けっこう長引かせてしまいました。本当は三話くらいで終わらせようと思ってたんですけどね~。
此方の一夏との試合は終わった。
試合と言うには少しばかりお粗末であり、俺としては少し不満も残る。
だが、此方の一夏が強くなったのも確かだ。それを感じられたのは嬉しい。
しかし、まだまだ甘い。きっと此方の一夏も鍛えれば良い武者になっただろう。少しばかり勿体ない気もする。
「どうやら試合も終わったようだな!」
そう声をかけてきたのは師範代だ。
一体いつの間に俺達に近づいたのやら……とは言わない。師範代に限っては、何をしたっておかしくないのだから。
「はい、一応は終わりました」
俺がそう返事を返すと、師範代は満足そうに頷く。
「うむ、そうか。なら……今度はオレと死合え、此方の一夏よ!」
「「はぁ?」」
いきなりそんな事を言い出した師範代に、俺達の声が重なる。
何を言っているんだ、この人は? 前にも言ったはずだ。師範代が戦えば、ISなど紙くずのように吹き飛ぶと。まず相手にならないのだから、無理だと。
「師範代……前にも言ったはずですが、それは駄目です。師範代が武を振るえば、ISなんて三秒でジャンクに早変わりですよ。壊して責任が取れるのですか!」
俺がそう師範代に言うと、師範代は胸を張ってどんと構えていた。
まったく物怖じしていない。
「ふふん、こちらの世界なら壊しても大丈夫だろう。直せるデータとやらもあるはずだ。それに…」
「それに?」
「先程のようなつまらん戦いを見ては苛ついて仕方ない! 何だ、あの不抜けた剣は! いくら療養中とは言え、そのような弱々しい技を出すな! お前も一緒に死合え!!」
「……それは建前ですね。本音は?」
「聞いててこっ恥ずかしいことを聞かされたので何だか据わりが悪い! ムシャクシャしたので殺らせろ!」
それを聞いて呆れ返る。
こっちは一応それなりに本気で真剣に戦ったというのに、この人はなんということを言うんだ。
ともかく阻止しなくては……と思った瞬間には遅かったようだ。
「というわけで行くぞ、村正!」
『はぁ……諒解』
御母堂が諦めの溜息を吐きながら元の姿に戻っていた。
『鬼に逢うては鬼を斬る 仏に逢うては仏を斬る ツルギの理ここに在り』
そして師範代は白銀の武者となった。
「では行くぞ! でりゃああああああああああああああああああああああああ!!」
「なっ!? ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
師範代はそう言うと、さっそく俺に向かって掌底を放つ。
俺はその速度に驚きながらも対応し防ぐ。そのまま本能的に迎撃に拳を放った。
師範代はそれを軽々と躱すと更に連撃を放ち、俺はそれを防御する。一撃一撃の威力が半端なく、防ぐ腕からかなりの衝撃を感じる。
「ほぉ。前よりも耐えるようになったようだな! だがまだ甘い! とりゃあああああああああああ!!」
「がはっ!?」
師範代の姿が目の前から消えたと思ったら、腹にとてつもない衝撃が走り、体が後ろへと吹っ飛ばされた。吹っ飛ばされながら見て気付いたが、とてつもない速度でしゃがんだ後に回し蹴りを放ったらしい。全く見えなかった。
俺はそのままアリーナの壁に激突し、壁は大崩落した。
壁にめり込み、その瓦礫に埋まる俺。あまりの衝撃に意識が吹っ飛びかけた。
「あっはっは、前より上手くなっているとは言え、まだまだオレには届かんなぁ」
師範代はオレの姿を見ながらカラカラと笑う。
俺はそれを聞きながら呆れ返る。
(師範代に届く者なんていないではないですか!!)
