一体どうすればよいのやら……
さて、朝に一騒動起こり、俺達1組は千冬姉に思いっきり怒られてしまった。
確かに怒られた通り、新学期早々騒いで良い訳が無く、またいくら恋人とはいえ職場に私情を持ち込むのも良くない。
俺はその事を反省し、真耶さんもすごく反省していた。
それ以降、学園内で人が見ている時は『一夏君』に呼び方が戻った。
その事で反省しながらシュンとしてしまっている真耶さんを見かねてか、千冬姉はSHR終了後に真耶さんを呼び止め、
「流石に今回はやり過ぎだが、プライベートでは許す。悪いとは思うが、来れも仕事の一環だ。何、学園でいちゃつけない分、学園が終わったら存分に甘えるといいさ。それは許す」
と、周りに聞かれないように言った。
それを聞いた真耶さんは、花が咲いたかのような笑顔になり、また俺をドキドキとさせた。
残念ながら千冬姉よ……武者の耳には聞こえるのだ。
そして授業が始まる。
初日からそこまで深いことはせず、どちらかと言えばおさらいをメインに復習していく。
そこまで難しくないことが多かったので、何とか授業にもついて行けて助かった。
そうして授業をこなし、あっという間に昼休みになり俺と真耶さんは一緒に学食に来ていた。
「いやぁ、朝には驚きましたよ」
「ご、ごめんなさい。いつもの癖で言ってしまって」
そう反省する真耶さんは、何だか子犬のようで可愛い。
俺はついつい頭を優しく撫でてしまう。
「確かに職場であれはいけないですが……内心ではとても嬉しかったですよ。真耶さんが俺のことをそう思ってくれていることが分かりましたから」
「旦那さ…一夏君…」
真耶さんが感動して泣きそうになっているのを頭を撫でて落ち着かせる。
その間、真耶さんは顔を恥ずかしさで赤く染めつつも気持ちよさそうにしていた。そんな真耶さんも可愛くて、俺はドキドキとしてしまっていた。
そしてしばらくして料理を取りに行くことに。
「あらあら。二人とも相変わらず仲がいいわねぇ~」
頼んだ料理を渡して貰う際に、食堂の従業員の方にそう声をかけられる。
皆微笑ましく俺達を見ていた。
その視線に気恥ずかしさを覚えながらも、どこか嬉しかった。
「聞いたわよ。何でも朝一番にやらかしたそうじゃない。『旦那様』ね~」
「うぐっ!?」
従業員の方がニヤニヤと笑いながら俺にそう言って来た。
それを受けて胸を押さえてしまう。まさかこうも早く周りに伝わるとは思わなかった。
真耶さんの方を見ると、リンゴのように真っ赤になっていた。
「まさかこうまで仲が一気に深まるとは思わなかったわぁ」
「ち、ちなみに聞きますが……それを何処で聞きましたか?」
「他の生徒からよ。多分もうこの学園全体に広がっちゃってるんじゃないかしらね~」
それを聞いてショックを受けてしまう俺。
まさかこうもすぐに広まってしまうとは。別に真耶さんに旦那様と呼ばれることが嫌なのではない。寧ろ嬉しいかぎりだ。だが……会長辺りが何かしらからかってきて面倒になりそうな気がする。
俺がショックを受けている間にも、従業員の方と真耶さんは話していた。
何かを言われる度に顔を赤くし恥じらっていたが、幸せそうな顔で答えていた。
それを聞いて満足そうな顔をする従業員の方。何だか昔を懐かしんでいるようにも見える。
「もう山田先生も立派な奥さんって感じねぇ~。初々しいわぁ~」
「ぁ、ぁぅ……そんな~~~~~」
そう言われ、真耶さんは恥ずかしいが嬉しそうにしていた。
何だか俺も少し恥ずかしいが、他の人から恋人のことを『奥さん』と呼ばれるのは、それはそれで嬉しいような気がする。
もしかしたら最近色ボケてきていないだろうか?
もしそうなら少し心配になるが、それは幸せだからこそそう感じるわけで……見逃して貰いたい。
「はいこれ。旦那の体調、よくないんでしょ? これ食べさせて元気にしてやりなさい」
従業員の方がそう言って、真耶さんのお盆にリンゴを載せた。
皮が剝いてあり、一口サイズにカットされている。とても美味しそうなリンゴだ。
「あ、ありがとうございます!」
真耶さんはそれを見て、嬉しそうにお礼を言う。
従業員の方はそれを受け、頑張りなさいと暖かな笑顔で応援していた。
恥ずかしいが……やはり嬉しかった。
そして食事を食べ始める。
久々に食べた食堂の料理は美味しかった。
それを二人で美味しく食べた後、真耶さんは貰ったリンゴの皿を俺の前に出すと一つ摘まみ、
「はい、一夏君(旦那様)、あ~ん」
そんな甘い声と共に俺の前に差し出してきた。
それを見て、少し恥ずかしさから顔が赤くなってしまった。
厨房の方に目を向けると、従業員の方が親指を突き出してぐっとしていた。
明らかにおもしろがっているそれを見て、さらに恥ずかしさがこみ上げてきたのは言うまでも無い。
だが、この状態で食べない何て選択肢は俺には存在しない。
「あ、あ~ん……」
俺は口を開けてリンゴを貰うことにした。
そのままリンゴが口の中に入れられる。甘酸っぱい味が舌から伝わってきた。
そのおいしさに頬が緩む。恋人に食べさせてもらえたことで美味しさもそれ以上に感じた。
「美味しいですよ、真耶さん。このリンゴ」
「そうですか! なら私も少し食べたいかも……いいですか、一夏君?」
「ええ、どうぞ」
そう答えると、真耶さんは嬉しそうに頷く。
そして持っていたリンゴの皿を俺に渡してきた。
それが何をして欲しいのか、というのはすぐに分かった。
俺は笑いながらリンゴを一つ摘まむと、真耶さんの可愛らしい唇の前に差し出す。
「真耶さん、はい、あ~ん」
「あ~~ん」
真耶さんが可愛らしく口を開け、俺が差し出したリンゴを食べるのだが……
「あ…」
パクンっと口の中にリンゴを入れる真耶さん……俺の指も一緒に。
そのままリンゴを嚙まず、口の中で転がす。そして俺の指がちろちろと舐め回された。
そのまま指をゆっくりと引き抜くと、つぅーっと銀の橋が架かっていた。
「んふふふ……旦那様の味がしました~」
「っ~~~~~~~!?」
恥ずかしさから顔を真っ赤にしつつも、幸せそうにそう答える真耶さん。
この可愛さに俺はクラクラときた。
「て、真耶さん。出ちゃってますよ、『旦那様』って」
「あ、ごめんなさい! だって嬉しくて……旦那様の指も美味しかったし……」
「「っ~~~~~~~~~~」」
結局この後、俺と真耶さんはリンゴを食べさせ合った。
何だか心が一杯で仕方なく、幸せを感じた。
そして昼食も終わり、俺達は教室へと戻っていった。
ちなみにこの日。
食堂ではコーヒーが売り切れたとか……。