獅子吼様に命じられ、俺はこの店の厨房を借りて料理を作ることに。
獅子吼様の言う通り、確かに食材は良い物が多かった。それを一口食べただけで分かるとは……獅子吼様は相当に舌が鋭いと分かる。それだけに、気を抜かずに調理した。
そして出来た料理を皆の所に持って行く。
持ってきた料理を見た女性陣と弾は驚愕していた。
「なっ!? これが高校生の料理なの!?」
「凄い美味しそうね~」
「女として負けた………」
「じいちゃん、負けてるよ……」
そこまで驚くことでもないと思うのだが?
それに和食しか作らなかったのは申し訳なく思う。獅子吼様が鋭いと分かった時から、生半可な物は出せないと判断した。そのため、本業である和食にしたのだ。
「へぇ~、こいつは美味そうだな! 織斑は料理が得意なのか!」
伊達さんは周りを気にせずに愉快に笑っていた。
そしてまたひそひそ話をし始める女性陣。
「ちょっと真耶! あんたの恋人って何でこんなに料理上手なのよ!」
「真耶ちゃんの恋人はすごいわね。有名人でお料理上手」
「上手なんてものじゃないわよ! もうプロ級じゃない。何よ、このにんじんの飾り切り! 高校生の料理じゃないわ。大鳥さんも何か知ってるみたいだし」
「えへへ~、だって旦那様は『プロ』だから!」
「「「プロ!?」」」
「はい! 旦那様は懐石料理の老舗、『福寿荘』の副板(副料理長)の役職にも就いてるから」
「「「えぇええええええええええええええええええええええええええ!!」
ひそひそと聞こえないように話しつつ驚く女性陣。
当然ながら、武者の耳には余裕で聞こえる。
真耶さんがえっへんといった感じに胸を張って自分の恋人を自慢する姿が子供のようで可愛かった。
その分恥ずかしくもあったが。
「へぇ~、織斑は料理人もしてんのか! 芸達者ってやつだな!」
伊達さんは笑いながら俺の背中を叩いてくる。痛い上に恥ずかしかった。
「いつの間にこんなに料理が上手くなってんだよ……」
そして弾が聞いてくる。その顔は何だか驚き過ぎて疲れたといった疲労を感じさせた。
「ちょっと懐石料理店で修行していてな。それで上手くなった」
「……そうか……」
もう驚くことに疲れた弾は、そのまま返事を返すしかなかった。
そして持ってきた料理を皆で摘まむことになった。
さっそく獅子吼様が一口食べる。
俺はそれを緊張しながら反応を待つ。
「ふむ……悪くない。これなら一流と名乗っても問題はなさそうだな」
「ありがとうございます」
どうやら獅子吼様の口には合ったようだ。
その場にあった真剣な雰囲気が薄れていくのを感じた。
だが、悪くないと言われたということは、『美味しい』ではないのだ。
まだまだ、此方も修行が足りない。精進せねば。
獅子吼様の評価が出た後、みんな箸を付け始めた。
「うわぁ! マジで美味しい!」
「凄く美味しいです」
「お、美味しい……でも負けた気が……」
「へぇ~、こいつぁ美味いぜ! 酒が良く進む」
「美味すぎて何も言えないよ、俺は」
皆から賞賛の声を受け、気恥ずかしいながらに嬉しい。
俺はそう思いながら箸を付け一口……悪くはない。
「やっぱり旦那様のお料理は美味しいですね~。私のお料理なんかよりよっぽど……」
真耶さんは俺の料理を食べ、頬を幸せそうに緩めていた。そんな姿も可愛くて癒される。
「俺はそんなことないと思いますよ。俺は真耶さんの作ってくれる料理の方が美味しいと思います」
「旦那様ぁ……」
真耶さんは俺にそう言われ、熱い視線でうっとりと俺を見つめてきた。
人前でなければキスしたい。人前であることが残念で仕方なかった。
しばらく皆で飲み食いし、程良く盛り上がってきたところで質問タイムとなった。
合コンには当たり前にあるものらしい。
「そう言えば皆さんの趣味ってなんですか!」
真耶さんが皆を代表して俺達にそう質問してきた。すると三人は興味深そうに俺達に視線を向ける。
その質問に困ってしまう俺と獅子吼様。
(趣味か……そこまで何かにのめり込んでいる物はない。料理は言えない。一応は本職なのだから)
(趣味か……仕事ばかりでそんなことにかまけている余裕など、無かったからな)
うんうんと唸ってしまっている俺達。すると弾が手を上げた。
「お、俺はギターをやってます。まだ全然弾けないけど……」
それを聞いた金田さん達は楽しそうに反応する。
「へぇ~、そうなんだ! 楽器やってるなんて格好いいじゃない!」
