どうも、山田 真耶です。
旦那様と別れて、私は村正さんのお部屋に泊まることになりました。
何だかこういうのは久しぶりな気がします。ここ最近は旦那様とずっと一緒でしたから……ポッ。
少し寂しい気がしますが、たまにはこういうのもいいですよね~。
それに……何だか旦那様は真面目なお話があるみたいだったので……
それを察するのも、その…妻の勤めと言いますか……言っていて恥ずかしくなってきちゃいますね……えへへ。
そんなわけで村正さんのお部屋にお邪魔させてもらったのですか……
「私が呼んだのは真耶だけよ! 何であなたたちまで来てるのよ」
村正さんがジト目で睨んでいる先には、大鳥さんと綾弥さんがいました。お二人とも、それが当たり前だと言わんばかりです。
「お前とこのデカ女を湊斗さんと一緒に居させるわけにはいかないだろ! まだ劔冑のお前なら仕方ないと少しは思うが、このデカ女も一緒だと安心も出来ないんだよ! お前等絶対に湊斗さんに言い寄るだろ」
「あらあら、随分と失礼な物言いですわね。私はただ、景明様と『色々』と語らいたいだけですわ。ですが……それには邪魔者が多くて」
大鳥さんが笑顔でそう答えると、綾弥さんの顔がかなり真っ赤になりました。
どう見ても怒ってる顔です。
「そんな恰好して何が語らいたいだ!! 明らかに言い寄る気満々だろ!!」
「何よ、その下品なまでに透けてる寝間着は! 御堂を誘惑する気があからさますぎよ!!」
綾弥さんが怒りながらそう言うと、村正さんも便乗して怒っています。
大鳥さんはそんな二人を相手にしていてもまったく余裕な感じで笑顔を浮かべていました。
「あらあら、これは淑女として当然の寝衣でしてよ」
大鳥さんがさも当然のように胸を反らして言います。
その動作によって大きな胸が揺れました。それを見て綾弥さんが少し悲しい顔をして自分の胸をぺたぺたと触ってます。まだ若いからそこまで心配するようなことではないと思いますけどね。
何故二人がここまで怒っているのか? それは大鳥さんの恰好が原因です。
大鳥さんが来ているのは……セクシーランジェリー。所謂ネグリジェです。
紫色で透けた生地に、肌色が艶めかしく映ります。下は穿いているようですが、上は付けていないので…その……見えちゃってます。とてもスタイルが良い方ですから、とても艶っぽくて同性の私でも見ていてドキドキしてしまいます。
「何が『淑女として当然の寝衣でしてよ』だよ! 明らかに見え透いた嘘吐くな、この痴女!!」
「そんな破廉恥極まりない寝間着で御堂に迫ろうなんて、見過ごせるわけないじゃない!!」
そんな大鳥さんに二人は怒って言いますが、大鳥さんはまったく気にしていないみたいです。
「お嬢様、そんなあからさまですと湊斗様は引かれるとさよは思いますが」
「あら、そうかしら。ここ最近は女尊男卑だ何だで男性は草食系が多いのだし、問題ないと思うのだけれど、ばあや」
「そんな痴女めいた恰好した人なんて普通は避けるものでございます、お嬢様。そんなんだから『残念』なのですよ」
永倉さんがそんな大鳥さんにそう言うと、大鳥さんは顔を赤くして反論していきます。
多分大鳥さんは絶対に永倉さんには勝てないような気がします。
ちなみに大鳥さんを除いてみんな襦袢です。
これが旦那様がいつも着ている物なんだと思うと、何かお揃いみたいで嬉しい感じがしますね。
「それに私としては……織斑様の恋人である山田様のお話も聞いてみたいと思いまして。景明様のお弟子である彼を射止めたその手腕、是非とも後学のために聞いてみたいのですわ」
「ぶっちゃけ今のままでは全然進まないので、経験者に参考になる話を聞こうという魂胆でございます」
大鳥さんは私を見ながらそう言って来ました。
すると二人も頷きます。どうやら三人とも私にそういう話を聞きたいようです。私ごときで参考になるんでしょうか?
