装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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前回は本当にご迷惑をおかけしました。
今回はちゃんとした『装甲正義』ですので、ご安心下さい。


VS 乾雲

 一時間後、正宗に起こされてまた行動を再開する俺達。

だが、結局その日は残り二騎を見つけることが出来なかった。

この島は結構大きい。だから捜索範囲が広すぎるので見つけ辛いのだ。最初に見つけられたのは、運が良かったとしか言いようがない。装甲して空から探せば移動時間も短縮出来て楽なのだろうが、それにも熱量を使う。消費を抑えたい身としては、装甲するわけにはいかなかった。

 敵から得た情報によると、どうやら敵は一緒にしかけては来ないらしい。

片方の情報については分かっているが、この騒ぎの張本人、『高田』についての情報はまったくわかっていない。だが、俺に用がある以上その情報は信用出来なくもない。何故なら、他はどうあれその『高田』なる人物は俺と一対一での用があるからこそ、そんな面倒な用件をハウゼンに命じたのだろう。そうでなければ、一々こんな面倒なことはせず、最初から三騎で襲撃をかけるはずだ。

故に信用出来る。

 しかし、それ以外はまったくわからない。

何故こんな騒動を起こしたのか? 何故直接俺の所に来ないのか?

まったく分からないことが多い。

何故無辜の人達を大量に殺したのかは聞くまでもないが・・・・・・

どっちみち分かっていることは、

 

どう言おうと、その者達がしたことは悪であり、許されることではない。絶対に裁くべき悪である。

 

ということだけである。

 正義を成す者としては、それが分かっていれば、後はどうとでもなる。

俺はそう思いながら、その日は野宿した。

 

 

 

 翌日の日の出と共に起き、さっそくまた動く。

といってもまったく眠った気がしない。いつ襲撃が来るか分からない以上、常に警戒していなければならない。そのため、気が抜けずにまったく休めていない。

だが、モチベーションは充分だ。

 そのまままた島を散策していくと、どこからか死臭が風に乗って臭ってきた。

その臭いを感じて、俺は臭いの方角に向かって駆ける。

 

『御堂!?』

「こっちだ、正宗! この先にいる!!」

 

 正宗を連れて駆けていくと、その方向にあったのは森だった。

近づくに連れてどんどん臭っていく死臭。もう嗅ぎ慣れつつある臭いを無視しつつ、俺達は森へと入っていった。

 そして入って少ししたところでそれを見つけた。

 

数えるのも面倒になるほどの首つり死体である。

 

 それも只の死体ではない。

全員裸であり、老若男女それぞれだ。皆共通して腹を割かれており、そこから内臓が飛び出していた。それが森の木々からつり下げられていた。

明らかに人為的であり、常人ならやはり発狂しかねない光景である。

俺はこの光景を見て、真っ先に義憤が沸いた。

ハウゼンの時もそうだが、人をおもしろ半分に殺しその死体をこうして弄んでいるのだ。

無論悪鬼の所行である。到底許されたものではない。

 顔を険しくしながら警戒して森に入って行くと、木の上に気配を感じ上を向く。

 

「おやおや、私の作品は気に入らなかったかな?」

 

 見上げた先にいたのは、三十代後半の中国人だった。

あまり身長が高くなく、俺より低い。所謂猫背というか・・・・・・猿のような人物だった。

俺はそれを見上げた途端に睨み付ける。その視線には、既に戦闘態勢に入った殺気が込められていた。

 

「そう睨まないでくれないか。まずは自己紹介をしよう。私は『李 雷龍』(り れんろん)。元亡国機業の下っ端だ」

 

 笑顔でそう言う雷龍。

その笑顔が実に不愉快だった。こんな死者がいる前で浮かべて良い顔ではない。

 

「貴様の名前は既に知っている。貴様の悪趣味もな」

 

 そう怒りを持って答える。

当然目の前にいる男の情報も掴んでいる。

この男の名は『李 雷龍』。亡国機業の実行部隊に所属していて、主に暗殺などをメインにしている。特に異常なのはその性癖で、この男は人間の内臓を見るのが何よりも好きだという異常性癖を持っている。戦いの度に人間の腹を裂いては内臓を引きずり出し、それを見ては恍惚の表情で周りに見えるように飾っていくのだ。

