ストレスが溜まってるんでしょうね~。
テーブルを破散させるというアクシデントもあったが、何とか気を取り直してまたゲームを再開する。
「「「「「王様だ~れだ!」」」」」
そのかけ声と共に、またくじを引く俺達。無論俺や獅子吼様や伊達さんは声を出していない。
次に王様を引いたのは、真耶さんだった。
「そ、それじゃあ……三番が四番を膝の上に座らせて下さい」
恥ずかしそうに顔を赤らめながらそう命令を出す真耶さんもまた、可愛い。
俺はそんな真耶さんを見つめながらくじを見ると、番号は二番。俺では無い。
では誰かと言うと、獅子吼様が三番のようだ。四番は金田さんだった。
金田さんはさっきまでのノリとは打って変わって、顔を真っ赤して恥ずかしがっていた。
「そ、その…膝の上、いいですか?」
「何故聞く? ゲームで命令されたのだから、一々聞くことでもなかろう」
そう聞かれた獅子吼様は、そう普通に答えた。
どうやら少し酔ってきたのか、思考も柔らかくなってきたようだ。普段なら絶対に怒ってただろう。
しかし、それが余計に緊張をさせたらしく、金田さんは腰が引けてしまっていた。
意外と純情のようだ……真耶さんの方が純情だと俺は思うが。
だが、そこで躊躇っていてはゲームは進まない。周りの視線が早く座るよう、金田さんに集まる。
すると……
「早く座っちゃいなさいよ。進まないでしょ」
「そうだよ~」
と、如月さんと海野さんが金田さんにそう言う。
その顔はニヤニヤと笑っており、明らかにこの状況を楽しんでいた。
「ぅ~~~~~~~~~~~~~~」
それが分かり唸る金田さん。
何というか、お気の毒にとしか言えない。
「ふむ。これでは話が進まぬな。失礼」
「え?……きゃっ!?」
獅子吼様は埒が空かないと判断し、金田さんの手を掴むと自分の方に引っ張り込み自分の膝に強引に金田さんを座らせた。
獅子吼様の体が大きいこともあり、金田さんの体がすっぽりと収まった。
自分がどんな状態になったのかを理解した金田さんの顔がボンッと爆発した。
「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
何やら声にならない何かを上げていたが、獅子吼様は全く気にした様子もなく、また一献飲んでいた。
そしてゲームはまた続いていく。
またかけ声と共にくじを皆で引くが、金田さんの声は凄く弱々しかった。
次に王様を引いたのは、俺である。
何にしようかと悩み、これまた定番のの物であり、いつも俺が真耶さんにして貰っていることにした。
「では、六番が五番に、はい、あ~んをする」
そして手を上げたのは、伊達さんと弾。ちなみに伊達さんが六番、弾が五番である。
伊達さんは料理から一つ何かを適当に摘まむと、弾の前に翳した。
「ほれ、喰え」
「は、はい……」
伊達さんは普通に笑いながら弾に箸を差し出すが、弾は顔を青くしながら凄く残念そうな顔で出された食べ物を食べた。
それを終えた弾から、
「なぁ、これってどんな罰だ。人生初のはい、あ~んが禿げた男だなんて……最悪だ」
と言われ、弾は意気消沈していた。
何だか可哀想に見えたが、俺は何も声をかけることは出来なかった。
そして次のゲームへ。
次に王様になったのは、海野さんだった。
「では~、二番と五番でポッキーゲーム」
ここで来た定番中の定番に、皆(獅子吼様と伊達さんはまったく気にしていない)が固唾を呑んだ。
そして俺は自分のくじに目を向けると……五番だった。
そして二番は……真耶さんだ。
それが分かった瞬間、火が出るくらい顔が熱くなり俺と真耶さんは赤面してしまう。
何? もう何度も見られているのだから恥ずかしくないだと。見られてしまったのと、見ている中でするのとではえらい違いがある。そこは一番重要なことだ。
俺は恥ずかしいが、皆もそれまでこういった思いを味わったのだから、やらないというわけには行かない。ポッキーがいつの間にか用意されていたので、それを一本摘まみ、真耶さんの方を向く。
真耶さんは未だに踏ん切りが付かないのか、顔がどんどん真っ赤になっていく。
もじもじと指を胸の前で絡ませ、赤くなりながら恥じらう真耶さんは本当に可愛かった。二人きりだったら思いっきり抱きしめたいくらいに。
ずっと見つめていたくなるが、それではゲームは進まない。
どうしようかと悩んでいると……
「っ~~~~~~~~~~~~!」
真耶さんは何を思ったのか、俺の飲んでいた酒をそのまま取り、一気の飲んでしまった。
「あっ!?」
それを見て俺はそんな声を上げてしまった。
最近かなり酒に弱くなっているのに、そんなことをしたら……
「……ひっく……」
こうなってしまうだろう。
真耶さんは顔を真っ赤にし、とろんとした表情になっていた。明らかに酔っている。
そしてそのままポッキーを口に咥えると、俺に顔を近づけた。
「ん~」
それがゲームの催促だということは誰にでも分かるだろう。
俺は観念して差し出されたポッキーを咥える。
そしてゲームが始まった。ポリポリとポッキーを食べていくが、味は全く分からない。何せ間近に目を潤ませた真耶さんの顔があるのだ。その瞳に吸い寄せられそうになってしまう。
真耶さんはまるでリスのようにポッキーを食べていく。その姿はとても愛くるしいのだが、食べる速度がかなり速い。
そのまま顔が近づいていく俺と真耶さん。
後二センチで唇がくっつくという距離まで近づいた。そろそろ折った方が…と思っていたら、真耶さんが俺の目を見て笑った。