「私も聞いてみたいわ」
「高校生らしい趣味ね~。懐かしいわ」
そう言われ照れる弾。恥ずかしさから赤面してしまい、金田さん達から可愛いと言われていた。
どうやら如月さんは楽器を何かやっていたらしい。
そのせいか、弾とは話が合うらしい。弾と結構楽しそうに話していた。
次に手を上げたのは伊達さんだった。
きっと伊達さんの事だから……
『死合い』
とか言うのだろう。
だが、そんな予想は裏切られた。
「俺の趣味は……『お菓子作り』だ」
「はぁ!?」
「何!?」
「えぇえええええええええええええええええええええええええええ!?」
その答えに驚く男性陣。
とてもじゃないが、あまりにも似合わない。
まだ、『人殺し』とか答えたほうが絶対に似合う。
「ち、ちなみにどんなお菓子が得意なんですか?」
金田さんが若干引いた感じに聞くと、伊達さんは自信満々に答えた。
「おう! 和菓子に洋菓子っていろいろだな! 一番得意なのは、ずんだ餅だぜ」
「え、そうなの! ギャグだと思ってた。マジなんだ……」
「それは美味しそうですね。是非とも食べてみたいですよ」
金田さんと海野さんが興味津々に伊達さんの話を聞きに行った。
そして楽しそうにお菓子の話をする伊達さん。その内容から本当にお菓子作りが得意だということが窺える。俺はとてつもないショックで固まっていた。
まさか伊達さんにそんな趣味があったなんて……意外すぎて開いた口が塞がらなくなりそうだった。
そしてある程度話した三人は俺と獅子吼様に目を向けた。
俺と獅子吼様は観念して答えることに。一応はそれらしいものを見つけた。
「「鍛錬」」
そして場の空気が凍った。
奇しくも俺と獅子吼様の趣味は一緒のようだ。
その後、金田さん達の趣味を聞いた。
皆さん、とても似合っている趣味を持っていた。
金田さんはスポーツをやっているらしく、今はロードレーサーにはまっているらしい。獅子吼様もやらないかと誘われていた。海野さんは伊達さんと同じくお菓子作りであり、伊達さんとお菓子作りで共感していた。如月さんは読書と音楽らしく、弾と気が合うのか音楽関連の話で盛り上がっていた。
良い雰囲気であり、先程あったことなど皆忘れてきているようだ。少し不安だったが、安心した。
どうやら合コンは今のところ問題無く進んでいるようだ。
ちなみに真耶さんは………
「趣味ですか……だ、旦那様の可愛いところや格好いいところを見ることです…えへへへへ」
と俺だけに教えてくれた。
それが趣味かどうかは分からないが、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら皆に聞こえないよう小声で俺にだけ言う真耶さんの姿はあまりの可愛さに俺の胸をドキドキと高鳴らせた。
その点で言えば、俺の趣味は真耶さんの幸せな笑顔を見ることになるのだろう。後で伝えよう。
場も充分に暖まったところで、金田さんが持っていた鞄から何かを出して来た。
「場も充分暖まってきたところで、そろそろ定番のアレ、行ってみよう~」
それを聞いて皆の視線が金田さんに集まる。
もともと真耶さんはそういうことが苦手とあって、司会役は金田さんに移っていた。
金田さんは皆の視線を受けて、不敵に笑うと、皆の前に持ってきた物を出した。
「じゃ~~~~~~~ん! 王様ゲーーーーーーーム!」
それは割り箸に番号が振ってあるくじのような物だった。
王冠のマークが書かれた一本と、2から8の数字が書かれている七本で構成されている。
王様ゲーム。
それは俺も話で聞いたことのあるものだ。
くじを引き、王様となった者は番号を二つ、もしくは王様と番号を指定して何かしらを命令する。
それを遂行するゲームだ。番号は誰が何番を引いたのか分からないため、運の要素がでかい。
俺達は早速くじを引き始めた。
ちなみに俺は六番。
「「「「「王様だ~れだ!」」」」」
全員のかけ声(俺と獅子吼様、伊達さんは恥ずかしくて出していない)を出すと、金田さんが手を上げた。
「私が王様で~す。じゃぁ~、四番が二番に膝枕!」
そう言った途端に、手を上げる弾と如月さん。
どうやら弾が二番らしく、如月さんは四番を引いたようだ。
如月さんは恥ずかしそうに顔を赤らめながら弾を自分の方に呼び、弾の頭を膝に載せた。
ちなみに指定された命令には、次にその者が指定されない限りずっとやっている物もあるらしい。膝枕はそれに当たるそうだ。
