「久しぶりだな、鈴。元気にしてたか、大きくなったな~」
俺はそう言いながら鈴の頭に手を置いて軽く身長を測る。ついでに撫でてみる。
「「ああっ!?」」
いきなり箒とセシリアが素っ頓狂な声を上げた。朝っぱらから何て声を上げてるんだ、お前達は。
「い、一夏、恥ずかしいよ~」
鈴は顔を赤らめながらも気持ちよさそうにしていた。何というか、猫を彷彿とさせるような、そんな顔になっている。
「久々の再会で喜んでいるところ申し訳ないが、もうSHRの時間だ。鳳、そろそろ自分のクラスに戻れ」
後ろから声をかけられ振り返る鈴。そこには千冬姉が立っていた。
「あ、千冬さん、お久しぶりです」
「挨拶は後で聞く。転入早々遅刻では格好がつかないぞ」
「は~い、分かりました。それじゃ一夏、また後に来るからね!」
鈴はそう言って隣のクラスへと帰って行った。
「「「一体この人はなんなん「だ! 」「ですの! 」「ですか! 」」」」
現在はお昼時。
俺は箒とセシリア、後何故か山田先生と一緒に食堂に向かっていたところ、鈴も行くということなので一緒に食堂に向かった。
食堂で席に着く俺達の前には、頼んだ料理が美味しそうな匂いをさせながら置いてある。
箒はいつもながらの和食、セシリアはカルボナーラ、山田先生はたぬきそば、鈴は何故か昔から好きなラーメン。そして俺は・・・和食にとんかつ、大量のサラダにレバニラ、激辛麻婆豆腐と汁物代わりにラーメンとなっている。
箒とセシリアと山田先生はもう見慣れたのか普通に対応してくれるが、鈴は俺の量を見て開いた口がふさがらないようだ。年頃の娘が口をあけっぱというのははしたないぞ、鈴。
そしてある程度落ち着いてからこの三人に問い詰められているわけだ。
「そう言われてもな・・・幼馴染みとしか言いようが無い」
「待て! それはどういうことだ? お前の幼馴染みは私だろうが!」
憤怒の形相でこちら睨む箒。美人が怒ると滅茶苦茶怖い、の典型的パターンだ。本当に怖い。
「そう怖い顔で睨むな。コイツはお前が引っ越したあとにすぐ来た転校生でな、丁度小学五年の頭だったか、来たのは・・・・・・まぁその後は『あの大会』まで世話になってたんだ」
「そ、そうか・・・・・・」
そう言うと箒はしゅん、としてしまう。
あの大会の話は掻い摘まんで説明してあるので、俺を慮ってくれたらしい。有り難いがそこまで気にしなくてもいいのにな。
「鈴、前に話しただろ? 俺のもう一人の幼馴染み」
「ああ・・・そう言えば聞いたわね・・・あなたがそうなんだ・・・」
鈴はそう言うと箒に自己紹介を始めた。箒も笑顔で応じているのだが、何故かお互い目が笑っていない。
そのあとセシリアと山田先生も鈴に自己紹介していった。
セシリアが軽く挑発していたようだが、鈴も強気な性格のため挑発で返しお互いににらみ合っていた。
山田先生は教師のため敬語だったのだが・・・・・・何故か鈴の目には憎悪に近いものが見て取れた。
憎いが羨ましい、そういった感情を感じる。何故なのだろうか?
俺はそれらのやり取りに何故か背筋がぞくりとして仕方なかった。
食事も終わりチャイムが鳴った。
いつもどうりの食事のはずなのに何故だろうか? とても息苦しく感じてうまいと思えなかった。
「それじゃ一夏、また後でね」
そう言って鈴は自分の教室に戻って行った。
この時、箒、セシリア、真耶の三人は鈴に戦々恐々としていた。
(まさか二人目の幼馴染みだと・・・・・・絶対に負けられん。一夏の『大切な幼馴染み』はこの私だ!!)
(箒さんに続いてまた幼馴染みですの!? しかも代表候補生! でも私は負けませんわ!!オルコット家の当主にして代表候補生、肩書きでは負けてません。何より、私は一夏さんと戦って認められた間柄、戦友です。真剣勝負で築いたこの絆、そう簡単には負けません! 本当はもっと上の関係になりたいのですが・・・・・・)
(まさかまた一夏君を好きな娘が現れるなんて・・・一夏君ってばどれだけ罪作りなんですか! まぁあれだけ格好良ければ仕方ないかもしれませんけど・・・でも負けません。若さではどうやっても負けますけど、私は『お姉さん』なんですから、いつもリードされちゃいますけど、私だってやるときはやるんです!)
当然ながら一夏が気付くことは無い。