装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は会長いじめですよ。
気がつけばすでに200を超えていた。一体どこまで行くんでしょうかね……


正月の挨拶 異世界編 その6

 何かを吐き散らした者達を一カ所に集め、気がつくまで待つこと数分。

やっと皆意識を取り戻した。まったく、何故皆こんなに気を失うのだろうか?栄養不足なら養生してもらいたいものだ。

ちなみに真耶さんは少し酔いが冷めたらしく、先程自分がしたことを思い出して真っ赤になり恥ずかしがっていた。こういう姿も可愛くて堪らない。気を失っている皆が起きるまで優しく抱きしめていたことは内緒だ。

 

「ま、まさかここまで凄いとは思わなかったわ……」

 

そう呟きながら起き上がったのは此方の生徒会長である。

当たり前ながら、俺のいる世界と姿形はまったく変わらない。その雰囲気も……

 

「いつの間に楯無さんがいるんだ!?」

「なっ!? さっきまでおりませんでしたのに」

「もしかしてさっきお前が言おうとしてたのって……」

 

起き始めた此方の一夏と箒、セシリアが会長の姿を見て驚いていた。

 

「そうだ。先程から此方の様子を窺っていたようだがな……まだまだ鍛錬が甘い。その程度の隠行など、武者には通用しない」

 

俺がそう言うと会長はとほほ、と言った感じに手を上げていた。

 

「いやね~、一夏君達が何やら面白い事になってるっぽかったから見てみようと思って~。それで見てみたら一夏君が二人いるじゃない! からかう楽しみも二倍かな~って思ってたんだけど……まさか異世界から来た一夏君で、しかも恋人持ちでそれが異世界の山田先生だなんて……意外過ぎ。それでしばらく様子を見てたんだけど……何、その激甘っぷり!! バカップルだってどん引きよ! からかうどころかこっちがやられたわよ!」

 

そう捲し立てるように言う会長。

どうやら人をからかうのが好きなのも変わらないらしい。

 

「楯無さん、また一夏にちょっかいをかける気だったの!?」

 

鈴がそう叫ぶと会長のことを睨み付けていた。

それを見ながら俺は此方の一夏に聞くことにした。

 

「此方の生徒会長はいつもあんな感じなのか?」

「ああ、いつも人をからかうのが好きで困ってる」

 

苦そうな顔でそう答える此方の一夏。

どうやら世界が変わっても会長は会長のようだ。

俺はそのまま呆れ返りながら会長の方を見る。

 

「一応改めまして。異世界の織斑 一夏です。どうやら世界が変わろうとも、会長の悪癖は変わらぬようで」

「あら、随分な言い様ね。どうやら異世界の一夏君は随分と此方と違っているみたいだけど」

 

会長が笑顔でそう言ってくるが、その笑顔は人をからかおうという気配が在り在りと感じられる。こういう部分もまったく同じである。

 

「ちなみに聞くが……一夏、生徒会には入ってるのか?」

「ああ、よく分かったな!? この間入れられたばかりだよ」

「やはりそうか」

 

そして此方の一夏と一緒になって溜息を吐く。

こういう所は一緒らしい。

 

「あれ? でも向こうの一夏はどうやって会長と知り合ったんだ?」

 

此方の一夏が思い出したように聞くので、俺は溜息交じりに会長との出会いやそれによって起こった苦労話などを話す。此方の一夏の会長との出会い話などを聞かせて貰ったが……これも中々のものだった。

此方の一夏は溜息を吐いて俺に同情してくれた。

 

「まさか勝手に撮られた映像を使って映画にされるなんて……しかもそれを学園祭で放映とか、どれだけきついんだよ。俺だったらとっくにめげてるかも」

「俺も流石に勝手に演劇に参加させられて皆から追いかけ回されては骨が折れるな」

 

そのまま互いに同情し合い、会長を呆れ返った目で見る。

 

「何、その目~。一夏君のくせに生意気~」

 

ぶぅ垂れる会長を尻目に更に此方の一夏に聞く。

 

