あれから更に三日が経ったが、事件の調査はまったく進展していない。
これが普通の犯罪捜査なら、相手の犯行現場から移動手段を予想してある程度の潜伏先を割り出すことが出来る。だが、劒冑を使われた場合はその速度と航続距離の際限の無さから通常捜査の常識がまったく当てはまらない。
ISのこれには当てはまるが、極論で言えばコアの反応を調べることが出来れば隠れていても見つけ出せるだろう。
しかし、劒冑にはそんな便利な物が無い以上、ひたすらに調べていくしかない。
あの後から俺達が調べ始めたのは、現場近くにある寺社仏閣だ。
俺の正宗はよく分からないが、伊達さんの大倶利伽羅広光や真田さんの村正伝大千鳥は元々神社に御神体として祀られていたものらしい。
劒冑は元々その家に受け継がれている物以外だと、結構御神体として祀られていることが多い。
つまり犯人が劒冑を手に入れたのなら、神社などに祀られている御神体を盗んだ可能性が高い。もしくは、家が神社の人間。
そこから犯人を特定しようと調べているが、中々に見つからなかった。
大体が御稲荷さんを祀ったりしているものばかりである。それ以外にも水神(龍神)を祀ったものもあったが、その殆どの御神体は単なる像ばかりだ。
それに頭を抱えつつ、俺達は調べていく。
しかし、中々御神体を祀っている神社は見つからなかった。
そうしている内に土曜となり、真耶さんは同窓会へと行った。
こんな俺を心配してくれていたが、気にせずに楽しんできて欲しい。
そう思った。
「みんな、久しぶり」
真耶は久々に会う中学の友人に嬉しそうに挨拶をしていく。
久々に会った中学の仲間達は皆どこか大人びて成長していたが、やはり昔と変わらない。そのことが真耶には嬉しく感じられた。
「うわ~、山田さん、全然変わってない!」
「今でも制服着せたらわかんないかも」
久々に見かけたクラスメイトの男達から、そう驚きの声が上がっていく。
それを聞いて恥ずかしがりつつ、内心では少しだけ怒っていたりする真耶。
(私だって、ちゃんと成長してるんです! そんな言い方あんまりですよ)
それを察してか、一緒に来ていた金田、海野、如月が真耶をカバーする。
「そんなこと無いわよ! ちゃんと成長してるんだから……とくに胸がね!」
「私も大きい方ですけど、私より背が低いのに胸は私以上に成長したんですから」
「あんた達、体はでかくなっても中身は全然変わらないわね」
そう男達に言い、金田は真耶の胸を背後から揉みしだく。
「ほれほれ、うりうり…」
「あっ…やめ…ひゃんっ」
その光景に目が離せなくなる男達。
それを白い目で睨み付ける如月。結果周りにいた女性達からも白い目で見られる事になってしまった。
そして気が済むまで胸を揉まれた真耶は、恥ずかしさで顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「うぅ~…あんまりです」
「まぁまぁ」
そういじけている真耶を金田は励ます。それが自分が原因なのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
そうして金田が慰めていると、一人の男が二人に近づいてきた。
眼鏡をかけた優しそうな長身の青年である。
「お二人は変わらず仲が良いようだね。久しぶり」
「ん? あぁ~、久しぶり! 元気にしてた?」
先に金田が気付き、その青年に挨拶をする。
そして真耶もその男に気付き、其方に顔を向けた。
「あ、お久しぶりです……鈴川君」
「はい、久しぶりです、山田さん」
鈴川と呼ばれた青年はさわやかな笑顔でそう返してきた。
「あーーーーーーーーーーーーーーーっ! 中々見つかんねぇ!」
伊達さんが疲れとストレスから苛立ちながら声を上げる。
その際に、机に広げられていた書類が宙を舞った。
「おい、伊達! あまり騒がしくするな。余計に気が散るだろ」
真田さんも進まない調査に苛立ちを感じていたことで、その声には険が含まれていた。
