雑煮を作り終え、俺達はリビングに出来た雑煮を持って行く。
「おぉ、これは何だ? 見たことないぞ」
マドカが初めて見た雑煮に興味津々のようだ。
「マドカちゃんはお雑煮、初めてなんですか?」
「お雑煮と言うのか、これ」
「そうですよ。これは日本のお正月なんかに食べるお料理ですよ~」
真耶さんがそんなマドカに優しく雑煮について教えていく。
その様子が母と子のように見えて、微笑ましく見えてしまう。
そう言えばマドカは亡国機業にいた時は海外暮らしの方が長かったから、こういった物を食べるのは初めてかもしれない。
それに……今はプライベートと言うこともあるのだろうが、真耶さんは箒達のことは『さん』付けなのに対して、マドカには『ちゃん』付けだ。それがまるで家族のようで……嬉しい。
そうして真耶さんはマドカに雑煮について教えると、マドカは楽しそうに頷いていた。
「それじゃ…食べますか」
「そうですね」
真耶さんにそう声をかけると、真耶さんも俺の顔を見て微笑みながらそう答えてくれた。
それが夫婦のやり取りみたいで、お互いに赤くなってしまう。
「「………………」」
「あ~、ごほん…見つめ合ってるとこ悪いが、早く食べないか。マドカがさっきから食べたそうにしているぞ」
「「!?」」
千冬姉が気まずそうに俺達を見て言い、俺達はそれでお互い、はっとする。
そして恥ずかしさから顔を赤くしてしまう。
仕切り直す意味合いも含めて、改めてみんなで席に付き手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
挨拶をしてさっそく皆一口食べる。
「おぉ、美味い!!」
「これは……前よりもさらに腕を上げたんじゃないか」
「わぁ、美味しい!!」
三人とも雑煮を美味しいと言って食べていた。
それが素直に嬉しくて、俺も食べる。うん、悪くはない味だ。
「おぉ、伸びるぞ!」
マドカが餅に齧り付きながら餅を伸ばしていた。
「それがお餅ですよ。でも気を付けないと喉に詰まっちゃいますから、気を付けて下さいね」
伸びる餅に苦戦しているマドカに真耶さんが優しくそう言う。
母親のような穏やかな微笑みに見入ってしまう。
「餅には気を付けろ。へたをすると死にかねんからな。……それは良いのだが……何故私の膝の上でこんなことが繰り広げられているんだ?」
千冬姉が食べ辛そうにそう言う。
そう、マドカが今座っているのは千冬姉の膝の上である。最初に席に付いたときからこうだった気がするので、最早今更な気もする。
「そうは言うが、嫌ではないんだろ。嫌ならとっくの昔にマドカを膝から降ろしているはずだ」
「……まぁな」
そう言いながら気まずそうにお雑煮を食べる千冬姉の頬は、少しだけ赤くなっていた。
「本当に美味いな、この雑煮というのは!」
「マドカは雑煮を気に入ったか?」
「ああ、こんな美味いものを食べたことはない! 兄さんは本当に料理上手だな」
マドカは雑煮が気に入ったらしく三杯もおかわりをした。
それは作った身としては嬉しいが、少し食べ過ぎなんじゃないかとハラハラした。
「あぁ、本当に美味いな~」
マドカはご満悦な顔で雑煮を啜っていた。
その姿は本当に年相応、いや、精神年齢を鑑みればより幼く見える。
何だか小動物じみて可愛かった。
「はぁ~……マドカちゃん、可愛いですね~」
真耶さんがそんなマドカを見てうっとりとしていた。
まるで子猫を見ているかのような視線だ。
千冬姉を見ると、マドカの頭を優しく撫でていた。顔はやはり少し赤い。
「こんな美味い物を作れる兄さんが恋人なんて、真耶義姉さんは凄い幸せだな。そう言えば、いつ二人は結婚するんだ?」
「「ぶっ!?」」
マドカの爆弾発言に吹き出す俺と真耶さん。
「な、何を言ってるんだ、マドカ!?」
「ま、マドカちゃん、いきなり何を!?」
いきなりのことに顔を真っ赤にして慌ててしまう真耶さん。その姿も可愛くて、ついつい見惚れてしまう。
「だって恋人同士は結婚するものなんだろ?」
マドカは純粋に不思議そうにそう聞くと、途端に顔がポストみたいに真っ赤になった。
「そ、それに……朝も一杯、その、『くっついていた』みたいだったし……いつするんだろうな…と思って」
朝の事を思い出して真っ赤になるマドカ。そう言われ、真耶さんも俺も顔を真っ赤にしてしまう。
その様子を見て千冬姉が意地悪そうな顔になっていた。
「そうだな……『あんなにくっついている』のに、まだ結婚しないんだよな。何でだろうな~、マドカ」
「そうだな、姉さん。何でなんだろうな?」
千冬姉はマドカにそう焚き付けるように言う。その声には明らかに此方をからかう意思が感じ取れた。
「そ、その、あの、えっと…」
千冬姉のせいでさらにテンパってしまい、真耶さんは真っ赤になりながらあわあわしていた。
素直に可愛い……
といってもそのままというわけには行かない。
「マドカ、まだ俺達は結婚しないよ。俺が結婚出来る年齢じゃないからな」
