装甲正義!織斑 一夏   作:nasigorenn

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今回は頑張りましたよ~。


VS 坤竜

 当麻友則を降し、残りの三騎。

俺は残りの三騎の居所へと、船で移動していた。

只驚くことに・・・・・・残りの三機がいる場所は『日本』だ。

正確には日本国内ギリギリの位置にある離島。そこに残り三騎はいる。

空港からの距離は当麻友則の居場所と距離はほぼ一緒。ただしこちらは沖縄まで行ったのちに船で移動するため、此方の方が移動に時間がかかる。戦力的な話もあって此方を後回しにした。

 これから向かう島の名前は雉飼島(きじかいじま)。何の因果かは知らないが、この騒動たる四騎の劔冑の出所でもある。

本土からかなり離れた島だが、一応はちゃんと人が住んでいる。

そこまで多くは無いが、島民の数は二百を超える。

だが、今はもう誰も住んでいないと思われる。

 何故なら、この三騎によって皆殺されているだろうから。それぐらい残りの三騎の仕手は凶悪だと資料には載っていた。

当麻友則の仕手のような温い相手では無い以上、命がけは必須。ただし、こちらとて負ける気はない。

 故に俺と正宗は正義の心と闘志を燃やし、この島へと向かった。

 

 

 

 島に到着次第、正宗に斬馬刀を出して貰い鞘から抜いて警戒態勢で移動する。

装甲した方が安全なのだが、熱量の消費は避けなければならない。何せ連戦、混戦が予想されるのだから、少しでも熱量は温存しなくては。

そのため、最低限の警戒として斬馬刀を抜いたのだ。

 そのまま村を見つけ侵入する。

現代日本では考えられない程の田舎。最先端の技術力を誇る日本とはいえ、過疎化まではどうしようもないのかもしれない。そんな、時から置き去りにされたかのような村がそこにはあった。

そして、その村には人が一人いない。

何処を見ても空き家ばかり。その村には命がまったく感じられなかった。

だが、確実に感じる死臭。

それが鼻に付く。それがこの村人がどうなったかを理解させる。

そのことに怒りがこみ上げてくる。ここで平穏に暮らしていた人々をその凶刃で手にかけた奴等への怒り。それは確かなる悪。その悪を許すなと俺の正義が叫び、俺は全身全霊をもってそれを肯定する。

故に俺はここで正義を成す。

 その熱き思いを決意し、俺は村で一番大きなお屋敷に向かった。

何故か? それはここら辺で一番死臭がするのがあのお屋敷だからだ。きっとあの屋敷に三騎の内の誰かがいる。

 そしてそれは屋敷が近づいていくに連れて確信へと変わった。

段々と強くなっていく死臭、そして・・・・・・人の悲鳴。

 

「正宗!」

『応っ!』

 

 それを聞いた瞬間に俺と正宗は屋敷へと駆けていった。

まだ生きた人がいるのなら、それは絶対に助けるべきだ。俺はその思いを胸に、屋敷の壁に向かっていく。今から屋敷の門まで行っている余裕は無い。屋敷の主には悪いが・・・・・・正義のために壊させてもらう!! 

斬馬刀を引き抜き、上段に構えながら壁に向かって飛びかかり、空中で刀を振り下ろす。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! 『吉野御流合戦礼法 雪崩っ!!』」

 

 俺が振り下ろした斬馬刀によって、壁が轟音を立てて『破壊』される。

そのまま衝撃で瓦礫が向こうまで吹っ飛んだ。

 

『御堂よ、また腕を上げたようだな』

「いや、この程度ではまだ足りん! もっと精進せねばな!」

 

 褒めてもらえるのは嬉しいが、それは後でいい。

俺はそのまま中へと突入し、悲鳴が聞こえた部屋へと駆けていく。

 そしてその部屋を見つけ、中に入った俺が見た物は・・・・・・また地獄のような光景だった。

 

真っ赤であった。

 

 その部屋は只ひたすらに真っ赤な部屋だった。

構造状なら大部屋に当たるのだろう。だが、あまりにも赤一色であったため距離感が狂い、部屋がどれくらいの広さなのかが分からない。

そしてその赤が血による紅だということは、入った瞬間に鼻に入ってきた噎せ返りそうなほどの鉄錆臭でわかった。

常人なら即座に吐いて気絶するくらい、それは酷かった。そしてその紅の源たる、人の死体が部屋のあちこちに転がっていた。すべて四肢を切断されており、その顔は苦痛と恐怖に歪んだ表情をしていた。

 

