装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回はまた随分な無茶ぶりですよ……


正月の挨拶 異世界編 その1

 茶々丸さんの屋敷での騒動から翌日。

湊斗家でもう一泊した俺達はというと……お昼ご飯を用意していた。

いつもは牧村さんが用意してくれているのだが、今日は外せない用があるということで、変わりに俺が作ることにした。

昔はよくやっていたことだけに、そこまで苦労しない。

 

「すみません、こんな物しか作れなくて」

「いや、あの冷蔵庫の中身でこれほどの物を作り上げるとは。これほどの物を『こんな物』と言われたら、俺達は何も言えなくなってしまうよ」

 

 師匠が俺の作った料理を食べて驚き、そう感想を洩らす。

冷蔵庫の中身はそこまで酷くは無かったと思うが……きっと牧村さんが材料を用意しておいてくれたのだろう。

 

「そこまで褒めていただけるとは光栄です。ですが……これは真耶さんの御蔭ですよ。俺一人ではここまで美味しく作れませんから」

 

 俺がそう答えると、隣に座っていた真耶さんは顔を真っ赤にして恥ずかしがる。

 

「そ、そんな……私なんて……少し旦那様のお手伝いをしただけですし………」

 

そう答えながら恥じらう真耶さんも可愛くて仕方ない……が、師匠の手前、キスしたいのを我慢する。ま、まぁ………昨日も一杯したし……。

 

「うむ、仲睦まじいな。夫婦というのは、こういう物を言うのだろう。微笑ましいものだ」

 

師匠がそんな感じに木訥とそう言うと、村正さんが笑顔で師匠に話しかける。

 

「あら、御堂にしてはまともなことを言うわね。羨ましい?」

「いや、別にそこまではな。憧れないと言えば嘘になるだろうが、俺はこういう物とは縁が無いのでな」

「なっ!? あれだけアピールしてるのに……」

 

そう師匠が答えると、村正さんの額に青筋が立っていた。

これは結構怒っているな。下手に手を出すと酷い目に遭いかねない。しかし、どうにかせねば被害が出る。どうしたものか……。

 すると横から別の声が出てきた。

 

「ふん! 景明にはオレがついているからそのような物はいらん! 一夏の嫁、飯のおかわりを頼む!」

 

 師範代がふんぞり返りながらそう言うと、真耶さんに茶碗を突き出してきた。

 

「は、はい! よ、嫁だなんて……えへへへへ」

 

真耶さんが少し驚きつつも、嬉しそうに笑いながらおかわりをよそう。

それを受け取った師範代は満足そうに頷くと、またご飯を食べ始めた。美味しそうに食べてくれるのは嬉しいのだが、食べ方が男らしいのは何とかならないのだろうか?

逆に真耶さんはいつ見ても食べてる姿が可愛らしい。

小さく口を開いて上品に食べるその姿は、まるで小動物のようだ。

俺はこの姿を見ていると、頬が緩んでしまう。

 その後、この昼食も何だかんだと進み、何とか片づいた。

その後の片付けも真耶さんと一緒に行い、それが新婚みたいで嬉しく感じてしまう。

真耶さんの方を見ると、同じことを考えていたらしく幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 そして正午になり、俺達は師範代に呼ばれて中庭に来ていた。

 

「どうしたんですか、急に呼び出して?」

 

俺は師範代に呼び出されたことに首を傾げつつそう聞く。

今の俺は体の毒が抜けきっていないため、そこまでの鍛錬は出来ない。

正確には、『師範代に合わせられる程の鍛錬が出来ない』だけである。普通に動くのには問題がなくなってきたので、今朝から鍛錬を始めている。

 

「うむ、実は面白いことを考えたのだ! それにはお前がいると丁度良い」

 

師範代は笑顔で堂々とそう答えた。その笑顔から嫌な予感しかしない。

 

「な、何だか不安です、旦那様ぁ」

 

師範代の様子を見て不安そうにする真耶さん。

俺は安心させようと、真耶さんの手を包み込むように握る。すべすべとして柔らかい感触が気持ちいい。

 

「大丈夫ですよ。俺が一緒ですから」

「だ、旦那様ぁ…」

 

真耶さんは俺の言葉で安心してくれたようで、顔を赤らめ上目使いで見つめる。

その顔も可愛いなぁ、と思いながら師範代の方を向く。

 

「それで……今度は何をやらかすんでしょうか」

「やらかすとは失敬な! 光は只、正月の挨拶に向かうだけだぞ」

「正月の挨拶? どこにですか」

 

そう聞くと、師範代はニヤリと笑う。

それが何だか……不味いような気がした。

 

「正宗、来い!!」

『応!!』

 

 俺は急いで正宗を呼ぶ。

正宗は常に俺と一緒にいるのだから、呼べば必ず来る。

俺に呼ばれ、正宗は俺達の目の前に飛び出してきた。

 

「正宗、何か嫌な予感がする! 共に行くぞ」

『諒解』

 

正宗が来ると同時に師範代が叫ぶ。

 

「来い、村正!!」

 

 その叫びを受けて、御母堂が屋敷から歩いてきた。

 

「何だ、御堂。せっかく映画を見ていたというのに」

 

御母堂は少し面倒臭そうにしていた。

どうやらDVDで映画を見ていたらしい。何でもここ最近はまっているのだとか。

 

「む、それはすまん。だがそれは後でも見れるだろう。オレの用事の方が先決だ!」

「はぁ……毎度のことながら仕方ない……」

 

