装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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お気に入りが減った!?
皆さん、どういう物を求めているのかが難しい昨今です。


合コンの前に

 あっという間に金曜日になってしまった。

俺は悩みに悩ませてついに決めたのだ……この合コンに呼ぶ人を。

それに当たっては本当に苦労した。自分で思っていた以上に交友関係が無いことに正直へこみもした。

まず師匠は絶対に駄目! 師匠なら喜んで来そうだが、そんなことをすればあの五人が黙っていない。俺はまだ死にたくない。

次にこういうのに喜んで参加しそうな童心様。年齢的にもどうかと思うが、それ以上に場がとんでもないことになりそうだ。よって却下。

芹澤さんは人が良いのだが、彼は今も料理の修行中だ。あまり邪魔をしてはいけない。

そして最近もっとも付き合いのある人と言えば、真田さんと伊達さんだが……

何と真田さんは既婚だった。そのため、真田さんは呼べない。

となると伊達さんなのだが……不安だ。

 そうして悩んだ結果……

 

 

 

 金曜の夜。

俺は外出許可を貰って指定された店の前で呼んだ人物を待っていた。

既に真耶さんやそのご友人は店内で待っている状態だ。

 

「どうしよう、一夏! 俺かなり緊張してきた!」

 

俺の隣では弾が緊張して固まっていた。

今日の合コンの一人に呼んだのは弾だ。結構前から、『彼女が欲しい~』と言っていたのを思い出したからだ。蘭の件で世話になったこともあり、恩返しというには微妙だが呼んだ。少し年齢差があるが、俺と真耶さんのように気にしない人もいるだろう。少なくとも俺達はそうだ。

 

「弾、まだ始まってもいないのだから、落ち着け。そのようでは相手に粗相をすることになるぞ」

「そ、それはそうだけどよ~! 合コンなんて初めてなんだぜ! しかも皆年上のお姉様方!」

 

緊張のあまりに捲し立てるように喋る弾。

それをあやすように話していると、店の前に黒塗りの高級車が停まった。

運転席から人が降りてきた。服装は明らかに高そうなスーツであり、威厳と迫力を持った中年男性であった。スーツ越しだというのに、その肉体はとても鍛えられていることが窺える。

その男性は車の前から回り込むように移動すると、後ろの席のドアを丁寧に開ける。

 

「ひっ!?」

 

その車から出てきた人を見て、弾が息を呑んだ。

そこから出てきたのは、一人の男性であった。精悍な顔つきに一見細身に見える体。それを高そうなスーツで包んでいる。顔からはとても神経質な感じが見受けられ、無意識に殺気が発せられていた。

その姿はまさに広域暴力団、所謂ヤクザに見えるだろう。

その男性は車に行くよう指示を出すと、此方に向かって歩いてきた。手には仕事用の鞄が持たれている。

男性は俺達の目の前で止まると、俺の方に目を向けてきた。弾は男性の視線に射竦められていた。

俺はその男性に頭を下げ、礼をする。

 

「良くおいで下さいました。獅子吼様」

「久々……と言うにはつい最近会ったばかりか。元気そうで何よりだ、織斑」

「は!」

 

そう、俺が次に呼んだのは獅子吼様だ。

俺が知っている人間の中で、まったく悲しいことにまともな精神を持っている人がこの人しかいなかったのだ。忙しいご身分の為まず無理だと思ったが、ともかく連絡してみると、意外にもすぐにOKをもらえた。何でも、最近働き過ぎなので部下の人達に休むよう言われていたらしい。

 

「む、この者は」

 

獅子吼様は俺の隣で固まっている弾を見てそう聞いてきた。

 

「はい。この者は自分の友人です。弾、挨拶をしろ」

「あ、ああ! ご、五反田 弾です!」

 

弾は獅子吼様の雰囲気に飲まれ、慌てて自己紹介をする。

獅子吼様はそんな弾の様子を見て少し首を傾げたが、普通に挨拶することにしたようだ。

 

「大鳥 獅子吼と言う。織斑とはプライベートでの知り合いでな。よろしく頼む」

「ひゃ、ひゃい!」

 

獅子吼様は普通に挨拶したつもりなのだろうが、その身から溢れる威圧感に弾は戦いていた。

それを見て苦笑してしまう。

 

「そう言えば織斑よ。出来ればまた仕事を手伝ってもらえぬか」

 

獅子吼様は弾に挨拶を終えた後に、俺にそう言って来た。

 

「それは問題ありませんが……何か問題でも?」

「ああ。あの馬鹿(茶々丸)を特撮に出演させているだろう。その所為で彼奴の仕事が遅れているのだ。流石にこれについては関わった俺にも一旦がある故、そこまで文句は言えん」

「そういうことですか。分かりました。謹んでお受けします」

 

俺と獅子吼様がそんな話をしている間、弾は気まずそうにしていた。

少しだけ申し訳無く感じる。

それを見かねてか、獅子吼様は弾に話しかけた。

 

「そこまで緊張するな。此奴とはこんな話をしているが、別に部下と言うわけではないのだからな」

「ひゃ、ひゃい! 気、気を付けます!」

 

獅子吼様にそう言われ、弾は慌ててそう返す。

きっと獅子吼様なりに弾の緊張を解そうとしたのだろう。まったく逆効果のようだが。

ふと思ったが、俺と獅子吼様の関係とは、表すのなら何と言うべきだろうか?

