食堂で昼食を取った後に、俺は真耶さんに支えて貰いながら他の所にも報告に向かった。
学園長に報告に行ったり、生徒会の人達に報告に行ったりと、その後も中々に忙しい。
生徒会室に行った時は、会長に真耶さんとの仲を大いに冷やかされ、俺が弱っていることを良いことに地味に背中を叩いたりなどして遊んでいた。
治った暁には絶対にお仕置きしようと心に誓った。
最後に千冬姉に報告しに向かった。
今朝マドカに見られていたことを考えれば既に知ってはいるだろう。なので取りあえずは問題ないと判断し、最後に回した。
千冬姉は寮の自室にいるらしく、真耶さんに支えて貰いながら部屋へと向かう。
「後は千冬姉に報告を入れればこれで終わりです」
「そうですか。これでやっと休めますね。あ……私じゃなくて一夏君のことですからね」
最後の予定を伝えると、真耶さんは笑顔で返してくれた。
その気遣いが実に嬉しい。
「すみません、こんなことに付き合わせてしまって」
「そんなことありませんよ! だ、旦那様を支えるのは奥さんの勤めですから。一夏君のためなら、私はどんなことだって……」
顔を恥じらいで真っ赤にしながらそう言う真耶さん。
その顔がまた可愛らしいものだから、少し力を込めて体を抱きしめる。
「い、一夏君!?」
「すみません、こんな不甲斐ない旦那で。でも……こう心配してもらえていることを幸せに感じてしまうのは、夫としてどうなんでしょうね?」
笑いかけながらそう真耶さんに言うと、真耶さんの顔が一気に真っ赤になった。
「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~………」
そのまま何も言わずに真っ赤になったままになってしまう。
そんな顔も可愛いものだから、俺はしばしその顔を見つめていた。
(もう~~~~~~~~っ……私の旦那様はそんな…嬉しくなっちゃうことばかり言うんですから~~~~~~! で、でも、そんなところも……大好き!!)
真耶さんがしばらく真っ赤になった後、また一緒に歩き始めた。
そしてそのまま二人で他愛ない話をしながら歩いていると、あっという間に千冬姉の部屋に着いた。
「そう言えば千冬姉の部屋って、ちゃんと片付いているんですか?」
扉をノックする前にそんな疑問が頭を過ぎる。
我が姉、千冬姉は家事炊事が一切駄目だ。なので、当然実家の部屋も凄いことになっていた。(この街に帰ってきたときの家の状態を見れば嫌でも分かるだろう)
当然そんな姉の事、寮の自室も同じ事になっていると予想される。
身内としてはそんな所を恋人には見られたくない。
「そう言えば、一応は片付けていたみたいですよ。何かマドカさんが手伝っていたみたいです」
俺の心配を察してか、真耶さんはそう答えてくれた。
それを聞いて内心少しだけ安心した。もし散らかっているようなら、片付けなければならない。だが、今の体の状態ではロクに出来そうにないため、そのまま行くと真耶さんに手伝って貰わなくてはならなくなる。この人は喜んで手伝ってくれるだろうが、流石に身内の恥の後始末を手伝わせたくはない。
「そうですか……それはよかった。ちゃんと出来ているようで何よりです」
「ふふふ、一夏君、まるで千冬さんの親みたいですよ」
そんな俺を真耶さんは少し可笑しそうに笑う。
その視線がこそばゆい。
「そんなことはないですよ。あまり家族の恥ずかしいところを見られたくないだけです……あ、新しく家族になる人には尚更……」
「っ~~~~!? もう~、旦那様は……」
俺の言葉に耳まで真っ赤になる真耶さん。
間違ってはいないが、どうにもさっきから恥ずかしいことばかり口にしてしまう。
それを恥じ入るつもりはないとは言え、それはそれでどうなのだろうか?
