装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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できる限り熱く書きました。
感想、よろしくお願いします。


最後の敵 草薙

 お互いの斬撃がぶつかり合い、空間が悲鳴を上げるように激突音が轟く。

 

「かぁっ!」

「しゃぁっ!」

 

 俺の横一閃を高田の上段からの袈裟斬りが迎え撃つ。

そのまま今度は高田が此方に追撃をかけ、俺はそれを全力を持って迎撃する。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「あぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 さらに連撃を放つと向こうも此方の攻撃に応じて連撃を放ち、それが激突を繰り返し轟音を轟かせる。

 火花を散らす刀と刀。さらに高田の刀が此方に襲いかかる。

それを弾き返し、また剣戟を繰り広げていく。

 

「ぐぅううううううううう! 何て重さなんだ!」

 

 刀を受ける度にそう感じる。

斬撃が重いのだが、それは膂力からくるものではない。

魂からくる渾身の力を込めた一撃。それがこの斬撃の重さなのだろう。

とても病人とは思えない力だった。

 

「がぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 雄叫びを上げながら高田が此方に斬りかかってくる。

その迫力は今まで戦ってきた武者の中でも飛び抜けてすごい。それでいて、とても静かな殺気が俺に向けられる。そのため攻撃を察知し辛い。

 

「しゃぁあっ!」

「ちぃいっ!!」

 

その静かな殺気を宿した凶刃を渾身の力で受け止め、流し、そして反撃へと転じる。

 

「はぁっ!」

「ふんっ!!」

 

 俺の反撃に高田も応え、また刀が激突し空気を震わせる。

その一撃一撃には確かな魂の重みを感じた。蝋燭の炎は消える瞬間が一番強くなるという。

この重さはきっと、消えそうな命を糧にして放たれている。そう此方の魂が感じた。

それ故に・・・・・・強い。ここまで強い『思い』を感じたのは初めてだ。

そして力は拮抗し、鍔迫り合いへと持ち込まれた。

刀が火花をさらに散らし、金属が軋む音が聞こえてくる。

地についている足がかなりの力を感じ、地面にめり込んでいく。

それは向こうも同じであり、ほぼ互角であった。

 

「・・・・・・あぁ、いい。実に良い! 私の全力にあなたはやはり応えてくれた。全力を・・・死力を尽くした私の攻撃にあなたは純粋な殺気を持って応えてくれる。私は今、この瞬間が一番幸せだ!」

 

 高田は途中何度か咳き込みつつも、子供のように嬉しそうに笑いながらそう言う。

きっと顔の装甲の下は笑顔になっているのだろろう。

 

「こちらこそ最後に貴殿のような武人に出会えたことは幸運だ! 正直これまでの戦いで少し参っていた。だが、これほどの死合いが出来るのならそれだけでも苦労した甲斐がある!」

 

 きっと俺も笑顔になっているのだろう。

この人との死合いは、今まで一番心が躍った。伊達さんのように凶暴的でなく、真田さんのように情熱的でもない。だが、今までで一番命を賭けている気がした。

武人としての誇りを賭けた、この戦っている相手にとっては生涯最後の死合い。

それ故に苛烈でいて静かな自然体。まるで一つの極致に至った者と戦っている気分になる。

それが・・・・・・素直に『嬉しい』

武者として、これほどの強者と戦えることが嬉しくて堪らない。

だからこそ、この人の最後の死合いに恥じないよう全身全霊を込めて戦わせてもらう!!

