戦闘癖がついているせいで書きづらいです。
山田 真耶は千冬から一夏の話を聞いて以来、毎日放課後になると学園の入り口で一夏を待ち続けていた。その顔は期待など一切無く、ひたすらに恋人を心配する顔をしていた。
無理も無い話である。何せ本当に命がけの任務に行ったのだから、心配するなと言う方が無理だ。
作戦成功率は未知数、どうなるかわからない。そんな危険過ぎる任務に出向いた一夏のことが、真耶は心配で仕方なかった。もし『予想される中で最悪の事態』になったとき、きっと真耶は絶望のあまりにその場で自殺するかもしれない。それぐらい真耶にとって一夏は大切な存在だ。
その日、クリスマスイブも真耶は学園の入り口の前で一夏を待ち続けていた
空模様はとても曇っており、夜には雪が降るかもしれない。そうなれば、ホワイトクリスマスと喜べるかもしれないが、今の真耶はそんな風に浮かれる余裕など無かった。
端的に言えば『亡国機業殲滅作戦』は大成功だった。
世界に散らばる亡国機業のアジトや秘密基地などは、この作戦ですべて潰され、文字通り亡国機業は壊滅した。
世界各国が強力したことも大きかったが、やはりそれ以上に劔冑の強さが目立った。
施設一つ潰すのに今作戦ではIS四機を使い、2~3日を掛けてやっと陥落させることが出来たのに対し、伊達や真田はたった一騎。しかも長くて二時間、酷いと僅か30分で陥落させたのだ。
それも大技を使って施設ごと一撃で沈めたりしたのだから、それはもう目立つだろう。
これを見て世界各国は確信する。
ISよりも劔冑の方が戦力は上だと。
その作戦の影に一夏の戦いがあったことは、日本の一部以外誰も知らない。
あの死合いを終えた後は最悪の一言に尽きた。
いや、死合いは寧ろ最高だったと言えよう。文句の付けようもない。
では何が最悪なのか・・・・・・それは受けた毒のせいで身体の自由が利かず、しかも体調不良の極みになっていることだろう。
めまいに吐き気、悪寒にその他諸々・・・・・・
きっとこの世の病と呼べるものの症状をすべて掻き集めたらこんな感じなのだろう。
あまりの酷さに言葉一つ喋れない状態になった。正宗が言うには、一ヶ月は毒が抜けないらしい。どうやら猛毒らしく、普通の人間なら百回は死んでいる代物だそうだ。改めて生きていることが不思議でしかたない。
そんな猛毒に犯されたせいで、俺は正宗に引きずられながらIS学園へと帰ることになった。
島を出る前に、俺を迎えに来た政府の人にお願いして高田の墓をあの島に作ってもらった。
あれほどの高潔な武人を野ざらしにすることなど、俺には出来ない。
土葬で申し訳無く思うが、それでも墓標を刻ませてもらった。
『高潔なる武人 高田 勘兵 ここに眠る』
そう震える手で石に刻みつける。汚い字なのが申し訳無く思うが、それぐらいは勘弁してほしい。せめてこの地で安らかに眠ってもらいたいものだ。
そうして俺達は島を出た。
政府の人が病院に急いで搬送しようとしたが、それは何とか断った。
理由は単純、俺は今すぐにでも行かなければならない所があるのだから。
どちらにしろ劔冑の猛毒は病院で治療出来るものではないのだから、行っても無駄である。
その断りに政府の人は驚愕していたが、正宗の一喝で黙らされた。
正宗にその際感謝したが、それを言うほどの元気はなかった。
そのまま船に乗り(身体が極端に弱っているため、船酔いして吐きまくった)飛行機に乗り継いで(やはりと言うべきか、吐きまくった)そして空港からタクシーを使ってIS学園の前まで移動した。(そろそろいい加減慣れてきたので我慢した)
時間はもうそろそろ夜の六時に差し掛かり、辺りは真っ暗である。
そこから先は自分の足で移動しようとしたのだが、まだ身体が上手く動かないため歩けず、結局正宗の背に乗せられ引きずられて行った。
そして校門の前に知っている人を見つけた途端に、ホッとして笑顔になる。俺が今、一番会いたい人がそこにいた。
その人の前まで正宗に運んで貰う。その人は俺を見た途端に泣きそうになっていた。
何とか頭を上げてその人に言う。
「・・・・・・・・・ただいま・・・真耶さん・・・・・・」
そう言った途端に・・・・・・真耶さんは俺の身体を抱きしめた。すごい速さで、正直感知出来なかった。
「一夏君・・・・・・・・・一夏君っ!!」
とても心配していたのだろうか? 俺の名前を言いながらひたすらに抱きしめていた。その顔はかなり崩れていて、涙が溢れていた。それでも俺には美しく見えて、愛おしい。
その柔らかく暖かな体に抱きしめられ、やっと自分が帰るべき場所に帰ってきた気がした。
「どうしたんですか・・・真耶さん? ただ一週間公欠で休んでいただけですよ」
少しでも安心させようと、そう言った。
少なくても表向きの理由では政府の命を遂行するための公欠となっている。危ないことはしないことになっているのだが・・・・・・何故こんなに泣いているのだろうか?
「一夏君! 一夏君!!」
まったく泣き止まない真耶さん。
まぁ・・・・・・こんな状態で危なくないなんて絶対に言えないか。
でも、やっとこの暖かなところに帰ってきたと実感が湧き、それを嬉しく思う。
「・・・泣き止んで下さい、真耶さん。俺は無事ですから・・・ね」
優しくあやすようにそう言うが、それでも真耶さんは泣き止んでくれない。
「だってっ、だって・・・一夏君が戦いに行ったって聞いて! 死んでもおかしくないって・・・」
泣きじゃくりながらそう話す真耶さん。
それを聞いて俺は顔をしかめる。何故その話を知っているんだ?
「それ・・・・・・誰から聞きました・・・」
この話を知っているのは学園の一部のみ。当然真耶さんには言わないようにお願いしていたはずなのだが・・・・・・
「ち、千冬さんを問い詰めたら、話してくれました・・・・・・」
「はぁ・・・あの人は・・・」
そう聞いて少し呆れ返る俺。
だからこんなに心配していたのか。これが分かっていたから話すなと頼んでいたのに、あの人は・・・・・・はぁ、仕方ないか・・・。
「大丈夫ですよ。こうして無事に帰って来れましたから・・・あなたの元に・・・」
「・・・一夏君・・・うわぁああああぁああああああああああああああああん!!」
俺の胸に顔を埋めて泣き続ける真耶さん。
俺はそれすら愛おしく感じながら何とか抱き返し、真耶さんの頭をゆっくりと優しく撫でる。
それは真耶さんが落ち着くまでずっと続いた。
正宗はこの二人に乗っかられていることを、このときは一切文句を言わなかった。