴川が話しかけた事により、その悲鳴が出ることは無かった。

 

「どうだい、美しいだろう。とても純粋に綺麗で美しい。君もそう思わないか」

 

鈴川は恍惚とした表情を浮かべながら真耶に話しかけるが、真耶はそんなことを言う鈴川が怖くて何も答えられない。鈴川はそんな真耶を気にせずに語り始めた。

 

「山田さん。僕はね、美しい物が好きなんだ。見た目がじゃない。全てが美しい物が好きなんだ。見た目も、その心も。それを永遠に保っていられることは、本当に幸せなことだ。僕はね、それが……『美しい物を永遠の保存する』ことが自分の責務だと思っている。だからこそ……君の全てを僕に保存させてくれないか?」

 

そう笑いかける鈴川の笑みは、狂喜の笑みだ。

真耶はそれを感じ、背筋がぞくりと震える。目の前にいる人間は既に狂っていると、本能が感じた。

咄嗟に逃げようと駆け出す真耶。

 

「何で逃げるんだい? ずっと綺麗でいられるのに。逃がすわけにはいかないなぁ。行くぞ、真改!」

 

鈴川がそう叫ぶと、後ろから長い体をもった虫が走ってきた。

たくさんの足をもった百足である。ただし、その体は鋼で出来ており、大きさも二メートル以上ある巨体。自然界では絶対に存在し得ないものである。

 鈴川の元にまでその百足は来ると、鈴川は詩を詠う。

 

『いかで我が こころの月を あらはして 闇にまどへる ひとを照らさむ』

 

歌い終えた途端に、百足はバラバラに分解し、ばらけた体は宙を舞って鈴川に装着されていく。

そして黄土色をした鎧武者がその場に現れた。

 これが鈴川が手に入れた力。劒冑『井上和泉守国貞』である。

鈴川は装甲すると合当理に火を入れ噴射し、真耶に向かって突進する。

 

「逃げては駄目だよ! せっかく美しいまま保存されるんだ、喜ばなくちゃあああああああああ!!」

 

まるで雄叫びのように声を上げながら腰の刀を抜き、真耶に襲い掛かる鈴川。

真耶はそれを見て、怖くて叫ぶ。

 

「助けて! 旦那様ぁあああああああああああああああああああ!!」

 

そう叫んだ途端、真耶のすぐ隣を何かかがするりと通っていった。

まるでそよ風のように、何の違和感も無く。

その途端……

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

鈴川はいきなりの衝撃に体を吹っ飛ばされ、自分の腹に発生した激痛に悲鳴を上げ転がり廻った。

痛みの元を見ると、そこには……小太刀が深々と刺さっていた。

先程までこんな物はなかった。それが何故いきなり現れたのか? それがまったく分からない。だが、今まで感じたことの無い激痛に、鈴川はそれを考えている余裕はなかった。

 目を瞑る真耶は、いつまで経っても来ない刃に恐怖しつつ、目を開いていく。

その間に、何かが弾ける音が聞こえた。

そして……

 

「よかった………本当に無事で……よかった……」

 

ぎゅっと抱きしめられる感触。そして聞き覚えのある声。

それは、真耶がこの世で一番愛している人だと分かった。

 

「だ、旦那様ぁ……怖かった……怖かったですよ……」

 

泣きながら真耶は最愛の人、織斑 一夏に抱きつく。

先程まで感じていた恐怖を拭おうと、安心しようと力の限り抱きしめる。

 

「もう大丈夫ですからね」

 

一夏は優しく真耶にそう言うと、吹っ飛ばされた鈴川の方を睨み付ける。

その姿は真耶からは見えないが、憤怒では済まないほどに怒っていた。あまりの怒りに一夏の後ろの風景が歪んで見えている。

 

「この外道! 人の恋人を襲っておいて痛いと喚くか。貴様が手がけた他の者はそれ以上に痛みを感じ死んでいったのだぞ。その程度で済むと思うなっ!!」

 

 こうして、一夏は何とか真耶を助けることが出来た。


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