俺もこの状態に少なからず焦りを感じていた。
唯一の救いと言えば、あれ以降被害者が出ていないことだろう。
しかし、もう神社は粗方調べてしまった。
そのため、手詰まりであった。
「しかし……どうしたものか。こうも見つからないとは……」
「言うな、織斑君。もっと捜索範囲を広げなければならないかもしれないな」
真田さんとそう話していると、急に伊達さんが立ち上がった。
「すまねぇ、ちょっと外で風に当たって頭冷やしてくるわ」
そう俺達に言うと、俺達の返事も待たずに外に出て行ってしまった。
だが、俺達はその事に関して何も言わない。そうしたい気持ちは俺達も一緒だったからだ。
伊達さんが外に行っている間に、俺と真田さんはまた書類と睨めっこをし始めた。
同窓会も盛り上がり、皆酒を酌み交わしていた。
そんな中、真耶はまったく酒を飲んではいない。恋人の前以外では絶対に飲まないと心に決めたからである。それでも彼女はこの同窓会を心から楽しんでいた。
近くにいた友人達と、今何をしているのかなどを楽しく話していく。その中には、鈴川と呼ばれた男も輪に入っていた。
「鈴川君は学校の先生をやってるですね。私と一緒です」
「いやいや、君のような凄いところじゃないよ。普通の中学校の教師だからね」
真耶は鈴川と同じ職種ということで、結構楽しく会話していた。
鈴川も実に楽しそうに話す。
そんな様子を面白く見ていた海野の携帯が鳴り出し、海野は誰かを確認した。
そして画面に出ていたのは、最近付き合い始めた恋人の名前だった。
それを内心で喜びつつ、海野は電話に出る為に部屋を出た。
「もしもし」
『ああ。悪いな、いきなり電話して』
「ううん、別にいいですよ。あ、あなたの声だったら、いつでも聞きたいし」
『嬉しいこと言ってくれるぜ。こっちもちょっと仕事の息抜きでな。まぁ、ちょいと休憩ってわけだ』
「そうなんですか。ご苦労様です」
『ありがとよ……あれ? そう言えばお前って今どこにいるんだ? 家の中って感じじゃねぇなぁ』
「実は今日、同窓会に来てるんですよ」
『同窓会? それってもしかして織斑の嫁も一緒か』
「織斑の嫁? ……あぁ、真耶ちゃんのことですね。はい、そうですよ。一緒の中学校なんで一緒に来たんですよ」
『一緒の中学か……んん? そう言えば……なぁ、お前が通ってた中学の近くに神社とかなかったか? それも変な神社』
「神社? ………そう言えば、一つだけ変なのがあったかも?」
『そいつはどんなんだ?』
「えぇ~と……見た目は変わらないんだけど、祀っているのが何か気持ち悪い虫の像で……たしかムカデだったっけ。同級生の人がそこの家の人なの。今近くで真耶ちゃんに懸命にアタックかけてるみたい。変わる?」
『……そうか……こいつで当たりだな。いや、別にいい。あ、後そいつの名前だけ教えてくれねぇか?』
「別に良いけど……名前は……鈴川 令法(すずかわ りょうぶ)君よ」
『おお、助かったぜ。ありがとな、愛してるぜ!』
そう言って電話は切れた。
何故そんなことを聞かれたのかは分からないが、海野は言われたことで顔を真っ赤にしていた。
「おい、お前等。朗報だ! 犯人とその居場所がわかったぜ!」
「何!? それは本当か!」
「本当ですか!?」
伊達さんが部屋に戻ってくると、テンション高めにそう言ってきた。
「ああ、今回の犯人は鈴川 令法ってぇ野郎で、お前の嫁さんと俺の連れと同じ中学らしい。今一緒に同窓会に出てるらしい。そいつの実家はあいつの中学の場所からかなり外れにある神社らしくてな。そこの御神体が百足の像を祀ってるらしい。んなもん祀ってる自体で既に真っ黒だぜ。んでそいつが今、手前の嫁さんにご執心だってよ。急がねぇとやべぇかもしんねぇ」
それを聞いた途端に俺は部屋を飛び出していた。
(真耶さん、無事でいてくれ!!)
その姿を見た二人はやれやれっと手を上げていた。
こうして犯人は予想外のところから判明した。