装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は真面目なお話です。


事件解決の依頼

 合コンのあった日から少なからず時が経った。

あの後、伊達さんと海野さんが付き合い始めたと真耶さん経由で報告が来た。

これであの戦闘狂な性格が収まれば有り難いのだが、どうなることやら。

ちなみに獅子吼様と金田さんはメル友になったらしい。しかし、茶々丸さんから聞いたところ、獅子吼様の携帯には俺や師匠、後六波羅の人以外のアドレスは入っていないそうだ。俺以上に交友関係が少ないとは……何も言えない。

弾はあれからも度々メールをしているらしい。

如月さんとはそれなりに上手くいっているみたいで何よりだ。

 そして少し時間が経ち、俺の体から毒は殆ど抜け切った。俺はその間に少しでも調子を取り戻そうと鍛錬に熱を入れ、体を鍛え直していた。

 その度に心配そうに見つめる真耶さんに申し訳無く思いながらも、幸せな日々を送っていく。

そんな幸せを壊すかのように、急遽政府から招集がかかった。

 

 

 

「それで……今度は何の任務でしょうか?」

 

俺はその部屋に入り、挨拶を終えて少し時間が経った後、話を二人に振った。

俺が今いる所は、クリスマス前に来たことのある料亭の一室。つまり政府が密談に使っているあの料亭だ。

そして部屋にいるのは、前と同じ総理大臣と天皇陛下だった。

二人は前回同様にお酒をちびちびと飲んでいる。どうやらまた天皇陛下が持ち込んだようだ。

俺もそれを一献いただき、少し緊張を解した所で本題に入る。

急な呼び出しとは言え、この場に呼ばれたのだからおおよその予想は付く。この二人が直に俺と話すということは、絶対に劔冑関連だ。この場で話すということは秘密裏ということ。また誰かを殺さなければならないとなると、正直心が参ってしまう。

そんな俺の心情を慮ってか、総理が苦笑しながら俺に言った。

 

「今君が考えていることはよく分かる。だが、今回はそういう辛辣な物というわけではないよ」

 

俺は考えていたことがバレてしまったことに恥じ入る。考えていることが顔に出るようでは、まだまだ未熟だ。

 

「顔に出ていましたか。お恥ずかしい限りです」

 

そう答えると、総理と天皇陛下はさらに苦笑を深めた。

 

「寧ろその歳で顔に出ない方が問題だと私は思うよ」

「こうして酒を飲み交わしているとはいえ、君はまだ十六歳なのだから。もう少し子供のように振る舞っても良いと思うよ、私は」

 

その言葉で更に己の未熟を恥じる。しかし、いつまでも反省していても仕方ない。

その未熟を恥じつつ、俺は総理に改めて聞く。

 

「それで……今回はどのような任務なのでしょうか?」

 

すると総理と天皇陛下はさっきまでの苦笑から一転、真面目な顔になる。

 

「うむ、実はね……ある任務を君に頼みたくて呼んだんだ」

 

総理はそう言うと、手を2回ほど叩く。すると襖が開き、秘書の男性らしき人が無言で書類ケースを持ってきた。総理がそれを受け取ると、秘書の人は襖を静かに閉めて姿を消した。きっと隣の部屋でいつ呼ばれても良いよう構えているのだろう。

総理は受け取った書類ケースを開けると、中の書類をさっそく俺に渡した。

渡された書類に軽く目を通すと、どうやら何かの事件の話のようだが。

 

「これは……失踪事件…ですか?」

「ああ、そうだよ」

 

俺の問いに応じる総理。

受け取った書類は失踪事件の物だった。

俺がそれを理解した所で総理が説明し始めた。

 

「実はね…ここ最近失踪事件が多発しているんだよ。被害者は全部女性で、皆年若い娘ばかりだ。明らかに何者かが関わっているのは、この失踪した女の子達を見れば分かるだろう。皆見目麗しく可愛い子ばかりだ。君にはこの犯人を捜し、捕まえて欲しいんだ」

 

 それを聞いて怒りが沸いてくる。

資料に載っている失踪した女性は四人。皆綺麗だったり可愛かったりする女性ばかりだ。

それが誰かによって誘拐されたというのなら、その目的も言わずと知れず分かるだろう。

その後誘拐された女性がどうなるかを考えただけで怒りがこみ上げてくる。そのような事を行う輩など、正義を成す者としても、一人の男としても許せた物ではない。絶対に断罪すべきである。

 俺はこの任務をすぐに受けることにしたが、同時にこの事件の可笑しな点についても気付いた。

 

「しかし……これは変な事件ですね」

「やはり分かるか、君も」

 