 今回の騒動に荷担した理由はハウゼンとほぼ一緒であり、ハウゼンとは意見が合わないため仲が悪いとのこと。

 これも外道であり、裁かなければならない悪である。

 

「どうやらその様子では私の芸術は理解してもらえなかったようだ。何故皆この光景を美しいと思わないのか・・・・・・私は不思議で仕方ない」

 

 いかにも残念だ、といった感じに手を上げ素振りをする雷龍。

 

「貴様の趣味など理解できるわけがなかろう。そのような趣味を持つ者など、最早外道よ! そのような悪、断じて許すわけがない。正宗!!」

『応!!』

 

 これ以上悪の戯れ言を聞く気はない。

その意思を込めて正宗を呼び、装甲する。

 

『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

 

 そして俺は正宗となり雷龍を睨み付け吠える。

 

「当方正宗! 貴様の邪悪なる魂、狩らせてもらう」

「なんとまぁ、落ち着きのない・・・・・・しかし、嫌いじゃないですよ、そういうの」

 

 そして雷龍も木から飛び降り、自身の劔冑を呼び出す。

雷龍の後ろから飛び出してきたのは、巨大な甲鉄の烏賊だった。

 

『幾重にも爛れし腸の咲く地獄 永久までも君に残さん』

 

 そう唱えると、烏賊はばらけて雷龍に装甲されていく。

あっという間に見たことの無い武者が目の前に現れた。

 

「これが私の劔冑、乾雲だ。いざ、尋常に勝負といこうか」

 

 そうして刀を抜き上から斬りかかってきた。

 

「きゃぃやあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「かぁっ!!」

 

俺は斬馬刀を引き抜き、迎撃する。

刀と刀が、激突音を森に響かせた。

俺は上からの重量の乗った斬撃を更に金剛力を持って無理矢理にはじき返す。

弾かれた乾雲はそのまま勢いを利用して体勢を整えた。

 

「おやおや、たいした力だ。私はそこまで力が無いのでね。打ち負けてしまったよ」

 

 そう言うが、その言葉にはまだ充分な余裕が感じられた。

 

「でも、速さでは負けてませんよ!」

 

 そのまま更に三連撃を放ってきた。

 

「ちっ、速い!? だが引かんっ!!」

 

此方も迎え撃とうと、二閃を放つ。

激突した瞬間、衝撃で森が震えた。

その後更に追撃をかけ、乾雲も負けじと迎え撃つ。そのたびに激突音が鳴り、森がさらに震えた。

 

 

 

 それを何合も続けていくが、次第に戦況は傾いていく。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ぐはっ!?」

 

 俺の斬撃が乾雲の左腕を捕らえる。

それを受けて数歩下がる乾雲。その左腕の甲鉄は綺麗に割れ、中から血が溢れていた。

 

「いやいや、やはり正真正銘の武者とは正面からでは勝てそうにない。だからここからは、絡め手を使わせてもらおうかな」

 

 そう面白そうに乾雲は言うと、陰義のための呪句を口にする。

 

『布婁部 由流由羅屠 布婁部』

 

 そう口にした途端・・・・・・

 

俺の四肢は動かなくなった。

 

「何っ!? これはっ・・・」

 

 俺は急いで動かなくなった手の方に視線を向けると・・・・・・

 

人間の腸が大量に絡まっていた。

その腸はすべてぶら下がっている死体に繋がっていた。つまりこの森にぶら下がっている死体の腸であった。

 

「ふふふ、これが乾雲の陰義、『腸遊び』です。まさに私のためにあるような素晴らしい能力ですよ」

 

 愉快そうにそう言いながら乾雲は刀を振るう。

無論俺は避けられない。

 

「ぐぅうううううううううううううう!!」

『胸部に被撃! 御堂、早くこの臓物を振り解け』

 

 正宗から報告が上がるが、まだ動けない俺に向かって更に追撃をかける乾雲。

 

「さぁさぁ、どうした! そんなんでは私には勝てんよ!」

「ぐぁあ! くぅっ・・・、がぁあああああああああああああああああ!!」

 

 身動きが取れないことに、何度も斬り付けられる。

そのたびに甲鉄は損傷していき、身体中が切り裂かれる。その痛みに耐えつつ攻撃を凌ぐ。

 

『現在中破の損傷、このままではいずれ切り捨てられるのも時間の問題ぞ!』

「ぐぅううううううう、分かっている。あと少し待て、正宗! 必ずチャンスはある」

 