「そ、それじゃ、行きましょうか」
「は、はい……」
お互いに真っ赤になりながら扉にノックをした。
すると少しして扉が開く。
「おお、兄さんじゃないか。何か用か?」
開いた扉から出てきたのはマドカだった。朝と同じラフな服装で俺達を出迎えてくれた。
「ああ、報告をしに来た。それと……今朝はすまん」
今朝見られた事に関して謝罪した。
流石にあれを見られたのでは謝らなければいけない気がする。何かいけないわけではないはずなのだが……そんな気がするのだ。
「あ、朝のことか! べ、別に謝られるようなことじゃないし、気にしていないぞ。恋人同士ならあれくらい普通なんだろうし……」
そうマドカは言うが、顔を真っ赤にして指を胸の前でもじもじと動かしているのでは説得力も何もない。それを見て非常に気まずく感じた。
「何かあったんですか?」
可愛らしく首を傾げる真耶さん。
可愛くて見ていたいが、そういうわけにも行かない。そして真実を告げたら……きっとポストよりも真っ赤になるのだろう。そんな顔も見てみたくなるが、今はそういう場合ではない。
そのためか、実に気まずくて仕方ない。
そんな様子を感じてか、奥から千冬姉が出てきた。
「そんなところで何を固まっているんだ。早く入ってこい」
そう言いながら出てきた千冬姉はジャージを着込んでいて、如何にもくつろいでいた様子が窺える。
「そ、そうだな」
「おお、そうだな。では部屋に入れ、兄さん」
千冬姉にそう言われ、俺達は千冬姉の部屋に入ることにした。
その後は任務について報告を千冬姉にした。
その話を聞いて、千冬姉は俺に「良くやった」と短いながらに労ってくれた。
その言葉にどれだけの思いが込められているのか……それがひしひしと伝わり、俺はその思いに感謝した。
その後はしばらく談笑したのだが……
「ところで真耶……」
「どうしたんですか、千冬さん?」
千冬姉は真耶さんの左手を見ながらそう声をかける。
「その『薬指に付けている指輪』はもしかして……」
聞かれた途端に真っ赤になる真耶さん。
俺の顔も赤くなった。
「そ、その……ご想像通りです……」
恥じらい真っ赤になりつつも幸せそうに真耶さんは言う。
それを見て千冬姉は俺の方に目を向ける。その目はジト目であり、見られていてどこか気まずくなる。
「一夏……お前、これは……」
「……考えている通りだ。結婚はまだ出来ないから、婚約だが…」
正直にそう答えた。
ここで引くことは、この指輪を受け取ってくれた真耶さんに失礼だ。恥じることは何もない。
「恥じ入るようなことはしていない」
そう自信を持って千冬姉に言う。
それを見て千冬姉はやれやれ、と呆れ返っていた。
「別に責めたりはしないさ。寧ろ関心しているだけだ。『あの唐変木』だったお前が、ここまで人を好きになるとは思わなかったからな。寧ろここまで成長したお前のことを誇らしく感じるよ……真耶のこと、幸せにしてやれよ。これは真耶の先輩としての願いだ。真耶……一夏のことをよろしく頼む。これはこいつの姉としての願いだ。だから二人とも……これからも仲良くしろよ」
「「はい」」
千冬姉にそう言われ、俺と真耶さんは同時に頷いた。
それを見て満足する千冬姉。マドカは何の話かイマイチ分からないらしく、頭を傾げていた。
こうして俺達は千冬姉に報告を終えて自室へと戻って行った。
一夏達が去った後、千冬はマドカを膝に乗せ髪を梳いていた。
その顔はどこか満足そうな、少し悲しいような、そんな顔をしていた。
その表情を見ながらマドカが問う。
「どうしたんだ、姉さん? 何か微妙な表情をしているみたいだが」
マドカの問いに、千冬は少し笑いながら答える。
「いや、何。私の弟は知らないうちに一気に大人になったな、と思ってな。成長したことを嬉しく思う半分、少し寂しくもあってな」
そう言う千冬の表情を察してか、マドカは千冬にギュ、と抱きついた。
「別に兄さんがいなくなるわけではないだろう。それに、私だっているんだから寂しくはないだろ」
「……それもそうだな。今の私には、こんな手間がかかる妹がいるのだから、そんな気持ちはまだ味わえそうにないな」
そう言いながらマドカの頭を撫でる千冬の顔は、どこか穏やかな表情をしていた。
千冬姉に報告をした後に、俺達はまた自室に戻った。
そのままベットに横になると、疲れもあってすぐに眠ってしまった。
そんな俺を真耶さんは穏やかな笑みで見守ってくれていた。
それが嬉しくて、そのまま幸せな気分で眠りについた。
そしてしばらくしてから目が覚めた。
辺りは真っ暗になっており、見渡すと真耶さんがいないことに気付いた。
「あれ?……真耶さん?」
そう声をかけるが、反応がない。その事を不安に思いベットから起き上がると、やはりと言うべきかふらついた。そのまま壁にもたれ掛かって扉まで移動していくと、扉が開いた。
「起きてますか~~、一夏君。まだ起きていないなら、寝顔にキスしちゃいま……て何してるんですか!? まだ動いちゃ駄目ですよ」