 

「やぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ちゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 お互いに後方に下がり、そこから同時に上段からの一撃を放つ。向こうも同じ一撃を此方に放ってきた。それが激突し、神社を揺らすほどの衝撃が四方に走る。

 そのまま今度は組討ち術を繰り出す。

身体をひねり、そこから後ろ回し蹴りを放った。

 

『吉野御流合戦礼法、逆髪!』

「ぐぅぅぅ・・・」

 

 咄嗟に察知して左腕でガードする高田。

そのまま地面を削りながら後ろへと少し下がった。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 そこから合当理を噴かせてこっちに突進してきた。

 

「何っ!?」

 

 そのことに驚愕する俺。

あんな身体で合当理を噴かせるとは思わなかったのだ。そのため少し固まってしまい、それが命取りとなった。

 

「さぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ぐあぁっ!!」

 

 上段から振るわれた一撃を咄嗟に受け止めるが、急な事に身体が反応し切れず、後ろへと吹っ飛ばされてしまった。後ろには神社があり、俺は神社の壁を破壊しながら中へと吹っ飛んだ。

 

「ぐぅぅ・・・油断した。まさか合当理を噴かせるとは」

『御堂、まだだ!彼奴は此方に向かってくるぞ!』

 

 正宗が言う通り、高田は俺の方に向かって合当理を噴かせ、さらに追撃をかけに来た。

 

「やらせるものかっ!! あぁあああああああああああああああああああああああ!!」

「ちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 高田の上段からの一撃を此方も合当理を噴かせて突進し、迎え撃つ。

轟音が轟くと共に双方とも、後方に弾かれた。

 

「・・・・・・・・・はは・・・」

『御堂、どうした?』

「はははははははははは・・・・・・ああ、正宗! 楽しいな、こんな強い人と戦えるなんて。これまでの戦いは苦痛ばかりだった。でも、この時だけは楽しい。だからこそ・・・・・・この人に俺は勝ちたい! すべてを出し尽くして勝つぞ、正宗!!」

『応っ!!』

 

 俺は正宗にそう笑いかけていた。

たぶん今までで一番勝ちたいと、そう思ったから。

向こうも同じ気分なのだろう。ここまで気分が高揚することは久々だった。

 

 

 

 そのままさらに合当理を噴かしての剣戟は何合も続いていく。

捨て身に近い向こうの攻撃に、此方も何度も被撃する。その際甲鉄は砕け、血が飛び散る。

もの凄く痛い。だが・・・・・・楽しい! 故にそれでも向こうに斬撃を繰り出し、向こうの甲鉄を砕いていく。そのたび、向こうの身体からも血が噴き出していく。

熱量のことを気にせず、ただひたすらに斬りかかる。

そこにあるのは只の戦いではなかった。

ある種の芸術のような、そんな崇高な死合いがそこにはあった。

己の腕をかけて技を放ち、それを純粋な殺気を持って迎え撃つ。

怨恨も蟠りもない、純粋な殺意のみがその空間を支配する。

お互いきっと笑顔で戦っているのだろう。

そんな殺し合いをしているにしては奇妙な空間がそこには存在した。

 

『御堂、敵機に大破の損傷を確認。本騎も差は殆ど無く大破状態。そろそろ決めなければ熱量欠乏を引き起こすぞ』

 

 正宗が俺にそう報告をする。

あまりの楽しさに、自分の状態が分からなくなるくらい夢中だった。

それを少し恥じつつ、俺は斬馬刀を構える。

既に息は上がりきり、呼吸も間もならない。つい先程受けた顔面への攻撃で額が裂け、血が片目に入り視界の半分を真っ赤に染め上げる。

 向こうも此方と同じくらい損傷していて、あちらこちらから血を流していた。

 

「どうやら・・・・・・そろそろ終わりみたいです」

「そのようだな」

 

 少し残念な感じに高田は言い、俺も同意する。

もう此方も限界間近であり、あと少ししたら動けなくなるだろう。だからこそ・・・・・・もう決める!

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「あぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 お互いに吠えながら合当理を噴かせて突撃を仕掛ける。

そのまま上段に構えて上から斬馬刀を振り下ろす。

向こうは横一閃に刀を振るい、迎撃してきた。

ぶつかり合い、甲高い激突音を神社に響き渡らせる。

そのまま衝撃でお互い後ろへと弾かれる。

 

「この戦い、武人として絶対に負けられない! 正宗、機巧を使う!」

『諒解っ!!』

 

 俺が次にどう動くのかを察して正宗が機巧を作動させる。

俺は左腕を高田へと向け、千切れる痛みを堪えながら叫ぶ。

 