「ところで…生徒会では副会長の役職だったな」

「ああ、かなり不本意だけどな」

「この人(会長)はちゃんと仕事をしているのか?」

 

そう言われた途端に会長が「ひっど~い」と言っていたが無視する。

 

「仕事……どうだろう? 俺はあんまりそういうのはよく分からなくて。俺自身、あまりそれらしいことはしていないし」

「む、そうなのか?」

「そう言えば……たまに虚先輩が泣きそうな顔になっていたことがあったような……」

 

どうやら此方の会長も向こうの会長と変わらずサボり癖があるようだ。

俺はジト目で会長を見る。

 

「どうやら此方の会長もあまり仕事はしていないようだな。それに此方の一夏にちゃんと仕事を与えていないようだな」

 

会長は俺に言われ、心外だといわんばかりに視線を此方に向けた。

 

「そんなことないわよ。私はちゃんと仕事をしているし、一夏君にもちゃんと仕事を与えているわよ」

「部活動への貸し出しが俺の仕事なんですか」

「良いじゃない、みんな喜ぶんだし」

 

どうやら此方の一夏の仕事は部活動への派遣、そして手伝いらしい。

まったく生徒会らしくない仕事だな。それに会長はそう答えるが、布仏先輩が涙目になっている時点でどうなっているのかは予想出来る。

 

「そこまで言うのなら、ちゃんと出来ているか確認してみましょうか」

 

そう言われ不敵に笑う会長。

俺はニヤリと笑いながら問う。

 

「今年度の生徒会予算については」

「そんなの当然よ」

「では、各部活動の予算編成とその分配については」

「いや、そ、それは今やっているところよ」

 

そう歯切れ悪く答える会長を見てさらに攻める。

学年ごとのIS使用による消費電力やアリーナのシールドバリアーの経費など、普通の生徒会では行わないようなことも混ぜて聞く。新しく発足された部活の部室の問題や学園の警備の状況など、事細かに聞いていくと、会長の顔が真っ青になっていった。

 

「も、もう止めて! これ以上は無理……」

「この程度で音を上げていては生徒の長など務まりませんよ。布仏先輩が今までそれを支えてきたのですから、それに甘えぬようちゃんとして下さい」

 

俺にそう言われ膝を地面につき力尽きる会長。

それを見て此方の一夏達が驚愕していた。

 

「ま、まさか楯無さんをこうも打ち負かすなんて……」

「こんな楯無さん、初めて見た」

「まさかここまで生徒会の仕事があったなんて思わなかった。楯無さん、余程サボってたんだな」

 

後輩達にそう言われ更にへこむ会長。

そうして少しへこむと、いきなり立ち上がって俺を指差し逆ギレした。

 

「そう言う君はどうなのよ! 聞いてみると生徒会の仕事をしているみたいだけど、ちゃんとやっているの。言うだけなら誰にだってできるんだからね」

 

俺が答えようとしたところで俺の前に正宗が来た。

そして会長に言う。

 

『ふん! 己が無能を上げられたからと逆上しおって! 御堂は貴様と違いちゃんと業務を行っておるわ! 先程御堂が上げた業務は、御堂が一時間半で処理したものだ。それが貴様に出来ると申すのか? 出来ぬのならば、その口を閉じよ、痴れ者め!』

 

 正宗にそう強く言われ、黙ってしまう会長。

流石に言い負かされたことで、少し涙目になっていた。

 

「流石に言い過ぎだ、正宗。お前も見ていただろう、向こうの会長もしょちゅう仕事をサボろうとしていたところを」

『うむ。そして我や御堂に取り押さえられていることものう』

「お前等ってそんなことしてたんだ……」

 

此方の一夏に微妙な目で見られてしまったが、とくに問題無いだろう。

俺は会長の方に向き合い諭すように言うと、会長は少しした後に此方の一夏にくっつき、

 

「異世界の一夏君がいじめる~。お姉さん、傷付いちゃったわ~。一夏君、慰めて~」

 

