気絶した八人が起きるまで少しその場で待つことに。
「うむ、中々の『ろまんす』であった。面白かったぞ、一夏」
「やはり修正後とは随分と違うものであったな。うむ、中々に楽しませてもらったぞ」
師範代と御母堂が俺に笑いかけながらそう言って来た。
まぁ……師範代は師匠のことしか目に入らないし、御母堂はこんな見た目だが一児の母だ。
二人とも神経が太いと言うべきか、何ともないようだ。
俺はこの二人に見られても全然動揺しなくなっていた。
「は、はぅ~~~~~~~~~~……恥ずかしいです……」
真耶さんは先程キスをしている所を皆に見られたことで、恥ずかしさのあまりポストよりも真っ赤になっていた。
そんな姿も可愛くて愛おしい。
俺はそんな真耶さんの頭に手を置いて優しく撫でる。
「クスッ…恥ずかしがっている真耶さんも可愛くて大好きですよ」
「っ~~~~~~~~!? もう…旦那様ったら……」
撫でられたことに驚きつつ、真耶さんは気持ち良さそうの頬を緩める。
何だか子犬か子猫みたいな感じだなぁ。
そう思いながらしばらく撫でていると、気絶した八人が起き始めた。
「ま、まさかこれほどとは……」
「顔から火が出るくらいのラブラブっぷりでしたわね…」
「あ、あんなにくっついてて恥ずかしくないの…」
「うぅ~、これほど凄いなんて……でも羨ましいかも」
「………(ぷしゅーーーーー)」
「まさか弟のラブシーンを見させられるとはな」
「うぅ~、何て言うか……すごく気まずい。って何か山田先生から熱い視線を感じる!?」
「ジーーーーーーーーーーーー(ポ……何か織斑君の方に目が行っちゃいますよ~)」
皆起き次第に映画の感想を洩らしていた。
そこまで酷かっただろうか………はっ!? 最近これ以上にくっついていたからあまり意識しなくなってる!!
自分の感性が鈍っていることに今更気が付かされた気がする。だが、恥じ入る気持ちもあまり起こらない。愛している人を愛していると言って何が悪い。
(そう考えている時点でバカップルになっているという自覚がまったくない)
「大丈夫か、皆。いきなり気絶したから驚いたぞ」
俺は心配して皆に声をかけると、皆何か信じられない物を見るような目で俺の方を見ていた。
「何というか……ここまで違うとは思わなかったぞ」
「あなたは本当に一夏さんですの!?」
「世界が違うと一夏もここまで違うなんて思わなかったわよ」
「一夏って恋人が出来るとこんな感じになるのかな」
「……(プシューーーーーー)」
箒達が驚愕の声を上げながら俺にそう声をかけてくる。
「別にそこまで驚くようなことでもなかろうに」
俺はそんな五人にそう答えると、五人はそんな事はない! と大きく前に出て言って来た。
どれだけ此方の一夏の鈍感は酷いのだろうか。
「別に此方の一夏と俺はそこまで変わらないと思うが」
基本は一緒なのだからそこまで変わっているとは思えないのだが……
そう考えていると、真耶さんが笑顔で俺に言ってきた。
「そうですか? 私は全然違うと思いますよ」
その可愛い笑顔に笑いかけながら俺は真耶さんに聞く。
「そうでしょうか? 具体的にどう違いますか?」
「旦那様、まず旦那様の今の職業を言ってみて下さい」
そう聞かれ、此方の一夏は首を傾げる。
「え、むこうの俺ってIS学園に通ってるんだろ? なら学生じゃないのか?」
「それが少し違うんですよ。ね、旦那様」
まるでイタズラッ子のような笑顔で話を振る真耶さん。
それが自分の恋人を自慢したいのだろうなぁ~、ということは、どことなく分かった。
「俺の職業は学生だけではないんだ。IS学園に通っているのは映画で言っていた通り出向扱いで、本当は『日本政府所属、特殊高官』という役職を与えられている。それとは別に福寿荘という懐石料理店の副板(副料理長)もしている」
「ま、マジかよ!? 何その凄い職業! 俺とは全然違うじゃん」
此方の一夏は驚き返っていた。
「何だと! 向こうの一夏は既に職に就いているのか!?」
「まさか複数の職に就いておられるなんて…」
「全然違うじゃない!」
「向こうの一夏は凄いハイスペックだね」
「まさかこうも違うとは……」
箒達も驚愕していた。
何かこれが普通になってきていたからすっかり忘れていた。
