とても幸せなクリスマスを真耶さんと一緒に過ごしてからあっという間に日々が過ぎていった。
毎日が幸せ過ぎて仕方ない。朝起きると、目の前で真耶さんが可愛らしい寝顔を俺に向けてくれる。
その可愛らしい寝顔を眺めながら髪を優しく撫でたりすると、真耶さんが眠そうに起き始める。
その少し眠そうな顔もまた可愛くて、俺はそれを見る度に頬が緩んでしまうのだった。
たまに逆もあり、俺は真耶さんのキスで起こされることもあった。そうされる度にドキドキとしながら起きるが、その分幸せも一杯で嬉しい。恥じらいながらも笑顔を向けてくれる真耶さんが愛おしくて、ついつい抱きしめてしまったりもした。それに驚きつつも喜んで受け入れてくれる真耶さんが好きで仕方なかった。
朝から夜眠るまで、真耶さんの仕事がある時以外はずっと一緒にいた。
寝たきりに近いことが申し訳無く感じるが、まるで結婚生活のようで俺はそう感じる度にドキドキと胸が高鳴った。真耶さんも同じらしく、そう感じている時の俺の顔を見ては顔を真っ赤にしてもじもじとしていた。だが、その顔はとても幸せそうだった。
それを見ては俺も幸せになり、それを少しでも伝えたくなって抱きしめキスをすると、真耶さんは顔をとろけさせながらもキスを返してくれる。
とても幸せ過ぎて……正直怖くなったくらいである。その前の一週間が殺伐としただけに、尚更そう感じた。
そして今日は三十一日………つまりは大晦日である。
この数日間に、歩き回れるくらいには回復した。勿論もう正宗も再生を終えている。
と言っても、まだ体の方は全然で激しい運動……とりわけ鍛錬はまだ出来そうにない。体が鈍って仕方ないが、鍛錬しようとすると体に残っている毒がすぐに回り始め、立っていられなくなるのだ。
そのためか、まだ真耶さんに付き添って貰っている。そのことを申し訳なく思いながらも、嬉しく感じてしまうのはどうなのだろうかと頭を傾げてしまう。
真耶さんにそのことを伝えると、真耶さんはどこか可笑しな感じに笑いながら言う。
「旦那様は生真面目ですね。そこがまた格好いいんですけど…別に素直に嬉しいでいいと思いますよ。その……私はそう想ってもらえるのは、凄く嬉しいですから」
そう言う真耶さんの顔はとても嬉しそうなので……その顔ももっと見たくなったので、それ以上は考えないようにした。
今日までにやることは多くあり、それなりに苦労した。
特に年賀状には苦労させられた。この近代文明の昨今、年賀状を書いている人はそこまで多くいないため、売っている店が多くなかった。そのため入手するのが困難で、只でさえこんな体なので遠出も出来ないのがさらに難易度を上げた。
それも真耶さんに手伝って貰い、何とか手に入れることが出来た。
本当に……真耶さんには感謝が絶えない。
今度は年賀状を大量に書かなければならない。今年は特に知り合った人が多いため、書く量も多い。俺は筆を持ってそれを書いていき、真耶さんはそんな俺を見て驚いていた。
「わぁ~…旦那様は達筆ですね~……渋くて格好いいです」
そう驚く真耶さんの顔も可愛かった。
指輪を渡して以来、俺の呼び名も変わっていた。二人だけのときだけ真耶さんは俺のことを『旦那様』と甘い声で呼ぶ。その意味が分かるだけに、少し恥ずかしいが凄く嬉しくもある。ただ心配することがあるとすれば、それが新学期に皆が教室にいるところで出なければ良いのだが……さすがにそれはちょっと早い気がする。
そんな訳で年賀状を書くのに追われたりもした。
そして……今俺は……
実家に帰っていた。
年末の大掃除をするために帰ってきたのだ。
俺の他には千冬姉とマドカも一緒である。そして……真耶さんも一緒に来ていた。
「すみません、真耶さん。こんなことを手伝わせてしまって」
「いいんですよ。だって……旦那様の家っていうことは………私の家っていうことでもありますから……」
恥じらいながらそう言う真耶さんに、俺はついつい赤面してしまう。
そんな俺達を千冬姉は呆れ返りながら見て、マドカは少し興味津々な感じに見ていた。
そして大掃除は始まった。
俺は皆に指示を出しながら掃除をしていく。
