皆様に感謝いたします。
真耶さんに連れられて俺達は店の個室に入っていった。
部屋の中では、テーブルに二十代前半の女性達が綺麗な服装で座っていた。
「みんな、来たよ~」
真耶さんがその女性達にそう声をかける。親しい友人に声をかけるその姿は、いつも俺に見せている姿と少し違って俺の胸を高鳴らせた。
皆その声を受けて、此方の方に視線を向ける。
そして……
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
黄色い声を上げていた。
皆とてもテンションが高いようだ。
そのまま俺達は席に着くことに。席では男女に別れ、向かい合うように座る。
「で、では、こっちから紹介させてもらいますね」
どうやら真耶さんが司会役を務めるらしい。
その姿が背伸びしている様に見えて笑ってしまう。
「はいは~い。では私から! 私は金田 葵って言いま~す。職業はOLで~す」
一番奥にいる女性が手を上げて元気よく自己紹介をした。
恰好は活発的な服装で、胸元がかなり出ている。身長もスラリと高く、スタイルも良さそうだ。
今回の合コンにとてもノリ気なようだ。
「私は海野 星奈と言います。職業は介護のお仕事をさせてもらっています」
次に手を上げたのは、おっとりとした女性である。
服装はゆったりとしている物だが、真耶さん並に胸が大きい。
とても母性溢れる感じを見受ける。
「それじゃ次は私ね。私は如月 伊月よ。仕事は弁護士をしているわ」
最後に手を上げたのは、少し目つきが鋭い女性だ。
服装もきっちりとしたスーツである。眼鏡をかけているが、真耶さんとはまったく雰囲気が違う。
その後、真耶さんも軽く自己紹介するが、この場にいる男性陣の大体は既に知っている。
そして今度は男性から自己紹介を行う。
「では、まず自分から。織斑 一夏と申します。職業は……一応学生ですね」
無難な紹介をしたが、職業でつっかかる。実際に学生と言うには微妙な立場だが……
「キャーーーーーーーーーーーー! 生一夏キターーーーーーー! すっごっ!」
「これが今噂の人ね~」
「………」
紹介を終えた途端に、女性陣から視線が集まった。
二人は有名人を見たような反応なのだが、何故か如月さんから睨まれた。何故だろうか?
何か不快に思わせてしまったのだろうかと考えてしまう。
「そ、それと…私の婚約者です……」
真耶さんは俺の手を繋ぎ、恥ずかしそうに顔を赤くしながら友人に紹介していた。
何だかそんな様子も可愛い。ちなみにこの行為には、
『この人は私の恋人なんですから、手を出さないでね』
という意味が込められている。
それが分かり、俺は真耶さんの手を握り返した。
俺に続き、今度は弾が紹介を始めた。
「は、初めまして! お、俺は、五反田、弾っていいまひゅ!」
それが緊張のあまりに嚙んでしまったのは言うまでもなく分かった。
弾は嚙んでしまったことで恥ずかしさから赤面していた。
「へぇ~、結構可愛いじゃない! 君、職業は?」
「何だか目が離せない可愛さがあるわね~」
金田さんと海野さんはそんな弾の反応が受けたのか、話しやすいよう話しかけていた。
それを受けて、弾はさらに緊張しながら嚙まないように答える。
「あ、ありがとうございます! 俺も学生で、一夏とは中学からの付き合いです!」
「ってことは高校生。いや~、若いわね~」
「高校生なんだ~。可愛いわ~」
弾は二人に受け入れられたことに、ホッと胸を撫で降ろしていた。
そして次に……獅子吼様が紹介を始めた。
その場にさっきまであったお祭りのような雰囲気が一瞬にして消し飛び、空気が張り詰めるような感じがする。
「俺は大鳥 獅子吼という。職業はしがないサラリーマンだ」
獅子吼様は淡々と自己紹介をした。
しがないサラリーマンと言ったのは、一種の諧謔なのだろう。全く面白くないが。
そのまま名刺を女性陣や弾と伊達さんに渡す獅子吼様。
女性陣は名刺を見た途端に、ピシリッと固まってしまっていた。