と一夏をからかい始め、それに箒達が反応。

静めるのに正宗と一緒になって一喝するハメにあった。

 

 

 

 ちなみに、俺と会長の話を聞いていた箒達は、真耶さんに生徒会での俺のことを聞いていた。

 

「向こうの一夏は生徒会でどうだったんですか。何やら此方とは随分違うみたいだが」

「旦那様ですか? そうですね~……私も生徒会の仕事は詳しくないので分かりませんが、旦那様はいつも通りに学食に来てくれますね」

「「「「「「いつも通り?」」」」」」

 

 箒達にそう聞かれ、真耶さんは花が咲いたような笑顔で答える。

 

「はい! 旦那様は生徒会の仕事を早く終わらせると、学食で一緒にお茶してくれるんです。私は旦那様がいつでも温かいコーヒーを飲めるように用意していて、旦那様が来たら出してあげるんです。旦那様はそれを飲んで、『いつも美味しいコーヒーをありがとうございます、真耶さん』ってお礼を言って…たまに頭を撫でてくれて……えへへへへ……それでその日の出来事なんかを楽しくお喋りしたりして…たまに私が寂しかったっていうと、その場で抱きしめて優しくキスしてくれたりするんです……旦那様は恥ずかしがってますけど、私のために頑張ってくれて……それが嬉しくて……」

 

そして始まる惚気話。

それは十代の若者には刺激的で赤面ものばかりであった。

それを聞いた箒達は凄く羨ましそうな顔をしていた。

皆曰く……

 

「新婚夫婦みたい…ていうかそのもの。恥ずかしさを通り越して羨ましすぎる」

 

だとか。

 

 

 

 

 さて、一応場を鎮める為に会長にデコピンを撃ち込み沈黙させた後に咳払いを一回。

それを見た此方の一夏と箒達は戦慄し戦いていた。

俺はそんな彼等を見つつ、ある人に話しかける。

 

「それで……いつまで食べ続けるつもりですか、師範代。もう……十三個目ではないですか」

 

俺が話しかけたのは師範代だ。

俺が此方の一夏と話している間に師範代はというと、ずっとケーキやらお菓子やらを一緒に食べていたようだ。

日頃から師匠があまり食べさせていなかったためか、目を輝かせながらケーキを食べていく師範代。

その姿は十代の少女そのものだが、その食べる量は女の子のそれを遙かに超えている。

先程から話に加わらなかったのも、お菓子に夢中だったからだろう。

だが……流石に食べ過ぎだ。

 

「む、まだいいではないか。そちらも積もる話があるようだし、オレも最近は食べてないケーキが食えて満足だ。何か問題でも?」

「いえ、師範代が言いたいことも分かりますが、流石に食べ過ぎでは……」

「ふん、この程度で倒れるオレではないわ! 熱量を消費するのでな、この程度何でもない!」

「そうですか。ちなみに最初の目的は覚えていますか」

 

そう聞くと師範代は不思議そうに首を傾げた。

 

「『新年の挨拶』ですよ。来てみればこちらはまだ秋ではないですか。当初の目的が果たせませんよ」

「まぁ、そこまで深くは考えていなかったからな! あっはっはっは」

 

笑う師範代に呆れ返る俺。

 

「それと……そのケーキの代金は持ってきているのですか?」

「む、そんなことか。無論、持ってきておらぬ!」

 

胸を張ってそう答える師範代。

 

「景明から聞いたが、お前は結構金を得ているらしいではないか。おごれ!」

 

予想通りの答えに俺は呆れながら、この後師範代が食べたケーキの代金を払った。

 そしてそろそろ帰る為に、アリーナに向かう。

その前に此方の一夏に話しかけられた。

 

「なぁ、お願いがあるんだけど、いいか?」

「なんだ?」

 

「俺と……試合をしてくれないか」

 

そう言われた。

それを聞いた途端に、師範代の口がニヤリと笑ったのを、俺は見逃していた。


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