装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は紹介ですね~


正月の湊斗家 その2

 師匠に新年の挨拶をすると、俺は暴れていた三人の方を振り向き睨み付けながら言う。

 

「新年早々何を暴れているのですか。そんな粗暴な女性は師匠の好みではありませんよ。師匠はおしとやかな女性が好みだそうで……すぐに片付けて下さい」

 

「「「!?」」」

 

 俺にそう言われた三人はそそくさと急いで散らかった部屋を片し始めた。

分かっているのなら最初から暴れてもらいたくないものだ。

 

「一夏よ、別におしとやかなのが好みという訳ではないのだが……」

「別にいいんですよ。師匠の好みは広すぎてあまり参考になるような物はありませんから。こう言えばあの三人と茶々丸さんは止まります」

「そういうものなのか?」

「そういうものです」

 

 師匠が何とも言いがたい顔で首を傾げていたが、これで良い。

この人は何でこの三人がこんなに暴れているのか分かっているのやら……弟子として心配で仕方ない。

 そして少し経って部屋はマシなレベルに片付けられた。

 

「では三人にも改めまして。あけましておめでとうございます」

 

 俺は三人の向かい側に正座で座り挨拶をする。俺の隣には真耶さんが一緒に正座で座っていた。

 

「ええ、あけましておめでとう、一夏」

「あけましておめでとうございます、織斑様」

「あけましておめでとう、織斑」

 

 三人はそれなりに頭を下げて新年の挨拶をする。

俺はそれを見た後に、後一人の方に向く。

 

「永倉さんもあけましておめでとうございます。ですがあまり自分の主で遊ぶのは止めて下さい。主の乱心を静めるのが本来のお仕事でしょうに」

「おやおや、織斑様、何を仰りますか? 私はいつも通りお嬢様を応援しているだけでありますよ。あまりに『残念』なお嬢様ですが、それでも私の主でございますから」

 

 にこやかに笑いながらそう答える老婦。

この人はさっきから暴れ回っていた一人の従者をしている。

 

「ばあや、なにげに私に失礼な事を言わなかったかしら」

「そのようなこと、このさよは言っておりません。さよは只、織斑様が言われたことに素直に答えただけです」

 

 明らかに失礼なこと言っているのに、それを全く悪く思わずに自分の主をいじくり回すのは永倉さんの悪い趣味だ。現に言われた人は笑顔であったが、どこか怒りマークが出ている感じがした。

 

「旦那様……この人達は……」

 

 俺の右手を軽く引きながら真耶さんが聞いてきた。

俺は目の前にいる二人を紹介する為に笑いながら話すことにした。

 

「こちらの髪の長い女性は『大鳥 香奈枝』さんです。これでも有名な名家の人なんですよ」

「これでもと言うのは余計ですわ。どうも、大鳥 香奈枝と申します」

 

大鳥さんは上品そうな笑顔を浮かべて真耶さんに挨拶をする。

ぱっと見は眉目秀麗な麗人であり、挨拶をされた真耶さんは顔を赤くしていた。

 

「美人ですが、性格は残念極まりないのでそこまで気にしないで下さい」

「は…はぁ…」

「持ち上げたと思ったら思いっきり叩きのめされた!」

 

 俺が真耶さんにそう言うと大鳥さんは憤慨してきたが、相手にするだけ疲れるので無視する。

 

「それと大鳥さんの侍従である『永倉 さよ』さんです」

「私、お嬢様に仕えております、『永倉 さよ』と申します。以後お見知りおきを」

 

永倉さんは礼儀正しく一礼する。

その礼儀正しさに真耶さんは少し萎縮していた。

 

「大鳥さんを『良くも悪くも』サポートする人ですが、悪ふざけが過ぎ、主で遊ぶのが趣味という人です」

「おやおや、織斑様。そのようなことはございませんよ。……ボケばかりでは話は締まりませんから」

 

 にこやかに笑うが、永倉さん………その笑顔が黒いですよ。

この主従コンビは永倉さんが主に大鳥さんをいじくり、それで大鳥さんが憤慨したりいじけたりと、そんなことばかりしている。真面目に相手をするだけ疲れるのでさらりと流すに限る。

 俺はもう一人の女性も紹介する。

 

「こちらは『綾弥 一条』さん。俺と同じくらいの年齢です」

「どうも。私は綾弥 一条って言うんだ。よろしく」

「は、はい」

 

 真耶さんは綾弥さんの雰囲気に飲み込まれそうになっていた。

とても普通の学生では放てないような威圧感を放つ女性だ。目つきも鋭いため、真耶さんには怖く映るかもしれない。

俺は念の為注意事項を伝えることにした。

 