もしいるのなら、それは最早英雄か魔王くらいだろう。
「では今度は此方のIS一夏! お前とやろうか!」
師範代が此方の一夏を見ながらそう言うと、此方の一夏の顔が真っ青になっていた。
(俺が一撃も入れられなかったのに、それを一撃入れるどころかあの巨体を蹴り一発で吹っ飛ばすなんて……)
此方の一夏に向かって師範代が突進していく。
合当理から炎の出ない、異質としか言いようのない加速は合当理が出す速度以上の速さを叩き出す。
あまりの速度に、瞬きした瞬間には此方の一夏の目の前にいた。
「なっ!? ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そのあまりの速さに驚いた此方の一夏は、急いでその場を離脱する。
間髪入れず爆発したかのように吹っ飛ぶアリーナの壁。
「ほぉ。様子見とは言えオレの一撃を躱すとは、まぁまぁやるな!」
師範代は此方の一夏が攻撃を避けた事を楽しそうにしていた。
その声から伝わる余裕に、此方の一夏は冷や汗を掻いていることに気付く。
「このままじゃ不味い! 接近されたらやられる!」
此方の一夏はそう判断すると、師範代から距離を取ろうとした。
『ダブルイグニッションブースト』
俺の時にも使った技を使い、師範代から離れようとする此方の一夏。
だが………
「ほぉ~、やはり間近で見た方がよく感じるな」
此方の一夏にぴったりとくっつくように師範代が移動していた。ダブルイグニッションブースト中に。
「ばっ!?」
その光景を見て此方の一夏の顔が驚愕に固まる。
まさかダブルイグニッションブーストとほぼ同じ速さでぴったりとくっついてくるとは思わなかったのだろう。
「何だ何だ、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。ただ付いてきただけだぞ、オレは?」
師範代は当たり前のことを言っているだけだぞ、と言わんばかりにそう答える。
それは師範代の常識であり、普通は非常識と言うのですよ、師範代。
「では挨拶程度に軽くいくぞ。オレを楽しませろ、此方の一夏!」
そして師範代が放った一撃は見事に此方の一夏に入り、此方の一夏は俺の隣の壁まで吹っ飛ばされ、壁を粉砕しながらめり込んでいた。
「………無事か?」
一応心配して聞いてみる。
「げっ、げほ! ……何とか生きてる。でも…」
「でも?」
「何か…お前が言ったものが見えたような気がした……」
どうやら死にかけたらしい。
死合いをしろとは言ったが、流石に師範代相手は酷すぎる。
いくつ命があっても足りない。死のバーゲンセールどころではない。
俺は此方の一夏を可哀想に思った。
「その程度で終わりと言う訳ではなかろう! 二人揃ってかかってこい!!」
師範代は俺達にそう言うと、襲いかかって来た。
「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
しばらくの間、アリーナには粉砕される爆音と金属同士がぶつかり合う激突音、そして……
俺達の悲鳴が木霊した。
「いてて……師範代、やり過ぎなのでは」
俺は未だに毒が残る体をふらつかせながら師範代に話しかける。
「ふむ。ここ最近鈍っていたのでな! まぁ、許せ!」
明るく楽しそうにそう答える師範代は、まったく反省した様子がない。
アリーナは見るも無惨な状態になっていた。一体、ここは何処の爆心地だ?
此方の一夏は意識を保っているのがやっとといった感じになっていた。
ちなみにISは中破状態で止められている。
「し、死ぬかと思った……ていうか何回死んだ? 俺ってもう幽霊なんじゃぁ……」
此方の一夏は何やら呟いていたが、気にしても仕方ない。
「はぁ……まぁ、もういいですよ。それよりも師範代、そろそろ帰りましょう」
「む、それもそうだな」
俺が師範代にそう言うと、師範代は陰義を使い黒い何かを出し始めた。
それを見て、俺は真耶さんを呼ぶ。
「真耶さん、帰りましょうか」
「はい、旦那様」
真耶さんは私服に戻り、俺の腕にくっついてきた。
その柔らかな感触に頬が緩む。
そのまま箒達もアリーナに来ていた。
俺は別れの挨拶をするとともに、箒達に聞こえるよう小声であることを伝えた。
「もしかしたら一夏もこれで少しは意識するかもしれん。その時はしくじらずにちゃんと素直に言ってやれ」
そう伝えた途端、箒達の顔が真っ赤になった。
それを俺と真耶さんは微笑ましく見守り、此方の一夏に言う。
「それでは俺達はそろそろ帰る。お前もこれからもっと鍛え精進しろ。さっき見えたもの、忘れるんじゃないぞ」
「ああ。それじゃあな」
「では、さらばだ」
「皆さんもお元気で。さようなら」
俺と真耶さんは皆に別れの挨拶を告げると、皆も返してくれた。
それを嬉しく思いながら、俺達は黒い何かへと入って行った。
こうして、俺達はパラレルワールドから元の世界へと帰った。
俺としては、これで向こうの一夏も愛する人を見つけて貰いたいのだ。
そう切に願わずにはいられなかった。
次回からは三学期。
また学園が砂糖地獄と化します!!