「ま、まぁ、ぶっちゃけ私も気にはなってたし。山田さん、良ければお話してもらえませんか」
綾弥さんがお願いするように私に言って来ました。
最初に紹介してもらった時に私のこと、旦那様と同い年だと思っていたそうですよ。
私が23歳の教師だって知ったら、もの凄い勢いで謝られました。
最初はちょっと怖い子かと思いましたが、どうやら根は真面目な良い子みたいです。
それからは私に敬語で話すようになりました。何だか生徒と先生みたいな感じです。IS学園ではみんな山ちゃんとかって言って、あまりみんな先生扱いしてくれませんから。何だか嬉しいです。
「私もそれには興味があるわね。『あの一夏』を墜とした方法というのも気になるし」
村正さんが知りたそうな視線で私を見ます。
何だかはずかしくなってきちゃいます。
「ふむ。冑はそこまで興味はないが、娘の参考の為に話してはくれまいか」
いきなり声が聞こえてそちらに驚きながら振り向くと、そこには銀髪の女性が立っていました。
「かかさま!?」
「「!?」」
「そう驚くようなことでもなかろう、一緒の家に住んでいるのだから」
この女性は村正さんのお母さんだそうです。
家のお母さんも大概だと思いますけど、それより凄いですよね~。どう見たって高校生にしか見えないんですから。私もよく高校生に見られがちですから、似たような感じかも。
村正さんと一緒に並ぶと、村正さんのほうがお姉さんに見えるかもしれないです。そう言ったら、
「あれは体ばかり大きくなって、頭はさっぱりだからな」
と難しそうな顔で言ってました。
あれ? でも劔冑だから成長とかってするのかな? あまり気にしたら負けだって綾弥さんに言われたので、気にしないことにします。劔冑は分からないことが多いですから。
私は何て呼んだらいいのか分からないので、普通に『村正さんのお母さん』って呼ばせてもらっています。旦那様みたいに難しい言い方は私には出来ませんから。
村正さんのお母さんは部屋に入ってくると、何かの薄いケースを渡してきました。
「これがあった方がなれも説明しやすかろう」
それは映画のディスクでした。
それを見た瞬間、私は恥ずかしい記憶を思い出してしまい顔が熱くなっていくことを感じました。
映画の題名は『現代の若武者恋物語』。
旦那様を主役として撮影された映画であり、ヒロインとして私が出ているものです。
中身は旦那様がIS学園に来てから夏休みを終えるまでの間にあった出来事を大まかに収録しており、私と旦那様の恋愛を撮った物です。
初めてそれを見た時は……恥ずかしさのあまりに気絶しちゃいました。
何故これが……そう言えば何かの映画賞を取ったとか噂を聞いたような……
ショックに固まっている私を尻目に話が進んでいきます。
「そこの娘、これを見れるようにしてくれ」
「なんで私が! ていうか操作出来ないのかよ」
「そもそも、かかさまがなんでこんな物を持ってるのよ」
村正さんが驚いています。普段からあまり電子機器には触らないタイプみたいです。
ここの人って結構触らなそうなタイプばかりですから。
「うむ、これは御堂が学校の友人から借りた代物だ。見るときは手伝いの牧村にしてもらっている」
そう胸を張る村正さんのお母さん。
このお屋敷には牧村さんっていうお手伝いさんがいるんです。笑顔を常に浮かべている人で、仕事をしっかりとこなす人でした。素直に尊敬しちゃいます。
「ちなみに光さんは?」
私はつい聞いてしまいます。これだけ騒がしくなっているのなら、光さんも来そうな感じがしましたので。
「御堂ならもう寝ておる。お子様故に夜が早い」
どうやらもう眠ってしまったようです。
何だかマドカちゃんに似た感じがして、少し笑ってしまいます。
そして綾弥さんは文句を言いつつセットして、テレビから映像が流れ始めました。
ここからはもうちょっと簡素に説明していきますね。
私が旦那様と初めて会った場面で……
「この時、初めて旦っ…一夏君を好きになったんですよ」
私は思い出しながら話していきます。
あのときから旦那様は格好良くって。今にして思えば劇的な出会いでした。
「ああ、真耶。一夏の事はいつもみたいに言っていいから。……出てたわよ、『旦那様』って」
村正さんがニヤニヤと笑いながら私に言って来ました。
その途端に恥ずかしくなって真っ赤になってしまいます。まさか出ちゃうなんて…は…恥ずかしい……。
大鳥さんはまぁまぁ、と笑顔で私を見ており、綾弥さんは少し顔を赤くして静かにしていました。
それが尚、恥ずかしさに拍車をかけます。顔が熱くて仕方ないです。
「だ、旦那様は試験で倒した私の体を心配してくれたんです。その時は少し怖くて、私はISを解除した時に足をくじいちゃったんです。それに責任を感じて、旦那様は私をお姫様だっこで保健室まで運んでくれたんです。あの時は男性に初めてあんなことをされたものですから、びっくりしちゃいました」
あの時の優しく暖かな旦那様の胸を思い出して、うっとりとしてしまいます。
そんな私を見て、三人が何だか赤くなってました。
その後は場面が移り変わり、臨海学校の時に変わります。
流石にお風呂での出来事が無かったのは救いでした。あれは流石に恥ずかし過ぎです。
海でバレーを旦那様としたときは、私の水着がほどけてしまったせいで旦那様が真っ赤になってました。今にしても、恥ずかしくて真っ赤になっちゃいます。ま、まぁ、これで旦那様の気が引けたと思えば、これはこれで。
その翌日には一人で勝手に真田さんと戦いに行ってしまって……。
あの時は本当に心配しました。いつもより少し思い詰めた顔をしていて、何だか危うい感じがして。
旦那様が行ってからしばらくして、福音事件が発生。篠ノ之さんが出撃しましたが、帰ってきたときにはボロボロの旦那様が抱えて帰ってきました。あの時は旦那様が死んじゃうんじゃないかって心配で仕方なかったですよ。全身に重度の火傷で、体のあちこちから血が噴き出していましたから。
旦那様が私に心配させないように大丈夫だって言ってましたが、笑顔が引きつってるんですもの。痛いのを我慢していることが嫌でもわかりますよ。
「あの後、旦那様を介抱したんですよ。旦那様は体が上手く動かせなくなってしまっていて…」
今にしても思い出しただけでも心配になってきそうになります。
そのまま場面は私が旦那様に口移しで水を飲ませるところに。
途端に顔がボンッと真っ赤に爆発してしまう私。
「これは随分と派手にやったわね」
「まさか山田さんがここまで大胆とは……」
「まさに見習うべきところかしら」
三人はその映像と私を見比べつつ、顔を赤くしながら頷いていました。恥ずかしくてきついです。
「こ、これは、旦那様が衰弱しててお水を自分で飲めなくなっていたからであって! 動けない今がチャンスだからちょっと冒険しても大丈夫かなって思って……あっ」
言っていながら自爆しちゃいました。だって、あの時は本当にそう思ったんですもの。
旦那様が愛おしくて仕方なかったんです……私は悪くないですよ…ね?
