本当に申し訳無く、活動報告にも謝罪の文を書かせていただきました。
作者のことは嫌っても、この作品は嫌いにならないでほしいです。
感想、書いていただければ幸いです。
何とか四騎中の三騎を討った俺だが、二騎続いて戦ったのはやはり結構な無茶だったようだ。
身体の再生にあまり熱量を割けない以上、当然治る速度も遅い。それがより体力を消耗させる。
さらに連続の戦闘により使用した正宗七機巧によって、かなりの熱量を消耗した。
地獄のような悲惨な光景を連続で目の当たりにした精神的摩耗、そして連続での戦闘による体力、精神力、熱量の消耗。それはかなり危険な域にまで到達していた。
このままずっと休んでいたくなる。
だが、そういうわけにはいかない。俺は、真耶さんの所に帰るのだから。
体はもうボロボロで激痛が走り続け、動かすことも満足に出来ない。
心の底では、もう戦いたくない! あんな光景は見たくない! と弱い自分が叫んでいた。
それを信念を持ってねじ伏せる。俺が戦わなければ、誰が戦うというのだ!
悪が目の前にいる以上、それを裁くのは正義を成す者の使命。逃げ出すことなど許されない! 自分自身が許さない!
故に・・・・・・俺は進む!
自らの信念を持って、その信念に応えるために!
『やっと気が付いたようだな、御堂よ』
正宗の声でやっと意識が戻ってきた。
辺りは真っ暗であり、夜なのか朝なのかよく分からない。
「・・・・・・正宗・・・俺は・・・どれくらい意識を・・・失っていた」
疲労困憊のために、上手く喋れない。
『約一晩ほどだ。あと三時間ほどで夜が明ける』
つまり俺はあの戦闘から十時間以上気を失っていたようだ。
我ながら己の貧弱さを恥じるばかりだ。師匠ならばこんなことはないのだろう。
まだまだ未熟だと実感させられる。
「行くぞ・・・・・・正宗・・・」
『御堂、もう少し休んだ方が良い。御堂の身体は現在、かなり消耗している。せめて後一時間は・・・』
「いや・・・そう言うわけには・・・いかない。あと一人だ・・・・・・それで終わる」
正宗が心配してくれることは嬉しいが、俺はすぐにでも移動を再開した。
今回の騒動の主格たる『高田』という人物を、何故か俺は待たせてはいけないと思ったのだ。
何というか、この人物は俺のことを待っていると魂が告げるのだ。
悪だからではない・・・・・・よく分からないが、それが理由ではない気がする。
だからこそ、俺はふらふらとしながら起き上がり、身体を引きずりながら歩き出した。
『高田』が待つ、その神社へと・・・・・・
そうして森を進んで行くと、石段を見つけそれを正宗に助けて貰いながら昇っていく。
そのまま頂上まで登ると、そこには立派な神社が建っていた。
とても歴史がありそうで、篠ノ之神社よりも古そうだ。とても静かで、清浄な空気を感じた。
しかも死臭が一切しない。あの三人がいた所で嫌というほど臭ったあの臭いが全くしなかった。
賽銭箱の辺りを見ると、そこには一人の男が座っていた。
まるでそこにいるのが自然だと、そう思わせるほど男はこの神社の雰囲気に溶け込んでいた。
服装は和服であり、髪も黒い。完璧なまでの日本人であった。
男は俺を見て、ゆっくりと腰を上げた。
「やっと来たか・・・・・・待ちくたびれてしまったよ」
男は此方に歩を進めながらそう言って来た。
その足取りはどこか危うい。
そして月の光に照らされた男の顔をはっきりと見た瞬間、俺は何故急いでここに来たのかを悟った。
男の顔は土気色をしていた。とても人の顔色ではない。
男は途中で何度か咳き込みながらも歩いてくる。俺はふらつきながらもそれを待った。
そして相対する。そうして気付いたが、男の身長は俺よりもかなり高かった。だが、それでも俺には男が低く見えた。まるで、今にも消えそうな炎を連想させる。
「貴殿が・・・この騒動を引き起こした『高田』で・・・・・・間違いないだろうか・・・・・・」
そう途切れ途切れながらに聞くと、男は咳き込みながらも応えた。
「ごふっ、ごふっ・・・如何にも。私の名は『高田 勘兵』と言う。この騒動の主犯だ」
今にも事切れそうな感じである。
何故真打劔冑を持つ武者がこうも死にそうになっているのか? それにはある理由があった。
真打劔冑は数打劔冑には無い再生能力があるが、それでも治しきれないものもあるのだ。あまりにも深い傷はどう再生しても傷跡が残ってしまう。現に一夏の身体は傷跡が大量にある。
そして・・・・・・帯刀の儀を結ぶ前の怪我や病気は治らない。
それが些細な怪我や病気ならば問題ないのだが、いつ死んでもおかしくないほどの病気や、身体を満足に動かせなくなるほどの大怪我などは再生が効かないのだ。
つまり・・・・・・目の前にいるこの男は既に病床の身であり、それは劔冑の力を持ってしても治せないほどの重病人。詰まるところ死に体だ。
俺がここに急いだ理由。それはきっと、この男がいつ死んでもおかしくないとどこかで感知していたのだろう。
「何故・・・・・・このようなことを?」
俺は高田にそう問う。
この男は他の三人とはまったく違う。醜さというものが全く感じられないのだ。
そう、歪んでいない。ボロボロな身体だが、その目は実に澄んでいた。そのため、俺はこの人に対して敬語で話しかけていた。