「真耶さん、この人の名前は絶対に間違えないで下さい。『綾弥 一条』が正しいので。間違えて『一条 綾弥』って言うと激怒しますからね」

「は、はい! あまり女の子の名前じゃないような……」

「あまり言わないで下さい。本人に言うと本当に怒りますから」

 

 綾弥さんに聞こえないように真耶さんの耳元で小さく囁くと、真耶さんは顔を赤らめながらも真面目に聞いていた。

 これで二人の紹介が終わったところで、今度は二人から聞かれる。

 

「それにしても………織斑様のお隣に座っている方はどなたかしら」

「初めて見る人だな。織斑の知り合いか? でもどこかで見たような……」

 

 二人が俺の隣に座る真耶さんの方を見る。

その視線に少し怖くなったのか、真耶さんが俺の右手を握ってきた。その顔は赤くなりながらもどこか不安気だ。俺は安心させるように笑顔で握られた手に応える。

 

「実は今日ここに来たのは、この人を紹介するためでもあります。この人は……俺の婚約者です」

 

 俺は二人にそう言うと、二人の顔がショックに固まっていた。

真耶さんはというと、恥じらい真っ赤になりながらも俺の顔を見つめていた。

 

「……旦那様……」

 

 そう小さく呟く。

その声には俺にそう言ってもらえたことへの歓喜が含まれていた。それが分かり、俺も嬉しくなる。

俺の紹介を受けて、真耶さんは二人の前に少し出て自己紹介をし始めた。

 

「ど、どうも。私は山田 真耶と申します。その…一夏君の恋人です」

 

 顔を恥じらいで真っ赤にしながら懸命にそう紹介する真耶さん。

可愛すぎて抱きしめたくなったが、師匠の手前もあり我慢する。

大鳥さんと綾弥さんはショックから立ち直ると、まるで食いつくかのように真耶さんに詰め寄った。

 

「ちょっと、織斑様がさっき仰ったことは本当ですの!?」

「マジかよ、早すぎないか!?」

「は、はい……本当です。これが証拠です……」

 

 真耶さんは二人の迫力に押されつつも、左手の指輪を見せる。

それを見て二人はまたショックで固まっていた。

そんな二人を尻目に師匠と村正さんが此方に来た。

 

「それはそれは。おめでとうございます、山田教諭殿」

「おめでとう、真耶!!」

「あ、ありがとうございます! お久しぶりです」

 

 師匠と村正さんからそう言われ、真耶さんは真っ赤に恥じらいつつも嬉しそうに答える。

俺はそれを嬉しく思いながら師匠の方を向くと真面目な顔で言う。

 

「此度の訪問、新年の挨拶と真耶さんとの婚約のご報告のために伺いました」

「そうか。めでたいことだ。ちゃんと大切にするのだぞ」

「はい、絶対に」

 

 師匠はいつもと変わらずに木訥に言うが、その言葉には俺への祝福が込められていた。

素直に嬉しく思う。

 そして持ってきたおせちを渡そうとした所で、固まっていた二人が動き始めた。

 

「景明様!! 弟子である織斑様に先を越されるとはどういうことですか!!」

「そうですよ、湊斗さん! 弟子に先を越されたら威厳も何もないじゃないですか。悔しくないんですか!!」

 

 食ってかかるように師匠に詰めかける二人。それを見て村正さんも師匠の方に詰問する。

 

「それもそうね。御堂、弟子に先に身を固められたんだから、いい加減身を固めたらどう? と言っても、御堂には私しか有り得ないんだけどね」

 

 村正さんがそう言うと、二人が村正さんの方に牙を向ける。

 

「何言ってるんだ、この蜘蛛女! お前みたいな家事が一切出来ないやつに湊斗さんが似合うわけないだろ! 湊斗さんは家事が出来る方がいいですよね」

「お子ちゃまと鉄クズが何を言っているのやら。景明さまにふさわしいのはスタイル抜群でおしとやかな私ですわ!」

「性格が残念出なければそう堂々と胸を張れるのですがね」

「何か言いまして、ばあや?」

「何でもございませんよ、お嬢様」

 

 そしてまた始まる師匠争奪戦。

その光景に真耶さんは苦笑していた。

 

「なんで笑ってるんですか?」

「何か身に覚えがあるんですよ。少し懐かしくて」

 

 笑顔でそう答える真耶さん。

その笑顔も可愛くて、俺は抱きしめられないかわりに繋いだ右手をギュッとした。

真耶さんも俺が考えていることを理解して握り返してくれる。その柔らかい感触が気持ち良かった。

 

「………俺にどうしろと言うのだ……」

 

師匠はまた散らかっていく部屋を見ながら、そう呟いていた。

そう思うならはやく相手を決めて貰いたいと、心底思った。


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