「おおぉおおおおおおおおおお!『無弦・十征矢っ!!』」

 

 左腕の指が甲鉄化し、矢の様に高田へと向かって飛んで行く。

 

「がぁあああああああああああ! ゆけっ!!」

 

 高田は此方と同じように左腕を此方に向けると、腕に付いていた突起を此方に向かって発射してきた。それはさながら牙だ。

お互いの攻撃が双方に飛んでいき、回避出来ずに被撃する。

 

「「がはっ!? ぐぅぅぅぅぅぅぅ・・・」」

 

 十征矢は高田の左胸や左腕に直撃し、深々と突き刺さっていた。

高田が放った牙は此方の腹部を直撃し、物の見事に腹部を貫通した。

 

「ごふっ!?」

 

 途端に血を吹き出してしまう。

口の中が血で溢れ、鉄の味一色になった。

 

『腹部甲鉄を貫通! 御堂よ、大丈夫か!?』

 

 正宗からの報告に、無言で何とか頷く。血が溢れて声が出し辛い。

それは向こうも同じらしく、かなり咳き込んでいた。きっと向こうも同じ状態である。

既に身体はボロボロであり、立っているの奇跡的であった。

だが、まだ相手は倒れていない。ならば、まだ倒れるわけにはいかない! 

 

「ああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「しゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 痛みを消し飛ばすかのように咆吼を上げながら、お互い最後の一撃を入れようと合当理を噴かせながら突撃をかける。

 

「ミズチ・・・スズチ・・・オヂチ・・・」

 

 そう高田が呟くと、草薙の口元の甲鉄が外れていく。

それを気にせずに俺は突きを放ち、高田の腹を突き刺した。

手に伝わる相手を突き刺した感触。忌避すべき感触であるが、それでも俺は更に刀を突き刺す。

 

「んぐぅっ!? んんぅらぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

高田は激痛に声を上げつつ、頭を振りかぶった。

そして俺はそれを見た。

草薙の口元、その毒蛇の牙を・・・・・・

そのまま高田は・・・俺の首元に噛み付いてきた!?

そして体内に何かを流し込まれる感触を感じ、その途端に今までに感じたことが無いほどの激痛に襲われた。

 

「ぐっ・・・・・・んぐおあああああああああああああああああああっ!!」

『なっ!? これは・・・毒だと!?』

 

 激痛に叫ぶ俺に向かって高田が答える。

 

「こ・・・これが・・・草薙の陰義・・・・・・骨を溶かし肉を腐らせ精神を蝕む猛毒を相手に打ち込む・・・『臥蝕の牙』だ」

 

 切れ切れながらにそう説明する高田。

毒を使う劔冑は初めて見た。普通に考えれば、そんなものを使う者は卑怯者と言われるかもしれない。だが、劔冑を用いる武者ならばどのような陰義であっても卑怯とは言わない! 寧ろ、こんな状態でも最後にこんな大技を繰り出した高田には、敬意を感じた。

 

『御堂、すぐに振り払え! このままでは御堂の身体がっ!!』

「・・・・・・まだだ・・・まだだ! おぉおおおおおおおおおおお燃やせぇええええ、正宗!!」

『ぬぅううううううううううううう! 致し方なし! 諒解!!』

 

 俺の指示を受けて、正宗が機巧を作動させる。

斬馬刀を握る手が段々と熱くなり、やがて手の肉を焼き始める。

 

『朧・焦屍剣ッ!!』

「ぐあぁあああぁぁあぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 灼熱化した刀身が高田の腹を中から焼き尽くそうとし、高田は悲鳴をあげながら俺から離れた。

そして離れた所で同時に倒れる。

その途端に正宗の装甲が解除されてしまった。

 

「ぐぅううううううううううううううううううぅぅううううううううううううぅううう」

 

 あまりの激痛、めまい、吐き気、悪寒に襲われ、立ち上がることもできなくなる俺。

正宗が何か言っているが、今の俺には聞こえない。

このまま気絶したくなる。そうすれば楽にはなれるだろう。ただし、その時には死んでいるが。

苦しくて仕方ない。目の前も殆ど見えなくなってくる。呼吸も段々と出来なくなり、それが更に苦しさに拍車をかけていく。

 