「おいおい、いきなり入ってくるとは無粋な奴だなぁ。まぁ、俺も人のことは言えねぇかな?」

 

 そんな飄々とした声が俺に向かってかけられた。

そちらの方を振り向くと、そこには真っ赤な劔冑を纏った武者がいた。

これも当麻友則同様、見たこと無い型だ。頭部が異様に大きく、刀ではなく鉈が頭に装着されていた。どうやらそれがこの劔冑の武器らしく、その武者の右手には、頭に付いていた鉈と同じ物が握られていた。

 これが奪われた四騎の内の一騎、坤竜(こんりゅう)だ。

そして坤竜の足下では、今し方殺されたばかりの死体が転がっていた。

そのことに怒りと、救えなかったことへの悔いを感じた。

 それらによって更に義憤を燃え上がらせ、俺は坤竜を睨み付ける。

 

「この屋敷や村の人々を手にかけたのは貴様で相意無いか?」

「ん?・・・・・・ああ、そういうことか。難しい言い方だから理解するのに時間がかかっちまった。ああ、その通りだぜ。全部とまではいかねぇが、確かにこの屋敷とかの奴等を殺したのは俺達だ。そういうあんたはアレだろ、確か日本の『正宗』の仕手、だったか」

 

 まさか俺が来ることを知っているとは・・・・・・

内心で少し驚きつつも表に出さないようにする。

 

「何故わかった」

「言われたんだよ、『高田の旦那』になぁ。日本で暴れれば必ずあんたが来るって。本当はさっさと他の所に行ってもっと真っ赤な血を一杯見たいんだけど、旦那に言われててねぇ。『あんたを殺した後は好きにしていいけど、あんたが来るまではここで待ってろ』てさ。それがこの劔冑を借りる条件だったってわけ。まぁ、あのやけに高慢ちきな女は破ってどっか行っちまったけどさ。あんた、知ってるかい」

「その女というのは当麻友則の仕手の事か。ならばもうこの世にはいない。当方が天誅を下した」

「だから難しい言葉はわかんないって。まぁ、その雰囲気からもう殺したってことか。あんだけ大口叩いてたってのに、ざまぁないな」

 

 そう言いながら笑い声を上げる坤竜。

どうやら敵は俺の事について知っているらしい。そしてこの騒動の首謀者は俺に用があるために、このような騒動を起こしたと推測する。一体俺に何の用があるのやら。

 

「ちなみに他の奴はこねぇから安心しな。彼奴と俺じゃ趣味があわねぇからな。組むなんてぜってぇありえねぇし」

 

 気軽に坤竜はそう言う。

当然ながら信じられるわけがない。

それが顔に出ていたのか、坤竜の仕手がこちらを茶化す。

 

「おいおい、信じられねぇからってそんな顔で睨むなよ。マジもマジ、大マジだ。高田の旦那は一人で戦うって決め込んでるしよぉ。もう一人の奴とは絶対にぜってぇ組まねぇよ。だってあいつ・・・『臓物がいい』って言うんだぜ。信じられねぇよ。俺は断然真っ赤な血の方が良いっての」

 

 そう自慢するように語る坤竜。

さっきから話している話は何か? それは所謂、この者達の最悪な趣味の話だ。

四騎の劔冑を盗んだ者達は、そのリーダー格の高田と言う人物以外、全員異常者だ。

この坤竜の仕手、名は『ハウゼン・ウォーグナー』。

亡国機業の実行部隊、その対人戦闘のエキスパートだった男で別名『ブラッディー・ハウゼン』。

三度の飯より人を殺し、その生き血を見るのが大好きというとんでもない悪趣味をもつ男だ。

この一件に手を貸した理由は、弱体化していく亡国機業では血を見れなくなるから、だそうだ。

どちらにしても、外道であることに変わりはない。

 

「貴様の悪趣味はどうでも良い。どちらにしろ外道であることに変わりはないのだから。その様子では政府の命も既に知っているだろう。故に・・・・・・お命、頂戴する」

「ああ、いいぜぇ。俺ももっと真っ赤な血が見たくてしかたねぇからな!」

 

 そう言い終えると同時に俺は装甲の構えを取り、誓約の口上を述べる。

 

『世に鬼あれば鬼を断つ 世に悪あれば悪を断つ ツルギの理ここに在り』

 

 正宗を装甲しだい、突っ込んで来た敵の鉈を斬馬刀で受け止める。

 

「ほぉっ、これがあの有名な正宗かぁ! なかなかに格好いいじゃねぇか。赤くないのが残念だけどよぉ」

 

 そう言う坤竜と鍔迫り合いをする俺。

向こうは武者ではないとはいえ、対人戦闘のエキスパート故の能力により・・・・・・強い!!

