振り袖姿の真耶さんは本当に綺麗で目が奪われてしまう。
「その振り袖、とても似合ってます」
「ありがとうございます! 旦那様にそう言ってもらえるのが、一番嬉しいです」
振り袖の感想を言うと、真耶さんは花が咲いたかのような笑顔を此方に向けてくれた。
それがまた可愛い。そのまま抱きしめたくなり、手が伸びていく。
真耶さんもそれがわかり、俺の方に近付き……
「あぁ~、二人とも……イチャつくのはいいが、流石に玄関の前でされては外に出れん」
「「あっ!?」」
千冬姉に言われ、急いで玄関の横の壁に移動する俺と真耶さん。
お互いに顔が真っ赤になっていた。
流石に少し恥ずかしかった。
そう呆れ返りながら言う千冬姉の後ろには、既に出かけられるように暖かい恰好をしたマドカが立っていた。
「そこで固まってないで二人ともさっさと出かけてこい」
「え? 千冬姉は?」
「私はこいつと別の神社に行ってくる。お前は真耶を連れて近所の神社にでも行ってこい」
千冬姉はそう言ってきたが、何故一緒ではないんだ?
そう疑問に感じたところで、真耶さんが顔を真っ赤にしていた。
それで察しがつき、俺も赤面しながら頷いた。
「そ、それじゃあ……初詣に行ってくる」
「行って来ます」
「ああ、行ってこい」
(お前等と一緒だと気まずくて仕方ないからな………マドカの教育上あまりよろしくないしな)
そう千冬姉が思いながら、俺達にそう言ったことを俺達は知らなかった。
そうして俺と真耶さんは初詣に行くことにした。
向かった神社はこの辺りでも有名な『篠ノ之神社』。夏祭りの時も行ったので、特に迷うこともなくすんなりと行けた。夏に来たときには真耶さんがナンパされないかとヒヤヒヤしたが、今回はそんなことはない。何せ……
「真耶さん、もうちょっとくっついて下さい。寒いですから」
「はい、旦那様! ふふふ、あったかいですね~」
俺は真耶さんの手を取ると、腕を絡ませて体をくっつけるようにしながら歩いて行く。
どこからどう見ても立派な恋人にしか見えないだろう。恥ずかしくないのかと言われれば結構恥ずかしいが、指輪も渡した相手に変な虫が寄ってこないようにするためなら、この程度何でもない。寧ろ……真耶さんが幸せそうな笑顔を向けてくれるので嬉しい。
真耶さんは俺の言ったことを聞いて、体を預けるようにくっついてきた。右腕にかかる暖かな重みに幸せを感じてしまう。
そのまま体をくっつけるようにして腕を繋いで歩いて行くと、さっそく神社の鳥居に着いた。
既に盛況で参道が人で込んでいる。それを見て、俺は真耶さんを抱きしめるように繋いだ手に優しく力を込める。
「はぐれないようにしっかり繋いでますから」
そう言うと、真耶さんは嬉しそうに笑顔で俺にくっつく。
「はい! 絶対に離さないですから」
その答えが嬉しくて、俺も笑顔で真耶さんにくっついた。
人前でなければ絶対にキスしていたくらいである。最近、ことある事に真耶さんが好きな気持ちが溢れてしかたないのは、きっと毒のせいではないと思う。
くっついたまま石段を登っていく。
よく見ると恋人同士の人も多いのだが、さっきからそういう人達からも多く注目されていた。
特に男性が真耶さんのこと見てはポー、として恋人に怒られているのがかなり見えた。
その視線に若干苛つきつつも、この可愛い人が自分のお嫁さんなのだと自慢したくもなってしまうのは、単なる色ボケなのだろうか。真耶さんの方も同じだったらしく、無意識に互いにもっとくっついてしまう。もはや抱きしめ合っているのと変わらなくなっていた。真耶さんはそんな俺の顔を見て、とても嬉しそうに頭を腕にもたれてきた。コテン、と乗っかる頭の重みが気持ちよい。
そうして石段を登りきったところで、声をかけられた。
「あれ、もしかして一夏じゃねぇか」
「え! マジかよ!?」
声の方を向くと、そこには弾ともう一人男がいた。
俺は真耶さんを連れてそちらの方へと歩く。
「弾か、久しぶりだな。元気だったか」
「ああ、元気だよ。まったく、相変わらずだなお前は」
弾は前と変わらず元気なようだ。
「久しぶりだな、一夏! 二年ぶりじゃねぇの!? まさかあの一夏がこうも有名になるなんて思ってなかったよ」
「そっちも元気そうで何よりだ」
俺はもう一人とも話をする。
こいつとは、中学のとき以来会ってないだけに、懐かしい。
