装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は少しイチャつきます。
山田先生の新婚さんっぷりが出ますね。


居場所捜索

 真っ暗な部屋の中、ブラックライトの明かりが一際辺りを照らしていた。

ブラックライトが照らしているのは水槽。それもかなり大きな水槽だ。

その水槽を恍惚な表情で見つめている影が一つ。

 

「やはり……美しい。美しいものはいつ見ても良い物だ……」

 

影がうっとりとそう呟く。その声は美しい美術品を見て感動する人に近い響きを感じさせる。

だが、その影は途端に表情を曇らせた。

 

「とは言え……まだ研究が足りない。こんなに美しいのに、一週間しか保たないなんて。もっと『アレ』の力を使いこなさないと。でないと、美しいものを永遠に保存出来ない」

 

影は残念にそう言いながら、しかし可笑しそうに、それでいて楽しそうに笑い始めた。

 

「久々に彼女に会える。彼女はどれくらい美しくなってるのかな……会えるのが楽しみだ……」

 

愉快そうに笑う影の前に置かれた水槽には……女性四人が入っており、皆もう生きてはいなかった。

そしてそう笑う影の手には、ある書類が握られていた。

 それは……同窓会のお知らせであった。

 

 

 

 

 資料にあった他の場所も調べたが、やはり似たような跡があった。

これにより、確実に同一犯であることが判明。だが、そこから先の調査は難航した。

犯人が劔冑を使う未熟者ということが分かった所で、相手の居場所などについてはまるっきり分からないのだ。それについての痕跡は全然見つかっていない。

劔冑の合当理を使って飛行しているので足跡などがあるわけがない。だが、それでもその事実から分かることもある。

犯行の時間は夕方から夜にかけてということだ。

人が表に出ている時間では人目に付いてしまう。そのため、人が減りつつある時間帯を狙って行動している。これで相手の行動パターンが少しは分かってきた。

 そして更に居場所を突き止めようと、俺達は書類を片手に唸っていた……寮の自室で。

現在、俺達はIS学園寮の自室で貰った資料から犯人の居場所を突き止めようと奮闘していた。

何故学園にいるのか? まぁ、単純に盗聴を防ぐためだ。

国で管理している学園なだけに、そういった防犯設備が整っている。万が一にも無いが、犯人が組織的ならば、そういう点も気にした方が良いと判断した。

部外者を学園に入れるのもどうかと思うが、それは政府命令の任務遂行のために与えられた権限でどうにかなった。俺個人にここまでの権限を与えられたことに改めて驚かされる。

 と、いうのが建前。

本音で言えば、単に書類が多くて遠慮なく広げられる場所がここしか無かったというだけであった。

伊達さんが住んでいる自衛隊宿舎は自衛隊基地まで行かないといけないし、真田さんの家もここから近くないらしい。結果、調査していた場所から一番近かったIS学園の寮の部屋で調べようということになったのだ。

 

「む~~~~~~~~~~~~~~」

 

書類と睨めっこしながら唸る伊達さん。

元からこういうことが得意ではないらしい。それは見てすぐにわかることだが。

この人はそういうのと無縁な感じがする。

 真田さんはと言うと、地図に犯行現場と思われる場所を赤ペンでマークしていた。

そうしてみると、以外に範囲が狭いことが分かる。

 

「しかし……何で犯人はこんなことをするんでしょうね?」

 

俺は事件を調査しながら考え込んでいた。

犯人の動機がまったくわからない。私怨にしては被害者はバラバラだしお互いに何かしら関わりがあったわけでもないし、突発的にしては消えるのが上手い。組織的に何かがあるのかと疑ってみれば、あんな間抜けな跡を残していく訳が無い。

 

「それはまだ分からない。俺は最初人身売買かと思ったんだが、それにしては被害者の数が少ない。ああいうのは組織だって動くものだからね。普通は不自然な跡なんて残さない。それがああも残っているということは、組織ではなく個人。それもそういった専門的なことが全く分かっていない素人だ」

「女だったら何でもござれってぇとんでも野郎ならまぁ、納得はできんだけどな。そこまでぶっ飛んだ奴が普通の生活が出来るとは思えねぇよ。てなると、変態ってわけじゃなさそうだ」

 

 俺の質問に、二人が考えていたことを答える。

それらを統合すると……組織的でなく個人。しかし、変質者というわけでもなさそうだ。誘拐している目的がイマイチはっきりしない。それが少なからず、苛立ちを募らせる。

 そう思っていた所で、部屋の扉が開いた。

 

「旦那様、いますか?」

 

甘い声で俺に声をかけながら部屋に入ってきたのは真耶さんだった。

そして俺以外に伊達さんと真田さんがいる事に気付き、さっき自分が言ったことで恥ずかしさから顔を真っ赤にしていた。可愛くて癒される。

 

「ど、どうして伊達さんと真田さんがっ!?」

 

二人がいることに驚く真耶さんに事情を説明することに。

あらかじめ政府からの任務の件は伝えてあるので、二人がこの場にいることをすんなりと受け入れてくれた。

ちなみに、任務の件を伝えた時はかなり心配され、涙目で止められかけた。だが、俺がそういうのを聞かないことは既に知っているので、仕方ないと理解してくれた。

ただし…前の作戦での一件以来、そういう任務については包み隠さず全部報告するよう強く言われた。あそこまで怒って言う真耶さんは久しぶりに見た。俺は絶対にNOとは言えないと理解した。

 

「だからお二人がここにいるんですね」

「いや、二人の部屋に入ってしまって申し訳無い」

「悪いな! せっかくイチャつこうとしたところで邪魔しちまって」

「そ、そんな………」

 