敵の一太刀を受け止めた瞬間にそれを理解して、より気を引き締める。

 

「正宗、敵は武者ではないが、人殺しの玄人だ! 気を引き締めてかかるぞ!」

『諒解ッ!!』

 

 膂力はほぼ互角。

このままでは膠着状態になってしまうので、俺は更に熱量を筋力強化へと回す。

 

「正宗、ここでは合当理は狭すぎて使えん! 熱量配分、筋力9、合当理1」

『応っ!!』

 

 そのまま熱量で強化した膂力を持って、坤竜を後ろへと押しやり、吹っ飛ばす。

 

「おいおい、ドンだけ馬鹿力なんだよ、あんた。ほんとにまだ十代かぁ? さっきのは大人だって負けるぞ、普通」

「この程度、武者ならば当然の技術だ。武者として鍛えていない貴様では出来ないがな!」

 

 敵がそうふざけた感じで言うのを一喝して更に追撃をかける。

 

「しゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「おらぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 坤竜は俺の上段からの一撃を両腕に持った鉈で受け止め、身体を流して攻撃を避けると此方に向かって鉈を振るう。

それを俺は金剛力を持ってさらに上から叩き潰していく。

 それが何合か続いていく。

 

「うぉらぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」

「かぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 屋敷内に何度も激突音が轟き、空気が震える。

その度に衝撃で屋敷が揺れていた。

 

「おいおい、ドンだけつえぇんだよ」

 

 そう悪態をつく坤竜。

しかし、その声にはまだ充分な余裕が感じられた。

此方もそれは同じである。

武者ではないので剣術等は無いのだが、その分手癖が悪い。

斬りかかった後に拳や蹴りが飛んできたり、打ち合わずに死角を狙って鉈を振ってきたりと、正面から戦ってこない。この戦いかたは所謂、暗殺者とかの戦い方に近い。

武者でなければ劔冑の性能は発揮出来ないが、そうでなくとも戦い方はいくらでもある。

その良い例だろう。

此方も負けじと、組討術で対抗する。

 そのまま何合、何打と斬り合い、打ち合い、剣戟を深めていく。

 

 

 

 先に音を上げたのは坤竜だった。

 

「だぁ~~、何でこんなつえぇんだよ! とっとと斬られてくんねぇかな~、いい加減に!」

「断る!」

 

 俺がそう言いながら横に一閃すると、坤竜はその一撃を受け止めながら後ろへと後退した。

 

「そろそろ飽きて来ちまった。これで決めさせてもらうぜぇ!」

 

 そう吠えると、陰義のための呪句を口にした。

 

『麻我礼 麻而去流 麻我礼 麻而去流』

 

 その途端に坤竜は足下にあった血だまりに『沈んでいく』

そしてその姿が完璧に沈み、見えなくなった。

 

『御堂、敵機が消えた!? 金探にも反応なし』

 

 正宗から報告を受け納得が行くこれが・・・・・・

 

「血にまみれ血に隠れる。これが坤竜の陰義だ! これでもう俺を見つけることは出来ねぇ」

 

 部屋全体から金打声が聞こえた。

そう、これが坤竜の陰義『血液同化』だ。

報告ではそう聞いていたが、実際に目にすると、こうも厄介とは思わなかった。

気配が全く感じられないのだ。

 俺は気配をそれでも探りながら警戒していると・・・・・・

 

「んじゃ、いくぜぇ!」

『御堂! 背後に反応あり!』

「何っ!? いつの間にっ」

 

 振り返り迎撃しようとしたところで、背中に強烈な衝撃を受けた。

 

「ぐぅううううううううううううううううう!!」

『背後合当理に被撃! 合当理中破、使用不能』

 

 どうやら背中を思いっきり攻撃されたらしい。合当理を破壊されてしまった。

これがもし空戦だったら、とっくに墜落して死んでいるだろう。

 

「ここでは合当理は使わん! 気にするな、正宗! そのまま金探に気をつけろ」

『諒解ッ!!』

「ど~よ、こいつは! 卑怯だとか言うなよ。だって俺は武者じゃねぇしなぁ」

 

 いかにも神経を逆なでするような声が部屋に響く。

もともと武者でもないものにそんなことを言う気はないが、こうして言われるとやはり腹が立つ。

 

「正宗! このまま馬鹿にされたままではいられん! 絶対に捕らえるぞ!!」

『応っ! 彼奴は劔冑を使うにふさわしくない外道よ! 許せるわけがなかろう! 絶対に引っ捕らえてみせる』

 

