少し前が戦闘ばっかりだっただけに、こういうのが染みますね~。
そのまま真耶さんにしばらく看病してもらい(殆どイチャついていたような気が・・・・・・)気がつけば昼時となっていた。
この体では食欲など中々湧くものではないが、熱量を得なければ治る物も治らない。
なので少しでも無理して食糧を摂取する必要があった。
「あ、もうこんな時間。一夏君、お昼にしますか?」
笑顔で俺にそう聞く真耶さん。
服装は朝の姿ではなく、いつもと同じ服装になっていた。マドカが来た後にしばらくして着替えたのだ。どうやら服は既に持ってきていたらしく、それをシャワー室で着替えたのだ。
その際、また衣擦れの音が聞こえて俺はまた酷く心臓がドキドキした。
「そうですね。少しでも食べた方が良いですし、お昼にしましょうか」
「はい! でしたら、美味しくて消化に良さそうなものを作りますね」
溢れんばかりの笑顔でそう言う真耶さん。
その気持ちは凄く嬉しくて、頬が緩んでしまう。
だが、今回はそれに応じるわけにはいかない。
「す、すみません・・・今日は食堂で食べようと思っているので・・・・・・」
「そんな・・・・・・私が作ったのはやっぱり美味しくないってことですか・・・・・・」
途端に泣きそうな顔になる真耶さん。
別にそう言う意味で言った訳ではないので、そんな悲しそうな顔をされるときつい。
「そういうわけではないですよ。まだ俺が帰ってきた事に関して報告していなかったので、それを色々な人に報告しに行こうかと思いまして。なので食堂にも挨拶に行きたくて」
まぁ、千冬姉とマドカにはさっきので伝わっているだろうから、一番最後に行っても問題はない。
だが、他の人達にはちゃんと報告しなければならない。丁度昼時ということもあって、食堂の人達に挨拶に行くのにも丁度良いと思い、こう言ったのだ。
決して、真耶さんの料理が美味しくないわけではない! 絶対にだ!! 寧ろ挨拶に行かなければ絶対に真耶さんの料理を食べたいと思っている。
「そういうことですか・・・・・・よかった~」
明らかなまでに安心してホッとする真耶さん。
「俺は自分が全力を込めて作った料理よりも、真耶さんが作ってくれる料理の方がずっと美味しいです。俺は真耶さんの料理が一番好きですよ」
「っ~~~~~~~、もう・・・・・・旦那様ったら」
俺にそう言われ、真っ赤に恥じらう真耶さん。
しかし、その顔はとても嬉しそうだった。
その嬉しそうな笑顔を見ながら起き上がる。
「だから、一緒に食堂に行きませんか」
「そうですね。それじゃあ、行きましょうか」
真耶さんを食堂に誘ってさっそく歩こうとしたら・・・・・・
「あれ?」
そのまま一歩を踏みしめた途端に視界が歪み始め、真っ直ぐに歩けない。
少し気持ち悪くなってきて、足下がしっかりとしない。そのまま壁にもたれ掛かってしまう。
「大丈夫ですか!? 一夏君!」
壁に体を預ける俺を心配する真耶さん。
昨晩でかなり精神が回復したが、肉体はまったく治っていないようだ。毒が全然抜けていない。
「すみません・・・・・・まだ体の方が治っていないようで」
心配させないように笑顔を浮かべて答えると、真耶さんは俺の顔を見て少し安心したようだ。
よくよく考えれば正宗から一ヶ月くらいは抜けないと言われた猛毒だ。そう簡単には抜けないのは目に見えていたはずだ。真耶さんの御蔭でかなり精神が癒されたこともあって忘れてた。
「あまり心配をかけないで下さい。心配のし過ぎでどうにかなっちゃいますよ」
「本当にすみません。まさかここまで治っていなかったとは思わなくて」
「本当ならベットで寝てもらいたいところですけど、一夏君はそれでも挨拶に行こうとするんですから・・・・・・」
「面目ないです」
俺がどう動くのかを理解して貰っていることが、内心嬉しい。
だが、あまり心配を掛けたくないのも事実であり、そうとしか答えられない。
真耶さんはそんな俺を見て、仕方ないなぁ~、といった感じで俺の体を支えてくれた。
「私が支えますから、行きましょうか。さ、さっきも言いましたけど・・・・・・旦那様を支えるのは、奥さんの勤めですから」
顔を真っ赤にし、恥じらいながらそう言う真耶さんの顔は可愛い。
俺はそれが幸せで嬉しく感じた。
「ありがとうございます・・・・・・こんなに可愛くて、一生懸命尽くしてくれる奥さんがいる俺は本当に幸せ者ですよ。幸せ過ぎて仕方ないです」