開いた扉の前には真耶さんがいた。
真耶さんは壁にもたれ掛かっている俺を見て、急いで俺を抱きしめ支える。
その柔らかく暖かい感触に心から安心感を感じた。
「すみません……真耶さんの姿が見えなくて、少し不安になってしまって……」
普段なら恥ずかしくて絶対に言わないような弱音が口からこぼれてしまう。
そんな様子の俺を見て、真耶さんは慈愛に満ちた顔で俺を柔らかくギュッ、と抱きしめてくれた。
「……大丈夫ですよ……私は一夏君とずっと一緒ですから……」
そのまま真耶さんはしばらく俺を抱きしめる。
その柔らかく暖かな温もりに、俺の心は満たされ、さっきまであった不安がすべて消え去った。
しばらくした後に、真耶さんは俺を離してくれた。
そうしてやっと気がつく。
「あれ? 真耶さん、その恰好って……」
「あ、これですか!? ど、どうですか…似合ってますか……」
顔を真っ赤にしながらもじもじとしている真耶さんの恰好は………
ミニスカサンタであった。
赤と白のコントラスト。
三角形の赤い帽子に下着が見えそうなほど短いスカート……正直少し見えていた。ちなみに色は薄緑だった。上の露出も凄く、胸の谷間がかなり強調されていた。
その恰好で抱きしめられていたことを自覚すると、途端に顔から火が出るくらい恥ずかしくなった。
だが……正直に言うと似合い過ぎていた。
「そ、その……とても似合ってます……」
赤面しながらそう言うと、真耶さんは花が咲いたかのような笑顔になる。
「そうですか! よかった~」
「でも…少しスカートとか、色々と短くありませんか…」
そう聞いた途端に真っ赤に恥じらう真耶さん。自覚はあったらしい。
「そ、それは……一夏君のためです!! こんな恰好、旦那様にしか見せないんですからね」
恥じらい真っ赤になりながらそう言う真耶さんは艶っぽく、それでいて可愛かった。
「あ、ありがとうございます……」
俺は素直にそう感謝を述べるしかなかった。
そのままベットに連れて行かれ、寝かされる。
「本当はもっとクリスマスの御馳走とかを用意したかったんですが、一夏君が食べられそうになかったので……そのかわり、ちゃんとプレゼントは用意してきましたよ」
真耶さんは横になっている俺にそう胸を張りながら活き活きと話す。
その際、その大きな胸も主張されるようになるものだから、目線に困った。
目をそらすと怒られてしまい、事情を話すと真っ赤になりつつも真耶さんは言う。
「だ、旦那様は見てもいいんです!! 寧ろ……もっと見て下さい」
そう言ってその大きな胸に俺の顔を抱きかかえられたりした。
柔らかな感触が顔一杯に触れ、意識も吹っ飛びかけた。
その後顔を真っ赤にしたまま大きな箱を取り出すと、俺にさっそく渡した。
「これがクリスマスのプレゼントです」
笑顔で俺に渡す真耶さん。
一体どんなものが入っているのかと期待に胸を高鳴らせながら開けてみると、そこには……
セーターが入っていた。
それも売っている物ではない。明らかに手編みされた物である。
「一夏君にあげようと思って……三ヶ月もかかっちゃいました」
えへへ、と笑う真耶さんが愛おしくて、そのまま抱きしめる。
真耶さんはそのまま幸せそうに受け入れてくれた。
「こんなに手が込んだ物をもらえるなんて感激ですよ。大切に使わせてもらいますね」
「はい、ありがとうございます。出来れば今すぐに着てくれませんか」
そう促され、さっそく着ると……
「あれ? 明らかにサイズが……」
サイズが合っていなかった。
明らかに大きくぶかぶかで合っていない。採寸のミスだろうか?
「じ、実はもう一つプレゼントがあるんです。受け取ってもらえませんか」
俺がサイズに関して不思議に思っていると、真耶さんからもう一つあることを告げられた。
「ええ、有り難く頂きます。何せ真耶さんが俺のために用意してくれたものですから」
「じゃ、じゃあ……少し目を瞑ってもらえませんか」
言われた通りに目を瞑ると、ガサゴソと音がし始めた。
そして少し体が引っ張られる感触がした。
「も、もういいですよ」
そう言われ目を開けると……
真耶さんが目の前にいた。息が掛かるくらい間近に顔があり、体が俺に密着して柔らかい感触を伝える。
真耶さんは俺が着ているセーターの中に入ってきたのだ。まるで二人羽織の前版のように。
間近にある顔は上気して真っ赤になっており、目が潤んでいる。
「わ、私がクリスマスのもう一つのプレゼントです。もらってくれますか」
恥じらいながらも上目使いにそう聞く真耶さん。
そのあまりの可愛らしさから目が離せず、俺は真耶さんの目を見つめて答えた。
「ええ、勿論。『一生大切にしますね』」
「はい!」
そのままセーターに包まれたまま、二人でキスをした。
幸せ過ぎて仕方ないクリスマスを、俺は初めて過ごした。
今回のネタ、分かる人はいるのでしょうかね~