(このまま死んでしまうのか・・・俺は・・・・・・・・・)

 

そう考えが過ぎると、走馬燈のような物が見え始めてきた。

どれもこれも真耶さんと一緒の映像ばかりである。何だか見ていると、気分が落ち着いてくる。

映像には色々な真耶さんが写っていた。笑顔だったり怒ってたり、照れて真っ赤になってたり、色々だ。そのすべてが可愛くて愛おしい。これを見たままなら、穏やかに逝けそうだ。

そう思いながら映像を見ていると、途端に映像が無くなってしまった。

 

(何だ・・・・・・もうちょっと見ていたいのに・・・・・・走馬燈というのは、案外ケチなのだな・・・)

 

 そんなことを考えていたら、また映像が映った。

そこにはすごく悲しそうな、泣きそうな顔の真耶さんが写った。

今にも儚く崩れてしまいそうな、それほどに悲しみに溢れた表情をしていた。

 

(せっかく良い気分だったのに、こんなものは見たくない・・・)

 

 そう思っても映像は消えない。寧ろどんどん鮮明に写ってきた。

その途端に嫌になった。

 

(俺はこんな顔の真耶さんは見たくない! あの人には常に幸せな笑顔でいてもらいたいんだ!!)

 

 そう思った途端、どこからか聞いた声が聞こえた。

 

「ならば起き上がれ! 出なければ一生この者はこの悲しみを味わうことになるのだぞ! させたくないのならば、起き上がり、そして・・・・・・勝て!!」

 

 その声を聞いた途端に意識が現実へと呼び戻された。

正宗は俺に声を常にかけていた。俺は現在、うつぶせで倒れている。高田の方を見ると、腹を押さえながらゆっくりと、しかし確実に此方へと身体を引きずっていた。このまま行けば、此方にたどり着くのは時間の問題である。

 俺は震える手に無理矢理力を込めて立ち上がろうとする。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 正宗が何かを言っているが、やはり聞こえない。

それでも俺は起き上がり、そして叫ぶ。

 

「超えろ! 俺とお前のすべてを懸けて、あの者を超えろ、正宗ぇえええええええええええええええええええ!! そして、俺はあの人の元に帰るんだ!!」

 

 そのまま装甲の構えを取り、吠える。

 

『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

 

 そして今、またここに濃藍の武者が顕現した。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 雄叫びを上げながら最後の一撃にすべてを込めるため駆け出した。

もう合当理を使うほどの熱量も無い。百パーセント熱量欠乏になるだろう。だが、それでも俺は駆け出し、そして高田の前へと出る。

 

「がぁあぁあああああああああ!『吉野御流合戦礼法、迅雷ッ!!』」

「おおおぉおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 俺の最後の居合いに、高田が上段からの迎撃を放った。

そして・・・・・・・・・

 

キンッ、という音と共に、何かが宙に舞い、そして地面に突き刺さった。

 

その途端に・・・・・・胸から血を吹き出す高田。

持っていた太刀は綺麗に断ち切られていた。地面に刺さったのは高田の太刀の刃だ。

その途端に劔冑が解除され、高田は倒れた。解除された草薙は、途端に瓦解し、只の鉄屑へと変貌した。

俺は振った刀を鞘に戻した途端に正宗が解除され、倒れかける。それを正宗が支えてくれた。

そのまま高田の前まで運んで貰う。

 

「・・・・・・・・・お見事でした。これで・・・・・・後悔なく逝ける。ありがとう・・・・・・」

 

 そう言うなり、高田は息を引き取った。

それを見届けるなり、俺の意識はまた薄れていく。

失う前に正宗が何かを言っているが、それでもやはり聞こえない。

ただ・・・・・・目を閉じた先には、幸せそうな笑顔をする真耶さんが見えた気がした。

それが嬉しくて、俺は笑顔で意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 


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