手を絡めてくっつきながら俺達はお賽銭を投げに行った。
一緒に並ぶこと十数分。人混みに流されぬようしっかりと手を繋ぎ(もはやくっついているのと変わらない)前に一緒に歩いて行く。その間、真耶さんはとても幸せそうに俺にくっついていた。その笑顔が嬉しくて、俺も笑顔になる。始めて一緒にいく初詣を、二人とも楽しみにしていた。
そしてついに俺達の番が回ってきた。
「それじゃ一緒にやりましょうか」
「はい!」
嬉しそうに頷く真耶さんと手を繋ぎながら一緒に賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らす。
そして一礼して願掛けをする。
(もっと……もっと武者としての高みに行けるように……そして……真耶さんを悲しませないような強き漢となって、真耶さんを一生守れるような…そんな男となれますように……)
(旦那様とずっといられますように……そして…もっと旦那様が安心して甘えてくれるような、そんな女性になれますように)
手を合わせ願いをした後に、すぐにその場を離れる。
「何をお願いしたんですか、真耶さん」
こういう願い事はやはり気になってしまう。それが答えてもらえないと分かっていても、聞いてしまうものだ。
俺がそう聞くと、真耶さんは顔を真っ赤にしながら恥じらいつつ答えてくれた。
「そ、その……旦那様とずっと一緒にいられますようにって……それで旦那様がもっと甘えてくれるようにってお願いしました……」
「っ…………!?」
その健気な願いを聞いて、俺は胸が高鳴ってしまう。
(うっ!? 可愛すぎる!!)
そのまま抱きしめて唇にキスをしてしまう。
「きゃっ、んぅ……」
驚きつつも真耶さんは応じてくれた。柔らかく甘い唇の感触が気持ちよく、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
少しして唇を離すと、真耶さんが顔をさらに真っ赤にしていた。
「きゅ、急にするんですから……そ、そういうのも…好きですけど……」
恥じらいながら上目使いでそう言う真耶さん。俺はそれを素直に可愛いと思いながら抱きしめると、真耶さんも嬉しそうに抱きしめ返してくれた。
「あらあら、お熱いわね~」
「若いって良いね~」
そんな俺達を見て、周りにいたお年寄りがニコニコと笑いながらそう言って来た。
それを聞いて俺と真耶さんは赤面して少し離れる。流石に少し恥ずかしい。
だが、真耶さんは満更でもなさそうで、そんな笑顔をしてる真耶さんが俺も嬉しい。
そして少し人混みから離れた所で休むことにした。
神社の壁に背を預け、少し体を休める。
「大丈夫ですか、真耶さん」
振り袖は歩くのに結構疲れると聞く。真耶さんが疲れていないかと心配になったからこそ聞いた。
「私は大丈夫ですよ。それよりも旦那様は大丈夫ですか。少し顔色が悪くなっているような気がしますよ」
寧ろ心配されてしまった。
そんなことはないと言いたい所だが、まだ毒が抜けきっていないために実は少し疲労していた。
それを見抜かれてしまったことを少し恥じつつも、平気だと答える。
「大丈夫ですよ。俺は疲れてませんから」
「……そうですか。それなら………やっぱり少し疲れちゃいましたから、少し休ませて貰っていいですか?」
「そ、そうですか。なら少し休みましょうか」
真耶さんは笑顔で俺にそう言う。
それが俺を気遣ってのことだと分かり、申し訳無い気持ちになった。
「すみません、真耶さん」
「いいんですよ。もっと頼って甘えて下さい。私はあなたの奥さんなんですから…ね」
そう優しく諭すように言われると、俺は素直に正直に白状した。
何だか、包みこまれているようで、暖かい気持ちになる。
そのまま壁に寄り掛かるように座ると俺の体の前に真耶さんが来て、背を向けると足の間にすっぽりと座った。
「えへへ……少し疲れちゃいましたから、座らせてもらいます」
足の間に座る真耶さんはそうとろけるような笑顔でそう言うと、俺に背中を預けてきた。
それが嬉しくて、俺は真耶さんを抱きしめる。
「温かいです……旦那様……」
気持ちよさそうに目を細め、俺の腕に手を重ねる真耶さん。
俺はその手の感触を感じて抱きしめる腕をもっと密着させる。
柔らかい感触に胸がドキドキとし、化粧の香りが更に拍車をかけていく。
そのまましばらく真耶さんを抱きしめていると、真耶さんが俺の顔を上目使いで見上げてきた。
「旦那様…そろそろ時間ですよ」
「時間?」
不思議そうにそう聞くと、真耶さんは少しもぞもぞと動き、懐から携帯を取り出した。
携帯を見ると、その画面には俺の寝顔が映っていた。
「俺の寝顔?」
「あっ!? こっちじゃないです! 時間です、時間」
そう言われ時刻を見ると、十一時五十九分になったばかりであった。