お礼とばかりに頬に軽いキスをすると、真耶さんの顔が一気に真っ赤になった。
「は、はぅ~~~~~~~~~~」
そのまま凄く恥ずかしがる真耶さんが、また可愛くて・・・・・・愛おしい。
俺はそれを表すかのように真耶さんに体を預けると、真耶さんもとても幸せそうに笑顔を浮かべながら俺の体を支えてくれた。
食堂に入った途端に周りから注目された。
真耶さんが俺を支えて入って来たこともそうだが、一週間以上休んでいた俺が入って来た事がもっともな理由である。
そのまま食券を買い(殆ど真耶さんにやって貰った上に、メニューもお任せである)さっそく厨房に取りに向かった。その際に食堂の従業員の方々に挨拶をするのが、今回の目的でもある。何かにつけてお世話になっている食堂の方々とは、結構な顔見知りなのでちゃんと挨拶をせねばならないと思っている。
「あらあら、織斑君、久しぶりねぇ~。ここ最近来てなかったから心配だったのよ」
従業員のおばさんが俺に笑顔で話しかける。
その言葉を受けて俺は頭を下げて礼を言う。
「すみません、政府の命令で少し学園を離れていたので。今日はちゃんと帰って来れたのでその報告と昼食を取りに」
真耶さんに支えられながらそう言うと、おばさんは「いつも通り硬いわね~」と笑いながら応じてくれた。そのいつもと同じ心遣いが嬉しい。
そして俺を支える真耶さんと俺を見て・・・・・・
「あらあら、昨日は随分と張り切ったみたいね~。若いっていいわね~」
とニコニコとした笑顔でそう言った。
それがどういう意味なのか・・・・・・誰でも分かるだろう。
瞬間に顔が沸騰する俺と真耶さん。
「なっ、ち、ちが、違います!?」
真耶さんが凄く顔を真っ赤にしながら反論するが、まったくもって言えていない。
「・・・・・・・・・ご想像なさっているようなことはありませんよ。これは任務で負った負傷のため、体がうまく動かせないので支えてもらっているだけですよ・・・・・・」
真っ赤になった顔を誤魔化すように軽く咳払いして、そう答えた。
しかし、それでも意味はなかったのかもしれない。
「あらあら、まさに『愛』ね。いいわねぇ~」
またニコニコと笑っていた。
それでまた真っ赤になってしまう俺と真耶さん。
このやり取りはしばらく続いた。
その後料理を受け取って席に着くと、さっそく料理を食べ始めた。
真耶さんは俺の左隣に体を預けるようにくっついていた。恥ずかしがりながらも、何だか嬉しそうだ。
「そ、その~・・・真耶さん? みんなの視線が・・・・・・」
さっきから席に着いてからずっと周りから視線を感じる。
冬休みとは言え、まだ生徒は多く残っており、昼時なのだから食堂に生徒が集まるのは当然のことである。その生徒達の中に、いつもと違う物が入れば、それは注目されるだろう。
「わ、私は一夏君の『奥さん』なんですから・・・・・・それにこうしていた方が一夏君だって食べやすいですし」
上目使いでそう言う真耶さんは、とても可愛くて文句が言えなくなる。
ちなみに俺の料理は雑炊だった。真耶さんが従業員の人に頼んでくれたようだ。その心遣いがまた嬉しかった。それもあって、尚何も言えない。
真耶さんは自分の分に頼んでいた料理には一切手を付けず、俺の雑炊に匙を入れ一口分掬うと俺の口元に持って行く。
「ふぅー、ふぅー・・・はい、一夏君。あ~~ん」
赤くなりつつも、俺に匙を向けてくれる真耶さん。
人前で恥ずかしいがその分嬉しくもあり、俺も素直に応じる。
「あ~~~ん」
優しく口の中に匙が入れられ、雑炊の味が口の中に染み渡る。
中々に美味く、頬が緩む。真耶さんに食べさせてもらえることが、それ以上に美味しく感じさせた。
「どうですか、一夏君?」
「ええ、美味しいですよ。それに・・・・・・真耶さんが食べさせてくるだけで、それ以上に美味しく感じますから」
そう素直に(体が弱っているため、少し感情の制御が出来ていない)答えると、真耶さんはトマトみたいに真っ赤になった。
「ぅ~~~・・・は、恥ずかしいですよ~。でも・・・嬉しいです」
そのまま更にもう一口掬い、また息をかけて冷まし始める。
その様子がまた可愛くて、頬が更に緩む。
その昼食は、とても幸せな時間を過ごした気がした。
ちなみに・・・・・・
この二人が食堂に入った途端、珈琲の売り上げが激増した。
また・・・・・・従業員との会話を聞いていた生徒の殆どは、そのときに食べていた食事を吹き出したことは言うまでもない。