二人にそう謝られ、真耶さんは顔を赤くしながら恥ずかしがっていた。そのたびに俺の方に目を向けるのが可愛らしい。

 

「それで、どうしたんですか、真耶さん?」

 

俺は部屋に来た理由を聞こうと真耶さんに話しかける。まぁ、一緒にいたいということに理由なんていらないのだが……。

俺にそう聞かれた真耶さんは、恥じらいながら上目使いに俺を見つめながら聞く。

 

「旦那様、お昼ってもう食べました? たしか学園を出た時は何も食べてませんでしたよね」

「いや、そう言えばまだでしたね。調査に夢中で忘れてました」

 

そう答えると、真耶さんは花が咲いたような笑顔になった。

 

「でしたら、これから私がお昼を作ります! よ、よかったらお二人もどうですか」

 

俺の昼食を作りに来てくれたなんて……感動のあまり胸が一杯になった。

しかも俺が学園内で昼食を取っていないことを見ていたなんて。何だか見守られている気がして胸が温かくもなる。

 

「それは有り難い。少し休もうと思っていたところだしね」

「腹減ってたから丁度いいぜ」

 

二人も話を振られ、快く受け入れた。

そして真耶さんは俺の方に来て、二人には聞こえないよう小声で俺に言った。

 

「だ、旦那様。精一杯頑張って作りますから、楽しみにしていて下さい。そ、それで美味しくできたのなら、ご褒美が欲しいです。その…最近旦那様が忙しいことは知っていますけど、少し寂しいですから」

 

恥ずかしさで顔を真っ赤にしつつ、上目使いにそうお願いする真耶さん。

その可愛らしさに内心でクラクラしつつ、俺は頷く。すると真耶さんは凄く嬉しそうに返事をし、上機嫌に簡易キッチンの方へと歩いて行った。

俺がそれを笑顔で見送っていると、後ろからニヤニヤとした視線を感じ振り返った。

その視線の元では、伊達さんと真田さんが俺をニヤニヤと笑っていた。

 

「いや~、『ご褒美』ね。織斑君も若いね~」

「織斑、随分と嬉しそうじゃねぇか、おい」

 

当たり前だが、この距離でこそこそ話をしたところで武者に聞こえないわけがない。

俺は罰の悪さを感じながら咳払いをして、場の空気を正すことになった。

 少しすると簡易キッチンから鼻歌が聞こえ始めた。その耳に吸い込まれるような心地良い歌で心を癒しつつ、書類を退かしていく。すると真耶さんが此方に来た。

エプロン姿に俺の頬が緩む。とても似合っていて、新婚みたいだ。幸せを感じてしまう。

 

「まだ出来ないので、先にこれをどうぞ。粗茶ですが」

 

そう言って俺達にお茶を出してくれた。

それを一口飲むと、緑茶のすがすがしい風味が口の中に広がった。

 

「うん、もっと上手になりましたね。とても美味しいですよ」

「は、はい!」

 

俺がそう感想を伝えると、真耶さんは心底嬉しそうに頷き簡易キッチンに戻っていった。

そのお茶を二人も飲むと、その味にうんうんと頷く。

もう俺の部屋の冷蔵庫や調理器具など、真耶さんは全て把握している。

それが一家を支える若奥さんみたいで可愛いのだ。

 

「気も利いて、実に良い恋人だね」

「へぇ~。やるじゃねぇか、手前の嫁さん」

 

二人にそう褒められ、恥ずかしかったが嬉しくもあった。

 

 

 

 その後、真耶さんが作ったカルボナーラを美味しくいただいた。

そのおいしさに頬が緩み、伊達さんや真田さんも感心していた。

美味しいと感想を伝えたら、真耶さんはとても喜んでいた。そんな喜んでいる真耶さんの笑顔も可愛くて、食べていたカルボナーラがより美味しく感じられた。

 そしてお腹が膨れた所で食後のお茶を出して貰い一休み。

真耶さんは俺達が調べていた地図を見て、こう零していた。

 

「あ、この場所…懐かしいなぁ。中学校から近くて、よくみんなで遊んだっけ」

 

それを聞いた俺達は、この時は特に何も思わずに流していたが……。

 

 真耶さんはこの後も少し仕事があるので、学園に戻らなくてはならないと残念がっていた。

二人が休んでいる中、俺は真耶さんを寮の外へと送ることにし、部屋を一緒に出た。

そして誰もいない寮の廊下を、絡めるように手を繋ぎながら歩いている最中、真耶さんが俺を上目使いで覗き込みながら話しかける。

 

「そう言えば旦那様。実は今週の土曜に中学校の同窓会があるんです。行っても良いですか?」

「そういうことは聞かなくても大丈夫ですよ。俺は真耶さんのことを縛り付ける気はないですから。それに久しぶりに中学校の皆と会えるのですから、是非行って下さい」

「ありがとうございます! でも、私としてはもっと縛って欲しいかも……」

「何か言いましたか?」

「な、何でもないです!」

 

何を呟いたか分かった上でそう聞き返してしまう俺の性格は良くないだろう。だが、慌ててそう返す真耶さんも可愛いので、ついつい見たくなってしまうのだ。

 そして寮の玄関まで来たところ、真耶さんは止まった。

 

「旦那様……その…ご褒美を……下さい」

 

凄く恥ずかしそうにそう言い、目を瞑って顔を俺の方に向ける真耶さん。

俺はそれが何を求めているのかが分かり、胸に沸く幸せを感じながら可愛らしい唇にキスをした。

 

「「ん……」」

 

そして唇を離すと、真耶さんの顔はポストのように真っ赤になっていた。

 

「そ、それじゃあ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 

そのやり取りに幸せを感じながら、俺は真耶さんが視界に映らなくなるまで見送った。

 

 

 


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