「もうそろそろ新年ですよ」
「もうそんな時間でしたか。何だか今年はあっという間でしたね」
「そうでもなかったですよ。私は今年ほど忘れられない年はないと思います。だって……旦那様と出会って、結ばれた年ですから」
顔を真っ赤にしながらそう言う真耶さん。
俺はそんな真耶さんが愛おしくて仕方なかった。
「あ、もう間もなくですよ。カウントダウンしましょう」
「そうですね」
そう答えて携帯の画面を二人でくっつきながら見る。
「「10、9、8、7、6、5、4、3…2…1……ゼロ」」
その瞬間、神社から新年の歓声が上がった。
どこかで鐘が鳴るのを聞きながら、俺は真耶さんを見つめる。
「新年、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます、旦那様」
そしてお互いに新年の挨拶をする。
「今年もよろしくおねがいします」
そう決まり文句を言うと、真耶さんは少し首を振った。
「今年も…じゃないですよ………ずっとです」
「そうでした。これからも……ずっとお願いします、真耶さん」
「はい!! ずっと一緒にいましょうね、私の旦那様!」
そう笑顔で真耶さんは言うと、上目使いに此方を見つめ何かを催促するような視線を向ける。
それが何を求めているのか……それは既に分かっている。
俺はそのまま真耶さんの目を見つめながら、その可愛らしく美味しそうな唇にキスをした。
俺の唇を真耶さんは幸せそうな笑顔で受け入れた。
「「ん……ふぅ……んちゅ……んふ……」」
そうしてしばらくキスをした後に、お互いに唇を離すと、真ん中につぅっと銀の橋が架かっていた。それを見てお互いに赤面しつつ、笑い合う。
「新年早々神様がいるところで罰当たりですね」
「新年くらい神様だって見逃してくれますよ。だってめでたいことですから」
笑顔でそう結論付けると、そのまま立ち上がり俺達は手を繋ぎ、おみくじをやりに行くことにした。今年の運勢を占いたくなったからであり、出来れば大吉が当たって貰いたいところである。
そしておみくじ売り場に向かっている最中に、見知った赤い髪の少女を見かけた。
「あれ? もしかして蘭じゃないのか」
俺の声が聞こえたらしく、赤い髪の少女が此方に振り向くと、やはり蘭であった。
「いっ、一夏さん!?」
蘭は俺の姿を見て、驚きの声を上げる。
それを聞いて、蘭の周りにいた女の子達も何事かと騒ぎ始めた。
「どうしたの、会長?」
「え、あの格好いい人誰? 会長の知り合い?」
「どこかで見たことあるような……」
周りにいるのは蘭の学校の友達なのだろう。
さっきから蘭に俺のことを聞きつつ、視線を此方に向けていた。
そして全員が俺のことに気が付いた。
「「「あっ、もしかして織斑 一夏!?」」」
そして大層驚く。
「会長ってあの『織斑 一夏』の知り合いなの! いいなぁ~」
「うわぁ~、生で見ちゃった! こうしてみると、テレビよりも格好いい~」
「会長、何で会長と知り合いなわけ!」
矢次に質問される蘭は、やっと意識を現実に戻して周りに説明し始めた。
それに乗じて、軽く俺も自己紹介をする。
「初めまして、織斑 一夏です。蘭は俺の中学の友達の妹なんだ。だからそれで知り合ってね」
そう説明すると、蘭は皆から羨望の眼差しを向けられていた。
それに苦笑する蘭。
すると一人が軽く手を上げた。
「すみません、織斑さん。その…お隣にいるその綺麗な方は誰ですか?」
そう言って真耶さんに視線を向けると、皆興味津々に真耶さんの方を見る。
真耶さんはその視線に恥じらいつつも、自己紹介をした。
「私は、山田 真耶っていいます。皆さん、よろしくお願いします」
少し赤くなりながら自己紹介をする真耶さんも可愛い。
そう思いながら見ていると、更に質問が上がった。
「お二人ってどんな関係なんですか~。何かとっても良い雰囲気なんですけど」
そう質問してきた女の子に向かって、真耶さんが幸せそうな笑顔で答えた。
「はい。私達は……恋人同士です。それに…将来を誓い合ってます」
そう言って左手の指輪を見せるように翳すと、女の子達から黄色い声が上がっていく。
そしてそれを見た蘭は……
「前より更に親密になってる!! うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああんんんんんん!!」
と泣き出しながら駆け出して行ってしまった。
それを見て固まる俺達。
「と、取りあえず…私達は会長のことを追いかけますね。お二人はこの後も楽しんで下さい! それでは」
と一人が言うと、皆蘭を追っかけに行った。
「ど、どうしましょうか」
「そ、そうですね……あの子達もああ言っていることですし……おみくじを引きに行きましょう」
「そ、そうですね」
そう言って、俺達はおみくじを引きに行った。