「本音が漏れてるわよ、真耶。成程ね~、こういうのが効果的なのね。一夏も顔を赤くして可愛いこと」
「っ~~~~、こ、これがそうなのか。た、たしかに女の私でもこれはドキドキする」
「お嬢様、これが重要なのですよ。いつも全開ごり押しでは殿方には引かれます。ギャップ差が重要です」
「ふむふむ、私も景明様にこうすればもっと好きになってもらえるかもしれませんわね」
「顔に似合わず大胆なことをするな、なれは」
皆口々にそう言います。
恥ずかしさのあまり気絶しそうですよ。
そして旦那様がもう一回出撃して福音を撃退。そのまま帰還したときは、本当に大変でした。
映画なので不味い部分はカットされているとはいえ、今でも脳裏にその時の光景が思い出せます。
真っ青になった顔に、肩から先がなくなった腕、お腹から飛び出してしまっているピンク色の腸……
死んでしまったと、あの時は絶望に飲み込まれそうになりました。もし、本当に死んでしまったら、私の心は壊れてしまっていたことでしょう。
その後は正宗さんによって引きずられて行く旦那様。応急手当をして寝かせた後、またしばらく旦那様を看ていました。
そして部屋から追い出されるまでそれは続き、旦那様の様子を見ようと部屋に行ったら旦那様は居なくて………
外にいることを聞いて、そして月がよく見える丘の上で……私の告白シーンが流れます。
「へぇ~、こうやって真耶は告白したんだ。何て言うか……真っ直ぐね」
「成る程な。やっぱり正直に言ったほうが伝わるわけか」
「少し真っ直ぐ過ぎる気がしなくともないですが、悪くはありませんわね」
三人は私の告白にそんな評価を付けます。
あの時は必死だったんですから、そこまで言わないで下さい!
あの時の思い出は、今でも鮮明に思い出せます。とてもロマンチックな夜でした……真田さんが来なければ……。
そして一気に場面が飛び、IS学園で旦那様に告白してもらった場面になります。
あの時は少し旦那様が滑ってましたが、今思えばそんな所も可愛いです。
「一夏はこうやって告白を返したのね。何だか一夏らしいっていうか…」
「武者馬鹿だな、あいつ。でも、私もあんなことを湊斗さんに言ってもらいたいかも……」
「若々しくて何だか青臭い気がしますわ」
「そう思われるお嬢様は既に年寄りということでは?」
「何か言いましたか、ばあや」
「いいえ、なにも」
この時は本当に嬉しくて仕方なかったです。
あの後、部屋で何回もほっぺたをつねりましたし。顔がにやけて仕方なかったですよ~。
私はあの時のことを思い出してニヤニヤと笑ってしまいます。それを見た四人は羨ましそうな顔をしていました。
そして数々のデートをして、最後の夏祭り。
旦那様と一緒にくっついて、見上げた花火の前でキスをして………
幸せで一杯になってしまいます……うふふ。
愛を誓い会って映画は終わります。
映画を見終えた四人は………真っ赤になって何も言わずに静かになっていました。
「い、今更だけど……一夏のどんなところが好きなの」
村正さんが気を取り直して私に聞いてきました。
私はどんな顔をしているでしょう。きっと……幸せで仕方ない顔になっているはずです。
「旦那様は、強くて真面目で、それでいて可愛くて……何より優しくて。そんな旦那様のすべてが私は大好きです! もう旦那様がいない日々なんて考えられません。旦那様がいなければ私は生きていけないくらい、旦那様を愛してます!!」
そう幸せを感じながら言うと、胸の中が温かくて満たされた気持ちになります。
これを愛おしく思いながら、私は皆さんの方を向くと………
皆倒れてました。
きっと暴れ疲れて眠ってしまったんでしょうね。
こうして、私は湊斗家で夜を明かしました。
後日、映画を見ながら話を聞いた四人は……
『甘すぎて参考にならない。あまりの甘さに気絶した』
そう言っていたとか。