 そう正宗に言うが、それでも体は切り裂かれていき、次第に損傷も大きくなっていく。

そして正宗は大破状態にまで持っていかれる。

そして・・・・・・

 

「随分と硬かったが、もうボロボロだ。これで終わりにしよう!」

 

乾雲はそう言って俺の頭を狙い最後の上段からの一撃を放つ・・・・・・・・・が

 

「なっ何!?」

 

 乾雲から驚きの声が上がる。

何故なら・・・・・・その刀は俺の右腕によって捕まれているからだ。

さっきまで腸が絡みついて動かなかったはずの腕が何故動くのか?

それは・・・・・・

 

「貴様は考え無しに刀を振りすぎだ! その御蔭で絡みついた腸もボロボロにしてしまうのだからな。おがげで引き千切りやすかったぞ」

 

 そう・・・・・・連撃で刀を受け続けた結果、絡みついていた腸も攻撃に巻き込まれてしまい、ボロボロになってしまったのだ。御蔭で千切りやすくなり、こうして千切り腕を動かしたというわけだ。

これが耐えていた理由だ。いくら斬り辛い腸とはいえ、劔冑の刀を何度も受けては耐えられない。

故に俺はこの機会を待っていたのだ。

 

「もう少し慎重にするべきだったな、この愚か者めっ!!」

 

 そのまま受け止めた刀を握り潰した。

バキンッ、と音を立てて砕ける刀。それに驚愕する乾雲。

 

「だが、刀が無くとも戦える!」

 

 そう吠えると陰義を使い、また腸を飛ばしてきた。

それと一緒に烏賊の触覚も飛ばしてきた。

 

「そのまま絞め殺してやる!!」

「同じ手を二度も喰らうと思うな! 正宗ぇえええええええええ! 正宗七機巧を使う。両腕を全部持って行け! 『乱れ撃つ!!』」

『諒解ッ!!』

 

 そう正宗に言うと、激痛が両腕を襲う。

それを毎度のごとく死ぬ気で耐え、両肘を曲げて乾雲に向ける。

肘の甲鉄が割れ、中から細い砲塔がせり出してきた。

 

「これでも喰らえ!『正宗七機巧の一つ、連槍・肘槍連牙!!』」

 

 そこから発射されたのは死を招く凶弾。

それが大量に連射され、嵐のように乾雲とその周りの腸へと襲いかかる。

 

「がぁああああああああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああああ!!」

 

 凶弾に打ち抜かれ、ボロボロになっていく乾雲。

周りの腸や触手もズタボロにされ、形を無くしていく。

 

「これで決める! 正宗、『絡め取る』」

『応!』

 

 その途端に腹が裂ける激痛に襲われるが、これも歯を食いしばって耐える。

 

『割腹 投擲腸管ッ!!』

「ぐぺっ・・・・・・!?」

 

 俺の体から飛び出した甲鉄化した腸が乾雲に巻き付き、思いっきり締め付ける。

本来は捕縛用の技だが、ボロボロになった乾雲ならそのまま絞め壊すことが出来るだろう。

 

「おおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 そう渾身の力を持って叫びながら絞め上げ・・・・・・そして・・・

 

グシャァッ、と潰れた。

 

完璧に潰れ、乾雲は解除されると同時に崩壊した。

その場所には全身血まみれで身体中を潰された雷龍が倒れていた。

 俺はそのまま雷龍に近づく。

 

「・・・ふふふ、・・・あなたは随分と・・・・・・優しいようだ・・・・・・まさか大好きな臓物に絞められて・・・死ねるとは・・・・・・」

「そんな意味でやったわけではない。あの世で今までしたことを悔いながら反省する意味で放っただけだ、馬鹿者め」

「ははは、そうかね・・・・・・それは手痛い・・・・・・あぁ、そうだ・・・これは私を倒した褒美だ・・・・・・高田殿はこの奥の神社にいるよ・・・・・・では・・・・・・・・・」

 

 そう言い残し、雷龍は息絶えた。

それを見送り次第・・・・・・

正宗を解除した俺は倒れた。

 

『御堂、大丈夫か!?』

「・・・・・・少し無理をし過ぎたようだ・・・・・・少し休む・・・・・・」

 

 そう答えると、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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