叫びとともに落ちてきたのは藍色をした天牛虫だった。
しかもただの天牛虫ではない。2メートル以上はある大きな天牛虫だ。
それに体が普通の虫とは異なっている。光沢を放つその体は甲虫ならいそうなものだが、鋼鉄の体を持つ虫なんてものはいない。
なんで鉄だってわかるかだって?光沢がメッキとかのそれとは違って鈍い、冷たい輝きを放ち、虫とは思えない、金属を打ちつけるような足音がしたからだ。
「・・・・・・おまえは・・・何なんだ・・・・・・」
呆然としながらもつい話しかけてしまった。何故かこいつから目を離すことができない。周りは何が起こったのか全く理解できていないようで、動けずにいるようだ。
「我が名は正宗っ!! 正義を体現する劔冑よぉ!」
そう名乗った天牛虫はこちらに顔を向けると俺の近くに歩いてきた。
「御主から正義を求める心を感じた。御主が正義を貫くと誓うならば、この正宗、力になろうっ!」
迷うことなんて微塵もなかった。俺は正宗を真正面から見据えて答える。
「ああ、いいだろう。俺はこいつらが許せない! この悪が許せない! 俺の正義を貫くために、正宗っ!! 俺に力を貸してくれ!」
「よかろうっ! その心意気、しかと受け止めた。ならば我に手を置き、そして唱えよ。(誓約の口上)をっ!」
俺は言われた通りに正宗に手を置いた。手にべったりとついた自分の血がべちゃ、と音を立てて正宗についたが気にしない。すると頭の中に言葉が浮かび、それは意識せずに口からでてきた。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
唱えた瞬間に正宗はばらけ、俺の周りを覆うように回り始める。
この瞬間、俺の世界が生まれ変わった。
一夏が誘拐されたと聞いたのは、決勝戦の直前だった。
それを聞いた瞬間、私は恐怖に襲われ動くことができなくなりそうだった。
周りのスタッフの反対を押し切り私、織斑 千冬はIS、暮桜を起動させ、一夏が捕まっていると思われる廃墟へと飛び出した。町の人たちが何事か、と混乱していたがそんなことを気にしている余裕なんて無い。
(一夏・・・無事でいてくれ・・・・・・)
廃墟に突入し誘拐犯を制圧しようと構えた私を待っていたのは、もぬけのからだった。
やけに静かな廃墟に、いやな予感しかしない。私は急いで一夏を探し始めた。
「どこだぁ! 一夏ぁっ!! どこにいる」
このときの私は天狗だったのだろう。ISがあればどんなものにも負けないと。いくら誘拐犯が一夏を人質にとろうとも、このISと自分の腕があれば一夏に一切の危害も加えずに救出できると、たかをくくっていた。
扉を見つけ、強引に破壊して中に入る。
そこで私が目にしたのは・・・・・・破壊され用をなさなくなった壁と、辺り一面の血の海だった。そこら中にISのブレードで切り裂かれたような死体が転がっていた。
「い、一夏! 無事なのか! どこにいる、一夏・・・・・・」
私はその光景に釘付けになりながらも、一夏を探す。しかし一夏の声は聞こえない。
「一夏ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
この日から、織斑 一夏は行方不明になった。