「そういうことですよ。旦那様と此方の織斑君ではそういう部分がまず違いますよ。それに……」
「それに?」
真耶さんは顔を赤くして恥ずかしそうに答える。
「旦那様の方が、ずっと、ずぅうううううっと、格好いいですから」
「「「「「「ごぱぁっ!?」」」」」」
その笑顔はその場にいる皆を魅了するには充分な破壊力を持っていた。
真耶さんがそう言ってくれたことに嬉しく思っていると、箒達と此方の一夏が何かを噴き出していた。
「な、何か凄いですね……同じ顔でそういうことを言えるのって……少し羨ましいです」
山田先生が羨ましそうに真耶さんを見てそう言っていた。
真耶さんはそれを受けて、可愛らしく微笑む。可愛いなぁ~。
「そ、そうですか~。うふふふふ」
何だか幸せそうだ。俺もそんな真耶さんが見れて嬉しい。
するとデュノアが真耶さんに聞いてきた。
「そう言えば向こうの山田先生は向こうの一夏のことをどう思ってるんですか?」
「え?」
どうやら恋に興味がある年頃なので、恋人がいる人にそういったことを聞いてみたいようだ。
真耶さんはそう聞かれると、一回だけ目を閉じてから幸せそうな笑顔で答えた。
「そうですね……正義感があって、自身の信じた信念を貫いてる強い人。真面目で格好良くて、それでいて可愛いくて。駄目な私をいつも支えてくれて、私のことを大切にしてくれるとても大好きな、世界で一番大切な、一番愛している人です」
そう答え、それを聞いた箒達はほぉっと感心していた。
何だかそう言われると、少し恥ずかしくなってくる。
真耶さんは俺のことをそう思っていてくれたのか………
すると今度は箒が俺に聞いてきた。
「こ、こほん。向こうの一夏は向こうの山田先生のことをどう思っているのだ。特に一夏! 絶対にこの話を聞いておけ!」
「何でだよ!」
「いいから聞いておけ!」
箒に話を振られ、理不尽だと反応する此方の一夏。
きっと箒は此方の一夏に少しでも恋愛に興味を持って貰いたいのだろう。
その様子に苦笑していると、真耶さんが俺を上目使いで見つめてきた。
「どうしたんですか、真耶さん?」
「いえ、私も凄く気になるんです。旦那様が私のことをどう思っているのかなって」
「いつも言ってると思うのですが」
「今、ここでちゃんと聞きたいんです」
俺を見つめながらそう聞く真耶さん。その顔は少し真剣な感じだが、恥じらいで顔を赤く染めていた。その顔があまりにも可愛くて、俺は皆が見ていることも気にせずに真耶さんの頬に手を添える。
「俺にとって真耶さんは、一番…それこそ生涯でたった一人の最愛の人ですよ。こんな俺の事をいつも見守ってくれて、俺の事をいつも支えてくれて。優しくて温かくて、一生懸命で可愛くて甘えん坊で、その全てが愛おしくて。俺には常に勿体なく感じるくらい凄い女性です。最近は…その…好きすぎて仕方ないくらいなんですけどね。何度だって言いますよ……真耶さん、大好きです。愛しています」
「だ、旦那様ぁ………私も…愛しています。大好きです」
俺が真耶さんの顔を見つめながらそう素直に答えると、真耶さんは顔を真っ赤にし、うっとりとしながら俺に答えた。その声は感動のあまり、少し涙声になっていた。
俺はその顔が可愛すぎて我慢出来ず、真耶さんの頬に添えた手を少し動かして俺の方に顔を向かせるようにする。真耶さんは俺が何をしようとしているのかを理解して、為すがままにして目を瞑る。
俺は自分の方に向かせると、その可愛らしい唇にキスをした。
「「んぅ……ふぅ……んん……」」
そして唇を離すと、真耶さんはとろけるような笑顔をしていた。
「ふぅ……幸せすぎて気持ちいいです……旦那様ぁ…もっと…もっとキスして下さい」
「はい……俺の大切なお嫁さん……」
そして更にその唇を堪能する。
真耶さんの甘い香りを胸一杯に吸うと、何だかポォーとしてくるが、それが心地良い。
そう、俺は真耶さんに夢中でまったくまわりに気が向いていなかった。
「「「「「「「ぐふぅ!?」」」」」」」
此方の一夏や箒達、山田先生が何かを噴き出しながらまた倒れていく中、俺は心行くまで真耶さんとキスをしていた。
ちなみに……織斑先生はこれ以上は毒だと判断し、一人先に視聴覚室から退避していた。