弾はここから見ても分かるくらい顔を赤くしていた。
そのまま次のゲームを始める。
そして次に王様になったのは、弾であった。
「そ、それじゃあ……三番が五番にハグとか?」
それに手を上げたのは海野さんと伊達さん。
海野さんは三番らしく、伊達さんの顔を思いっきり胸に埋めていた。でかい胸に伊達さんの頭が埋もれる。
「こいつは役得だな」
「んっ…そのまま喋らないで下さい。息が…」
伊達さんはまったく動じてないようだ。逆に海野さんの顔が赤くなっていた。
そして次のゲーム。
なんと王様は獅子吼様だった。
「では…そうだな。六番が五番に愚痴を言うというのはどうだ」
そして手を上げる俺。引いたのは五番。つまり言われる側。
六番を引いたのは如月さんだった。
如月さんは弾を膝から優しく退かすと、俺の方に向かって歩いてきた。何だか弾と違って俺相手だと目つきが鋭い。
そして愚痴が始まった。それも何故か俺宛に。
「君が活躍するのは良いけど、その所為で裁判所は大わらわよ。今まで女尊男卑に託けてた人達が一斉に訴えられて裁判だらけ。別に君が悪いというわけじゃないんだけどね………」
どうやら俺を睨んでいたのは、俺の所為で仕事が忙しくなった為らしい。
分からなくはないが、それはどうしようもない。なので俺は如月さんがすっきりするまで愚痴を聞いた。
如月さんが愚痴を言い終えた後、弾が此方に戻ってきた。
「柔らかくて良い匂いがして最高だった……これがお前の境地か……」
とても幸せそうな顔をしていた。
さて、気を取り直してゲーム再開。
ここまでは上手くゲームが進んでいる。何も問題はない。
しかし、次に問題は起きた!
王様になったのは、如月さんだ。
「じゃあ、二番と六番が腕相撲」
そして手を上げる俺と伊達さん。
「よっしゃ、織斑か。遊びでも本気でいくぜぇ」
伊達さんはかなりやる気のようだ。腕相撲だというのに、ぶわっと溢れ出した殺気がその証拠だろう。
持ってきて貰ったテーブルでお互いに肘を着き、手を握り合う。
そして如月さんの開始の合図とともにスタートした。
「では……始め」
「おりゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」
伊達さんの咆吼と共に俺の手の甲がテーブルに叩き付けられそうになった。
(なっ!? この人、死合い並の力で来てる!!)
たかがお遊びに真剣な死合いと同じ力をかけてきたのだ。
俺は急いで力を入れ直す。
「どうしたどうした、織斑! お前の金剛力はそんなもんじゃねぇだろ! 手抜いてんじゃねぇよ!手ぇ抜くってんなら、王様になった時にお前の嫁さんにキスしてもらうよう命令しちまうぜ!」
たかが挑発、されど挑発。
それを言われ、俺の中で何かが切れる。
「そのようなこと、絶対にさせん! ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺も死合いに使うくらいの力を込めて伊達さんの手を反対側に押し返し叩き付けようとした。
一般人なら、ぶつけた瞬間に手の骨が粉砕するか、手そのものが衝撃で四散するかもしれない。それくらい容赦なく力を込めた。
この腕相撲、絶対に負けられない! 伊達さん相手に手加減など一切出来ない!
「そぉそぉ、そぉこなくっちゃなぁ! らぁあああああああああああああああああ!!」
そして伊達さんも押し返し、手が元の開始位置に戻る。
そしてその場から双方全く動かなくなった。握り合った手は血管を浮かべ、痙攣するかのように震えていた。そして台にしていたテーブルから嫌な音が鳴り響く。
「これで終わりだ! おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「負けねぇよ! しゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
お互いに咆吼を上げ、持ちうる全ての力を手に込め押し倒そうとする。
結果………
バゴォーーーーーンッ!!
台にしていたテーブルが力に耐えきれず、破砕され吹っ飛んだ。
「「あ…」」
お互いに間の抜けた声を上げてしまった俺と伊達さん。
勝負は引き分けとなった。
それを見てショックで固まる女性陣。
そんな中、
「そ、それじゃあ、次のゲームにいきましょうか!」
真耶さんが明るい声で皆にそう言った。
その心遣いが心に染みた。