総理は俺の疑問に同意していた。やはり普通に見てもおかしいと分かるのだろう。

何がそんなにおかしいのか? それは……

 

「被害者に共通点が殆ど無いんだよ……女性である以外は特になくてね。年齢も下は7歳から上は28歳、住んでいる場所もバラバラで、被害者同士の接点もなにもない」

 

これがおかしな点だ。

こう言っては何だが、年齢の幅がこうまで違うというのは明らかにおかしい。

普通、こういう犯罪者は自分の好みで女性を誘拐する。その後することを考えれば、そうなって当然。だが、こうも年齢差があっては……余程特殊な、所謂『セーフゾーンが余程広い』人間でなければ有り得ない。そんな特殊な性癖を持っている人間なんて見たこと無いのだが。

 

「もし君が考えている通りの人間が犯人だったとしたら、まさに神の如き人物だろう……ある意味ね」

 

総理は苦笑しつつそう言っていたが、洒落ではすまない。そんな危険人物が野放し状態というのは、それだけで不味い。

だが、もっと根本的な疑問もあった。

 

「総理、そもそも何故俺を呼んだんですか? これは警察の管轄ですよね。自分が出るような案件ではないと思うのですが?」

 

確かに許しがたい事件ではあるが、普通こういう事件は警察の仕事だ。

俺が呼ばれることにはならないはずだ。だが逆を言えば、つまりこの事件には劔冑が関与している可能性があるからこそ、呼ばれたと判断出来る。

 

「それについては、これとその報告を見れば分かると思うよ」

 

総理がそう言って指差した書類の方に目を通すと、そこにはとある場所の写真と、その辺りに住んでいる住民からの報告が上げられていた。

この書類だけは他と違い、政府が独自に調べた物のようだ。

 

「これは………」

 

その写真はどこかの公園のようだ。

何の変哲も何も無い公園。だが、その景観にはそぐわない物が映っていた。

それは公園の入り口にあるポール。それ自体は何処にでもある普通な物である。

だが、写真に写るポールは可笑しな形をしていた。

半分から先が無くなっているのだ。

残り半分は地面に転がっていた。そこから察するに、斬られている。

そして報告には、まるで『刀のような鋭いもの』で斬られたような断面をしている。

そして住民からは、『爆発音のような音』が聞こえたという報告が上げられていた。

 

「これが君を呼んだ理由だ」

 

総理は俺の目を見ながらそう答えた。

それで納得がいく。つまり……

今回の犯人は武者であるかもしれないということだ。

刀のような物で斬られた断面、そして爆音。

ポールは鉄で出来ている。それをそんな断面で斬るなんて普通では考え辛い。そして爆音は合当理を噴かした時の音に違いない。その証拠に、この公園の近くの工事現場や何かしらの火事関連の事故は起こっていない。

この公園は一番歳が下の被害者がよく遊ぶのに使われていたらしい。

そんな場所にこんな跡と証言……明らかに疑わしい。

その後に指定された資料にも、似たような報告が上がっていた。

 

「つまり今回のこの事件の犯人は武者である可能性が高い。そういうことですか」

「そうだ。もし武者ならば、警察の手には負えないだろう。だからこそ、君にお願いしたいんだ」

 

それで納得する。

武者が相手ならば、それは同じ武者である俺の出番だろう。

そして天皇陛下が俺に言う。

 

「せっかく今の世が男女平等に移りつつあるというのに、その立役者である劔冑がこのような事件を引き起こしていると世間に知れては不味い。だからこそ、それが知れる前に我々で解決し、その存在を消したい。これだけ聞くと汚いように聞こえるからもう少し説明するのなら、今回君がすることは仮に犯人が武者であった場合、相手の劔冑の破壊だ。犯人は絶対に殺してはいけない。それを裁くべきは法だ」

 

それを聞いて少し複雑な気分になる。

言っていることは理解できるし、確かにそう思う。だが、まるで隠蔽工作をさせられているような感じにも思えるのだ。

だが、いくら俺がそう感じようとも、この犯人が悪であることは確実だ。

それが分かれば、俺がすべきことは決まっている。

 

「……わかりました。この任務、お受けします」

「毎回君に無茶を言っている。申し訳無いと思う、すまない」

「いえ」

 

 総理と天皇陛下からそう声をかけられた。

それこそ此方が申し訳無く思う。毎回そう言った苦渋の決断をするお二人こそ大変だろうに。

 

「これは朗報だが、この事件には真田君と伊達君も協力してくれることになっている。三人で頑張ってくれ」

 

その朗報が一番有り難かった。

 

 

 

 こうして、俺はこの事件を解決するために動くことになった。

それがまさか、あんなことになるなんて、この時は思ってもみなかった……。

 

 

 

 

 

 

 


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