 そう正宗と意気込みながら迎え撃とうとするが、この後もまったく捕まらない。

致命傷こそ避けているが、俺は段々と斬り付けられていった。

斬られたところから更に血が噴き出し、それを見て喜ぶ坤竜の仕手。その笑い声が神経をさらに逆撫でる。

 

「ぐぅっ・・・はぁ、はぁ・・・・・・正宗、現在の俺達の状態は」

『現在、背部、右脚部、左腕部に被撃、中破の損傷。戦闘に支障はあるが、接地戦ならば問題はあまりない・・・・・・だが御堂よ、このままではジリジリと熱量を消費するのみよ。どうする』

 

 

 正宗がそう俺に問いかける。

さっきから考えているが、なかなか答えはでない。

出てくるところや場所が分かれば楽なのだが、そんな都合良く分かるわけがない。

金探に反応が出た瞬間にはもう接近されて斬り付けられているのだ。

これではすべてが後手に回って攻撃出来ない。

 

『ぬぅ! 一々こそこそと逃げ隠れおって!! いっそのことすべて吹き飛ばせてしまえば良いというのに・・・・・・』

 

 そう正宗が愚痴る。その気持ちは分からなくはないが、そういうわけには・・・・・・

いや、ちょっと待て!

 

「正宗、さっき何て言った」

『いっそすべて吹き飛ばせてしまえばと言ったが・・・』

「それだ! 正宗、よくやった! これで彼奴を倒せるぞ」

『何だと! それはまことか、御堂!?』

「応っ!」

 

 正宗にそう答えると、俺は指示を出す。

 

「このまますべて吹き飛ばしてこそこそ逃げてる奴をここから叩き出す! 正宗七機巧、左腕全部持って行け!」

『応っ!』

 

 そして左腕を襲う激痛を歯を嚙み砕かんばかりに食いしばり耐える。

右腕から砲身がせり出し、俺はそれを部屋の中央へと向ける。

 

「これで吹き飛べ! 『飛蛾鉄砲・弧炎錫っ!!』

 

 そう吠えると、右腕から遅い砲弾が発射され、部屋の中央まで飛んでいく。

 

そして・・・・・・すべてを飲み込む大爆発を起こす!! 

 

 そのまま部屋はすべて崩壊。

屋敷の一部は丸々綺麗に破壊された。

 

「げはっ、げはっ、がはぁっっ・・・・・・」

 

そして出てきた坤竜。

その甲鉄にはびっしりと鉄片が突き刺さっており、甲鉄も割れてボロボロとなっていた。

 

「こ、これが貴様を叩き出す方法だ・・・・・・」

 

俺も近距離で爆発を受けたため、ダメージがでかい。

これが俺が考えた奴の陰義を無効化する方法。狭い空間であんなに自由に移動出来るようになっているのは、奴が殺した人達の血のせいだ。ならば、その血をすべて吹き飛ばせば良い。

そうすれば、奴は隠れることが出来なくなる。

 俺は未だに咳き込んでいる坤竜に向かい刀を振るう。

 

「これで終わりだ! 『吉野御流合戦礼法、迅雷っ!!』」

「がはっ・・・・・・・・・」

 

 放たれた居合いによって坤竜が外の壁に叩き付けられた。

そのままダメージの負いすぎで装甲が解除された。

そこに更に雪崩を放ち、完璧に破壊する。

そしてそのままハウゼンに斬馬刀を向ける。

 

「これで貴様も終わりだ。何か言い残すことは無いか」

「げほっ、げほっ・・・特にねぇかな~。強いて言えば・・・・・・もっと血が見たかったかなぁ」

「最後まで貴様は外道だな」

「べっつにいいじゃねぇか」

「そうか・・・・・・ではこれで終わりだ」

 

 そう言うと、俺は斬馬刀を二閃振るった。

肉が切れる音と共に、ハウゼンが倒れる。

ハウゼンからは血が大量に噴き出しており、その両手足は無くなっていた。

 

「それが貴様のしたことへの罰だ。このまま自分の命が消え去っていくのをじっくり見ているといい」

「へ、あんた以外と優しいねぇ・・・・・・最後もこうして血を見ながら死ねるなんて・・・・・・最高だ!」

「異常者め」

 

 俺はそう言いながらこの装甲を解除し、この屋敷を後にした。

このまま奴は助からないだろう。せめて自分が殺した者達と同じような死に方をさせ、悔い改めさせることが出来ればと思ったが、やはり異常者は異常者のようだ。

 そのことを考えながら、俺は残りの二騎を倒しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 


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