そして……
「んっ…」
まるで麺を吸い込むかのように、残りのポッキーを口の中に入れて俺との距離をゼロにした。
そして合わさる唇。急な事に驚く俺を面白がってか、真耶さんは両手を伸ばし、俺の頭を後ろから押して更に唇を密着させた。甘い香りと、みずみずしい唇の感触にクラクラする。
そして…俺の口の中に入ってくる舌。
「っ~~~~~~~~~~~~~~!?」
「ちゅ……ちゅぱ……」
ある程度俺の口の中を舐め回すと、やっと俺を解放した。
「んふふ~、ごちそうさまです~」
ご満悦な真耶さん。俺はと言うと、心臓がドキドキして仕方ない。
流石にここまでやると思ってなかったためか、女性陣と弾の顔が真っ赤になっていた。(獅子吼様と伊達さんは言わずと知れたことだ)
そしてキスを終えた真耶さんは皆、特に女性陣に向かって言った。
「旦那様は私だけの物なんですから、絶対に渡しませんよ~! キスや、はい、あ~んって甘えられるの私だけなんですからね~。いくら友達でも、旦那様にそんなことをさせたりするなんて、絶対に許さないんだから~」
そう顔を真っ赤にして少し怒った感じに言う真耶さん。
どうも酔うと子供っぽくと言うか、独占欲が強くなるような気がする。
それを聞いた女性陣の三人は大層驚いていた。
そして弾からは……
「どんだけイチャついてんだよ」
と言われ、伊達さんからは、
「もう尻に敷かれてんのか! まったくもって愛されてんじゃねぇか、おい」
と茶化された。伊達さんは静かにして下さい。恥ずかしい。そして獅子吼様は、
「ほう、中々の気骨をもった者を恋人にしたな、織斑は。良いではないか」
と笑っていた。これもきっと伊達さんと同じからかいなのだろう。言われて俺は恥ずかしさから真っ赤になった。
その後もゲームは続き、俺は真耶さんを膝に乗せながら参加することに。
膝に当たる柔らかい感触にまったく落ち付かなかった。真耶さんは気を良くしてずっと笑顔だったので、これはこれで良かったと言えると思いたい。
「「「「「王様だ~れだ!」」」」」
そのかけ声と共にまたくじを引く俺達。
そして王様は真耶さんとなった。
「それじゃあ~~……四番と二番が『叩いて被ってじゃんけんぽん』で五本勝負~」
と可愛らしい声で命令した。
その声に頬を緩めつつ、二番であった俺は手を上げた。ゲームをするに当たって、真耶さんを膝の上から退かす。そして対戦相手を探し、それを見つけた瞬間、俺の顔は凍り付いた。
俺とゲームをするために手を上げたのは……獅子吼様だった。その手には四番のくじが握られている。
「ほう。織斑か。これは面白くなりそうだ」
笑いながらそう言う獅子吼様。だが、その身は明らかなまでに殺気立っていた。
「あ、あの…獅子吼様? お遊びですよ…ね?」
「ああ、ただの遊びだ。だが、伊達が実に楽しそうだったからな。俺もやってみたくなった。それに……」
「それに?」
そう聞いた瞬間、獅子吼様は実に獰猛な笑みを浮かべた。
「お前とは前の『運動』の際、引き分けだったのだ。これで白黒付けるのも面白かろう」
そう言えば、前に仕事を手伝った際、軽く剣を打ち合ったことがあったか。結局引き分けだったことを今になって思い出した。
もう引き下がれそうにないと判断して俺は獅子吼様とゲームをすることになった。
ルールは5回戦い勝敗の多い方が勝ちというもの。引き分けもありである。
さっそくじゃんけんをしようとしたのだが、獅子吼様は用意されたピコピコハンマーとヘルメットを見て何かを考えていた。
「獅子吼様?」
「いや、これでは俺もお前も興が乗らんだろう。少し工夫をしようと思ってな」
そう言うと、道具を退かしてしまった。そして……
「銘伏、小太刀を出せ」
そう言い、自分の劔冑から小太刀を出させた。まさか連れて来ているとは思わなかった。しかも姿が何故か見えないため、いきなり小太刀が現れたように見える。
それを見て驚くみんな。ただし伊達さんだけは爆笑していた。
そのまま早口でじゃんけんのかけ声を言われ、咄嗟に手を出した。出した手が負けたと分かった瞬間、俺は急いで正宗を呼ぶ。
「正宗! 小太刀を!」
『応!』
正宗が此方に小太刀を飛ばし、それを掴んで抜刀し防御に回した瞬間に、俺の顔面すれすれに獅子吼様の小太刀があった。
受け止めた瞬間に鳴る金属同士の激突音。そしてその威力は衝撃となって辺りの物を吹っ飛ばした。
凄まじい轟音を轟かせ、俺は防御に成功した。そのことに冷や汗を掻きつつ、ほっと胸を撫で下ろした。
「いきなり何をするんですか、獅子吼様!?」
「いや、こっちの方が本気になれるからな。ちゃんと刃も伏せているし、当たっても骨が砕けるくらいだ。何も問題なかろう?」
獅子吼様は獰猛な笑顔を浮かべながらそう答える。
まったくもって大問題だと声を大きくして言いたい。
皆はそれを見て顔を真っ青にしていた。
その後もこの5回勝負は続き……
「しゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」
「がぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」
と雄叫びを上げながらこの攻防は続いた。
結果は双方勝ち星無しの引き分けだった。
辺りの物はこの衝撃で吹っ飛びまくり、もうゲームが出来る状態ではなかった。
これにて、王様ゲームは終了となった。
その後散らかした物を片していたとき、獅子吼様は実に満足そうだった。