そう楽しそうに話していたところ、少し不安そうにギュッと腕に抱きつきながら真耶さんが俺に聞く。
「あ、あの…一夏君。この人は?」
俺は不安を感じさせないように腕を包み込むように握りながら答えた。
「ああ、こいつは俺の中学のときの友人です」
「あ、どうも。こいつと同じ中学だった御手洗 和馬(みたらい かずま)です。 おい、一夏! 誰だよ、この可愛い美人さんは」
和馬は俺にそう言った途端に弾が止めに入った。
「止せ、和馬!! その人は………一夏の恋人だ」
そう言われた和馬は驚愕に顔を固めた。
「お…おい……それ、マジかよ……」
「ああ、マジもマジ、大マジだ! 前に連絡しただろ」
「冗談かと思ってた!? だってあの一夏だぜ! そんな冗談ならエイプリルフールにも言えそうな、『あの一夏』だぜ。嘘だと思うだろ、普通」
捲し立てるように叫ぶ和馬を弾が抑える。
「そう思うだろ! だけどな……これは事実なんだよ! 現にもう夏休みに本人の口から聞かされたからな」
「マジでかよ! あの一夏がな~~~……驚き過ぎてどう突っ込めばいいのか分からなくなりそうだ」
そう言っている和馬に俺はどう答えればいいんだろうか。
そう悩んでいたところ、真耶さんが前に出て和馬に自己紹介を始めた。
「ど、どうも。いつも一夏君がお世話になってます。一夏君の『妻っ』…恋人の山田 真耶です。よろしくお願いします」
しっとりと自己紹介をして丁寧に頭を下げる真耶さん。
それを見た二人はポー、と見とれていた。
何だか面白くないので顔面を掴み、指に力を込める。
「「ぎゃああああああああああああああああああ、めり込む!? 指が顔にめり込む!! やめろ、一夏ぁあああああああああ!! それ以上やられたら、俺達の顔が破裂したザクロみたいになっちゃう!!」」
大して力も入れていないのに大げさな。
そう思いながらも力を緩めて放すと、二人は地面に倒れこんでいた。息を切らせて疲労していたようだが、命に別状はないだろう。一々反応が大きすぎなのだ。
俺は二人を見ながらそう呆れ返る。
そんな俺を見て、真耶さんはクスッと笑う。
「大丈夫ですよ。私はあなたしか見てませんから。ね、私の旦那様…」
そう俺にしか聞こえないように耳元で囁かれ、軽く抱きしめられた。
それが何だか恥ずかしくて赤面してしまう。
「すみません……見苦しいところをお見せしてしまって」
「いいんですよ。私は…そういう旦那様も大好きですから」
そう言って俺に笑顔を向ける真耶さん。
(あぁ~!! もう、本当に可愛すぎなんですから!!)
少し我慢が出来なくて、そのまま軽く抱きしめて頬にキスをしてしまう。
「真耶さん……あ、あまりそう言うことを言わないで下さい。その……可愛すぎて我慢が効き辛いですから」
頬にキスをされたことに少し驚きつつも、真耶さんはとろけるような笑顔で答える。
「だったら……もっと言っちゃいます。だって……旦那様にはもっと愛して貰いたいですから………キャ」
自分で言って恥じらい真っ赤になる真耶さん。
そんな真耶さんも可愛いくて仕方ない。
そのまま二人で見つめ合ってしまう。
「………もういいかな、二人とも……」
「こ、これがリア充というものか………目が、目がぁあああああああああああああああああああ!?」
そのままキスしそうになったところで、復活した弾達に声をかけられてはっとする。
見られていた恥ずかしさから急いで離れるが、腕は繋いだままである。
「す、すまん」
何故か謝らなければいけない気がして謝る。
すると弾は何かを悟ったかのような顔で目を押さえ悶え苦しんでいる和馬を掴む。
「いいってことだ……もう諦めてる。いくぞ、和馬。俺達の……戦いはこれからだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
弾はそう叫ぶとともに、和馬を引きずりながら石段を凄い勢いで駆け下りていった。
それに唖然としてしまう俺と真耶さん。
「一体、どうしたんでしょうか?」
「さ、さぁ?」
お互いに何故弾達がああなったのか、よく分からなかった。
「ま、まぁ、気にしても仕方ないですよ。それじゃあ行きましょうか、初詣のお祈りに」
「はい! 旦那様」
そう行って初詣を仕切り直す俺。
真耶さんはそんな俺に甘えるように腕に密着してきた。それに赤面しつつも俺も嬉しくて手を握り返しながら賽銭をしに一緒に向かった。