友人では絶対に無く、上司部下でもない……やはり知り合いとしか言い様が無い。

 そんな事を考えていると、遠くからバイクの爆音が聞こえてきた。

その音は段々と此方に近づいて来た。

その音を聞いて、俺は自分が呼んだ最後の人物が来たことを悟った。

爆音を出しながら此方に向かって大型バイクが走ってきた。そして店の前で止まる。

 

「よぉ、織斑! 久しぶりだな!」

 

バイクから降りてきた男性がそう俺に声をかけてきた。

禿頭にスカジャンを着込み、ジーパンを穿いた如何にも獰猛な感じのする男性。

その表情は肉食獣のような殺気に溢れた笑顔を浮かべていた。

 

「ええ、久しぶりです。伊達さんもお元気のようで」

 

そう、俺が呼んだ最後の人は伊達さんだ。

まったくもって己の交友関係の狭さを呪いたくなったが、ここに童心様が来る事に比べればマシである。

伊達さんは俺の方に来次第、砕けた感じに話し始めた。

 

「まったくもって退屈だったんだぜ。政府の命令で仕方なく亡国機業? だったか? そいつらのアジトを根こそぎ叩きに行ったけどよぉ、どいつもこいつも腰抜けばかりで歯ごたえがまったくねぇ。御蔭でこっちは欲求不満だっての」

 

 と、前の作戦の事について文句を言いまくる。

一応機密作戦なのだから、あまり大声で喋って良いことではないのだが……。

伊達さんはある程度俺に愚痴を言った後、今度は獅子吼様と目が合った。お互いに合わさった視線。

そして瞬時に吹き上がるお互いの殺気。

 

「織斑……この者は武者だな。ほぉ、実に猛々しい殺気を放っている」

「おい、織斑。こいつぁ、武者だな。それも相当な腕前の。首筋に刃物を当てられたような殺気だなこりゃぁ」

 

お互いに睨み合いながら俺に話しかける二人。

俺は慌てて二人の間に入る。

 

「お互い落ち着いて下さい。この場で死合うつもりですか! それでは本日の目的が果たせなくなってしまいます。控えて下さい」

 

 俺にそう言われ、お互い一応殺気を納める。

弾は二人の殺気に当てられてガクガクと震えていた。

俺は二人の間に入り、自己紹介を促すようにする。

 

「獅子吼様、こちらは以前俺と死合いをした人です」

「おう! 俺は伊達 政臣ってんだ。よろしくな。あんたは?」

「俺は大鳥 獅子吼という。織斑とはこいつの師匠つながりでな。しかし…くくくっ、中々に良い殺気をした男だ」

「そういうあんたもヤバイ殺気だったけどな。ぎゃっはっはっはっは」

 

 そうお互い言い合い、笑い合う二人。

あまりの殺気に不気味にしか見えない。呼んでおいて何だが、もう後悔しそうな組み合わせだ。

 

「そおいや織斑。このガキは?」

 

伊達さんが弾の事を指差して聞いてきた。

弾は伊達さんの雰囲気に飲まれ、固まってしまっている。

 

「ガキと呼ばないで下さい。こいつは俺の友人ですよ。と言うか、俺だってこいつと同い年なんですから」

「すまねすまね。いや、お前があまりにも老けてるもんだから忘れてたぜ」

 

まったく反省していない様子にげんなりする。

俺は弾に自己紹介するよう言うと、弾は獅子吼様の時と同じくらい緊張して紹介していた。

そのまま弾に少し引っ張られ、二人から離れる。

 

「何であんな濃い人ばっかなんだよ! 思わずちびりそうになったじゃねぇか! 何、あのヤクザみたいな人達! 怖すぎなんだよ!」

 

 弾はあまりの怖さに俺にすがりつきつつ、捲し立てるように言ってきた。

 

「いや、すまん。俺の交友関係はそこまで広くなくてな。比較的まともな人を呼んだらああなった」

「どこがまともなんだよ! 明らかに異常だよ、あの人選!!」

 

涙目になりつつそう言う弾を、少し気持ち悪く思いながら俺は二人の元に弾を引っ張っていった。

もうこの時点で精神的に疲れてきた。

俺はそれを表に出さないようにしながら、三人を連れて店内に入る。

 そして……

 

「あ、こっちですよ、旦那様!」

 

俺の姿を見た真耶さんが笑顔で手を振って出迎えてくれた。

その可愛らしさに精神が少し癒える。

 

 

 

 こうして、俺達の合コンは始まった。


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