正宗には荒れていた庭の掃除を頼み、千冬姉には自室の片付けを命じ、マドカにはその手伝いをするように言った。俺は自室やリビングなどの掃除をし、真耶さんはそれを手伝ってくれた。
その際、マドカが半泣きで助けを求めてきた。何でも前に千冬姉の寮の部屋を掃除したときにかなり酷い目にあったようだ。それを真耶さんが優しくあやす姿はまさに母親そのもので、それを見ていると心が温かくなった。その光景を千冬姉に見られ冷やかされたが、その場で正座させ思いっきり説教すると、顔が真っ青になっていた。あんまり人をからかってはいけないし、そもそもちゃんと片付けていればマドカがこんな風に泣きつくわけがない。姉としてしっかりして貰いたいものである。
説教もほどほどにし、掃除を各人は始めて行く。
マドカが興味津々に家の物を弄っては壊したり、千冬姉が中途半端に片付けるのを叱ったりなど、問題が多く起こった。それに翻弄されながらも掃除を続けていく。その時に自室で立ちくらみを起こし、ベットに真耶さんを押し倒してしまったこと。そのままキスをしてしまい、何だか甘い雰囲気になってしまったところを二人に目撃され気まずくなったことなど……本当に大変だった。
しかし、それでも掃除はしなくてはならない。そのため、俺は咳払いで空気を無理矢理変えると掃除を再開した。
こうして恙無く? 大掃除は終わった。
夕方になり辺りは暗くなり始めていた。皆汚れたため、風呂を沸かして入って貰う。
風呂上がりの真耶さんを見て、その火照った肌にドキッとした。
その後は俺が全力で年越しそばを作り、皆の夕飯に出すと、
「これは凄く美味いな!? 兄さんは料理上手だな、凄いぞ!!」
「相変わらず美味いな。前より更に腕を上げたんじゃないか? もう高校生が作る料理のレベルを超えているぞ」
「そうですね~。一夏君のお料理は本当に美味しいですね。何だか少しへこみそうになっちゃいますよ」
と皆から賛辞を受けた。
「俺は真耶さんの作る料理の方が大好きですけどね」
素直にそう言うと、真耶さんは耳まで真っ赤になっていた。
「もう~~~……旦那様ったら……」
恥じらいながらもどこか嬉しそうに喜ぶ真耶さんは可愛かった。
「……あぁ~、その…そういうのは二人だけの時にしておけ。そばつゆを甘くされてはかなわん」
千冬姉がそう白々しくそう言うと、真耶さんは顔を更に真っ赤してうつむいてしまった。
そんな真耶さんを見て、マドカが不思議そうに「何で顔がそんなに赤くなるんだ?」と聞いてきた。
俺はそれを「ははは……」と苦笑することでしか返せなかった。
その後、真耶さんは一旦自分の家に帰った。
離れることが少し悲しかったが、流石にそれを言うのは恥ずかしかった。
それを察したのか、真耶さんは俺を抱きしめると、耳元で甘く囁くように言った。
「大丈夫ですよ。少し家に帰ってお父さん達に挨拶したら、また戻ってきますから」
そう言って俺の頬にキスをしてくれた。
何だか子供の様な扱いをされた気がして少しむっとなり、仕返しに唇にキスをした。
唐突にされたことに真耶さんは驚いたが、すぐに受け入れてくれた。唇を離すと、真耶さんはうっとりとしていた。
「それじゃあ、行って来ます…旦那様」
「ええ、行ってらっしゃい」
そう笑顔で見送った。
それを見られていたことも考えずに………
その後そのネタで千冬姉におちょくられ、マドカは若干興奮気味に凄いと驚いていた。そしてどんな感触だったかなど、根掘り葉掘り聞かれる。言う気はないし、マドカにはまだ早いので俺は何も答えなかった。
そして十一時頃に家の呼び鈴が鳴った。
俺はそれが誰なのかが分かっているので、さっそく出迎えに行った。
そして扉を開けると、そこには……
振り袖を着た真耶さんが立っていた。
「ただいま、旦那様」
「おかえり、真耶さん」
笑顔でそう言う真耶さんに、俺は笑顔で答える。
何だか、本当に家族のような感じがして……幸せだ。
その後は真耶さんを家に入って貰った。
こうして、俺達の年越しは始まった。
次回は激甘予定になります。
それと、正月には湊家にも出向く予定なので、只では済まないかもしれませんね~