「む、結婚には年齢制限があるのか?」
「ああ、日本では男は十八、女性は十六からとなっている。俺はまだ満たしてないからな」
そう答えると、そうなのか~とマドカは関心していた。
これで済んだと思ったのだが、さらに千冬姉が掘り返した。
「マドカ、いいか。法律ではそうなっているが、こいつ等は既に結婚してるも同然なんだぞ。何せ、二人っきりになると『旦那様』ってこいつのことを真耶が言うからな。それにどうせ、学園卒業したらすぐ結婚するだろう、お前達なら」
ニタニタした笑いで千冬姉は俺達を見ると、俺達は赤面してしまう。
とくに真耶さんは沸騰するんじゃないかと思うほどに真っ赤になり、恥ずかしがっていた。
「そ、そんなことないですよ~」
そう答える真耶さんだが、その顔はとても嬉しそうな顔をしていた。
否定がまったく出来ていない。だが、否定出来ない。
「ま、まぁ……そうなんだけど……」
俺も否定する気はないので少し歯切れ悪く答えながらも、真耶さんを見つめてしまう。
「い……旦那様……」
「真耶さん……」
熱の籠もった視線で見つめられ、俺もつられて見つめ合ってしまう。
恋人同士特有の甘い空間が出来上がってきた。
それを見て、マドカは少しドキドキしながら俺と真耶さんを見て、千冬姉はニヤニヤしながら見ていた。その視線を受けてはっとする俺達。
「ち、千冬姉!!」
「千冬さん!!」
「あっはっは。お前達が私達がいるのを忘れてイチャつくのが悪い。あまりイチャつき過ぎるとマドカの情操教育上よくないからな。こいつだって思春期なんだからな」
「「ッ………………!?」」
こうして四人で美味しく雑煮を食べ、その後二人に冷やかされながらお昼は過ぎていった。
「あ、そうそう。マドカ、はい、これ」
「何だ、これ?」
ポチ袋をマドカに渡すと、マドカはそれを不思議そうに受け取った。
「お年玉を知らないのか?」
「お年玉? 玉が入っているのか、これ?」
マドカが不思議そうにポチ袋を振るが、中で何かが揺れる感じはしない。
「そうじゃないですよ。お年玉っていうのは、お正月にもらえる特別なお小遣いのことですよ」
「お小遣い! つまりこの中に入っているのはお金なのか」
真耶さんにそう説明されて、マドカは驚いたようだ。
そのまま中を開けると、マドカの顔がぱぁっとした笑顔になった。
「おぉ、一万円!?」
中に入れられた一万円を取り出して喜ぶマドカ。
それを見て微笑む俺達。
「凄い大金だな!! ここまで大きなお金をもらったことはないぞ」
「あれ? 千冬姉からお小遣いは貰ってないのか?」
「姉さんは毎月二千円くれるぞ。ちゃんと貯金してる」
嬉しそうにそう言うマドカ。
それを見て千冬姉をジト目で見てしまう俺。
「いや、だってなぁ……毎月の酒代が……」
俺にジト目で睨まれ千冬姉が気まずそうに目をそらしていた。
「仮にもマドカだって高校生なのだから、もうちょっと多くてもいいんじゃないか。寧ろ千冬姉は飲み過ぎだろ」
「そうですね。確か千冬さんのお給料って私よりも良かったはずですよね~。それでマドカちゃんには二千円しか渡さないというのは、あんまりじゃないですか」
さらに真耶さんにジト目で睨まれ、千冬姉は変な汗を掻き始めていた。
先程此方をおちょくったお返しである。いい気味だ。
「そんな『イジワル』なお姉さんと違って私はちゃんとあげますからね。はい、マドカちゃん、お年玉」
「ありがとう、真耶義姉さん!」
真耶さんがそう言いながらポチ袋をマドカに渡すと、マドカは嬉しさから真耶さんに抱きついた。
それに驚きつつも嬉しそうに頭を撫でる真耶さん。
(何だか微笑ましいなぁ………)
そう思いながら二人を見ていた。
その後、千冬姉はこたつでマドカと一緒になって眠っていた。
二人とも夜更かしもあってか、ぐっすりである。
それを見て微笑む俺と真耶さん。
「あ、そう言えば……旦那様、お願いしてもいいですか?」
「どうしたんですか、いきなり?」
そう言い出した真耶さんは、俺にくっつくと上目使いでお願いをしてきた。
「私もお年玉、欲しいんですけど…」
「お年玉ですか?」
「はい、でもお金はいりませんよ」
そう言いながら目を瞑り唇を突き出すようにする真耶さん。
それが何を求めているのかというのは、もうわかりきっている。
「いつもしてるじゃないですか。朝もしましたよ」
そうイジワルをすると、真耶さんは少し頬を膨らませた。
「いつだって欲しいんですよ、旦那様。大好きな人と一緒にいられる女の子はいつだって欲しいんです」
そう言う真耶さんが可愛くて、俺は笑ってしまう。
「そうですか。なら、俺もお年玉をあげないといけませんね」
「そうですよ。だから私にもお年玉を下さい」
また目を瞑り構える真耶さんに、俺は笑いながら顔を近づけていく。
そして、その美味しそうな唇に唇を合わせた。
「「んぅ……」」
柔らかい唇は……お雑煮の味がした。