まぁ、天下の六波羅。それも四公方と言えば、一般の企業の会長を優に超えるくらい凄いものなのだ。それが目の前に現れれば、確かに皆固まるというもの。ただし、伊達さんは平然としていたが。
そして固まっていた女性達は気を取り直すと、俺達に聞かれないように集まって小声で話し始めた。
「ちょっとちょっと! 何、あの人! 超お金持ちじゃない! 性格きつそうだけど、ドンだけ凄いのよ! 真耶、あの人呼んだのあんたの恋人でしょ! どんな繋がりがあんのよ!」
「真耶ちゃん。あなたの恋人が有名人なのは聞いてたけど、まさかこんな凄い人と知り合いなんて驚きね」
「真耶、さっきあなた普通に聞いてたわよね。ということは、あなた、既に知ってたわね」
「そ、その…旦那様に連れて行ってもらったパーティーで紹介してもらって。旦那様のお師匠様のお知り合いらしくて、旦那様もたまに仕事を手伝ってるって」
その後もひそひそと話す真耶さん達。
と言っても、武者である俺や獅子吼様達には聞こえているのだが。獅子吼様はそんな物だろうかと首を傾げていた。
そして女性陣が座り直した所で、最後に伊達さんが紹介を始めた。
「俺は伊達 政臣ってんだ! 仕事は一応自衛官か? 織斑、教官の場合って自衛官で合ってんのか?」
「いや、どうなんでしょう? 多分自衛官で合っているのでは?」
そんなイマイチな疑問に答えると、
「んじゃそういうことだ! よろしくな」
と明るくニカっと笑う。
「何だか明るい人ね~。結構好みかも」
「う~ん、私はちょっと苦手かも~」
「何だか頭が悪そうね」
女性陣からそんな風な反応が返ってきたが、伊達さんはまったく気にした様子はなかった。
女性陣は男性陣のことを知って、よりやる気が漲っていた。
男性陣は……まぁ、いつの通りな感じであった……弾以外は。
そして始まる合コン。
まずは軽く食事をとり、次に何かしらのゲームで盛り上がるといった流れになるらしい。
軽くお腹に何か入れようという話になり、皆で注文を取る。
俺と弾、真耶さん以外は皆酒を頼み、料理が来るのを待った。
そして料理が来たところで俺と真耶さんが皆に取り分けた。
それを見て、伊達さんが俺の事を冷やかしてきたので思いっきりデコピンを入れ悶絶させた。
女性陣はその様子を見て苦笑いをし、獅子吼様は愉快そうに「くくく…」と笑っていた。
弾は目の前の光景に驚き固まっていた。
「なんで酒を頼まねぇ~んだよ、織斑~! お前、かなりイケる口だろうが」
「一応は学生として紹介したんですから、飲みませんよ。それにここはあの店じゃないんですから、バレたら捕まります」
「硬いこと言うなよ! つまんねぇ~な~。そう思わねぇか、獅子吼の旦那ぁ」
そう獅子吼様に振る伊達さん。
真面目な獅子吼様がそんなことに答えるわけが…
「そうだな。此度は無礼講のようなものなのだから、酒ぐらい良いではないか織斑。と言う訳で織斑には日本酒を一本頼む」
獅子吼様は面白そうに俺にニヤリと笑いながら日本酒を注文していた。
あれ? 何で真面目な獅子吼様が!? と言うか意外にこの二人、仲良くなってる!?
そして飲み物が揃った所で、
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
乾杯をして皆飲み始めた。
金田さんは豪快にビールを呷り、負けないくらいに伊達さんがビールを呷っている。
弾はウーロン茶を一口飲み、海野さんは何かのカクテルをちびちびと飲み始めた。
如月さんはウーロンハイをゆっくりと飲み始め、俺と獅子吼様は日本酒を一献する。
そして料理に手を付けたのだが……
「む、あまり美味くないな。素材は良いようだが、腕が全く駄目だ。織斑、悪いが厨房に行って何か作ってきてくれ。何か言おうものなら、この六波羅四公方、篠川公方が承ると言っておけ。そう言えばな、この店は六波羅の飲食チェーンの店だ。文句は言わせん……やれ」
獅子吼様がそんなことを言い出した。
それを聞いた皆(伊達さんを除く)は突然の事に固まり、俺は渋々注文を受け厨房に行くことになった。
お店の人にそのことを話した瞬間、店がパニックになったことは言うまでも無い。