高田は聞かれるあろうと予想していたらしく、やはり咳き込みながらも応えた。
「今回の騒動で多くの人を殺したことは分かっている。それでも・・・・・・私は・・・あなたと戦いたかった」
「どういう・・・ことですかな?」
高田は俺にそう言うと、何故こんなことをしたのかを語り出した。
「私は・・・亡国機業の一員として、今まで戦ってきた。見て分かる通り、私は日本人だ。君と同じ『劔冑を使った武術』を学んでいた者だよ。と言っても、私の所に劔冑は無かったがね。私はその武術を用いて戦ってきた。皆亡国機業を悪のように言うが、亡国機業にだって掲げる正義はある。私はそれに殉じてきた。世の中ではそれを貫くのは困難だったが、それでも頑張ってきた。だが、結局はもう古かったのだろう。ISの登場でさらに戦いは形を変えた。それで私はお払い箱になりかけていたのだよ。別にそのことはいい、仕方ないことだとは分かっている。それでも私は頑張ってきた。だが・・・・・・やはり心は騙せなかったのだろう。見ての通り、ストレスで病に冒されてしまった。このままいけばすぐにでも死んだだろう。私は怖くなってしまったのだ。死ぬのが怖いのではない! 己が学んだ武術を活かせずに錆させることが怖かった。己が学んだすべてを出し切れないことが怖かった! だが、いくらそう思おうと身体が治るわけでもない。そう考えながら死にかけていたところ、君の話を聞いた。若く、それで信念に溢れる正真正銘の武者。そして思った、『この者と戦いたい』と。どうせ死ぬのなら、最期は死に方くらいは選びたい。私はあなたと本気で死合いたいのだよ。そこで行動を開始した。組織から情報を盗み、この島にある劔冑を強奪した。必要とは言え、多くの人を手をかけたことは今でも後悔している。だが、止まれないのだ! ここまで来た以上は引き下がれない! それでも・・・・・・あなたと戦い、武人として死にたいと思ったから」
それを聞いて俺は・・・・・・
何も言えなくなってしまった。
確かにこの人がしたことは悪だ。それは誰が聞いても分かることだろう。だが、確かに武人として共感できるところも確かにあるのだ。俺自身も、死ぬとしたら死に方や死に場所は選びたい。その心は誰にでもある物。しかもこの人はちゃんと悔いている。劔冑を手に入れ俺と戦うためとはいえ、多くの人を殺したことを悔いているのだ。悪いと知っていて、己が傷付くと知っていて、それでも実行した。それは生半可な覚悟では出来ないことだ。
俺はこの人を、武人として認めた。確かにこの悪行は許されない。だが、武人としてこの人の気持ちに応えたいとも思った。
だから・・・・・・・・・俺はこの人の思いに応えることにした。
「・・・・・・わかりました。確かにその話、しかと聞きました・・・・・・確かに貴殿のしたことは許されることではない・・・・・・だが、武人としての貴殿のお気持ちも確かに理解出来る。故に・・・・・・この死合い、お受け致します」
「あぁ、感謝する。これで、心置きなく死ねる」
その顔は本当に感謝の意を表していた。
こういう出会い方でなければ、きっと良い親交を深められたかもしれない。それがすごく残念でしかたない。
この人は自分の手が血で汚れることも厭わず、俺と戦いたいと言う理由だけでここまで来た。
何かに狂ったわけでもなく、ただ純粋に武人として死ぬために。
その思いはたとえ罪があろうとも真摯だ。
ならば・・・その真摯な思いには応えなければならない。それが『武者』だ。
俺はそのまま痛む身体に力を入れると、装甲の構えを取る。
「正宗・・・・・・この人は確かに悪だが・・・高潔な武人だ! 故に、その真摯な思いに・・・此方も応える!」
『諒解』
そのまま誓約の口上を述べる。
『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』
そして俺は高田を見据えた。
高田は本当に感謝すると此方に一礼する。そして自分の劔冑を呼び出した。
「げほっ・・・・・・来い、草薙」
高田の呼びかけに応じて、神社の奥から巨大な鋼鉄の海蛇が這ってきた。
そして誓約の口上を唱える。
『我が身 既に鉄なれば 我が心 既に空なれば 生者必滅』
そして装甲され、やはり見たことが無い武者が現れた。
そしてお互いに身構えつつ、名乗りを上げる。
「当方正宗、悪を成した貴殿に天誅を下すべく仕った・・・・・・だが、この死合い、当方は只の武人として、貴殿と戦わせてもらう」
「此方は天目一箇命草薙。ありがとうございます・・・こころからの感謝を。そして応じて下さったあなたのために・・・全力を尽くして戦わせていただく」
そうお互い名乗りを上げると、鞘に手をかけた。
顔は見えないが、きっと高田の顔は笑顔になっているのだろう。俺も・・・・・・笑っていた。
ここ最近の鬱屈とした戦いではない。武人としての誇りある戦いが出来ることに、本心から喜んでいた。
そして・・・・・・どちらからも合図も無いのに同時に動いた。
「しゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
鞘から抜き放たれた斬馬刀と、敵の特徴的な形をした刀がぶつかり・・・・・・
神社が揺れる程の衝撃と激突音が辺りに轟いた。