御母堂は溜息を吐きながら呆れていた。

俺もまったく同じ気持ちである。

師範代はそんな俺達の様子も気にせずに元気よく言う。

 

「装甲するぞ、村正!!」

『諒解』

 

何だか諦めが込められている声で御母堂が応じると、人の形から女王蟻の姿へと変わった。

 

『鬼に逢うては鬼を斬る 仏に逢うては仏を斬る ツルギの理ここに在り』

 

師範代が誓約の口上を述べ、あっという間に装甲していく。

そして俺達の目の前には白銀の武者が現れた。

 

「では行くぞ! 『辰気収斂ッ!!』」

 

師範代は陰義を使い、自分の隣の空間をねじ曲げていく。そして隣には黒い何かが生まれた。

大きさは2メートルくらいの高さで、人一人が余裕で通れるくらいのサイズであった。

 

「師範代……これは一体? 何をしたんですか」

「うむ。前にお前の学校でやったことと同じだ。但し、今度は此方から向こうに行くぞ!」

 

そう言うと、師範代は黒い何かへと入って行ってしまった。

 

「「なっ!?」」

 

いきなりの事態に驚く俺と真耶さん。

つまり……前にやった『パラレルワールドの織斑 一夏』を此方に呼び寄せたのを応用して、此方からパラレルワールドに行こうというわけだ。

 

(どれだけ滅茶苦茶なんだ!! と叫びたい! ………だが、師範代だったら何をやってもおかしくないから驚くだけ無駄かも…)

 

そう、師範代は不可能を滅茶苦茶に可能にする人だ。

何だか、何を今更……という気分になる。

 

「だ、大丈夫なんでしょうか、旦那様……」

 

凄く不安そうに俺に聞く真耶さん。

俺は少しでも不安を取り除いてあげたくて、真耶さんを優しく抱きしめる。

 

「俺が絶対に守りますから、安心して下さい。これはその証明です」

 

そう答え、真耶さんの唇にキスをした。

 

「「んぅ……」」

 

少し驚きつつも、真耶さんは俺のキスを受け入れてくれた。

そして唇を離すと、真耶さんは顔を赤くしつつ嬉しそうに笑った。

 

「はい……確かに受け取りました、旦那様」

 

その顔がまた可愛いものだから、更にキスしたくなってしまう。

昨日の大会以降、キスしたい衝動に駆られることが前の三倍以上に増えた気がする。

それだけ大切なのだ。

 

『いつまで乳繰り合っておる、御堂。追わねばならぬのであろう』

 

正宗に咎められ、真耶さんから離れる。実に名残惜しい。

 

「それじゃいきましょうか。どうせ師範代のことだから、どうにかなりますよ」

 

俺はそう真耶さんに言いながら、真耶さんの手を繋いで引く。

 

「はい、旦那様! 絶対に離さないで下さいね」

 

真耶さんは笑顔で俺の手を握り返し、俺達はぴったりとくっつきながら黒い何かの中へと入っていった。

 

 

 

 

 現在の季節は秋。

丁度IS学園ではキャノンボールファストの準備に皆燃えていた。

そんな中、織斑 一夏は自分のISの調整やらで忙しそうにアリーナを飛行していた。

彼は少し前に違う世界とやらに行っており、そこでもう一人の自分から剣についてのアドバイスを受けた。その御蔭で、今では結構な強さになっている。

 

「向こうの俺はどうしてるんだろうな~」

 

そんな風に会った時のことを思い出していたら、急にアリーナに警報が鳴り響く。

 

『非常事態発生、非常事態発生。現在アリーナに極大な空間の歪みを検知。危険なため、アリーナにいる生徒は至急避難せよ! 繰り返す……………」

 

 その警報が鳴り響くと同時に、アリーナの中心に真っ黒い何かが現れ、どんどん大きくなっていく。その大きさは2メートルくらいで、人が通れるくらいの大きさである。

一夏はそれを見て、冷や汗を掻く。

何故なら、それに見覚えがあったからだ。…………過去に自分をパラレルワールドに飛ばした物とまったく同じ物である。

そう一夏は予想し、その通りとなった。

その黒い何かから人の形をした何かが飛び出して来た。

 

「うむ! 異世界に光参上!!」

 

それは銀色をした全身装甲の人型。

一夏には見覚えがある人物であった。

そして黒い何かから後三つほど何かが出てきた。

 

「どうやら無事につけたみたいですね。大丈夫ですか、真耶さん」

「はい、私は大丈夫です。旦那様は体とか大丈夫ですか」

 

三つの内二つは人だった。

一人は男でもう一人は女。そして最後の一つは大きな天牛虫。

女の方にも男の方にも一夏には見覚えがあった。それどころか、男の方はとてもよく知っている。

何故なら……その男の姿は……自分とまったく同じなのだから。

つまり……違う世界の自分であると。

一夏は現れたもう一人の自分の方へと進んでいき、相対する。

 

「よぉ、久しぶりだな。元気にしてたか」

 

こんな異常事態なのに、そう一夏はもう一人の自分に声をかけた。

普通驚愕するはずのことなのだが、あの銀色の人型。つまり向こうの一夏の師範代が最初に出てきた時点で何があってもおかしくないと思い、驚かなかった。

向こうの一夏は此方の一夏に気付くと一礼して、挨拶を返す。

 

「あぁ、久しいな。壮健そうで何よりだ」

 

 こうして……織斑 一夏(武者)はパラレルワールドについた。


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